TSから始まるヒロインアカデミア   作:破戒僧

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第2章 TS少女と体育祭
第17話 TS少女と体育祭


『雄英体育祭が迫ってる』

 

 USJ襲撃事件のおかげで臨時休校になったさらにその翌日。全身包帯だらけのミイラと化した相澤先生が告げたその言葉が、私達1-Aの次なる目標を告げた。

 

 正直ちょっとどころじゃなく痛々しいので寝ててほしいっていうか、ここまでなったら代理の先生立てるくらいするだろというか、雄英ってもしかして割とブラックなのかとか色々思ってしまって、半分くらい聞き流してしまったけど、要するに体育祭頑張れってことだ。

 

 ていうか、相澤先生リカバリーガールに頼んで治癒してもらわなかったのかと不思議に思ったんだが、ホームルームの後にこっそり聞いたら、色々理由があって一気に治癒しないほうがいいんだそうだ。

 

 一言に治癒と言っても、治癒能力を活性化させれば全てがすぐに解決するわけじゃない。ゲームじゃあるまいし。

 

 相澤先生の場合、腕と顔がかなり複雑な、酷いところでは粉砕骨折に近い状態になっていたので、いびつな形に骨がつながったり、砕けた骨が関節とか神経、血管の近くに入らないように、外科的手術とかもしたらしいから、その経過観察のためにも自然治癒に留めてるんだとか。

 体力が足りないとかの理由なら、私がちょっとおすそ分けしてもよかったんだが……世の中うまいこといかないもんだな。

 

 それはともかく体育祭だ。

 

 この世界において、『個性』という超常の能力が一般的なものとなって以来、人種やら何やらの差はあれど、基本的に同じ人間が平等な条件の下、自分の才能と努力を競う『スポーツ』……特に『オリンピック』やらは衰退の一途をたどった。

 そりゃそうだな……競技に有利な個性を持ってる奴が、どう考えたって圧勝するに決まってるし……それを盛り込んで『平等になるように』競技ルールを作るのは大変、いや不可能だろう。

 

 そのオリンピックに代わる行事として今最も注目されている1つが、この体育祭なのだ。

 

 まあ、ただの高校の体育祭と言って片づけられるようなもんじゃないからな……何せ、偏差値79、倍率300倍の狭き門を潜り抜けた生徒たちが、『個性』を思いっきり使って競う場だ。そりゃ見どころ満載だろう。

 

 万が一不測の事態が起こっても、それを抑えられる優秀かつ強力な教師陣がいるからこそ可能なイベントだよな……改めて思うけど、教師のほとんどがプロヒーローってすごいよ、うん。当日はそれに加えて警備にヒーロー雇うんだしね。

 

 私も何度かテレビで見たことあるが、テニスの王○様やイナ○マイレブン、少林○ッカーがかすむくらいのド派手な戦いだった……CGでも何でもなく、しかも生放送であんだけの戦いが繰り広げられてるのを見るのは、手に汗握るどころじゃない興奮だった。

 

 ……まあ、生放送な分、時には放送事故みたいなのも起きちゃうんだけども……

 

 去年、一昨年と、競技中に突如全裸になっていた謎の男子がいたっけな……多分『個性』の関係だとは思うが、アレは一体何だったのか……

 

 私は元・男なのでせいぜいびっくりしたくらいで済んだが、横にいて一緒に観戦していた女友達が絶叫していたのをよく覚えている。一瞬とはいえモロに映ったからな、テレビ画面に……本来はモザイクなしじゃ映しちゃいけないモノが無修正で……

 

 で、だ。その体育祭に私は今年、出る側になったんだよなあ……

 全国生放送で無様な姿は見せられない。きっちり特訓して動けるようになっておかないと。

 

 それに、体育祭は生徒たちにとっては、1つのチャンスの場でもある。

 

 体育祭が注目されるのは、何も娯楽目的だけじゃなく、プロヒーローやその関係者が『スカウト』目的で見るという側面もある。

 

 卒業後の進路としてヒーローになることを目指している私達は、自分の能力をアピールして多くのプロに注目してもらうために、この体育祭を最大限活用しなければならないというわけだ。

 好成績を残し、強く印象に残るほど、自分にとって有利になるというわけ。

 

 そういう話になれば、燃えざるを得ない。ヒーローの卵として当然の反応だろう。

 

 だからこそ……彼が放課後に何を言ってくるか、大体予想できるってものだった。

 

 

 ☆☆☆

 

 

Side.緑谷出久

 

 授業の中で相澤先生に発破をかけられ、

 

 昼休みに麗日さんに、彼女がヒーローを目指す動機を聞かされ、

 

 そして同じく昼休み(後半)、オールマイトと仮眠室で話した。

 

 オールマイトは、僕がUSJで戦った時のことをある程度聞いていたようで、わずかな期間でここまで使いこなせるようになるとは、って褒めてくれた。

 僕としては……まあ、確かに成長した自覚はあるけど、まだまだだと思っている。『フルカウル』で安定して使えている力も、せいぜい全力状態の2~3%がいいとこだ。

 

 そしてその上で、オールマイトからも、今度の体育祭はチャンスだと言われた。日本全国が注目する中で、平和の象徴の後継者として、『僕が来た』ってことを示す最大のチャンスだと。

 

 オールマイトも期待してくれている。なら……ここで何としても結果を残さなきゃ!

 立て続けに起こった出来事で、僕の心に灯っていた炎が、より大きく燃え上がるのを感じた。

 

 それと、その昼休みにオールマイトと話した時に……いい機会だから、僕が『フルカウル』を……というか、『ワン・フォー・オール』の制御をここまで習得することができた経緯を報告した。

 経緯というか、そのまんま……彼女と行っている、放課後の特訓のおかげだと。

 

「栄陽院少女と?」

 

「はい、放課後に訓練施設を借りて、パワー制御の訓練を手伝ってもらってて……あ、もちろん『ワン・フォー・オール』のことや、オールマイトのことは何も話してないですから」

 

「そうか、それならいいんだ。しかし……成程、急激なパワーアップの陰にはそんな秘密があったわけか」

 

「はあ……その……僕一人じゃどうしても要領をつかめなくて……すいません」

 

「いやいや、何も謝ることはないさ。度が過ぎれば別だが、誰かの力を借りてきっかけをつかむというのも立派な道筋の1つだ。……本当は私が修行を見てあげられればいいのだろうけど、すまないね、時間がなかなか取れなくて。君に任せきりにしてしまっていることこそ申し訳ないよ」

 

「い、いえいえいえそんな! オールマイトも教職になって忙しいでしょうし! それにその……栄陽院さんの教え方、本当にわかりやすいんです。同じ増強型の個性で、力を籠めすぎると逆にこっちの体が壊れて危険、っていう所まで似てるから……彼女も昔それで苦労したみたいで」

 

「ほう……」

 

 ごく簡単にではあるけど、彼女との特訓で何をやっているか、その中でどんな風に力の使い方を学んでいたかについても話した。

 ……ちょっと恥ずかしいシーンというか訓練法については、割愛したりぼかさせてもらったけど……すいませんオールマイト、流石に勘弁してください。

 

 オールマイトは黙って、しかし興味深そうに相槌を打ちながらその話を聞いていた。

 

「あえて0%から、というか正真正銘の『ゼロ』からじっくりと制御を学び、焦らずゆっくりと……『積み重ね』か……成程、盲点だったな。私の時は、最初からある程度使えてしまったから」

 

 あ、やっぱりそうだったんだ……オールマイト、やっぱりすごい!

 でも、それが問題だって栄陽院さん、ダメ出ししてたっけなあ……天才型は努力型の教育者には絶望的に向かないって。……言わないけど。

 

「彼女とクラスメイトになれて、しかも一緒に訓練できるくらいに仲良くなれたことは、間違いなく君にとって幸運だったことだね。体育祭に向けたトレーニングも、一緒にやるつもりかい?」

 

「はい、今日から早速! あーでも、最近お世話になりっぱなしだから、何かお礼考えないと……」

 

 訓練見てもらってるのもそうだけど、この間のUSJでも……危ないところを助けてもらっちゃったし。脳無に拘束された時とか。

 最後なんか、敵の攻撃から身を挺して守ってくれようとして……あ、そ、そう言えばあの時僕、栄陽院さんにその……だ、抱きしめられて、も、モロに見ちゃっ、どころか触れ……

 

 え、ええとあれは……女性のあんなところにあんな風にしちゃったんだから、お礼と言うかお詫びと言うか、用意したほうがいいのかな? でも本人もとっさのことだって言ってたし、全然気にしてない様子だったけど……逆に迷惑になるかな? っていうかあんなことの後に『お礼』って変な意味で受け取られない? ああああ、考えてたらどんどん思いだして来ちゃって顔が熱く……

 

「……? どうかしたの、緑谷少年? 顔、赤いけど……部屋、暑い?」

 

「へあっ!? あ、いえ、はい、あったかくて柔らかかったです!」

 

「はい?」

 

 しまった、正直な感想が口をついて出た!

 

 

 

 その場はどうにかごまかしたわけだが……放課後。

 

 いつもの訓練室で、僕はまた、栄陽院さんと2人になっていた。

 

 ひ、昼休みに変なこと思いだしちゃったから、中々彼女の顔を直視できない……い、いや冷静になれ僕! 彼女はあくまで僕と特訓のためにこうしてきてくれてるんだ、自分の貴重な時間を使ってまで……それなのに僕が、そんな邪な気持ちを持ってちゃいけない! 栄陽院さんに失礼だ!

 

 ……っていうか正味な話、彼女だって体育祭に向けて特訓とかしたいだろうに……それを僕のために時間を潰させちゃってるのは、申し訳ないと思う。

 もっと僕に、1人でも力をつけられるだけの知識とかノウハウがあれば……

 

「いいんだよ、私がやりたくてやってることなんだから」

 

「ぅえ!?」

 

 いきなり心の声にドンピシャなことを言われて、驚いて変な声が出た。

 こ、声に出してなかったはずなのに!? こ、心読まれた!?

 

「顔に出てる。緑谷、結構わかりやすいって言うか、表情がうるさいからすぐわかるよ?」

 

「あ、そ、そう……」

 

 ひょ、表情がうるさいって……初めて言われた種類の表現なんだけど……そこまでかなあ?

 

「あーそれと、はいコレ」

 

 と、ふいにそう言って栄陽院さんは、鞄から何かを取り出して僕に渡してくる。

 

 何だろコレ……って、ああ、貸してた体操服か。

 丁寧に包んでビニールに包まれてる……ひょっとしてわざわざクリーニングか何かに出してくれたのかな? そんな、そこまでしなくてよかったのに……

 

 ちなみに、今僕が着ている体操服は予備の奴だ。2着買っといたから。

 ……小・中学校と、かっちゃんから服爆破されて着られなくなることが多くて……予備の奴を絶対に用意しておくのが習慣になってたからなあ(遠い目)。

 

「教室で渡せればよかったんだけど、忘れててさ。とりあえず業者に頼んだから奇麗にはなってるよ。……峰田の奴は『洗わないで返すべきだ!』とかアホなこと言ってたけど」

 

「ははは……峰田君……」

 

 この短い間に、すっかり『女好き』でキャラクターが知れ渡ってしまっているクラスメイトの顔を思いだす。熱弁する姿が簡単に想像できてしまった。

 

 ………………しかし、この服を栄陽院さんが着てたんだよなあ……

 大きくてあったかくて柔らかかったあれを、これが、じかに包んで……

 

「……緑谷? えっと……洗わない方がよかった?」

 

「うぇ!? ち、ちちち違っ……そういうんじゃなくて、その、あ、ありがと! わざわざクリーニングにまで出してもらって……お金かかったでしょ?」

 

「いや、そんなん全然いいって。あの時は私も結構激しく動いて汗けっこうびっしょりで、匂いもしみついちゃってただろうし、洗濯機だけじゃ残りそうで不安だったんだよ」

 

 だからこの人は……こないだの訓練の時といい、どうしてこういう絶妙なタイミングでそういう想像を掻き立てられるようなことをッ……あああ、訓練の時に幾度となくかいだ、ちょっと汗の匂いの混じった栄陽院さんの匂いがフラッシュバックしてええい消えろ邪念!

 

 こないだからちょいちょいこういうことが増えてきてる気がする……たるんでるぞ緑谷出久! こんなことで、協力してくれている彼女に申し訳ないじゃないか!

 

「よし、じゃあ栄陽院さん、さっそく始めよう! 体育祭までそんなに時間もないしね!」

 

「ん? おー、了解緑谷。なんか気合入ってるね」

 

「うん! 相澤先生達も言ってたように、ヒーローになるためには避けては通れない一大イベントだからね!」

 

 そうでもしないと色々意識、ないし想像しちゃうから……というのが本音ではあるが、今言ったことも決して嘘じゃない。

 オールマイトの期待に応えるためにも、もっともっと力をつけて、いい結果を出さないと!

 

 そのための訓練方法は……また栄陽院さんに頼ることになっちゃうってのは、情けないんだけど…………ホントいつか何かの形でお礼しないとだなあ……。

 それに、いつまでも彼女に甘えてるわけにはいかない。自分でも鍛え方というか、トレーニングメニューを考えて実行できるように、勉強進めないと。

 

 そんなことを考えていると、

 

「あー、その前にちょっと話があるんだけどさ。緑谷、その……今週の週末とか空いてる?」

 

「え、週末?」

 

「そうそう、土日。ほら、体育祭前だからって連休になったじゃん? その、あーできれば金・土・日って時間あれば一番いいんだけど」

 

 昨今の学校教育の現場では、週休二日制……すなわち、月~金の平日が登校日で、土日は休み、っていうのが一般的だ。部活とかはともかく。

 

 しかし雄英高校は、3年間という短い期間の中に、卒業後にプロヒーローとしてやっていけるだけの教育課程を詰め込んでいるためか、土曜日も普通に授業がある。休みは日曜日の1日のみだ。

 ヒーローを目指すならそのくらいは当然だと思うから、それに不満はない。甘い世界じゃないからね……他の皆もそうだろう。

 

 ただ今回の土日は、体育祭前で自主トレに打ち込む生徒も多いだろうってことで、土日丸々休みになったのだ。すなわち、金曜日の放課後から、授業とは切り離されたフリーな時間が始まる。

 ほとんどの生徒は、体育祭に向けてトレーニングに打ち込むんだろうし、僕もそのつもりだった。何なら、この後にでも栄陽院さんを誘おうと思ってたし。

 

「予定は空いてるけど……どうして?」

 

「そっか、そりゃよかった。じゃあさ緑谷……

 

 

 

 ……週末、うちに泊まりに来なよ?」

 

 

 

 ………………はい?

 

 

 

 




次回からまた修行パート少し入ります。進む魔改造。

それと既に投稿済みの第15話をちょっと調整しました。
今回の話の流れ的に矛盾しそうだったので、緑谷のジャージの袖、破れてない展開に修正しました。ご了承ください。

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