雄英体育祭第一種目『障害物競走』。
一番で会場に戻り、その力を見せつけた緑谷は、腕を突き上げたウィニングポーズのまま、続いて到着した轟と爆豪を出迎える形になった。
2人も決して遅くはない、むしろ他の追随を許さない圧倒的な走りではあったが、2位、3位という順位ではどうしても一歩劣って映ってしまう。
「……っ……油断してたつもりはなかったが、それでも甘かったか」
「また、デクに……紅白野郎にも……くそがっ……!」
しかし、結果は結果、自分達は敗者。反省しても、悪態はついても、緑谷に敗れたことには変わらない……それを、2人ともわかっている。
ゆえに、緑谷、轟、爆豪の3者の間で交わされた視線は、何も言わず目に見えない火花を静かに散らすにとどまっていた。
大歓声の中、3人は静かに、ここから先さらに熾烈な争いと繰り広げるであろう相手とにらみ合う。張り詰めた空気は、まさに戦う者達が纏うそれ。
しかしその空気は……数秒後、緑谷が突然『へぁ!?』という間の抜けた声と共に、驚いた様な表情に変わったことであっさりと霧散した。
何を見たのかと、轟と爆豪も振り返って後ろを……今しがた自分達がくぐってきたゲートを見る。
そこに居たのは……
「あー……疲れた。ベスト3には一歩及ばずかー……皆早いなホント」
一体どうしてそうなったのか(走るのに必死で3人共放送を聞いていなかった)、上半身のジャージを喪失し、下着姿になって駆けてきた永久だった。
走り終えて汗をかき、息を乱した半裸の美少女。画面に大映しになるその姿に、スタジアムの大歓声……の中でも、心なしか男性のそれが増したように思えた。
「お前それ……またかよ」
「好きでこーなったんじゃないやい。ったく……予備のジャージ取ってこなきゃ……このパターンだと多分2回戦もソッコー始まるよな、時間あんまりないか。ミッドナイト先生ー!」
「はいはーい、って、あーあーまたセクシーなことになっちゃって……ちょっと大丈夫? 全国生放送だけど……恥ずかしいでしょそれじゃ」
「多少は、でもまあ減るもんじゃ……ってそれはいいとして。第2種目始まる前に、ジャージの予備取りに行ってきてもいいですか? 会場出るんで、一応許可欲しくて」
「もちろんいいけど……あなたそのカッコで行くつもり? めっちゃ見られるわよ?」
「それは……まあ、仕方ないじゃないですか。服他に持ってきてないし……」
「あ、ああああの栄陽院さん! こ、コレ使って!」
すると、駆け寄ってきた緑谷が自分のジャージの上を脱いで永久に手渡した。ミッドナイトはそれを見て、奇しくもUSJの時を彷彿とさせる光景だ、と思いだす。
「いいの? ありがと緑谷、じゃ遠慮なく……じゃ、ミッドナイト先生、失礼します」
「はいはいー、急ぎなさいな、そんなに時間ないわよ。それにしても、ふふふ、いいわねーこういうの、青春っぽくて………………ん?」
しかし、ふと何か違和感を覚えるミッドナイト。
今の一連の流れの中で、何かが引っかかった。先程も思った通り、USJと同じような流れだった。
ハプニングで肌を見せてしまった女子に、男子が自分の服を渡してやるという、熱血とは別な、恋が始まりそうなという意味で王道の青春展開。
渡した男子と貰った女子、男女の恥じらいが一層の……と、そこまで考えて、はっとする。
(あれ? 今緑谷君、半裸の栄陽院さんのこと、赤くなってたとはいえ、普通に正面から見ながらジャージ渡してた……? 前は目をつむって渡してたのに……。まあでも前回はトップレスで、今は下着アリだからかも……いや、違うっぽいわね?)
その緑谷が、今しがたゴールして駆け寄ってきた麗日に『すごいねぇ!』と褒められながら、顔を赤くし……両手どころか両腕を使って顔を隠している光景が目の前にある。
おそらく麗日の顔が近くにあるからだと思われるが、先程まで栄陽院の下着姿を見て平気だった男の反応とは思えない。
(……麗日さんは服着てても、間近に来られると緊張する。でも、栄陽院さんは緊張しない……? やだ、不思議な謎……何かありそう!)
じゅるり。
そんな音が聞こえてきそうな視線で緑谷を見るミッドナイト。何かを感じ取ったのか、緑谷はぶるるっ! と身を震わせた。
その一方で、緑谷のジャージを着て駆け足で自分のロッカーを目指す永久。
サイズ差ゆえに、前回同様胸の部分がぱっつんぱっつんになり、それに目がいく男性陣の視線を結局集めてしまっていたが、気にせず走る。
走りながら……考えていた。思いだしていた。
ゲートを潜り抜ける直前、その向こうに見えた……拳を高くつきあげて堂々とスタジアムに立つ、緑谷の姿を。
彼に借りたジャージを、ぎゅっと握りしめる。運動後なのだから当然だが、しっとりと汗で湿っていて、息を吸うと、ふわりとその匂いが鼻に入ってきた。
脳裏をよぎるウィニングポーズと合わさって……ぞくり、と永久の背筋に震えが走る。
自分が選んだ男の雄姿を前に、永久の脳内では……久々に『個性』と『本能』が暴走していた。
(やばい、やばいやばいやばい……緑谷強くなりすぎ! かっこよかった! あんなん惚れるわ! あ゛~……超にやけるとこだった! いい匂い……このジャージ返したくない! ちくしょー鎮まれ私の煩悩! 情欲は男子だけのものじゃないってんだよぉ! 私元・男子だけどぉ!)
☆☆☆
さて、ジャージも取ってきて着替えたし……できれば借りた方のジャージ返したくなかったけど……次、次!
障害物競争を勝ち抜いた生徒、総勢42人。おおよそ5分の1以下にまで減らされたこの人数で挑む、次なる種目は……ミッドナイト先生の発表によれば、『騎馬戦』。
最大4人1組でチームを作り、騎手がハチマキを装備して、それを取り合うチーム戦……へえ、個人戦じゃないんだ?
……そういや最初の模擬戦の時、急造でチームを組んで戦うこともあるのがヒーローだって緑谷が言ってたっけ……今回のコレもそんな趣旨なのかな? 個人戦と言いつつ、急にこういう課題を出して、不本意かもしれなくても他者と協力して勝負に臨めるかどうか見るとか。ありそうだ。
で、この騎馬戦だが、『個性』使用が自由なのはもちろん、大きな特徴が2つ。
1つ目、騎馬が崩れようがハチマキが取られようが、途中で失格になることはない。ハチマキがなくなっても動けるし戦えるから、制限時間内なら『奪い返す』っていう選択肢がある。
ただし、悪質な騎馬に向けての崩し目的の攻撃なんかはNG。一発で失格。
そしてもう1つ。この騎馬戦は、ただ単にハチマキの数で競うものじゃない。ハチマキに点数がつく。試合終了時に持っているハチマキの合計点で競う、という形だ。
そしてその点数は、障害物競争の順位に応じて、個人個人に与えられる。チームメンバーの点数合計が、そのチームのハチマキの点数だ(人数分もらえるとかではなく、1本にまとめられる)。
障害物競争、予選突破最下位42位を5Ptとして、順位が上がるごとに5ずつ上昇。
41位10Pt、40位15Ptとして……ってことは、計算式は……自分の順位をxとして……私4位だから……
(ええと、(42-x)×5+5=195。私の持ち点は195点ってことね)
「ただしこれは2位までの基準! 障害物競走1位に与えられるPtは……」
うん? 1位だけ違うのか……ボーナス的なアレかな? 得したな緑谷。
「―――1000万Pt!!」
ボーナスじゃなくて罰ゲームだった。
何、1000万って。クイズ番組の最終問題でもポイント配分もうちょっと大人しいぞ。
超狙われるじゃん……と思いながら緑谷を見たら、そこには、無数の視線にさらされながらも、目をつむって腕を組み、揺るがぬ堂々とした態度で話を聞いている緑谷の姿が。
衝撃的にも程がある宣告を受けながらも、動揺した様子のない緑谷の態度に、ある者は驚き、ある者は感心し、ある者は警戒心を強め、ある者は舌打ちしながら『ぶっ殺す……』と呟き……おい爆豪だろ最後の。わっかりやす。
十人十色の反応なれど、ほとんど全員が緑谷という男が動じていないものと思っているだろう。
が、私は知っている、そんなんじゃないことを。
なぜならあの態度は……開会式前に、私がちょっとした冗談で、緊張をほぐすために言った言葉に起因しているからだ。
『テンパったり緊張してやばくなったら、腕組んで目つむってじっと動かないで落ち着くの待ってるとかすれば悟られないし大物感出ていいよ? まあ場面にもよるけど』
(やばいやばいやばいやばいやばいやばいえちょっと待って1000万ポイントって何何でそんな僕だけ桁が5つも違うの2位の轟君だって205ポイントなのにどうしようコレっていうか騎馬戦ってことはチーム戦だよね誰かとチーム組まなきゃいけないんだよねそれなのにこの点数ちょっと待って勘弁してこんなんすごい狙われるじゃん誰も組んでくれないんじゃあああああどうすれば!?)
心の声が聞こえてくるようだ。
ともあれ、今から15分間の交渉タイム。さー私もチーム決めないと。
……コレ、最後まで1人とかでチーム決まらなかったらどうすんだろ? 1人で参加すんの? それとも失格? ……相澤先生的に考えれば後者ありそうだなー……ヒーローに必要な積極性と協調性が欠落してるとか言って。
まあ、協調性とか関係なく組みそうなのもいるけど。
例えば、前々から話を合わせてたり、普段から仲がよかったり……あるいは……
……そういうのに便利な『個性』を持ってたり、ね。
「なあ、ちょっといいか? 4位の……色々でっかい人?」
そら来た。
私の背後からかかってきたその声は……私がこの体育祭で、ある意味最も警戒している人間のものだった。
振り返ると、そこに立っていたのは……見覚えのある紫色の髪と、隈がすんごい目の男子。
不敵な笑みを浮かべているそいつに、私は……返事はしない。
「……おいおい、無視は酷いだろ? 何か言ってくれよ、A組の人……名前わからないのは謝るからさ」
返事はしない。
代わりに、手話で返しておく。ただし手話なんか知らないから適当だけど。
きっかけは、本当に偶然。第一種目のスタート直後に、そいつを見つけた時。
しかし、こちらに返事をする意思がないというのはわかったらしく、はっとしていた。
「……っ……あんた、気付いて……」
途端に苦々しげな顔になるその男子。
というかその背後、よく見ると、ぼーっとして突っ立っている尾白がいるんだが……ははあん? やられたな?
叩いたら治るかな? 試してみよう。
「……はっ? あ、あれ……俺、何を……え、栄陽院?」
「お、戻ってきた」
「……っ……ちっ!」
きっかけは、本当に偶然だった。
障害物競走のスタート直後、私はそいつを『あ、こないだクラスに来た奴だ』という程度の理由で見ていたんだが……そいつが他の普通科(多分)の生徒に声をかけて、生徒が返事をした途端……まるで魂を抜かれたようにかくん、と力なくその場にうなだれたのだ。
まるで、糸の切れた操り人形か何かのような、あるいはマックスなハザードにでも入ったのか……って感じの、いびつな沈黙。流石にぎょっとした。
そしてそれ以降、かくんと行った生徒達は彼の操り人形になっていた。
ピンときた。コイツの『個性』は、人を操る。恐らくは、受け答えした相手を……とか、そういう条件だろうと。『洗脳』とでも言えばいいのか。
見抜かれた上に、既に洗脳していた尾白を開放されて悪態をついた彼は、踵を返してその場から離れようとするが……
「まあ待ちなって。えーと……名前わかんないけど」
「あ? ……まだ何か用かよ?」
「………………」
「……操らないから言えよ、さっさと」
「そっか、そりゃよかった。ええとね……アレだ、別にわざわざ操らなくてもさあ、組まないとは言ってないだろ?」
「は?」
コイツは何を言ってるんだ、と言わんばかりの隈男子。まあそれも当然だろうな……今まさに、操ろうと画策して失敗した上に見抜かれた相手から、『組む?』なんて言われてるんだから。
一体何を考えてるのかって、ありがたさより先に警戒が来て当たり前だ。
けど私からすれば、操られるのは勘弁だが……平和的にというか、普通に手を組めるなら手に入れたいカードなのである。
……と言うよりは、敵に回ったらヤバいという懸念の方が強いが、まあそれはご愛敬。
「正気かあんた? 今まさに洗脳しようとしたばかりの俺と組むって……気は確かかよ?」
「気持ちはわからなくもないけど、ディスりすぎでしょ……何、あんた組みたくないの?」
「操る? 洗脳? え、ちょっと何話してんの栄陽院、説明……」
「後でね?」
こうしている間にも、周囲では続々チームが決まっていっている。
轟はめっちゃ早く3人確保したのが見えてたし、B組連中は何やらあらかじめ示し合わせてたのか、早々と同じ組同士で固まっている。爆豪の周りは争奪戦になっていて人が集中してたけど、切島を皮切りにさくっと決まった。その余りが集まって葉隠がチームを決め……緑谷も無事にチームを決めた。麗日と、常闇と……誰だアレ?
残っている人員はほとんどいない。が、運よくこの場には……『4人』いる。
最悪は3人でもよかったんだけど、折角だし手を組みたいじゃないか。正直、残り物感は否めないとはいえ……案外悪い組み合わせでもなさそうだし?
少しの間、紫色の彼(そろそろ名前聞くべきか)は黙考していたが、
「後悔すんなよ、俺みたいな、何のとりえもない普通科と組むなんて、物好きな選択をして……」
「しないし、させない。あと、その言い方は謙遜が過ぎるってもんだ」
「あの、そろそろ説明……」
あ、尾白放置してたっけ。じゃ、私はこっちに説明するから……
「あんたはそっちの
「……こいつの洗脳も解くのかよ?」
「1人だけ頭空っぽでも足並みそろわないでしょ? 頭はたいたくらいで解けるなら、途中で正気に戻って混乱するのもアレだし……何より、話せばわかる奴だから大丈夫だって」
そして15分が経過し、
『さァ上げてけ鬨の声!! 始まるぜ血で血を洗う争奪戦!!』
「始まるってよ。用意はいいか……尾白、心操……鉄哲!」
「おう!」
「……ああ!」
「ッしゃあ!」
私が前になり、後ろに尾白と鉄哲、そして騎手に心操。
尾白150Pt、鉄哲155Pt、心操80Pt、そして私195Pt。合計580Ptが私達の持ち点だ。コレを守り抜くのはもちろん……他のも取って確実に最終種目に行く。
なお、鉄哲がこの組に参加してるのは、私に声をかけた時点で既に心操が『洗脳』して引き連れていたからだ。ボーっとしてる間に、他のBクラスの面々が全員組んでしまっていて、相手がいなかったこともあって、話に乗ってくれた。
何より……
「……その……すまん、最初、騙して利用するような真似しちまって」
「気にするな、ってのも違うけど……俺達が無警戒だった部分もあるからな、いいさ。それよりも今は、勝つことに全力を尽くそう……味方だと考えれば、君の『個性』は頼もしいし」
「おう! こそこそやってたのはアレだが、きちんと謝って、その上で正面切って頼んできてるのは嫌いじゃねえぜ! それにA組でもお前のことはそんなに嫌いじゃねーしな、栄陽院!」
「そりゃあんがと……っと、カウントダウン始まってるな。よぉし、行くぞ野郎共!」
「「応!!」」
「……少し、わかった気がするよ。あんたたちヒーロー科と、俺みたいに、うじうじしてくすぶってるような奴との差って奴がさ」
……? 心操何か言……ってそんな間に!
『3、2、1……スタートォ!!』
始まった! A組、B組、C組(普通科)混成軍、いっちょ行きますかぁ!
この世界のデクとくっつけるなら誰?
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永久(オリ主ルート)
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麗日(原作メインヒロインルート)
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その他
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ハーレム(英雄色を好むルート)