TSから始まるヒロインアカデミア   作:破戒僧

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第23話 TS少女と障害物競争(後編)

『さあとうとう来たぜ最終関門! 一面地雷原! 『怒りのアフガン』だ! 地雷の位置はよく見りゃわかるようになってんぞ! 目と脚酷使しろ! ちなみに地雷は威力は大したことねえが、見た目と音は派手だから失禁必至だぜ! パンツの替えの用意はいいか!?』

 

『人によるだろ』

 

 相も変わらず高校の体育祭とは思えない内容の障害物を持ってくる運営サイドに呆れつつ、『ザ・フォール』を突破して走っていた永久と峰田は、先頭集団が既にさしかかる最終関門に到着したところだ。

 

「栄陽院は背高くていいよなー……足が長くて歩幅広いから走るの速いし」

 

「背高いのもいいことばかりじゃないよ。私、映画見る時に子供料金ですって言って信じてもらえた試しないよ? 生徒手帳見せれば偽造だと思われるし、学校に確認まで取られてさ……わかるかこの気持ち? 峰田こそ、子供料金で映画館とか入れそうじゃない?」

 

「オイラは地元ではもうすっかり有名になっちまったからなー……映画館も美術館も女湯も入れなくなっちまってるよ」

 

「最後の、おい」

 

 緊張感のない会話をしながら、この2人、190㎝オーバーと108㎝のA組最大最小コンビは、なぜか地雷原を前にして突入しようとはせず、周囲をきょろきょろとと見回していた。

 

「つか美術館とか行くんだ? 言っちゃなんだけどそういうの興味なさそうなのに、意外」

 

「ふとした拍子に見たくなるんだよ。裸婦画、裸婦像、あと昔の外国のやたら肌色面積の多い美術作品とかさ……エロじゃない、芸術だって胸張って言える抜け道的な作品を、よ……ふふっ、小学校の時の美術とか図画工作の教科書、保健体育と同じくらい読み込んだもんだぜ」

 

「芸術に人生をかけてそれらの作品を作り上げたいろんな人に謝れ」

 

「つかさっきから栄陽院何やってんだ? 行かねえの?」

 

「無策で行ってもアレだからな。割と前の方にいれて余裕あるし……お、アレいいな」

 

「?」

 

 すると何かを見つけた永久は、すたすたと駆け足である場所を目指して走る。

 そこにあったのは、ドクロマークと共に『DANGER!! MINES!!(危険!! 地雷原!!)』と書かれている、大きな看板。装飾設備の1つであろうそれを、永久は根元から引っこ抜き、金属製のはずの足の部分をいとも簡単にへし折る。

 

 やや短めの鉄の棒を手に入れた永久は、峰田に『もぎもぎ』を提供させて棒の先端につけ、それを巻き込むように、第二関門『ザ・フォール』から持ってきていたロープをぎっちりと巻き付けて固定。さらに、長すぎると判断したのか半ば程からロープを素手で引きちぎり、残りを捨てる。

 出来上がったその形状は……

 

「鞭? え、それ鞭か、栄陽院?」

 

「ああ。よし、峰田お前今度は籠手じゃなくてナップザックな」

 

「背中に張り付けばいいのか?」

 

「そういうこと。あと作戦だが、いいか、お前は……」

 

 言葉通り背中に張り付いた峰田。その後、ひゅんひゅんと軽く振るって手作りの鞭の感触を確かめた後、いよいよと言うべきか、永久は地雷原に足を向ける。

 

『ここで先頭が入れ替わったァ――! A組爆豪猛追! 轟を抜き去ったが、負けじと轟も食い下がるデッドヒートだァ! 後続も続々来て……って、アレは何やってんだ?』

 

『爆豪は汗を爆発させるから、体が温まれば温まるほど火力が上がるスロースターターだ。それはそうと……後方にいるあいつらはまた何か企んでるな。』

 

 実況の2人も、ここで注目を永久達に移す。

 何をする気なのかと周囲が注目する中、永久は狙いを定め、長い腕を大きくしならせて思いっきり鞭を振るい、先端がぶれるほどの速度で動くそれを、前方の地面にかすらせた……次の瞬間、

 

 

 ――ドゴォォオン!!

 

 

 その周囲の地面に埋まっていたであろう地雷が、まとめて爆発した。

 

 あんぐりと口を開けて驚く周囲の面々。

 それに構わず、爆発して安全になった地点……決して広くはないが、足場にするには十分な面積のその場所目掛けて永久は跳ぶ。そしてまた前方の地面に鞭を振るう。

 

『おーっとぉ!? またまた何かやらかしてんなあの大小コンビ! 今度は何だ!? 鞭でぶっ叩いて地雷を誘爆させたのかァ!?』

 

『いや……違うな。そうか、考えたな栄陽院の奴』

 

『何かわかったのか、解説席のイレイザー!?』

 

『今のはおそらく、鞭を振るったことで衝撃波を生み出して、周囲にあった地雷をまとめて誘爆させたんだ。そのせいであの一帯が安全地帯になり、あいつらは悠々とそこに飛び込んだ』

 

『マジかよすげえなおい……っていうか、声で衝撃波出せる俺が言うのも何だが、衝撃波ってそんなに簡単に出せちゃうわけ? 増強系個性の奴の一部は、そういうの力ずくでやるけどよ』

 

『簡単には無理だろ、あいつはそのために鞭を作ったんだ。鞭を振るった時、パァン、って音が鳴るだろ? あれはただ鞭がしなったから音が出てるんじゃなく、高速でしなった鞭の先端が音速を突破し、空気の壁を越えたことで衝撃波が発生したことによって起こってるんだ。技量は必要だろうが、それさえどうにかなれば……栄陽院の腕力なら、周囲の狭い範囲で地雷を誘爆させる程度の衝撃波を起こす程度は、そう難しくはないってことだ』

 

『解説センキュー! 鞭を使って力づくで安全地帯を作りながら、お得意のショートカットを繰り返す……だが、ちょっとばかりコレは失敗だったんじゃねえか? 後ろが勢いづいちまってるぜ!』

 

 実況のマイクの言う通り、永久が作った安全地帯を利用して、その後ろに続く者達が加速して迫ってきていた。安全地帯は飛び飛びでしかも狭いが、長距離を跳躍できる『個性』を持つ者には格好の足場だし、そうでなくとも確実に安全な場所があるというのは動きやすさにつながる。

 

 後続に道を作ってしまったと、実況も観客も誰もが思ったが、それを受けて永久は、そして背中の峰田はニヤリと笑う。

 

「計算通り……ッ! ナップザック峰田、やれ!」

 

「だからリングネーム! まあいいや……おりゃあああ! グレープラッシュ!」

 

 『グレープってブドウ?』と内心で永久は思ったりしたが、峰田は頭から『もぎもぎ』をいくつもとると、今まで自分達が作って使って来た『安全地帯』にそれを投げつけた。

 勢いづいてそこに飛び込んできた他の生徒は、それを踏んづけてしまい……

 

「あっ、え、ちょ、何だコレ動けな……やば、バランスが!」

 

「お、おい押すな、掴まるな! あっちょっと待ってお前らダメだ来るなああああああ!!」

 

 転倒、そして爆発。

 

『こいつはシヴィ―――!! 大小コンビ、峰田のボールで足場を潰して使えなくしやがった! なんだきっちり考えてたんだなあ、クレバー!』

 

『そんなに広くない足場だからな、ああして塞ぐのも容易ってことだ。加えてあいつら、わざとある程度地雷原を進んでからあの罠を発動させたな……?』

 

『? ってーと?』

 

『中途半端な所まで『進めてしまった』せいで、後続の連中が行き場を失って地雷原のど真ん中で孤立した。後ろからはどんどん人が来て戻れない。かといって急に動けば地雷を踏むから動けない。しかし続々とくる後続はそれを待ってはくれず……あーあー、やっぱりな』

 

 立て続けに爆発が起こる。

 『もぎもぎ』で潰された足場はもちろん、それに飛び移りたくなくて手前の足場で棒立ちになっていた者達が、後ろの足場から跳んできてしまった者達に追突され、もろともに地雷原に落下。

 

 そんな悲劇があちこちで起こっている。

 むろん、永久の計算通りだ。

 

『おいおいおいおいマジかよイレイザー、お前の担当してる生徒コエーな、あの短時間でこんな血も涙もない作戦考えたってドSもいいとこだろ……っていうかさっきから思ってたんだが、ドSに加えて鞭を振るう姿も様になってるしスタイルいいし、なんかミッドナイト思い出すなコイツ? ヘイ、聞こえてるか会場のミッドナイト!? コイツお前の弟子とかにいんじゃね?』

 

『私もちょっとそう思い始めてたとこよ。見込みアリだし、後で声かけてみるわ』

 

『おいおいおい見込みありだってよ! どうするイレイザー、お前のクラスから第二の18禁ヒーローが生まれちまうかもしれねえぞ!?』

 

『うちのクラスの生徒を変な道に勧誘しないでもらえませんかね……』

 

『何よ!? いいじゃない18禁ヒーロー! 世の男どもに夢を与えつつ健全な社会へ導くのよ! 私達は洒落や悪ふざけでやってるんじゃないの、バカにしないでくれるかしら? 』

 

『バカにはしてませんよ……ってか、『達』ってあなた以外にその立ち位置誰がいるんですか。というか……洒落になってないからこそ言ってんですよ、こと、栄陽院に関しては……』

 

『『? どういう意味?』』

 

『知らなくていい』

 

「おい、栄陽院お前スゲーこと言われてるぞ! がんばれ、俺応援してるよ、なっちまえよ18禁ヒーロー!」

 

「いや、別に目指したいと思わないからいい」

 

 会場やテレビの向こうの観客たちの声に、若干黄色いものが混じってきて、栄陽院永久という生徒に注目する男の視線が増えて来た中……それは起きた。

 

 

 ―――ドッゴォォオオン!!

 

 

「ん!?」

 

「な、何だぁ!?」

 

 後方で途轍もない爆発音が響いたのにぎょっとして振り向く永久と峰田。

 さっきのように、もぎもぎトラップで安全地帯からまとめて転落した……にしても、爆発が大きすぎる気がした。そんな違和感の中、爆風による土煙を突き抜けて飛び出した者がいた。

 

「あれは……緑谷!?」

 

 大きな板状の何かに乗って立ち、まるでスノーボードか何かのように空中を颯爽と滑空する緑谷の姿。今の爆風に乗り、地雷原を飛び越えかねない勢いで飛んでいく。

 爆風に煽られながらもバランスを崩すことなく、むしろそれを捉えて『乗っている』。

 

「おぉー……やばい、かっこいいじゃん緑谷! 見とれそ……っていうか乗ってるアレって、私がぶっ壊した看板の板の部分か! あー、上手く使われたなあ……さっきの爆音は、さては地雷何個もまとめて爆発させて逆利用したってとこか?」

 

「マジかよ緑谷……おいどうする栄陽院、めっちゃ抜かれたぞ!」

 

「もともと一位じゃなかったとはいえ、やられっぱなしも面白くないな……」

 

 それに加えて、緑谷が一瞬こちらに視線を向け、勝ち誇ったような視線と笑みを向けて来たのもある。それを見て、永久にも火がついた。

 緑谷が活躍してくれるのは嬉しいが、それはそれとして永久自身も負けず嫌いではあるし、勝負事で手は抜かない性格なのだ。

 

(予想以上に成長してくれて嬉しいよ、緑谷……けど、それなら私もガチで行く!)

 

『A組緑谷、爆風で猛追! つーか何だアレ、爆風を波代わりにサーフィンか!? 顔は地味だが魅せてくれるじゃねえかよエンターテイナー!』

 

『何で顔ディスったお前。まあ見た目の派手さもそうだが、あの状態で体勢を崩すことなく爆風を全て推進力に変えてられるってのは、バランス感覚と体幹の鍛え、そして本人の度胸が相当なってなきゃできない芸当だ、本当に大化けしたなアイツ。ボードの面積が広いから空気抵抗が大きく、滞空時間も長い……こりゃ一気に前に出るぞ』

 

『緑谷、華麗なボード捌きで前に出るゥ! おいイレイザー、俺テンション上がってきちまった、ボードつながりで見た目は子供、頭脳は大人のアニメのテーマソングBGMかけてえんだけどいいかな?』

 

『音楽関係は権利関係めんどくせーからやめとけ。それよか、後続にも動きがあったぞ』

 

『ん? おーっとマジだ、今度は大小コンビ……何だありゃあ!? 滅茶苦茶に鞭を振り回して地雷を片っ端から誘爆させて全力疾走か!?』

 

 マイクの実況通り、永久は手にした鞭を前方広範囲に激しく振り回して片っ端から地雷を爆発させ、それでできた安全地帯を猛スピードで駆け抜けていた。背中には、振り落とされないように峰田がしがみついている。

 

 こんなことができるなら、なぜ今までやらなかったのか、手を抜いていたのか。

 見ている誰もがそう思ったが、すぐにその理由は明らかになる。

 

 後続に道を作ることになるのもそうだが、それ以上に……

 

「え、栄陽院、やべーって! 爆風が収まりきらねーうちから走って突っ込むから、爆風自体もそうだけど、巻き上がった砂利とかめっちゃ当たってるぞ!?」

 

「大丈夫だ、このくらいの痛みヘでもない、傷もすぐ治る! 峰田、お前は爆風が当たらないように背中に隠れてろ! 危ないから顔出すなよ!」

 

 地雷の誘爆による爆風。それによって巻き上がる砂利。その他諸々。

 この強行突破は、永久の馬力とタフネスに無理を言わせる手段だ。ゆえに、無傷では済まない。

 

 マイクの言っていた通り、威力は大したことはないが、かといって連続でそれを食らって……火薬が使われている以上、無事で済むようなものでもない、ということだ。

 前方から暴風雨のように襲い来るそれらの前に、細かい傷が増えていく。

 

 だがだとしても、自分の予想をはるかに超えた成長を見せた緑谷を前にして、加減した手段を取るという選択肢は、彼女の中には最早……ない。

 

「っ……栄陽院、さっき第二関門の前でセクハラしてごめん! オイラが悪かった!」

 

「いいさ、そんな昔のこと今更気にするもんかよ。仕方ないさ……男の子だもんな!」

 

 感極まった峰田の謝罪を、永久はいい意味で笑い飛ばす。

 

 爆風で起こる砂煙が大蛇のように、先頭を走る2人……轟と爆豪に迫る。しかしそれとほぼ同時に、上空からようやく失速した緑谷が飛来し……

 

『ここでとうとう先頭の2人を、陸と空から猛追してきた2人、あ、いや、3人が捉える……っつーかまだ飛ぶA組緑谷……抜いたァあ!! ここに来て再び順位入れ替わりだァ!!』

 

「うそ! まさか……利用された!?」

 

 着地直前、なんと永久が起こした爆風に乗った緑谷のボードがさらに加速し、さらに飛距離を伸ばした。驚く永久をよそに、緑谷は一気に先頭の2人を抜き去り、一番手に躍り出る。

 

「デクァ! 俺の前に出るんじゃねえェェ!!」

 

「っ……後続に道作っちまうが……仕方ねえか。栄陽院がバカスカやってるし今更だ」

 

 爆発を起こしてさらに加速する爆豪、地雷原を凍らせて走れる道を作る轟、

 そこにさらに、鞭を振り回して攻撃しながら迫る永久と、それにくっついている峰田。

 

 トップ5人が固まった以上……単なる競争では済まないだろう。

 

 爆豪の『爆破』が、轟の『氷』が、永久の『力』が、峰田の『もぎもぎ』が、先頭を行く緑谷はもちろん、互いの足を止めて自分が前に出るために、それぞれの力が振るわれようとして……

 

 それよりも一拍早く、その腕が、拳が振るわれた。

 

 

 

「ニューハンプシャー……スマッシュ!!」

 

 

 

 上方向に突き出された、緑谷の拳。それによって起こった風による反動。

 その勢いで、緑谷のボードが、どの攻撃よりも一瞬早く地面に着地、ないし着弾し……『カチカチカチカチ!!』と不吉な音が立て続けに響いた。

 

 そして、一気に爆発。

 

 再び爆風に乗る緑谷。それを受けて、吹き飛ばされる他の4人。

 

『緑谷、間髪入れず後続妨害!! 一気にトップに躍り出……っておいおいおいおい! この上さらにまだ何か見せてくれるのか!?』

 

 緑谷はさらに、ボードを蹴飛ばして捨てることでさらに加速し、身一つで跳躍……地雷原を抜けた先の地面に着地して、そのまま減速することなく走り出した。

 

「っく、緑谷……!」

 

「デクゥゥゥウ! てめごべぁっ!?」

 

 そして不運にもそのボードに当たった爆豪。なお、別に緑谷は狙っていない。偶然である。

 

 そして残る二人は……爆風で横に飛ばされ、鞭を失った上に、コースロープを兼ねた鉄線に叩きつけられていた。背中を預けてうずくまる姿が痛々しく映る。

 だが、直接叩きつけられたわけではなく……

 

「ぐ……『グレープバックラー』! オイラのもぎもぎは、オイラにはくっつかせずに弾くこともできる! つって、投げつけようと思ってたもぎもぎをとっさに盾にしただけだけどな!」

 

 背中に張り付いていた峰田が、手にしていた『もぎもぎ』をクッションにして、激突の衝撃から自分と永久を守っていた。

 

「さ、サンキュー峰田、割とマジで助かった……けど、ヤバいなコレ、動けないぞ」

 

「もぎもぎなら大丈夫だ、俺が取ってや……げっ!?」

 

 峰田はその時、永久が『動けない』と言った理由を、大量のもぎもぎが付着したためだと思っていたが……それだけではないことに気づく。

 激突の瞬間、全ての面をもぎもぎで守れたわけではなかったため、永久の上着のジャージが鉄線にあちこち引っかかってしまっていたのだ。尖った部分が食い込んでしまっているため、簡単には取れそうにない。

 

 1つ1つ取っていては時間を食うと判断した永久は、いつも通りに割と女を捨てた思考回路を働かせて決心する。

 

「しゃーない……コレいらん!」

 

 ――ジィィィィ……ガバッ!

 

「うえええぇぇえ!? え、栄陽院ん!?」

 

 前のジッパーを降ろして上着を脱ぎ捨て、中に着ている下着だけの姿になって、峰田をひっつかんで脇に抱えて走り出した。

 

「おいおいおいおいちょっと待てよ栄陽院! お前おっぱいやばいってこれ胸が下着でおっぱ、いくらあとちょっとおっぱいでゴールだからっておっぱコレ全国生おっぱい放送だぞ!?」

 

 脇に抱えられ、時折その豊満な胸が当たっている、希望通りのラッキースケベに見舞われている峰田だが、それに意識が割かれている様子はなく、発言内容はおおよそ永久を心配して言うものばかりだった。

 それが精神的な成長なのか、はたまたテンパっているだけなのかは誰にもわからない。

 

 ……言葉の端々に欲望がどうしてもにじみ出ているあたり、後者である可能性が高いが。

 

 そして、そんな言葉はやはり、覚悟完了したこの娘には届かない。

 

「私はッ、一向にかまわんッ! 別に何か減るもんじゃないし! あと峰田、地雷原っていうか最終関門抜けたから、このラストの直線から別々な! 今までありがとうがんばれよ!」

 

「えーっとえーっと、あーわかったよお前も頑張れよ! ちくしょーこうなりゃやってやらー!」

 

 そうして、最後の直線を走り出す2人。

 

『おっとここでふっ飛ばされた4人も復帰か!? 轟、爆豪に……っておいおいおいおい!? ちょっとコレ流石にまずいんじゃねーのかおい!? どーしたA組栄陽院!? 何で上……あーボロボロになった上に引っかかったから捨てたのか!? コイツはえれえハプニング! 思わぬセクシーショットにマスコミと男性陣は大喜びだフィ―――バ―――!!』

 

『栄陽院、お前はまた……これを危惧してたんだよ俺は……』

 

「うおおお!? マジか、先頭集団のA組女子脱いでる!?」

 

「どんな状況でそうなったんだよ……ってかやべえ、おっぱい大きい! 揺れそう!」

 

「くっ……上手く走れねえ……鎮まれもう1人の俺……!」

 

「俺も人のこと言えねえけど。前かがみになってる男子多すぎだろ……狙ってんのかあの女子?」

 

 

「うるせええぇぇえ! コイツは全力で戦った結果こうなってんだよ! バカなこと言ってる暇あったらてめーらもこのくらいの覚悟見せてみろ! 盛ってねーで真面目に走れやァ!」

 

 

 思い思いに好きなことを言って、ある意味男らしい目で永久を見る後続の男子たちに、その少し後ろを走っている峰田の怒号が響く。

 

 それを見て、後続の生徒たち……特に、峰田という男を知っている生徒達の間に、驚きのあまり静寂が広がった。

 彼ら、彼女らは、目の前の光景が信じられなかった。

 

 あの峰田が、人目もはばからぬ性欲の権化が、今何を言ったのかと。

 半裸の永久の女体に飛びつくどころか見ることすらせず、あまつさえそれを見て騒ぐ者達を一喝するなど、これは現実なのかと。

 

「み、峰田、お前いつからそんなに熱く……」

 

「え、峰田か? お前本当に峰田か? (ヴィラン)が化けてるとかじゃねーよな……?」

 

「み、峰田さん、何か悪いものでもお食べに……」

 

「っ……誰だ!? 誰かが『個性』で幻覚を見せているぞ、気をつけるんだ皆!」

 

「けろ……けろろけろけろ!? けろろりろけろろ!?」

 

「あかん、驚きのあまり梅雨ちゃんが人の言語を失ってもーた!?」

 

 

 

 後続が混沌極まる中、レース先頭はついに決着の時を迎えようとしていた。

 

 『フルカウル』全開で加速し走り続ける緑谷、

 地面を凍らせて高速滑走する轟、

 十分に温まった全力の爆速ターボで飛翔する爆豪、

 

 3人のデッドヒートになるかと思われた戦いだが……

 

「追いつけねえ……だとォ……!?」

 

「緑谷……ここまで、とは……!」

 

「もっと……もっと……もっと速く!!」

 

 ほぼ地面と水平ではないかと思うほどの前傾姿勢を取り、弾丸のごとき速さで最後の数百mを駆け抜ける緑谷。スパークを身にまとい、残像にその色を残し、全てを置き去りにして走る。

 

『轟、爆豪もすげえ勢いで猛追するが……それすら突き放して緑谷が独走! 速ェェ―――ッ!! スピード特化の『個性』でもねーのに何だありゃ!? しかもまだ加速してねえか!?』

 

『……走り方だな。緑谷はただ普通に地面を蹴って走るんじゃなく、『蹴飛ばして』走ってる。瞬発力に加えて、『個性』が生む馬鹿でかい力をそこに加えて速度を増してんだ。今の緑谷は、平面を『横に駆け上がってる』あるいは『地面を横に蹴飛ばしている』状態……説明が難しいな』

 

『つまりアレだろ!? 今の緑谷はパワーとスピードとバランス感覚を極限まで使った達人レベルの加速術で走ってるってことだろ!? 一歩間違えりゃ転倒して大クラッシュだってのは見ててわかるしな!』

 

『……まあ、割と間違ってない』

 

『YEAH!! 大体あってりゃOKさ! さあさあこのまま緑谷逃げきるか!?』

 

『だが、このままの速度を保つのは難しいだろう……ここからはほぼ直線だが、最後は曲がり角だからな』

 

『おーっとそうだった! このスタジアムの外周4kmを走るこの障害物競走、最後は当然、入り口に使ったゲートから戻ることになる! コースから見れば横に90度のカーブだ、そりゃこのままの速度で行くのは難しいわな!』

 

 1年生は皆、このスタジアムを出た後、コースに沿ってすぐ左方向に走り出した。外周がコースになっているのだから、当然と言えば当然だ。

 そしてそこからまた戻るということは、当然同じくカーブして中に入らなければならない。

 

 さらに、スタートゲートとその通路の広さは決して広くない。

 普通に走って通り抜けるだけなら何の問題もないだろうが、ここまで加速している状態の者には……超のつく急カーブに等しい。

 

 ゆえに、緑谷もここを曲がるには、ある程度前から減速し、ペースを調整せざるを得ない。

 轟と爆豪が逆転できるとすればそのわずかな間だと、マイクの説明を聞いて一様に思った。

 

 ……しかし、

 

『……ッ!? A組緑谷、減速する気配なし! どころかさらに加速……おいおいおいマジか、曲がり切れねえぞあのスピードじゃあ!?』

 

『……何を考えてる……?』

 

 減速どころか加速し、トップスピードのままゲート近くまで到達する緑谷。

 このままでは通り過ぎてしまう。誰もがそう思い、緑谷がとうとうゲート前に差し掛かった瞬間……

 

 

 

「オクラホマ……スマッシュ!!」

 

 

 

 その場で急速に回転し、その一瞬のエネルギーで無理やり、速度を保ったまま90度方向転換。一気にスタジアムに飛び込んだ。

 

『うぉぉぉぉおおマジかァァアアァア!! やべーこんなん初めて見たぜ俺! 緑谷、あのスピードを全くと言っていいほど減速させずに急カーブに成功!! そのまま突っ込んで……今フィニィ―――ッシュ!! 二転三転した戦いではあったが、だとしても一体誰が予想できた!? 熾烈な戦いを制し、一番でここに帰ってきたこの男、緑谷出久の、この堂々たるウィニングランをォ――!!』

 

 定点カメラが映せないほどの速さで飛び込んできた緑谷は、稲妻のようにスパークの軌跡を残して走り抜け……ようやく急ブレーキをかける。

 

 踵を使い、足の裏全体を使って急減速し、それでもズザザザァ―――ッ!! と勢いのままに会場の中、陸上競技用コートの中まで突き抜けた。

 その軌道上は摩擦のあまり、制動に要した摩擦エネルギーのすさまじさを示すように、スパークとは違った火花が散り、一瞬とは言え自然発火すら巻き起こった。その後には、競技場に切り込みを入れるかのような、堂々たる黒い焦げ跡が残った。

 

 速さといい、派手な演出といい(半分くらいは狙って出したものではないが)、何より最後のあの、プレゼント・マイクが絶賛していたあの急カーブの動き。

 

 圧巻のパフォーマンスを見せ、ダイナミックかつ繊細な力技で不可能を可能にしてみせた緑谷に対し……観客の誰かが、こうつぶやいた。

 声は幼かった。恐らく小さな子が、率直に思いついたことを言ったのだろう。

 

 

「……まるで、オールマイトみたい!」

 

 

 その声が聞こえたかどうかはわからない。

 

 しかしまさにそうだと言わんばかりに、緑谷は観客たちの視線が集中する中、仁王立ちのまま、拳を握った左腕を天高く掲げて見せた。敬愛する、かのヒーローのごとく。

 

 観客達に、そして、このどこかで自分を見ているであろうその人に、『僕が来た』と示すべく。

 

 次の瞬間、割れんばかりの大歓声と拍手が、第一種目の覇者・緑谷出久に浴びせられた。

 

 

 

 




Q.え、峰田性格改変するの?

A.すぐ元に戻ります。多分。映画版ジャイアンみたいなもんです。

この世界のデクとくっつけるなら誰?

  • 永久(オリ主ルート)
  • 麗日(原作メインヒロインルート)
  • その他
  • ハーレム(英雄色を好むルート)
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