TSから始まるヒロインアカデミア   作:破戒僧

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第3話 TS少女と登校初日

 

 雄英高校、入学初日。

 私は真新しい制服にそでを通し、時間に余裕をもって電車に乗り……痴漢してきた不届き者の手首の関節を外して、次の駅で駅員に引き渡して、再度電車で高校を目指す。

 

 事情聴かれて時間取られたせいで、電車2本ずらすことになった……余裕持って行動しといてよかった。

 

 私が痴漢されるのはこれが初めてではない。むしろ、電車に乗ると割としょっちゅうだ。

 

 最初のうちは、ただ偶然当たってるだけかもしれないと思って放っといた。

 実際、慌てて引っ込められたり、しばらくすると感触がなくなったりしたこともあったので、そういう人もいたんだと思う。痴漢冤罪で泣く人を生み出さなくてよかった。

 

 けど人によっては、何も言わず抵抗もしないのをいいことにエスカレートしてくる場合も多かった。さりげなくなんてもんじゃなしにわしづかみにしてきたり、服の下に手を入れようとしてきたり、腰のあたりにある硬い感触を押し付けてきたり……最後のは多分、ベルトのバックルとかじゃなく……私も前世で持っていたものだろう。使う機会はなかったが(自虐)。

 それでも、騒ぐとめんどくさいのと、不快感はあれど中身は男、そこまで怖くもなかったんで、急いでる時とかは特に、無視することも多かったんだが……流石に下着の中に手を入れられそうになった時は反撃した。

 

 あと、同乗してた勇敢な人や、たまたまそこにいたパトロール中のヒーローが助けてくれることとかもあった。

 『もう大丈夫よ? 平気?』なんて気遣ってくれたりして、大変ありがたかったんだが……その結果、事情聴取やら何やらでめっちゃ時間取られた。しかも、警察関係とヒーローの仕事関係で2回同じ話をさせられることもあった。

 その際、私がしかめっ面をしていたのを、つらいことを思いださせて申し訳ない、って言ってたんだが……すいません、大して気にしてないです。時間かかるのが嫌だっただけです。

 

 以来私は、そういう事態になると余計に面倒だとわかったので、確実に痴漢行為だとわかった際は自分で検挙することにしている……とまあ、そんな話はもうおいといて。

 

 余裕をもって行動したおかげで、遅れることなく目的地……『雄英高校』に到着。

 

 1年A組の教室は……ここか。

 ドアでけー……4mくらいあるんじゃないか? 異形型個性とか、そういう人達に対して配慮してるのかもな。一種のバリアフリーか。

 デカくはあるが、開けるのに力はいらなかった。きちんと普通の体格の者にも優しい作りになっているようだ……地味に設計者の腕に感心しつつ、中に入る。

 

 中に入ると……ドアの大きさがそこまで必要そうな人はおらず、しかしちらほらと異形型らしい人たちがいた。

 カラスみたいな頭の男子に、角ばった見た目(髪型が角刈りとかじゃなくて顔自体が角ばってる)の男子、腕がいっぱいある大柄な男子に、服だけが浮いているかのように見える透明な女子。あの異様にちっちゃい男子は……いや、あれはただちっちゃいだけか?

 

 残念ながら知り合いは1人もいないようなので、座席表を確認してさっさと席に向かう。

 

「……ッ……おぉ……!」

 

 前側の扉から入ったので、教室を横切る際、何人かの視線が向けられるのを感じたが――そしてそのうちの何人かは胸に目が向いていたようだが――いつものことなので気にしなかった。

 なお、多分変な声を上げてたのは、位置からしてあのちっちゃい男子だ。視線は私の胸に固定、隠す気もなくガン見状態。私は気にしないが……他の女子にはやるなよ、嫌われるぞ。

 

 で、私の席はここか。廊下側、一番後ろの前の席。

 前はまだ空席。後ろには……男子が座っていた。尻尾が生えている異形型個性のようだ……しかし、何の尻尾なのかはわからん。太くて毛深くて……こんな形状の尻尾の動物いただろうか。

 

 椅子を引いて座席に座り、荷物を置いてから……椅子に横に座るようにして、後ろの彼を振り返り、軽い感じで『よっ』とあいさつした。

 

「えっと、そこ、あんたの席でよかった?」

 

「えっ? あ、うん、そうだけど……」

 

「そうか。私、この席だから。あ、名前は栄陽院永久。よろしく」

 

「ああ、うん。俺は尾白猿夫。よろしく」

 

 いきなり話しかけられてびっくりしてた風だが、すぐにそう返してくれた。そうか、『尾白』か……よし、覚えた。

 

「さっそくだけどさ……私、ここ座って大丈夫かな?」

 

「? どういうこと?」

 

「この通り、女にしては身長あるもんでさ……中学の時とか、前に座ると後ろの奴が見えないってんで、最後尾に移ることとか多かったんだよ。黒板見る邪魔になってないかっていう話」

 

「ああ、そういうことか。大丈夫だよ全然。端の方の席だから斜めで見えるし」

 

「そっか、ならよかった。でも、見えづらかったら遠慮なく言ってくれな、これからよろしく」

 

「ああ、よろしく」

 

 そのまま握手。その瞬間に思ったのは……尾白、武術とかやってるのかな、ってことだった。手の平にも甲にも、硬くなってタコみたいな感じになってる個所がいくつかあったから。

 

 タコの位置からして、空手とかの徒手格闘に、柔道みたいな手のひらや指を使うタイプのそれも鍛えてるな。それらほどじゃないけど……ひょっとして剣道とか武器術もやってる? この中指の付け根のは多分……

 それもこの感じは……相当やりこんでるな。手も大きいし、肉弾戦タイプかな?

 

「あ……あの……栄陽院、さん?」

 

「ん? ああ、すまん、ちょっと気になって」

 

 ふと見ると、尾白がちょっと赤くなって戸惑ってた。

 ああ、手、握手したままいつまでも離すの忘れてた。そのまま表面とか触ったりしてたし。

 

「ごめんごめん、ちょっと気になっちゃってさ、つい」

 

「え!? あ、うん、いや、い、いいんだけど……気になった……?」

 

 話した後、小声で『柔らかかった……』って呟いてた尾白だが、私の言葉にふと気になったところがあった様子である。

 せっかくだから、『武術とかやってんの?』って聞こうとしたら、前の方が騒がしくなった。

 

 見ると、机に脚を上げてどかっと座ってる不良っぽい男子と、入試の時にも見たお節介なメガネが言い争ってた。

 メガネの名前が……飯田天哉、か。『い』なら、私の前あたりの席かな?

 

 その直後、あの緑色の癖っ毛の少年が入ってきた。やっぱ受かってたんだな。

 さらにその後、あの時助けられてた女の子も加わって、和気あいあいとしたトークが始まるかと思われた……その時、

 

「お友達ごっこがしたいならよそに行け」

 

 そんな言葉と共に……扉の向こうに、寝袋に入って10秒メシのゼリーを『ヂュッ!』と飲み干す不審者が現れた。

 

 しかもびっくり、不審者は担任の先生だった。

 

 そして言った。

 

「早速だが、体操服(コレ)着てグラウンド出ろ」

 

 

 ☆☆☆

 

 

「「「個性把握テストぉ!?」」」

 

 いきなり着替えさせられてグラウンドに連れ出されて、担任だという相澤消太先生に告げられたのがそんな内容だった。一日目からそんなことさせんの? 今日、入学初日なんですけど……

 

「入学式は!? ガイダンスは!?」

 

 同じことを思ったようで、前の席の麗日ちゃんがまくしたてるように聞くが、返ってくる言葉は無情なものだった。

 

「ヒーローになるなら、そんな悠長な行事に出てる時間ないよ」

 

 いや、だからってバックレるのはまずいだろ。

 もっともらしいこと言ってるように聞こえるけど、必要ないんだったら企画自体してないだろうし……ていうか、入学式出ないの? だとしたら……

 

「雄英は自由な校風が売り文句。そしてそれは、先生側もまた然り」

 

「……あの、すいません相澤先生。私たしか、合否通知のメッセージで、新入生代表のあいさつしろって言われてたと思うんですけど、それいいんですか?」

 

「代表……ああ、お前か、入試次席の栄陽院。それは入学式の進行の先生に頼んで省略してもらうことにしたから問題ない。安心しろ」

 

 私の3時間25分の努力が水泡に帰した瞬間だった。

 何回も書き直して暗記するほど読み込んだのに……ガッデム。

 

「お前らも中学の頃からやってるだろ? 個性使用禁止の体力テスト……爆豪、お前入試主席だったよな。ちょっと来い……ソフトボール投げ、自己ベスト何mだった?」

 

「……67m」

 

「じゃあ『個性』使ってやってみろ。円から出なきゃ何してもいい」

 

 そう言われて、ソフトボールを投げ渡されたのは、さっき教室で飯田とののしり合っていた不良っぽい奴だった。あいつかよ主席……私アイツに負けたのか。

 

 見た目に寄らず頭はいいんだろうか、なんて思っていると、その少年……爆豪は大きくボールを振りかぶり……

 

「死ねェ!!」

 

 ソフトボール投げに似つかわしくない掛け声と共に投げ……ると同時に、手の平で爆発を起こした。そしてそのまま、空のかなたにボールは飛んでいった。

 

 少しして、はるか遠くにボールが落下したのがかろうじて見える。

 同時に、相澤先生の手元のスマホ……じゃないな、小型のタブレット端末みたいなのに、705.2mという記録が浮かび上がった。おい、マジかよ。

 掛け声と本人の素行はともかく……なるほど、爆発か。強力な『個性』だな。

 

 そんな中、誰かが言った『面白そう』という言葉に、相澤先生が反応した。

 

「面白そう、か」

 

 その途端、空気が変わったような感覚が、私……だけでなく、この場にいる全員を襲う。

 

「ヒーローになるための3年間、そんな腹積もりで過ごす気でいるのかい? よし……トータル成績最下位の者は見込みなしと判断し…………『除籍処分』としよう」

 

「「「はあああああああ!?」」」

 

 響き渡る絶叫。しかし、相澤先生は『冗談だ』とか言って撤回する様子はない。

 

 ……えらいことになったぞ、マジかコレ。

 

「生徒の如何は俺達先生の自由……ようこそ、これが雄英高校ヒーロー科だ」

 

「さ、最下位除籍って……入学初日ですよ!? いや、初日じゃなくても理不尽すぎる!」

 

「自然災害、大事故、身勝手な敵……いつどこから来るかわからない災厄。それらの理不尽を覆していくのがヒーローだ。放課後マックで談笑したかったならおあいにく、これから3年間、雄英は全力で君達に試練を与え続ける……『Plus Ultra』さ、全力で乗り越えてこい」

 

 その校訓の使い方、正しいんですかね……?

 そのやり方だと、例え本人に非がなくても、最下位ってだけで除籍されることになるんだが……一応私達、体力にしろ学力にしろ、最低限のラインを満たしてるから入学させてもらえたんじゃないのかよ。いきなりそんなふるい落とすような真似……大丈夫かこの先生?

 

 ……言っても聞かなそうだから、言わんけど。

 

 とりあえず、最下位にはならないように全力を尽くしつつ……『君たちが本気になるように嘘をついたのだよ』的などんでん返しがあることを祈ろう。

 

 

 

 


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