TSから始まるヒロインアカデミア   作:破戒僧

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第150話 VS オール・フォー・ワン

 

「げっほ!? なん、だよ……またか!」

 

「おぇ……臭いです、この水……水?」

 

 何もない虚空に、ばしゃばしゃ、ごぼごぼ、という水音が響くと共に、そこから『敵連合』のメンバーが次々と現れる……『転送』されてくる。

 スピナー、Mr.コンプレス、トガヒミコ、トゥワイス……意識を失っているマグネや黒霧、荼毘もだ。

 

 荼毘と黒霧は、Mr.コンプレスの『個性』によって『圧縮』され、球体に封印されていたはずであるが、AFOの『転送』はその状態を無視して呼び出すことができるようだった。

 

 AFOはさらに、指先から黒いエネルギー体と思しき、先端の尖った触手のようなものを伸ばし、それを浅く黒霧の体に突き刺した。

 

 その直後、AFOが使った『個性強制発動』の効果により、意識がない黒霧の『個性』がAFOの意思で発動し、霧のワープゲートが開かれる。

 

 そしてそのまま、有無を言わさず、呼び出したばかりの連合メンバーを包んで、ゲートの向こうに飛ばしていく。

 メンバーが困惑したまま、次々と霧のゲートに飲み込まれていく中……最後に残った死柄木は、AFOの方を見た。ドクロを模した仮面越しに、目が合ったような気がした。

 

「さあ弔、君も」

 

「……先生」

 

「さすがに今日はここまでだよ。大丈夫、そう欲張らなくても、もう十分君は強くなった……今日この僅か1日の間に、大きく成長した。僕自身驚いてしまうほどにね。けど……これ以上は駄目だ」

 

「…………」

 

「その腕ではもう、戦闘も『個性』の行使も無理だろう。それに……これ以上は、少なからず君に悪影響を与えてしまうものがいるようだ。さあ」

 

「……先生は? あんた、その体じゃ……」

 

「心配はいらないさ。奥の手もある……今は休め、弔。そして……考え続けて、戦い続けろ。仲間達と……これからも」

 

 その気になれば、強制的に死柄木を転送することもできるであろうAFOだが、あくまで丁寧に、言い聞かせるようにして、死柄木にゲートを通るよう促す。

 死柄木は、少し考えていた様子だったが、こくり、と頷いて歩みを進める。

 

「っ! 待つんだ死柄木弔! まだ話が……ぐっ!」

 

「よそ見をする余裕があるのかい、オールマイト。君の困惑した顔を見るのは楽しいが……今日はこれ以上、僕の生徒にちょっかいを出さないでもらおうか」

 

 十数秒前、AFOによってビルをいくつも貫通させて吹き飛ばされたオールマイト。AFOが、死柄木との戦いを終えた緑谷を強襲する、ほんの少し前のことだ。

 

 戻ってくるなり、ゲートの向こうに消えようとする死柄木を止めようと駆け出すも、AFOの放った空気弾が横合いから直撃し……ガードこそしたものの、またしても吹き飛ばされる。

 痛打にはなっていないだろうが、これでもう、制止の手は間に合わないだろう。

 

 黒い霧の向こうに消えていこうとする死柄木は……しかし、その寸前で歩みを止める。

 

 そして、首だけで振り返り、まだ瓦礫の山の上で動けないでいる緑谷に視線をやると……『緑谷出久』と、さほど大きくはないが、不思議とよくとおる声で呼びかける。

 

「今回は負けた。けど……だからって何が変わったわけじゃない。俺は『志村転弧』じゃない……『死柄木弔』だ。覚えとけ、お前も……オールマイトも」

 

 ポケットにしまっていた、手の形のアクセサリー――少なくとも、その『由来』を知らない緑谷達は、そう思っている――を装着して顔を隠し、その指の隙間から除く目。

 その視線を緑谷と合わせて、死柄木は告げる。

 

「今回は……だめだった。でも……次は殺すぞ、緑谷出久」

 

「……っ……!」

 

「お前も、お前の意思も、夢も……何もかも。俺がこの手で……壊す。その時まで、せいぜい……」

 

 最後まで言い終わるより先に……死柄木は、ゲートの向こうに消えた。

 最初からそのつもりだったのか、タイミングが狂っただけか……はたまた、そもそも聞かせるつもりもなかったことなのか……その答えはわからない。

 

 その姿を見送ったAFOは、『さて』と、空間に溶けるように消えていく黒い霧から視線を外し……その瞬間、叩き込まれたビルから舞い戻ってきたオールマイトが、目の前数mのところに着地する。

 

 そのトレードマークである、V字型の前髪が、先程よりもやや垂れ下がり気味になっていることに、目ざとくAFOは気づいていた。

 

「見送りは、間に合わなかったね」

 

「……ッ……!」

 

「そこにいる彼が、君への伝言を預かっていたよ。後で聞くとい……おや?」

 

 そこでAFOは、視線を外したわずかな間に、倒れていた緑谷出久がいなくなっているのに気づいた。

 まだ再生には時間がかかると見ていたが、どうやら第三者の手が入ったらしい。

 

(……僕の方も、空間把握が甘くなってきているか……いや、いけないな、弔にあれだけ啖呵を切っておいて、先生として、へばるわけにはいかないだろう)

 

 再びの水音。AFOの周囲に、黒い水がはじけ、何かが『転送』されてくる。

 

(……脳無? だが……何か様子が……)

 

 オールマイトの目の前で、何体もの脳無が虚空から『転送』されて現れる。

 

 しかしそれらは、『上位』や『最上位』のように、知性を持っていたり、強大な戦闘能力を有している雰囲気ではない。体色も白色……『下位』の印だ。

 体そのものもあまり大きいとは言えない。せいぜい、異形型でもない中肉中背の若者、といった程度の体格だ。見た目は十分に異形そのものだが。

 

「……Plus Ultra……だったかな?」

 

「……?」

 

「君の母校であり勤め先……そして彼らの通う、雄英高校の校訓。今だけは、あやかってみようか」

 

 そう言って、AFOは……その脳無達に手をかざし……

 

 

 ☆☆☆

 

 

「『金剛石は砕けない(クレイジー・ダイヤモンド)』……!」

 

「あっ……がぁあ! ……はっ!?」

 

 朦朧としていた意識の中、緑谷は耳に届いた少女の声と……突如として全身をバラバラにされて、その後またつなぎ合わされて……それを何十回も繰り返したかのような激痛に襲われた。

 たまらず意識を覚醒させ、その目にとびこんできたのは……声の主である、永久の顔だった。

 

「よかった、無事で……悪い、『超再生』で回復は進んでたけど、アレ本人の体力に依存するとこあるし、疲労も残るし……何より早い方がいいかと思って、気付けも兼ねて直した」

 

「え? あ、うん、そう……ありがと」

 

 死柄木との決着から少しして、緑谷の危機を『同調』で察した永久。

 

 すぐさま駆けつけて、『黒鞭』で素早く緑谷を回収。

 オールマイトと互角に渡り合っているという、危険どころではない相手であるAFOから距離を取って隠れ、まだ再生途中だった緑谷を、『エネルギー』と『オーバーホール』の合わせ技である新技『金剛石は砕けない(クレイジーダイヤモンド)』で即座に『修復』した……というのが、ここまでの経緯である、

 

 意識を取り戻した緑谷は、永久から大方の現状を聞いて把握した。同時に、自分が今、朦朧とした意識の中でではあるが、見たことも報告して、情報交換の形にした。

 

 まとめると、こうだ。

 

 死柄木以下、『敵連合』メンバーは、黒霧のワープゲートによってこの場を離脱。追跡は不可能。

 

 『最上位』を含む脳無の大半はすでに対処を完了。戦闘区域外へ出た者も含めて、少なくとも、確認できているものについては全て制圧、あるいは討伐した。

 

 ネームドヴィラン2名……キュレーターとウォルフラムについては、いずれも制圧完了。現在はそれぞれヒーローが護送し、警察へ引き渡して『移動式牢獄(メイデン)』へ収容しているだろう。

 

 総合して、この場における残る敵は、AFOだけということになるのだが……言うまでもなく、それが最大の難敵である。

 

 ベストジーニストやギャングオルカといった、トップヒーロー級の面々ですら一蹴したその実力は、驚異的などという言葉では表しきれない。オールマイトとの戦闘に巻き込まれるだけで、視界に入る暇すらなく消し飛ばされてもおかしくはない。

 

 ……と、いうようなことを話している最中に、他のクラスメート達や、B組の面々、普通科の2人も集まってきていた。

 

「えーと……おし、42人全員いる。皆無事だな……よかったよかった」

 

「数えんの早っ! いや、まあよかったけど……けどこれで残る『敵』は、あのラスボスっぽい、パイプだらけの仮面の奴1人なんだよね? 今、オールマイトが戦ってるっぽいけど……」

 

 と、耳郎が『個性』も使って、瓦礫の壁の向こうの様子をうかがいながら言う。同様にしている障子が続けてさらに、

 

「周囲に散開していた脳無もあらかた片付いて、ネームドヴィラン2名も確保したと聞いている。そこに割かれていた分のヒーローの人手が、じきに合流するはずだ」

 

「となると……エンデヴァーやエッジショット、ホークスにミルコ、サー・ナイトアイやファットガムやリューキュウetc……絵に描いたようなドリームチームですわね……」

 

「あ、さっきベストジーニスト治療して戦線復帰したからあの人も加わるかもだわ」

 

「ていうかここに相澤先生達いないのって、先生達もオールマイト先生に加勢に行ったからじゃね? 合宿に来てたパンドラズ・アクターとかもいたし……」

 

「猶更頼もしいな……じゃあ、そのへんのプロヒーロー達とオールマイトで、あのドクロ仮面の『敵』、袋叩きにできるってこと? それもう勝ったも同然じゃね?」

 

「上鳴君、確かに頼もしいことこの上ない面子だが、最後まで気を抜くのはよくないぞ! 何が起こるかわからないのが実戦の現場だと、オールマイト先生も言っていただろう!」

 

「それはわかるけどよ、飯田……そうはいっても、気を抜くとか抜かないとかそれ以前に、俺らにもうできることないんじゃね? せいぜい、巻き込まれてケガしないように避難するとか、人質にされないように避難するとか、後方の避難誘導のために避な……避難誘導に協力するとか……」

 

「峰田お前そんなに避難したいのかよ……願望駄々洩れだぞ……」

 

 と、瀬呂がツッコミを入れるも、援護は意外なところから向けられた。

 

「けどさ、実際その方がいいんじゃない? 私達元々、あの変な『ゲート』に巻き込まれてここに飛ばされてきたわけで……言ってみればここにいないはずの、いちゃいけない立場でしょ?」

 

「だな。実際峰田の言う通り、俺達がここにいると、ヒーロー達は俺らを巻き込まないように少なからず注意を割かなきゃいけないわけだし……『邪魔にならないようにする』ってのも、立派に俺達がやるべきことの1つだと思う」

 

 と、B組委員長の拳藤と、冷静沈着&柔軟な思考で参謀ポジションである骨抜から。

 

 確かにそれも一理ある、と一同は思った。

 

 結果的に、大量の『脳無』とかに対しての戦力として機能することになったものの、本来ならば自分達は病院で安静にしているべき立場だった。それが、急変する事態の連続でいつの間にかこのような場所まで引っ張り出されてしまったが。

 

 いわゆる『戦わなければ生き残れない』な状況を達した今となっては、自分達は規定通りに大人しく避難し、ヒーロー達に守られる側に戻るのが正しい判断なのかもしれない。

 

 少なくとも、流れ弾に当たって怪我人を出したりなどすれば、それだけヒーロー達の負担になるし、後から面倒になることになる可能性も高くなる。

 

 そのことを、冷静になって考え……皆、理解していた。

 緑谷も、永久も、轟も、飯田も……爆豪ですらも。今自分達は、もう既にやることは終えた。後は、本当に現場で戦うべきプロヒーロー達に、信じて任せるべきだと。

 

 なお、「オイラの時には文句言ったくせに何でこいつらが言うと!?」という峰田のクレームは黙殺された。

 

 全員が冷静な判断を下そうとした……まさにその時。

 

 

 ―――ドッゴォォオオォオン!!!

 

 

「「「ッッッ!?」」」

 

 

 鼓膜が痛くなりそうな爆発音。続けて、地震でも起こったかと思うような振動がそこら中の地面を揺らした。

 何事かと驚いた面々が、しかし慎重に、警戒心は保ったまま、瓦礫の陰から外を見て……その光景に、全員が残らず、息をのんだ。

 

 ……壮絶、その一言に尽きる。

 

 先程話になっていた通り、そこでは、そうそうたる面子が戦いに参加していた。

 

 No.2エンデヴァーを筆頭に、ホークス、ベストジーニスト、ミルコ、ギャングオルカ、ファットガム、リューキュウ、グラントリノ、シルバーピクシー……その他、何人もの凄腕のヒーロー達。

 その彼ら、彼女らを率いて、オールマイトが立ち向かうという、誰がどう聞いても必勝の布陣。

 

 そんなドリームチームが……一人残らず、瓦礫の山に倒れ伏していた。

 

 

 ☆☆☆

 

 

「何ッ、やねん……あの、バケモン……!」

 

 ファットガムが思わずつぶやいてしまった言葉は、この場にいる全員に共通の思いだった。

 

 幸いにも、再起不能とまで言うような状態になっている者はいないように思える。まだ戦いを続けられる者がほとんどであるとも言えよう。

 しかし、それで事態がいくらかでも、この現状よりもマシかと問われれば……返答に窮せざるを得ない。

 

 エンデヴァーの炎も、ベストジーニストの拘束も、ホークスのかく乱と支援も、ミルコの蹴りも、リューキュウの馬力も、ファットガムの防御力も、ターニャの風も……そして、オールマイトの拳すらも。

 

 小細工の1つもなく、全て正面から打ち破られ、叩き伏せられた。

 

 それをやってのけた男……AFOは、先程まではなかった赤黒い、禍々しいオーラをその身にまとい、不気味な様相で空中に浮遊している。

 

 その力は、先程までオールマイトと一対一で戦っていた時よりもさらに増していた。

 具体的には……呼び出した脳無達に向けて手をかざし、その『個性』を抜き取って自分のものにして、使い始めてから……だ。

 

「弔がせっかく壁を超えてみせたんだ。ここで『先生』である僕が、情けない姿を見せるわけにはいかないからね……少し、無理をしてでも、格好つけさせてもらうとするよ」

 

「……やはり、貴様にとっても過剰なドーピングだったか」

 

 ぐい、と口元の血を拭いながら立ち上がるオールマイト。

 

「おや、やはりわかってしまうか……ごほっ。勘がいいね、オールマイト」

 

 咳き込みながらも、言い当てられたことに微塵も動揺することなく、しれっと認めるAFO。

 

 個性『オール・フォー・ワン』は、他者から『個性』を奪い、あるいは与える力である。その力を使えば、『個性』を2つ以上持った人間を作り出すことも可能だ。

 

 ただし、『個性』の複数所持は、所有者に対してすさまじく大きな負担になる。過去、そのように後付けで『個性』を与えた者が、精神を崩壊させて廃人同然になってしまった例もある。

 『脳無』は単なる戦力として改造しているという他に、この『複数個性所持』に適応させるために手を入れているという側面もあるのだ。もっとも、『最上位』以外の脳無は結局、一言も口を利かなくなってしまうため、大差はないのだが。

 

 脳無への改造なしで『複数個性所持』に適応している者といえば、AFO本人と、その側近であり、現在は姿を隠しているある男……そして、永久とナインくらいである。

 もっとも、ナインは『脳無』とはまた別な実験・改造を受けているし、永久は『変容』によって手にした個性を自分に都合のいい形にしてしまうことができるのだが。

 

 だが、そんなオール・フォー・ワンでも、際限なく保有する『個性』を増やしていくことはできない。

 

 『個性』と、それを使う者の肉体は、いわばハードディスクと、使用するメモリないしデータ量のような関係にある。

 

 どれだけのデータを記録できるかは、ハードディスク……すなわち肉体の性能と密接にかかわってくる。2つ以上の『個性』を受け取って精神が崩壊した前例は、ハードディスクの要領に対して、詰め込まれたデータが多すぎて、結果、容量を超過して壊れた、ということだ。

 

 そしてAFOは、数年前のオールマイトとの戦いで、体はまるで万全とは言えない状態にある。

 

 かつてよりも大きく衰えたその肉体では、今までに持っていた『個性』のストックの大半を保有し続けることができず、手放さざるを得なかったという。

 

 そして、今AFOがやっているのは……恐らく、その時に『手放した』力の再取得だろう。

 あれらの呼び出した脳無達は、単に『個性』保管用の、人間の形をした金庫程度に思っていた。その彼らに預けていた力を再度吸収することによ手AFOはパワーアップに成功し……しかし、決して小さくない負担に身を焼かれることとなる。

 

 そしてそれを承知で、AFOは『力』を選び……結果、ここまで圧倒的な状況が出来上がった。

 それでもまだ、以前の、全盛期のそれではないだろうが、こうしてヒーロー達が束になってかかってもなお、真正面から押し返すだけの力をその身に宿していた。

 

「よくわかんねえけど、アレは『個性』をいくつも重複して使ってるがゆえのヤバさなんだろ!? おいイレイザー、それなら!」

 

「もうやってる……つか、さっきからずっとだ。が……効かない」

 

 ゴーグルの内側で目を赤く光らせている相澤が、マイクにそう言い返す。

 AFOの強さは無数の『個性』の掛け合わせによるもの。なら、その発動自体を潰してしまえば、という思惑だったが、既にそれは通じなかったと聞かされ、マイクはもちろん、ミッドナイトら、その場にいた他の者達も驚く。

 

「イレイザーの『抹消』で消えない……? 異形型ならそれもわかるけど、明らかに発動型の『個性』が色々混じってるのに……」

 

「……『個性』による干渉を無効化する『個性』でも持ってんのか?」

 

「そんなものがあれば便利だったんだけどね、残念だが違う。ただの小細工さ……君達から見た僕の姿に、あらかじめフィルターをかけているだけだよ。君は僕を直接見ているつもりかもしれないが、その実、僕ではない虚像を見ているんだ」

 

「……何だそりゃ?」

 

 意味を理解できないらしいマイク。だが、相澤を含む数名は、今の説明で、いかにして『抹消』が破られたかを理解しつつあった。

 

「イレイザーヘッド。君は対象の体の一部でも直接見るだけで『個性』を消せる……だが逆に言えば、直接見さえしなければ消せない。例えば、監視カメラの映像・画面越しとか……鏡に映った姿を見たりとかではね。今僕は、光を屈折させる『個性』で、僕の姿の蜃気楼を身にまとっている。だから、君が今見ている僕は、僕だけど僕じゃない。僕のそのままを映した虚像なのさ」

 

 姿かたちはそのままAFO本人のものに間違いはない。

 だが、見えている像自体は、蜃気楼というフィルターを一枚挟んだものであり、間に余計なものがあるがゆえに『抹消』が発動しないのだ。

 

「同じように、こちらへの視覚や聴覚、嗅覚などを介した干渉系『個性』にも対策済みだよ。外部からの音声や光情報は、『個性』によるフィルターを通してから僕に届くようになっている」

 

(つまり、心操の『洗脳』や、ミッドナイトの『眠り香』も効かねえってことか……)

 

「それでも……さっきの話が本当なら、それほどの力、いつまでも持つものではないはず……! 時間さえ稼げば……」

 

「まどろっこしい……蹴っ飛ばしゃいいだけだろうが!」

 

 と、リューキュウの言葉を遮って言うミルコ。

 圧倒的な力を前にしてなお、その目にはギラギラと闘志の炎が燃え続けている。

 

「ミルコさん、あなたまた……もうちょっと冷静に……!」

 

「コイツがそんな、エネルギー切れになんて大人しくなってくれるタマかよ……そうなるまでにどんだけぶっ壊されるかって話だ。『心置きなく』戦わせてなんざくれねえぞ……だったら、こっちからガンガン攻めて、ガンガンエネルギーを使わせる方が速いし安全だろうが!」

 

「……成程、確かにな。まあ、安全なのは私達ではないが……仕方ないことか」

 

 ミルコの言葉の意図を察したギャングオルカがそう言うと、ほう、とAFOは感心したように、

 

「なるほど……直情的で深慮とは無縁と言われているらしいが、その分……野生の勘かな? そういったものは鋭いようだ。その通り、僕が君達ヒーローに対して、お行儀よく相手をさせてもらう道理など……ないからね」

 

 言い終わらないうちに、AFOの腕がミルコに向けられ、ブクッ、と膨れ上がる。

 

「今も昔も、ヒーローというのは、大変だよなあ……守るものが、多すぎて」

 

 それが、空気弾発射の予兆だと察したミルコは、なぜかほんの一瞬、後ろを確認すると……地面を踏みしめて体重の乗った渾身の蹴りを繰り出し、直後に放たれた空気弾を真っ向から迎撃する。

 しかし、一瞬の拮抗の後、足を振り抜くこともできずに、吹き飛ばされてしまう。

 

 直前にターニャが暴風を起こして衝撃波の威力をわずかにでも弱めなければ、足が砕けていたかもしれない。それほどの威力だった。

 

「ミルコさんっ!? 何で避け……」

 

「避けられへんかってん……やろ!」

 

 そのミルコが吹き飛ぶ前に、さらにその射線上に割り込んでいたファットガムが空気弾を受け止める。

 

 彼を含め、幾人かは気づいていた。ちょうどミルコの背後、崩れたビルの中に……生存者が残されているということに。

 ミルコが最初に音で気づいていたその一般人は、空気弾がこのままの軌道でビルに直撃すれば、間違いなくその崩落で命を落としてしまうであろうことに。

 

 しかしやはり、ファットガムも受け止めきれずに弾かれる。まるで大型トラックにはねられたかのように、その巨体を豪快に回転させてはね飛ばされた。

 

 その更に背後に……オールマイトが割り込んで、拳を振りかぶっていた。

 

 そして……ここまで既に、AFOの予想、ないし狙いの通りだった。

 

「『時間さえ稼げば』……その条件で困ることになるのは、何も僕だけじゃないだろう?」

 

 その狙いを察し、ナイトアイとグラントリノははっとするも……時すでに遅し。

 

「いい加減にカミングアウトしてもいい頃だ、やせ我慢はこの辺りにしようじゃないか……さあ、本当の姿を見せてくれ。平和の象徴……君が無理を押して隠してきた、その矜持を」

 

 幾度も超級の攻撃を迎撃し、とうの昔に限界を超えていた。

 そこにこのトドメの一撃。真っ向から拳を振るって迎え撃たなければならない、その消耗は決して小さくはなく。

 

 そうしてついに……限界は、訪れる。

 

 

 

 上空を飛ぶ、1機の報道ヘリ。

 その気になれば、AFOはいつでも撃墜できていたであろうが……あえて見逃していたそれ。

 

 そのカメラのレンズが……1つの『真実』をとらえた。

 

 

 

『えっと……み、皆さん、見えますでしょうか……? これは……?』

 

『お、オールマイトが……しぼんでしまっています……?』

 

 

 

 

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