TSから始まるヒロインアカデミア   作:破戒僧

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第22話 TS少女と障害物競走(前編)

 

 雄英体育祭、予選を兼ねた第1種目。

 200人を優に超える参加者たちを振るい落とす目的で行われるその種目名は、今年は『障害物競走』であり……その『障害』には、他ならぬスタートゲートそのものすらも含まれていた。

 

 横並びに10人通れるかどうかというそのゲートを、一度に200人が通ろうとすれば、朝のラッシュアワーのごとき状態になるのは自明の理。すでに生徒たちは、最初の篩にかけられていた。

 

『さーて実況始めるぜ、解説アーユーレディ、ミイラマン?』

 

『無理矢理呼んだんだろが』

 

『おーっとゲート前に団子になってる選手たち、早くも状況が動こうとしてるぞぉ!』

 

『聞けよ』

 

 解説席の若干不毛なやり取りをよそに、事態は進む。最初のふるいにかけられた選手たちに、さらなる追い打ちが降りかかろうとしていた。

 

 先頭に飛び出した1-A推薦入学者の1人、轟焦凍。彼が放った冷気が地面を凍らせ、ゲート通過直後でもたついていた者達の足元を一気に凍らせて動けなくしていく。

 

 ここで動けなくなって勝負を諦め、教師たちによる救助を待つ者達も少なくないだろう。戦闘になれていない普通科の生徒などには、特に。

 

 しかし、戦闘行為がそもそもカリキュラムの1つとして組み込まれているヒーロー科、特に話題のA組は、それを軽々と回避して飛び越えていく。

 

 爆風で空を飛ぶ爆豪を筆頭に、『創造』した棒で棒高跳びの要領で人垣ごと飛び越える八百万、尻尾をうまく使って飛び跳ねる尾白、氷を酸で溶かす芦戸など、各々の技を駆使して妨害をものともしない。もっとも、轟もクラスメイト達をコレで止められるとは思っていなかったようだが。

 

 先頭を走る轟は、早くも最初の障害物ゾーンに差し掛かる。

 

『さぁいきなり来たぜ障害物! まずは手始め……第一関門『ロボ・インフェルノ』!!』

 

 現れたのは、一般入試試験の時に現れたロボットの仮想敵達。無数の1、2、3ポイントのそれに加え、各会場に1体しかいなかった0ポイントの巨大敵も、何体も配置されている。

 その数と大きさで完全にコースがふさがれ、通過するためには戦闘は避けられない状況だ。

 

 普通科の生徒、特に戦闘能力に乏しい者の中には、絶望的な状況に早くも攻略を諦めている者もいる中、轟は右半身から発した冷気で即座に巨大ロボットを氷漬けにし、その場を突破した。

 

「せっかくならもっとすげえもん出してほしいもんだな……親父が見てんだからよ」

 

『A組轟、あっという間に突破ァ――!! すげえな一抜けだ! 何かもうアレだな、ずりぃな!』

 

 しかもそれに加えて、わざと不安定な体勢の時に凍らせたため、そのまま0Ptが転倒し、後続を妨害する。

 

 それに巻き込まれて潰された生徒がいたが、下敷きになった2人……切島と、B組の鉄哲は、共に体を硬質化させる『個性』で乗り切っていた。彼らでなかったら怪我では済まなかった可能性は高い。

 

 そこに突如響く爆発音。爆豪が手のひらを爆発させた反動で空中に飛びあがり、巨大敵よりも高い位置をとっていた。

 

『おーっと1-A爆豪、下がダメなら頭上かよ、クレバー! 同じくA組、瀬呂と常闇もそれに続く! 身軽な個性持ちは有利だな! ッとぉ――んなこと言ってたら地上にもやべえのがいるぜェ! リスナー諸君、巨大ロボの隙間をルゥゥゥック!』

 

 巨大なロボットが地上に暗い影を落とす中、その闇を切り裂いて緑色のスパークが飛んでいた。いや……跳んでいた。

 

 襲い掛かってきた1Ptの敵を拳で砕いて瞬殺し、次が来る前に地面を蹴って飛び上がる。そのまま、まるでパルクールのような動きで敵ロボットたちの間を、緑谷は跳ねて高速で移動していく。

 

 まだまだ低出力とはいえ、制御自体は完全にものにした『フルカウル』の特徴である緑色のスパークが、その動きの速さゆえに空間に尾を引き、まるで流星のように見える。ロボットの動きでは彼を捉えることは到底できず、単なる足場にしかなっていない。

 

「うそ、マジで!? 緑谷何あの動き!?」

 

「骨折克服かよ……っていうか、速ッ!?」

 

「しかも光っててキレイ! 派手!」

 

 訓練という訓練で『自爆』していた彼しか知らないクラスメイト達は、その激変に驚く。

 

(っ、よし……思った通りに体が動く……敵の動きもよく見える。特訓の成果出てる! 入試の時は怖かったこいつらが、全然怖くない! でも油断せず……いける……いけるぞ!)

 

 動きながらも考えを止めず。確かな手ごたえを感じた緑谷は、この2週間の特訓でさらに鍛え上げられた身体能力に加え、変動していく周囲の状況に対する洞察力と対応力をフルに働かせ、一瞬たりとも足を止めずに走り、跳ぶ。重力の影響すら無視せんばかりの動きで。

 

『跳ねる跳ねる跳ねる! A組緑谷、まるでスーパーボールのごとく跳ね回って敵の密集地帯を駆け抜ける! 何か光ってるしA組は派手なのが多いぜ、見てて楽しいなおい!』

 

『別に楽しませる意図はないだろうがな。……ここ最近急成長しているとは思っていたが……地上の敵も瞬殺していたし、今大会台風の目になり得る生徒の1人かもな……ああ、目じゃなくて台風そのものになりかねないのが今来たか』

 

『あん? っと、アレは……』

 

 実況コンビの視線の先で、生徒たちの中でもひときわ大きな影が、ダン! と力強く地面を蹴って……

 

「全・力・全・開! 500%キィィィィック!!」

 

 ―――ガゴォォオオン!!

 

『おぁ―――何じゃありゃあ!? A組栄陽院のドロップキックが巨大敵に炸裂! なんつう威力だよ、そのままバランス崩して倒れ……あ――その後ろにいたのも巻き込まれた!? なんてこったい、0Ptが将棋倒しで大量スクラップだ!』

 

『計算してやったのか、はたまた偶然か……どっちにせよ豪快なこった』

 

「マジかよあの女子すげえ……つかA組どいつもこいつも半端ねえな」

 

「パワーとんでもねえ……背も高いし美人だしおっぱいもデカッ!」

 

「駆動音うるさいしうっとおしいし邪魔! ……ん?」

 

 将棋倒しになったロボの上をかけていく永久。しかしその前方で、ガシャアン! という音と共に、ロボットの装甲の一部がはじけ飛んで……

 

「またかよチキショーがぁ! 何だって俺1日に2回も潰されてんだ! オラァ!」

 

「だーかーら俺達じゃなかったらコレ死んでたっつってんだろーがァ! A組ィ!」

 

『A組切島、B組鉄哲、また潰されてたー! 運悪すぎだろ、ウケル!』

 

「うぇっ!? ご、ごめん2人共……ロボの陰になってて見えなくて……大丈夫? ほんとごめん」

 

「「許す!」」

 

『許すのかよ! あんなに怒ってたのに!』

 

 慌てて謝った永久を、切島と鉄哲は簡単に、あっさりと許した。それこそ思わず実況のマイクがツッコミを入れるほどだが、2人は『何言ってんだ』とばかりに顔を見合わせ、

 

「いやだってちゃんと謝ってくれたしなあ? わざとじゃなかったっぽいし」

 

「おう、それに元々こりゃ尋常の勝負って奴だからな。ちゃんと謝ってくれたしよ」

 

『なんだなんだ2人とも地味に優しさと男気まで駄々被りってか! そして『ちゃんと謝って』ってところでさりげなしに轟ディスられてんぞHAHAHAおもしれー、よかったな栄陽院!』

 

「そ、そっかありがと……って、ああ!」

 

「けろ、お取込み中の所悪いけど……」

 

「永久ちゃん、これも勝負やから! お先にっ!」

 

 漫才を展開している3人をよそに、軽快な動きで駆け上がってきた蛙吹と、運よくちょうどいい位置にいた麗日が、同じようにロボットの上を走って追い抜いていく。将棋倒しのロボットは、悪路ではあるがちょうどいい道になっていた。

 

 そしてそのさらに後方では、大砲を『創造』した八百万が、0Ptを粉砕していた。

 

「チョロイですわ!」

 

『A組蛙吹、麗日も突破! さらに八百万がまたまた0Ptをクラッシュ! その後ろでは芦戸や耳郎、B組の拳藤や塩崎も敵ロボットをものともしねえ! おいおい今年の女子は強くて華があるのが多いな、テレビ映りもこりゃ抜群だぜ! ヘイ、マスコミ共レンズ磨いとけ、数字取れんぞォ!』

 

『何を宣伝してんだ』

 

『つーか第一関門チョロイってよ! じゃあお次はどうだ? 第二関門、落ちたら終わり! それが嫌なら這いずりな! 『ザ・フォール』!』

 

 先頭の轟が早くも第二関門……底が見えないほど深いエリアにいくつかの柱上の足場が立ち、それらがロープで結ばれている障害物に到達した頃、

 

 実況席が注目していない場所で、事態が動いていた。

 

 

 

「ん゛っ!?」

 

 突然、腰から太もものあたりにかけて、軽い衝撃……というか、何かがくっついたような感触を覚えた永久。

 ロボット敵から攻撃を受けた……にしては衝撃は軽いし、モーター音もしない。

 

 振り返って見て見ると……

 

「うへへへ……一石二鳥よ、オイラ天才!」

 

「えぇ~……何してんのお前?」

 

 丁度自分のお尻のあたりに、『個性』である『もぎもぎ』を駆使してくっついている峰田がいた。

 

 どうやら、足が速く力も強い、突破力のある永久に寄生するかのようにしてこの先を楽しようと考えているようだが……その主目的は、既に女子の間で評判になっている(悪い意味で)峰田の性格を考えれば、そしてこのにやけ面、息の荒い様子を見れば一目瞭然だ。

 

 比較的こういったトラブルに耐性のある、というか気にしない場面が多い永久でも、流石にここまで露骨にやられると顔をしかめていた。

 それでも、手は出さずに口頭での注意から入る辺りは寛容であると言える。

 

「ちょっと峰田、離れろって……邪魔だし、このままだとあんた、セクハラシーンを全国生放送されるぞ?」

 

「へん! テレビが怖くて女体に触れるか! 何をされてもオイラはここを離れねえぞ! ほら、走らないとどんどん遅れるぞー? 予選突破したけりゃ休んでる暇はないぜ栄陽院!」

 

「ホントにヒーロー志望なのかコイツ」

 

 一旦立ち止まって説得を試みている永久の隣を、何人か男女入り混じった生徒が抜き去っていくが、そのいずれもが峰田に向けてゴミを見るような視線を向けていた。

 峰田はそれに気づいていないのか、はたまた気づいた上で無視しているのかはわからない。

 

「これ訴えたら勝てるんじゃないのか? いやでも外聞が悪いから、流石に同じクラスから逮捕者が出るのは勘弁してほしいんだが……」

 

「それでもオイラはやってない!」

 

「いややってるわ今まさに、思いっきり」

 

 一昔前の痴漢冤罪をテーマにした映画のタイトルを彷彿とさせる言葉で反論する峰田だが、むしろ現行犯で真っ黒である。

 

 どうにかしたいと考える永久だが、峰田の『もぎもぎ』の吸着力は生半可な力では引きはがせるものではなく、確実に切り離したければズボンごと脱いで捨てるか、『もぎもぎ』がくっついている部分を破って捨てるくらいしかない。

 さすがにそれはどうかと思うが……それしかなくなればやりかねないのがこの少女だ。

 

 もう一つの方法として、峰田が自分の意思ではがすこともできるが、この様子だとそれは期待できそうにない。気絶させてもこのまま離れないのでは、峰田の言う通り無視して走るのが、現状一番の方法ではあるが……。

 

(芦戸がいてくれれば酸でこの『もぎもぎ』溶かせたかもしれないけど……ん?)

 

 その時、永久の耳に飛び込んできたのは、第2関門『ザ・フォール』について説明するマイクの声。その内容から、そしてそれに対する轟達の動きから、この先どんな難所が待ち受けているかを永久は大雑把に把握し、頭の中に思い描いた。

 

 それを踏まえて、1つの考えにたどり着く。

 

「なあ峰田、ちょっと離れて?」

 

「へ? お、おう……ってうぉぉ危ねえ! あんまりにも普通に言われちまったから危うく普通に離れるところだったぜ! へへへ、その手は食わねえぞ、この男・峰田! 血の海に沈もうとここから一歩も……」

 

「いや、そういうんじゃなくて……あー回りくどいのもアレだし普通に言うわ」

 

 永久は、本当に何も考えていないかのような、普通というか平坦な口調で、

 

「あのさ……この競技の間だけ、私と組まないか?」

 

「へっ?」

 

 

 ☆☆☆

 

 

 各所の柱状の足場を軸に、幾筋にも枝分かれした綱渡りになっている『ザ・フォール』。

 

 『蛙』の特性と身体能力で容易く綱を渡っていく蛙吹に加え、サポートアイテムを駆使して突破していく、サポート科の発目明(サポート科は自分が作ったものに限り、申請すれば競技での使用が認められる)、その他、力技で堅実に突破していく者達も数多。

 

 そんな中、ダン! という轟音が突如として響き、そちらに注目が集まる。

 

『んん? 何だ今の音……っとぉ!? A組栄陽院、大ジャンプで縄も使わず一気に別の足場に飛び移ってやがるぜ! こいつはシ…………あん? 何だありゃ?』

 

『肩にくっついてるのは……峰田か? どういう状況だ?』

 

 実況の二人が疑問に思って言葉にした通り、そこには奇妙な光景が広がっていた。

 

 脚力にものを言わせた跳躍で奈落を飛び越える永久。その肩に、彼女の半分ほどしか身長のない峰田が『もぎもぎ』でくっついていた。

 彼女はそれを別に鬱陶しがるでもなく、気にせず足場にだけ集中して跳んでいる。

 

「峰田? アイツ何やってんだ?」

 

「あいつ……きっとセクハラ目的で永久にくっついたんだ」

 

「くっついてれば楽できるっていう打算もあるかもだけどね」

 

「峰田サイテー」

 

「峰田マジゴミ田」

 

「うるせー! 見当はずれなこと言ってんじゃねーよ! ちゃんとした協力関係だバーカ!」

 

「お前それ3分前に言われてたら反論できなかったからな? っと、そろそろか……」

 

 何度目かの大ジャンプの後、柱状の足場に着地した永久は、何かを探すようにキョロキョロとあたりを見まわしたあと、1本のロープが固定されている器具に近づき、ガシャン、と蹴飛ばして壊した。

 

『え、何してんだアイツ!? ロープの固定具壊したぞ!?』

 

『後続の妨害か?』

 

 片方の固定が外れて宙ぶらりんになり、落ちていくロープ。

 永久はその後、少し遠回りして、他の柱の足場を経由し、今しがた落としたロープのもう片方の端がある柱に来ると、そのもう片方の固定具も壊したうえで、ロープを引っ張り上げて回収した。固定具は引きはがした上で、握力でぐにゃぐにゃに折り曲げて、ロープの端に括り付けている。

 

「やっぱこれがこのあたりのロープではいっちゃん長いな。よし、出番だ峰田、スタンバイ」

 

「おうよ!」

 

 すると峰田が永久の肩から降りて、今度はその小さな体を、『もぎもぎ』を使って永久の左手に固定した。まるで盾のように。

 

 加えて、峰田はさらに頭から『もぎもぎ』をいくつか取ると、今しがた永久が回収したロープの片方の端にそれをくっつけた。がんじがらめに固定した固定具(だったもの)の周りに。

 

「よし、準備完了! 行けるぜ栄陽院!」

 

『さっきからあいつら何やってんだ? 栄陽院の奴、峰田を左腕に装備したぞ』

 

『ロープ……固定具……重り……峰田の『個性』……まさか』

 

 何かを察したように相澤がつぶやいた瞬間、永久は手に持っていたロープを勢いよく振り回し……びゅんッ、と空を切る音を響かせて、向こうの足場に投げた。

 

 さながらカウボーイの投げ縄を思わせる勢いで飛び、着弾したロープの端。そこにくっついていた峰田の『もぎもぎ』が、ぴたっと地面に吸着した。

 

「手ごたえ、よし! 行ける! よし行くぞ峰田、舌噛むなよ!」

 

 その直後、永久は跳躍と共に勢いよくロープを引っ張る。強化度合いによってはA組最強の膂力を誇るその腕で引っ張られたロープは、一瞬『ビィィン!!』と弾かれたような音を響かせて真っ直ぐに伸びると、その反作用で永久の体(with峰田)は勢いよく前に飛んでいく。

 

 着弾した先の柱まで飛んだ2人は、だん、とそこに着地すると、

 

「よし、やれ、ガントレット峰田!」

 

「リングネーム!? いやなんか地味にかっこいいような……まあいいや。オイラの仕事だな!」

 

 永久が峰田を装備した左腕を、投げ縄の端が着弾した個所に突き出す。それを峰田はつかんでべりっと引きはがした。

 

 それを再びぶんぶんと振り回し、今度は投げずに助走をつけて、さっきまでと同じように大ジャンプする永久。そして空中でロープを思い切り投げ、はるか遠くの足場に着弾させた。

 そして同じようにして引っ張ることでその足場まで一気に飛ぶ。

 

 着地するとまた峰田にもぎもぎをはがさせ、跳んで、投げて、引っ張って着地。その繰り返し。

 

『おいおいおい何だありゃあ!? A組栄陽院・峰田コンビ、とんでもねえ力技で一気にショートカットしまくってんぞ!? カウガールかよ!?』

 

『ロープと峰田の『個性』を上手く使ってるな……固定具を一緒に結びつけたのは、先端を重くして投げやすくするため。そして、峰田にはがさせれば吸着剤代わりの玉は何度でも使える。そこにさらに自身の跳躍力と腕力を組み合わせたか……豪快な戦略だ』

 

『A組最大最小コンビ、足場を2つ3つ飛ばしで超ショートカットォ! 途中でダンゴ状態の集団を抜き去って、あっという間に『ザ・フォール』をクリアしちまったぜぇ!』

 

 その途中、永久は、アスレチックで培ったバランス感覚を上手く使って綱をわたっている緑谷と、すれ違いざまに目があった。

 

 さすがにこの足場の悪さでは、超身体能力もそれを生かしきれないようだ。

 馬力自体は(自爆覚悟を除けば、だが)永久には及ばない彼は、足場から足場へ飛び移るレベルの大ジャンプは流石にできない。

 

 彼を抜き去ったその瞬間、永久は開会式の時と同じように笑顔を向けるが……

 

(……アレ、睨まれた?)

 

 なぜか、緑谷から返ってきたのは、面白くなさそうな表情。抜かれてしまったことに対する苦笑いでもなく、むしろ……憎たらしい、というような思いが乗っているように見えた。

 

(……? 緑谷って、こういう競争ごとで出し抜かれたからって露骨に嫌な顔するような性格じゃなかったと思うけど……どしたんだろ? 私、何かしちゃったかな?)

 

「へへへ……緑谷、悔しそうだったな。俺達の見事な作戦に嫉妬したんだろうぜ」

 

「そーかなあ……まあいいや。よし、次行くぞ、腕振って走りたいから背中か肩に移れ」

 

「腰の辺りじゃダメか?」

 

「真正面からそういうこと聞けるお前のメンタル何なの……走りづらいからパス。背中にしろ。……多少のラッキースケベには目をつむるから」

 

「マジかやった! ぐへへ……落ちないようにしがみついてたら、うっかり胸触っちゃっても仕方ないよなァ!?」

 

「あ、それはやめて。胸触られて中途半端にブラがたわんだりすると逆に壊れやすくなるから。今着けてるの丈夫で値段高い奴でお気に入りだから壊したくない」

 

「触られるのが嫌だからって理由じゃないあたりが栄陽院クオリティだよな……ちなみにおいくら? 弁償したら触っていい?」

 

「いくらだっけな? 特注品の上、輸入品目だから……たしか、税別手数料抜きでも、6ケタ台はいったとは思うけど」

 

「………………………………やめとく」

 

「葛藤長かったな。そもそも、あんたのもぎもぎなら落ちることも無いだろ」

 

 女子としての羞恥心が決定的に欠落した、ピントのずれた会話を交わしながら走り出す2人は、未だに向けられ続けている、緑谷の面白くなさそうな視線の意味には気づけていなかった。

 その視線が、永久ではなく……峰田に向いていたことに関しても。

 

 緑谷の視線の意味を、永久が理解することになるのは……もう少し先の話だ。

 

 

 

 

この世界のデクとくっつけるなら誰?

  • 永久(オリ主ルート)
  • 麗日(原作メインヒロインルート)
  • その他
  • ハーレム(英雄色を好むルート)

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