TSから始まるヒロインアカデミア   作:破戒僧

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第21話 TS少女と開会式

 2週間という時間は、あっという間に過ぎた。

 

 その間に、USJ事件のことを聞きつけた他のクラスが敵情視察に来て、喧嘩を売ったり売られたり(主に爆豪が)したり、大小さまざまに出来事はあったものの、それぞれが来る一大イベントに向けて特訓を重ねていた。

 普通科だっていうあの紫色の寝不足(?)の生徒や、なんか暑苦しい感じがしたB組の生徒を見てもわかったことだけど、どこも体育祭に向けてガチだってことだな。

 

 飯田は広い敷地に設けられたランニングコースをひたすら走ってるのをよく見たし、図書室で八百万が読書にいそしんでいる場面も見た。彼女の『個性』は知識量が力量に直結するからな。

 

 プールとか水場で泳いでる蛙吹、

 木々の間を軽やかに飛び回る尾白や瀬呂、

 トレーニングルームでは砂藤や障子が筋トレをしたり、切島がサンドバッグを叩いていたり、基礎体力をつけるために麗日がランニングマシンで走っていたり。

 

 もちろん私と緑谷も、お泊り特訓の日からずっと自分を磨き続けた。

 

 基礎体力と身体操作を、障害が常に変化する『アスレチック』で鍛え、力の操作を『サンドバッグルーム』で覚え、それらを総合的に扱う訓練を『組手』で行った。

 組手は特に、どの程度の力と速さで行うかを合わせた上でやるとか、色々工夫した。

 

 もちろん、これまでと同じように、毎日一緒に訓練できるわけではないので、基本的には使える時間を上手く使ってそれぞれが訓練をする形になったけどね。

 

 もっとも、体育祭の形式はいわゆる『学年別総当たり』だ。言ってしまえば、クラスメイト達も含めて全員が競う相手……敵、ということになる。(ヴィランとは読まない)

 

 だからだろう、他者と協力して修行してるような人はほとんど見なかった。私と緑谷みたいなのは、少数派ってことだろうな。手の内を隠しておく意味も含めて。

 

 私達もきちんと、本番当日はお互いが敵同士になる旨を理解した上で、それまでに可能な限り相互にレベルアップする目的で一緒にやってるっていうのは、わかった上でやってたし。

 ……まあ、前からそうしてたからなし崩しにそうした部分も強いけど。

 

 それはともかく、そんな感じだから……他者の動向を注視することは多くても、そこまで深くかかわる機会はないわけだ。だからこそ、その変化に気づく者は少なかった。

 

 緑谷の動きが、ここ数日で格段によくなってきているということに。

 

 例外的に多少なり察しているのは、幼馴染だっていう爆豪や、仲がよくてよく一緒にいる飯田と麗日、

 そして……なぜかここ最近緑谷を見ていることが多い轟、くらいか?

 

 最後の1人は……どうしたんだろうな? 今までそんな素振りなかったのに。

 

 まあそれはいいとして、

 

 

 あっという間に、それこそ某紅色の王ばりに時は吹っ飛んで過ぎ……

 

 

 体育祭、当日!

 

 

 ☆☆☆

 

 

 開会式直前、1-A控室。

 

 公平を期すために、生徒は全員、コスチュームではなく体操服着用だ。

 各々が同じ服装でその時を待っている中、こんな一コマがあった。

 

「お前……オールマイトに目ェ掛けられてるよな」

 

 控室で、そう呟くように静かに、しかし緑谷の目を見てはっきり言った轟。

 そんなことを口にすれば、どうしたって視線は集中するってもんだ。

 

 ていうか、その辺はクラスの大半がここ最近気になってるところだろうな。

 

 確かに緑谷って、オールマイトから呼び出されたり、色々話してる場面が多いって……入学してから今までの間に、クラスメイト達の間では割と知られてるし。

 麗日の話では、昼休みに『ご飯、一緒に食べよ?』ってお弁当持参で誘いに来たこともあったとか。マジかよ……想像できねえ。

 

 もっとも、それを深く聞くつもりはないし……緑谷も話したくなさそうにしてるからね。

 

「別にそこ詮索するつもりはねえが……お前には勝つぞ」

 

 そう、轟は緑谷に言った。

 

 それを見て、上鳴が『クラス最強が宣戦布告か!?』って言ってた。

 

 轟を『クラス最強』と言ったことで、隣にいた爆豪の機嫌が悪くなったことには気づいていない。……開会式前に不幸な事故が起こらないといいが。

 

「僕も本気で……獲りに行く!」

 

 少し緊張しながらも、こちらも目を見てはっきり言った緑谷のセリフがコレ(一部略)。

 

 嬉しくなるね、あんな風に強気にというか、心を強く持って勝利宣言(?)をかましてもらえると……彼の指導に注力させてもらった身としては。

 ここで緑谷が、どれほどに『魅せて』くれるのか楽しみだ。

 

 入学以来の、パワーに耐えきれず自爆してるところしか見たことない彼ら(一部例外アリ)が、どれだけ驚いてくれるかね。USJで、爆豪や轟、切島なんかはその片鱗を見ているが……ああ、もしかして轟って、それでここ最近緑谷のこと注視してたのかも? 施設の反対側の壁まで、あの死柄木とかいう敵を殴り飛ばしたからな。

 

 まあ何はともあれ……時は来た。

 委員長・飯田の号令で、私達は控室から戦場へ赴く。

 

 

 

『群がれマスメディア! 今年もお前らが大好きな高校生たちの青春暴れ馬……雄英体育祭が始まディエビバディアァユゥレディィ!!?』

 

(生き生きしてんなー、マイク先生)

 

 最後の方、崩しすぎて何言ってんのか分かんないぞ英語教師。

 

『どうせてめーらアレだろ!? 入学早々『敵』の襲撃を受けたにもかかわらず、鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星! ヒーロー科! 1年! A組だろぉ!?』

 

 いや『どうせ』ってあんた、もっと言い方……というツッコミは心の中にしまい込んで入場。

 

 しかし、控室出た瞬間から既に聞こえてきてた大歓声から察してはいたけど……スタジアムの規模も、そこを埋め尽くす観客もすげーなこれ……覚悟はしてたけど、大分緊張するわ流石に。

 あらためて思うけど、高校の体育祭に向けられる熱狂じゃないな。日本にとってとはいえ、かつてのオリンピックに変わる一大行事ってのは伊達じゃないらしい。

 

 今年は特に、1年生が注目されるからこうなってるってのもあるかもだが。

 

 飯田曰く、この大人数に見られる中でも最大限のパフォーマンスを発揮できるかってところも、ヒーローの卵として評価されるポイントなんだろう、とのこと。なるほど、ありそうな話だ。

 

 A組に続いて、B組、普通科、サポート科、経営科も入場し、主審であるらしいミッドナイト先生が開会式を進行する。

 

 なお、この体育祭は1年、2年、3年が別々の会場になる。開会式とか閉会式も全部別々だ。

 校長先生は毎年3年生の会場に行っているらしいので、1年の開会式には出ない。なので、この会場における進行やら何やらを担う『顔』役は、今年はほぼ全部ミッドナイト先生がこなすわけだ。

 

「今更だが……18禁ヒーローなのに高校にいていいのか」

 

「いい」

 

 常闇の疑問と、それに力強く反応する峰田はいいとして。

 

 しかし改めて思うけど、この学校はイベントまでホント独特だな。

 

 入場するタイミングそろえるだけで、縦横揃っての入場行進とかはなし。プラカードもなし。

 こうして開会式が始まっても、整列はせず、クラスごとある程度固まって好きなように立ってるだけ。あっちこっちで私語もしてるし、スマホ弄ってる奴すらいる。

 

 会場準備とか飾りつけも、業者に依頼してイベントとして本格的な感じになってるし……観客席とかには、いろんな企業のコマーシャル看板がある。まんまオリンピックとかのスポーツイベントだ。おそらく広告料とかも取ってると思われる。学校っぽさが体操服くらいしかない。

 

 まあ、生徒は競技に全力を注げって意味なのかもしれないな……肩凝らなくていい。

 

 で、続いてはこういうイベントではお決まりの、選手宣誓のお時間。呼ばれたのは……

 

 

 

「1-A、爆豪勝己!」

 

 

 

 おい、大丈夫か。

 

 

 

 A組の心の声が一致したのは多分気のせいじゃないだろう。

 いや、あいつたしかに入試主席だけども……人選……。

 

 嫌な予感がバリバリ頭をよぎる前で、爆豪は気だるげに『せんせー』と、ミッドナイト先生の前で、

 

 

 

「俺が一位になる」

 

 

 

「絶対やると思った!」

 

 ここ最近爆豪のツッコミ役……もとい、理解者じみた立場についてきている切島のツッコミは、私達全員の心の声を代弁したものであると言えた。

 

 その後、ブーイングの嵐が巻き起こっている生徒達の方を振り返り、『せめて跳ねのいい踏み台になってくれ』と、首をかき切る動作で挑発する爆豪。

 おいやめろお前どこまで行く気だ。私の周囲、ため息の大合唱だよ……ヘイトが集まる集まる。

 

「違う……ただ自信過剰なだけでも、挑発してるだけでもない。以前までのかっちゃんなら、ああいうのは笑って言う……自分を追い込んでるんだ」

 

「一緒にクラスメイト全員追い込まれとるんやけど」

 

「けろっ。B組や普通科からの視線が殺気立って来てるわ」

 

「それはもうかっちゃんだからとしか」

 

 麗日と蛙吹の指摘に、こころなしか申し訳なさそうに言う緑谷。

 別に責任感じることはないだろうが……アレの幼馴染って損なポジションだよな……。

 

『さぁ、早速第一種目行きましょう! いわゆる予選よ! 毎年ここで多くの者が涙を飲むわ……運命の第一種目は……コレ! 『障害物競走』!』

 

 A~Kまで11クラス総当たりレース、スタジアムの外周約4kmを使用した障害物競走……ね。何が待っているかはまだわからないけど、楽なコースじゃあないのは確かだ。

 

 そして、コースさえ守れば何をしたってかまわないとのこと。ふーん……

 

 開会式の会場の一部が変形し、スタートゲートに姿を変える。

 

『さあさあ位置につきまくりなさい……!』

 

 つきまくるって何だ。

 あと、発表即開始ってホント雄英何でもいきなりだな……テンポよくて退屈しないけど。

 

 しかしあのゲート、そしてこの人数……なるほど、相変わらずこの学校は意地が悪い。

 こりゃ恐らく、単純に走るだけじゃダメだな、頭を使う場面が絶対にあるぞ。

 

 さて、どうするかね……と、周囲を見回していた時、

 

 ふと、ゲートに向けて走っていく緑谷と目があった。

 

 その一瞬の間に、私と緑谷は互いにニヤリと笑った。

 別に何らかの意思疎通があったわけじゃないが……単にさ、こう……嬉しくなったというか、やる気が出て来たというかね。

 

 この日のために、2人で協力して成長してきたんだ。その成果を思う存分、みんなに、日本全国に、そしてお互いに見せられると思うとさ。

 こっから先は敵同士でも、こうなっちゃうよねって話だ。

 

 ゲート上のランプ。最初3つ点灯していたそれが、ミッドナイト先生のカウントダウンと共に、1つ消え、2つ消え、

 

 そして3つ目が消えたその瞬間……

 

 

『スタ――――ト!!!』

 

 

 この瞬間、雄英体育祭……その激戦の幕が、切って落とされた。

 

 

 

 

この世界のデクとくっつけるなら誰?

  • 永久(オリ主ルート)
  • 麗日(原作メインヒロインルート)
  • その他
  • ハーレム(英雄色を好むルート)

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