TSから始まるヒロインアカデミア   作:破戒僧

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第28話 TS少女とトーナメント① 緑谷VS心操ほか

 さて、レクリエーションも何事もなく終わった。

 

 レクっていうか、借り物競争とか大玉転がしとか、普通の運動会みたいな奴ばっかりだったな。

 いや、体育祭って普通こういうのがあるものであって、雄英のそれがぶっ飛んでるだけだってのはわかってるんだが、それでも雄英レベルになれてしまってる私らには『平和な競技』あるいは『ぬるい競技』という印象が強くて……。

 

 なお、借り物競争するにあたって、『八百万の『個性』で出したものは不可』という縛りが最初に発表されてたのはナイス判断だったと思う。何でも彼女に頼めば出てくるからな……。

 

 まあ、このレクリエーションは自由参加だし、私達女子勢はチアってたもんで、見てる側だったが。

 最終的に、耳郎と八百万以外は結構ノリノリで応援してたし……最後の方では八百万もおっかなびっくりボンボン振ってたな。

 

 それにしても、なんだか雄英はレクリエーションまで変な感じになってる部分が多かったな。

 

 借り物競争のお題とか最たるもので、『文庫本』とか『携帯の充電器』とか、普通のものもあったけど……『冬用タイヤ』とか『青色発光ダイオード』とか『ギャルのパンティ』とか……持ってこさせる気ないだろってものもいっぱいあったし。最後のは特に持ってきたらまずいだろ、逆に。

 

 峰田なんか『背脂』なんていう、どう考えてもラーメンのスープの上とかにしかなさそうなもんを引いて唖然としてたしな……誰だよお題書いたの。

 私が保温水筒に入れてラーメン持ってきてた残りのスープを水筒ごと貸してやって、それ持ってったら仰天されつつクリア認定貰ってたが。やっぱクリアできるとは思ってなかったんだな。

 

 そんなこんなでレクは終わり、いよいよ最終種目、ガチバトルトーナメントが始まった。

 

 セメントス先生が即席で作った、武舞台っぽいステージで戦うんだが……ルールは簡単。

 何でもありの一対一で戦い、相手を気絶、場外、行動不能のいずれかにすることで勝利。後は、審判のドクターストップとかが入る可能性もあるにはあるが。

 

 もちろん『個性』も使えるが、アイテム等の持ち込みは不可。ただしサポート科や、『個性』使用に支障をきたすなどの理由で事前に申請していた人などは、一部可。

 

 そんな感じのトーナメント。満員の観客が見守る中、いよいよ始まった。

 

 

 まず行われたのは第1試合、緑谷VS心操。

 

 緑谷がちょっと危ない所まで行った……ステージの上で、何話したのかは分かんないけど、心操の言葉に反応しちゃって、そのまま洗脳されて場外になるところだった。

 

 まあ、不安ではあったんだよ……心操の個性、初見殺しだし……コレは、戦闘能力で言えば上をいっているであろう緑谷もまずいんじゃないか、って。不用心に返事をしてしまえば、そのまま無抵抗でやられる可能性もあった。騎馬戦の時のB組みたいに。

 

 しかし、場外に出てしまう直前になって、何か指をバキッと折って(その際に衝撃波出てた)その痛みで正気に返ったようだった。アレって、精神力強いと、レジストというか、洗脳に抵抗したりとかできるのかな……?

 

 そして、その1回で緑谷は『受け答えするとヤバい』ってことに気づいて、そのまま口をつぐんで心操を投げ飛ばして勝利。

 

 負けた心操は悔しかったけど、それでもどこかやり切った顔をしていた。多分だけど、奴は奴で……教室に宣戦布告?しに来た時に言ってた通り、ヒーローになる夢を諦めずに頑張るんだろう。彼がどんなヒーローになるのかって言うのも、少し楽しみではあるな。

 

 ……それはそれとして、緑谷の方はちょっとメンタル面も鍛えた方がいい気がしてきた。

 

 心操が『洗脳』を解かれた直後、もっかい緑谷を『洗脳』しようと色々挑発してたんだけど(今度は結構大声だったので聞こえた)、緑谷、あからさまな悪口とかにも結構動揺してたし……

 

 

「変な髪型しやがってこのオタクヤロー! クラスの女子がキモイって噂してたぞ!」

 

「…………ッ!?」←泣きそうな顔でこっちを振り返る緑谷

 

「言ってない言ってない!」

 

「戦いに集中して!」

 

 って麗日と耳郎が必死で慰めて集中するよう慌てて言ってたり、

 

 

「第一種目の時からブツブツブツブツ独り言ばっか言いやがって! そんなんだから『アイツ絶対リアルでは無口だけどネットの掲示板とかだと饒舌になるタイプだ』って気持ち悪がられんだよ!」

 

「…………っ!?」←嗚咽をこらえて悲し気な目を向けてくる緑谷

 

「だから大丈夫だって言ってないそんなこと!」

 

「けろ、緑谷ちゃんいちいち耳を貸しちゃダメよ」

 

 芦戸が否定して、蛙吹が落ち着くように諭して言ってたり、

 

 

「どうせお前アレだろ!? 好きなアイドルバカにされるとマジ切れしたり、雑誌とかマンガとか、読書用・布教用・保存用で3冊買って用意してたりするんだろ!?」

 

「……っ……ぐぅ……」←膝をつく緑谷

 

「あれ、崩れ落ちた!? 何で!?」

 

「……ひょっとして、当たってた、とか……!?」

 

「え、マジで!?」

 

「……アイドルはともかく、ヒーローものの漫画や雑誌はそうだったな。まだやってんのかクソが」

 

「爆豪!? え、何であんた知って……あ、そうか幼馴染……やばい、裏取れちゃった」

 

「けろ? 麗日ちゃんどうしたの? 顔が青いわ」

 

(い、言えへん……受験で初めて会った時、ちょっと既にそんな感じの印象だったなんて……)

 

 

 そんな感じで、緑谷の精神的な課題が浮き彫りになった一戦だった。

 あと、余計な個人情報も無駄に浮き彫りになった。

 

 さて、次は第2試合だ。

 

 

 ☆☆☆

 

 

Side.緑谷出久

 

 心操君との試合……どうにか勝つことができた。

 迂闊に話しかけて――と言っても、あの『個性』は条件を知らない状態で警戒しろって方が無茶なものだったけど――『洗脳』にかかってしまった時は、頭に靄がかかった状態で、体が言うことを聞いてくれなくて、もうだめかと思ったけど……場外に出る直前、不思議なことが起こった。

 

 僕の目の前に、何なのかはわからないけど、いくつもの不思議な人影が現れて……そのおかげで、一瞬だけ『洗脳』を振り切って動くことができた。

 その一瞬に指を弾いて、それで骨折した痛みでどうにか覚醒できたのだ。

 

 危なかった……本当に、もう少しで負けるところだった。

 

 言っては何だけど、心操君が相手なら、僕は身体能力……というか、戦闘能力で言えばまず負ける気はしない。

 

 けど、こんな風に『個性』でいくらでも逆転されてしまう可能性があるところが、この超人社会の怖いところであり……プロヒーローが当たり前のように戦っていくべき世界なんだ。

 それを知ることができて、よかったと思う。慢心というものの怖さを、身をもって知ることができた。

 

 ちなみに、例の不思議な現象について、リカバリーガールのいる医務室で、オールマイトも交えて話したんだけど……どうやらあのビジョンは、僕の予想通り、『ワン・フォー・オール』を受け継ぐ者にだけ時折見える……『個性』に刻み込まれた幻影、ないし面影のようなものらしい。

 やっぱり……それで、その影の中に、オールマイトみたいなイメージもあったんだな。

 

 ……歴代の継承者が見守ってくれているみたいで、ちょっと心強いかも。まあちょっと怖くもあるけど……とりあえず、その先輩方に恥じない戦いをできるように、ここからも頑張ろう。

 

 指も治してもらったし……次の試合、もう始まってるかな? 急いでいこう。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 緑谷が去った後の医務室で、リカバリーガールとオールマイトは、何とも言えない空気の中で話していた。

 

「あんたもいたってね……幻影の中に」

 

「……いいことです。緑谷少年は、順調に歩みを進めている……彼が大成する時は、私が予想しているより、もっとずっと早いのかもしれません」

 

「だから自分はもう、背中を見せる必要はないってかい? そんな甘っちょろい気持ちは、この部屋に置いて行きな。人を導く職に就いたもんが、半端な気持ちで教壇に立つんじゃあないよ」

 

 呆れと怒り、そして……少しの悲しみと慈しみがこもった声で、ぴしゃりと叱るリカバリーガール。オールマイトはそれを黙って聞いていたが、リカバリーガールがさらに口を開く。

 

「ところでちょいと気になってるんだがね? あんたがあの子に譲った『個性』だが……前にあんたが言っていた話じゃ、あんたが『8代目』で、あの子は『9代目』じゃなかったかい?」

 

「ええ……そのはずです。私のお師匠が『7代目』……『初代』を含めて数えて、その数字に間違いはなかったはずです。実際、私が見た幻影は……お師匠らしきものを含めて、7人だった」

 

 そう答えるオールマイトは、リカバリーガールが言おうとしていることに……先程の緑谷の話の中で、ふと彼も引っかかった部分について思い当たっていた。

 ちょっとしたお茶目なジョークで、その幻影について心当たりがないかのように『怖ぁ……何ソレ?』と、緑谷を脅かして言ったのだが……直後に、しれっと緑谷が付け足した情報だったので、リアクションも指摘もできずに流してしまったことがあったのだ。

 

 その予想が正しかったことは、次にリカバリーガールが言った内容で示された。

 

「そうかい、じゃあ何で…………あの坊やには、『10人以上の』幻影が見えたんだろうね?」

 

「……私にも、何とも……」

 

 明らかに自分が経験したことのない事態。説明できようはずもなかった。

 ともすれば、『ワン・フォー・オール』に何か異変が起こっているのかもしれないと、少しオールマイトは不安に思うのだった。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 第2回戦だが、飯田と尾白の戦いは結構な接戦だった。

 

 飯田は圧倒的なスピードで尾白を翻弄したものの、尾白も格闘技経験者として、様々な相手を想定したトレーニングを積んでいた。追いつけはしなくとも、隙を見せない防御と反撃を繰り返し、一進一退の攻防。

 

 言ってみれば、『動』と『静』の戦い……だったのかもしれない。どっちも真面目で堅実なタイプだからこそ、って感じのそれだったけど……決着は突然訪れた。

 

 飯田が脚力、というか『エンジン』の個性が限界に達したのか、ほんの一瞬、飯田の動きがガクッと悪くなって……それを見逃さなかった尾白が、即座に攻撃に転じた。

 

 しかし、実はその『ほんの一瞬』は飯田のフェイントだった。攻撃に出た尾白がその勢いを利用されて場外に蹴りだされてしまい、舞台に踏ん張ろうとしたけど、飯田の追撃に耐えきれずに体の一部が外に出て、決着となった。

 

 互いに一瞬たりとも油断しなかったからこそ起こった決着の仕方。相澤先生も『派手さはないが自分に出せる力を見極め、振り絞った試合は見事だった』って褒めてた。

 

 なお、途中で緑谷が治療を終えて帰ってきた。指一本だから早かったな。

 

 

 

 続く第3試合。

 今度は芦戸と、第2種目で緑谷チームに入っていたサポート科の少女・発目明との試合だったんだけど……これは、ちょっと……

 

「ねえ……コレ、試合なん? ていうか、勝負なん?」

 

「さー……ウチとしては、なんか通販番組見てる見てる気分になってるわ」

 

「それな」

 

「けろ、マイク先生と相澤先生もコメントに困ってるわ」

 

『皆様ご覧いただけていますでしょうか!? 私がご用意したこのベイビー、超多用途防護シートの性能を! 軽くて薄型ながら耐衝撃、防弾、防刃、防電などの性質を持ち、さらには御覧の通り酸や毒物等に対しても高い抵抗力を有します! また防水の上保温性・保湿性も高いため、災害時などに暖を取る寝具としても使用可能な優れものです!』

 

 恐らくだが……彼女はこのトーナメントの場を、自分の研究成果を、観戦している大企業の関係者とかに見せるプレゼンの場として利用するつもりだったんだろう。最初から。

 

 思えば、第1、第2種目でもそんな感じでやってたからな……ブレないというか、ある意味で理想的な職人気質なのかもしれない。

 

 ただ、おそらく彼女にとっても予想外だったろう事実が1つ。

 

『えーすごいすごい! 私のこの酸、コンクリートくらいなら簡単に溶かしちゃうのに、ちょっとだけ表面がツルツルになってるだけだよ!? こんなに薄くて軽いのにすごいねえ……しかも、今はこんなに柔らかいのに、さっき殴った時はすっごく硬く感じて、その向こうにいた発目ちゃんに届いた手ごたえが全然なかったよ!? ふわふわの布なのにホントに衝撃にも強いんだ!? どうして!?』

 

『ふふん、当然ですとも。この防護シートは、中身こそ企業秘密ですが、『クロコダイラタン装甲』という、特殊部隊の戦闘用スーツにも用いられている技術を応用しているのです。普段はこの通り天日干しした布団のような柔らかさですが、衝撃が加わった時だけ瞬時に硬質化、計算上は短機関銃の乱射でさえ内側に衝撃をほとんど通さない防御力を有します! それでいて寝具として用いていただければ、低反発で朝までぐっすりな寝心地を約束します!』

 

 なんか、芦戸がノっちゃってるのだ。

 ノリノリで受け答えして、アピールを手伝ってるのだ。しかも、多分天然で。

 

 そのため、単なるプレゼンじゃなくてテレビショッピングみたいになってる。深夜にチャンネル回すとたまに映ってる、外国人同士が『やあジェニファー、今日はすごいものを紹介しちゃうぜ?』『まあ、何かしらトム、楽しみだわ!』ってな感じのアレになってるのである。

 

『やーんちょっとコレすごい、割とマジで欲しい! でもこんなにすごい商品だと、やっぱりお高いんでしょう?』

 

『ご安心ください! 企業努力により極限までコストカットし、競合他社に徹底対抗した結果、本商品のお値段はざっと見積りでこちらとなっております!』

 

『うっそぉ!? 特殊部隊用の装備ってめちゃめちゃ高いって聞くのに、え、これだったらちょっとがんばれば普通の家庭のお父さんとかでも買えちゃうんじゃない!? 防災用品にいいかも』

 

『もちろんサイズやオプション等によって変動しますので目安ですが、決して嘘などは言っておりません! さらに! 今ならもう1つ、同様の素材でできており、外付けハードディスク等の精密機械の保護・保管に使用できる防御力を持ちながら、低反発枕としても使用可能なケースを……』

 

「……これ、ひょっとして時間いっぱい続くのでしょうか……?」

 

「多分な」

 

 とまあ、八百万の予想通り、発目プレゼンツ雄英体育祭生放送テレビショッピング(実際に売るわけじゃないだろうが)は時間いっぱい続いていくつもの『ベイビー』を紹介。

 芦戸は一応『戦闘』を行いはしたものの、そのことごとくをプレゼンに利用され、そしてその都度、打ち合わせでもしたのかというくらいの見事な合いの手やコメントで対応。

 

 制限時間間際になって、『もう思い残すことはありません……!』と、やり切った顔で発目が自ら場外に出て敗退、芦戸が『楽しかったよ、ありがとー!』と2回戦進出。いいのかコレ……。

 

 

 

 第4試合だが……初手から轟が、スタジアムの全高を超えるほどの大きさの大氷塊を出して瀬呂の動きを封じ、瞬殺。

 

 周囲から『どーんまい』『どーんまい』というコールが響く中、轟は……なぜか、勝ったというのに悲しげな顔で、瀬呂の氷を溶かしていた。

 それに、試合開始前から攻撃の瞬間まで、何かイライラしてたっぽいし……

 

 そしてそれを、同じくなぜか悲しげな顔で緑谷が見ていたのが気になった。

 

 ……何かあったのかな? この2人の間に……第2種目の時とも違う、何かこう、距離みたいなものを、横で見ているだけで感じるんだけども……

 昼休みの間に、何か話した、とかだろうか? 聞くのはちょっとためらわれるかな……

 

 

 

 1回戦も後半となる第5試合は、常闇と八百万の試合。

 これは、八百万が作ったものを使う暇を与えない速攻で常闇が勝利した。

 

 常闇の個性『黒影(ダークシャドウ)』の強さが際立った一戦だったが、それを差し引いても……なんか八百万、動きにキレがなかったような……調子でも悪かったのかな?

 

 気にはなったが、終わったことをいつまでも気にしていても仕方ない。

 それよりも……

 

 

 第6試合 上鳴電気 VS 栄陽院永久

 

 

 出番だ、準備しないと。

 

 

 

 

この世界のデクとくっつけるなら誰?

  • 永久(オリ主ルート)
  • 麗日(原作メインヒロインルート)
  • その他
  • ハーレム(英雄色を好むルート)

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