TSから始まるヒロインアカデミア   作:破戒僧

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第32話 TS少女とトーナメント⑤ 休憩時間ほか

 常闇との試合、どうにか勝利できたはいいものの……かつてないくらいにジャージがボロボロになってしまった。これもう着衣としての機能を有してないな……着替えないと。

 

 流石にこのカッコで次の試合に出ることはできない。つか、観客席に戻るにもどうかと思う。

 

 上も下も着ているにも拘らず、被覆面積が5割を切ってるんじゃないかってくらいになった自分の体を見下ろして、そんなことを思う。マイク先生も言ってたが、放送事故にならなくてよかった。

 

 ステージから降りてすぐ、すぐそこにいたミッドナイト先生に相談する。

 

「先生、ちょっと相談なんですけど……午前中の障害物競走と今の試合とで、予備含めてジャージが両方使い物にならなくなっちゃったんですが……今日って、購買とか開いてませんよね……?」

 

「さすがに開いてないけど、その必要はないわ。クラスごとに割り振られてる控室の隅に、鍵のかかったロッカーがあったでしょ? あそこに色々なサイズのジャージの予備が入ってるから、適当に見繕って持ってきちゃいなさい。鍵は事務室にいるエクトプラズム先生から借りれるわ」

 

 とのこと。マジか、そんなのも用意されてたんだ……周到だな。しかし助かる。

 

「それは……すいません、助かります。ありがとうございます。代金の支払いとかは?」

 

「ないわ、無料。プレゼント」

 

 マジか。気前いいな……

 

「実を言うと、体育祭ではこういうこと割とあるの。『個性』によっては服が燃えたり破れたりする生徒もいるからね、毎年。こちらも電波に乗せて色々やってることだし、このくらいは必要経費扱いってわけ。……去年は、燃えても破れてもいないのに全裸になった生徒もいたけどね……」

 

 いらん情報を思いだしてしまったミッドナイト先生が、頭痛をこらえるようにこめかみを抑えているのに苦笑しつつ、私はもう一度お礼を言ってその場を後にした。

 

 

 

 そうして、サイズの合うジャージを頂戴して無事に着替えた後、観客席に戻って来た私は……

 

「いいですか栄陽院さん。前々から言おうとは思っていたのですが、あなたは自分が女性であり、他者から見てとても魅力的な容姿をしているという自覚に著しくかけている部分があります。自分のお体が、肌が、決してみだりに他人に見られて平気なものではないのだということを認識なさってください。私や葉隠さんのように『個性』の都合上ということもなく、無警戒というだけで……」

 

 八百万から割とガチトーンのお説教を食らっていた。

 

 『怒る』という感じではなく、あくまで『諭す』という感じで語りかけられるうえ、正論のみで構成され、理詰めで延々と続くお説教は、ただ怒鳴られるだけのそれよりも、個人的にはずっとつらい。聞いていてすごくつらくなってくる……しかも長い……。

 

 ちらりとクラスメイト達に助けを求めるも、誰一人乗ってきてはくれなかった。ガッデム。

 

「永久、いい機会だからあんたちょっと考え方ってもんを見直しな。このままいくとどこかで取り返しのつかないことやらかしそうで心配だよウチら」

 

「けろ、そうね。まさか服があんなことになっても戦い続けるなんて思わなかったわ……何があっても動じないのはヒーローとして精神的に優秀なのかもしれないけど、それでも動じなすぎよ」

 

「というか、なんで永久ちゃんってこんなにも女の子らしい感性ってものを捨てとるん? 言い方ちょっとアレやけど……どないな育ち方したらこうなるんやろ……?」

 

 そりゃまあ、最近は思いだすことも最早少なくなってきたけど、元・男だからねえ……人格形成の段階で、その辺の価値観がそもそも混入して混ざってできちゃったんだろうさ。

 

「っていうか、私は早くも次の試合が心配かも……相手、爆豪か切島だよ?」

 

「わー、そうだった! 切島君ならまだしも、爆豪君だったら……ヤバいよー、爆発だよー……色々はじけ飛ぶ予感しかしないよー! 今どきの漫画のお色気シーンみたいに!」

 

「それだったらむしろ大丈夫そうだけどね、アレらは肝心なところは破けないように謎の力に守られてるし」

 

「いや、最近のは結構過激だから、むしろ靴下だけ残して全部吹き飛んじゃったりとかあるよ?」

 

「芦戸、葉隠、そのへんにしな。男共の耳に毒だから」

 

 結局八百万のお説教が終わらないうちに、爆豪と切島の試合は始まってしまった。まあ、途中から観戦することはできたからいいけど。

 

 どうやら、『硬化』によって爆豪の『爆破』から身を守ることができている切島が押しているようだ。なるほど、このへんも『個性』の相性ってわけか。

 

 芦戸に聞いた話だと、騎馬戦では『爆豪の無茶苦茶な戦い方にもついていける、絶対に崩れない騎馬』ってことで、よき相棒だったようだが……一転して天敵だ。こりゃ、どっちが勝つかわかんないか?

 

 そんなことを考えながら、私は客席に座った。ちょうど、緑谷の隣が空いてたから、そこに。

 

「あ、栄陽院さん……その、大丈夫だった?」

 

 私に気づいた緑谷は……気のせいか、若干沈んだというか、重いトーンで声をかけて来た。どうしたんだろ、何か伏し目がちだし……疲れたのかな?

 

「ああ、大丈夫大丈夫。平気平気。ダメージはほとんど皆無に近かったから。動いてちょっと疲れただけ。緑谷こそ大丈夫か? この後試合で、しかも相手轟だろ? なんか、調子悪そうに見えるけど……」

 

「いや、僕は大丈夫。うん……いいんだ、君が大丈夫なら」

 

 答えると、少し緑谷は元気になったようだけど、やっぱまだちょっと調子悪そうな……

 

「あ、あの……でもさ……」

 

「うん?」

 

 でも?と聞き返そうとした時だった。

 

 ―――ぽん

 

「…………?」

 

「その、さ……やっぱ栄陽院さん、もうちょっとその……気を付けて、じゃないけど、ちゃんとした方がいいっていうか……や、もちろんあの戦いで手を抜いてたとかは思わないけど、もっと自分がどう見えてるか考えてさ……」

 

 何だか緑谷は、ぐっと何か、感情を押し殺すようにしながら、って感じで、歯切れ悪くそう言ってくる。

 言いたいことはあるけど、上手く言えないというか……ストレートな言い方でなく、他の言い方を模索しながらというか……そんな感じだ。

 

 ……いや、私も上手く言えてないのはわかってるけども。

 

 具合が悪そう、って感じじゃないが、やっぱどこか調子がという……少なくとも、機嫌はよくなさそうな……のかな? 何だろ、表現しづらい。こんな緑谷初めて……

 

(……いや、初めて……でもない、か? こんな感じの、前にも確か……)

 

「こ、こないだも言ったけど、もうちょっとこう自分のこと、僕以外の人の目とか……その、気を付けてほしいです……うん」

 

 そんな、八百万みたいに私を心配する感じのことを言ってくれる。やだ、嬉しい。

 

「あー、うん、わかった……気を付けるよ。なるべく」

 

「なるべく……うん、まあ……今はそれで…………えっ?」

 

 と、そこで緑谷は、はっとしたように、手すりのところに置かれている自分の手を見る。

 同じ場所に置かれている、私の手も一緒に見る。

 

 すなわち、今緑谷の手は、私の手に重ねるように乗っけて置かれているわけだが……どうやら、今初めてそうしていたことに気づいたようで、一瞬で顔が真っ赤になった。

 え、さっき私に話しかけながら、すっごい自然な動きで『ぽん』って乗せて来たのに……無意識だったんアレ?

 

「あ、あああああああのあのあのあの違違違ちがちがちがががこれはえっとそういうんじゃなくて……」

 

「落ち着け、落ち着け緑谷、深呼吸、ゆっくり息しろ」

 

 気付くとそこからはもうなんかいつもの緑谷だ。あの朝と同じように、顔が真っ赤になって、頭の上に湯気が見える。

 

 あー、何かこの、いつも通りのかわいい反応見て安心してしまう自分がいる。

 ……けど不思議と、ちょっと残念な気もする。何でだろ?

 

 『テンパる』を絵にかいたような有様になっている緑谷をどうにか落ち着かせようとするが、緑谷の容体は悪化するばかり。まるで、今まで押し殺していた(ように見えた)感情が一気に決壊してあふれ出たかのようだ。何がせき止められてたのかはわからんけど。

 

 真っ赤な顔で、自分の手(on私の手)を交互に見る緑谷だが、手は放そうとしない。

 いや、なんかむしろ……放したいけど手が言うことを聞かない?みたいな感じに見える。

 

 ……思えば緑谷、今日なんかおかしいよな……今まで見た緑谷と違う場面が多いというか、何というか。

 さっきの違和感についても思い出したわ。機嫌の悪い緑谷。見たのアレだ、障害物競走の時だ。私が緑谷を追い抜いた時、なぜからしくない敵意のこもった視線が……

 

 そんなことを思いだしながら、私は重ねられている手を見る。

 本体はテンパってるのに、手の方はやけに優しく、添えるように置かれている。

 

 ただその手は、少しだけ……だが明らかに、私の手を握るような形になっていた。

 力とかはほぼ感じないけど、不思議と『放さない』っていう意思は感じられる。

 

 例えが難しいけど……そうだな、まるで、雑踏の中、親が子の手をつかんで、はぐれまい、どこにも行かせまいとしているような……いやまあ、私は私で何を言ってるんだっていう……

 

 その時、ふと、あることを思いだした。

 さっき緑谷が言っていた言葉の中……そこにさりげなく紛れ込んでいた、よく考えるとちょっと不自然というか、これもまた『緑谷らしくない』フレーズに。

 

 

『こ、こないだも言ったけど、もうちょっとこう自分のこと、僕以外の人の目とか……その、気を付けてほしいです……うん』

 

 

 ……緑谷以外の人の、目?

 緑谷のは、いい? それ以外は、ダメ?

 

 ……そう言えば、最初に睨まれたあの時、私は誰に注目……というより、峰田と一緒にいたっけ。

 そして今は、常闇戦でちょっとアレな状態になって、観客の前でまーその……サービスシーン的な戦いをしてしまった。八百万にガチトーンで怒られるくらいに。

 

 それらが緑谷は気に食わなかった……峰田や、常闇や、他の人の目……

 そしてさっきふと思い浮かんだ、『僕以外の目』……『放すまいとするような手』……んんん?

 

 ……アレ? もしかして緑谷、しっ……

 

 

―――ドゴォオォオン!!!

 

 

「「ッ!?」」

 

 その瞬間、ひときわ大きな爆発音が響いて……私達ははっとして前を……試合場の方を見た。

 とっさのことに、驚いて緑谷もぱっと手を放してしまって。

 

 見ると……切島が横腹を抑えて苦しそうにしていて……対する爆豪は、最早見慣れた凶悪なヴィランスマイルを浮かべている。

 

 あー、これは……形勢逆転した感じか?

 

「テメェ、さっきから全身気張り続けてんだろ? ずっとそうし続けてりゃ、いずれどっかほころぶわ……『硬化』させた部分と動きが違げえから、見りゃすぐわかんだよ!」

 

 その咆哮を反撃の狼煙に、爆豪はさっきまでの劣勢のうっ憤を晴らすかのように、両手の爆発フルスロットルで切島に襲い掛かり……怒涛の絨毯爆撃で切島は一気に吹き飛ばされて、そのまま押し切られて決着した。

 

 勝者、爆豪。つまりは……私の次の相手ってことだ。またやばいのが来たな……

 

 なお、さっきの爆音の驚きのせいで、なんか緑谷との会話は中途半端な感じで終わってしまったというか、その瞬間の思考ごと吹っ飛んだというか……

 あの時に何か、重大というかすごいいいことに気づきかけた気がしたんだが……うーん……

 

 緑谷は……ああ、逆隣の麗日と飯田と、『すごかったね!』って今の試合の感想談義に入っちゃったな。

 ……まあ、いいや。そのうち思い出すだろ。

 

 

『OKリスナー! ここで少し長めに休憩をとるぜ! 例によってステージの修繕も必要だからな、次の試合は20分後、いよいよ準決勝だ! 見逃せねえ場面が来ること間違いなしだ、今のうちにトイレ行っとけよ! そしてここで今一度、ベスト4に残った連中を紹介させてもらうぜ!

 

 

 第1、第2種目共にトップで通過! スパーク迸る今大会の台風の目! 緑谷出久!

 

 トップヒーローの血を引くA組の推薦入試枠! 放つ冷気で全てを凍らせる! 轟焦凍!

 

 ダイナミックな戦いと、何が起きても動じない不動の心で魅せる紅一点! 栄陽院永久!

 

 圧倒的な戦闘センスと文字通り爆発的な火力! 全てを粉砕する破壊神! 爆豪勝己!

 

 果たして表彰台のてっぺんに立つのはこの中のどいつだ? 見逃すんじゃねーぞリスナー諸君! それでは準決勝第一試合まで、センキュー!』

 

 

 ☆☆☆

 

 

 そんな感じで一旦休憩時間に入ったので、今のうちに少しでも体を休めることにした。

 

 ついでにエネルギーの補給も。ちょうどいいのがそこで手に入ったし。

 

「えー……お前何してんの、栄陽院……」

 

 と、いつの間にか医務室から戻ってきていた切島が、何かこっちを見ながら言ってくるんだが。『マジかよ』って表情になって。

 

「……っぷは。何さ、そんな理解できないようなもんでも見るような顔して?」

 

「や、そりゃだってそんな……運動前にそんなことしてる奴見たら誰だってこうなるだろ」

 

 私? 今、500mlのコーラ一気飲みしたところだけど。ただし、よく振って炭酸ぬいた奴を。

 空になったペットボトルを、後でまとめて捨てるため、今までに空けた4本が入ってるゴミ袋に放って入れる。その上で、6本目を開けて口をつける。

 

 視界の端で上鳴と峰田が『おいおいおい』『死ぬわアイツ』ってどっかで聞いたようなセリフを言ってるのが見えたけど、なるほど切島も同じ感じのこと考えてるのかね。

 間に1試合挟むとはいえ、何をそんなお腹がたぷんたぷんになるほど飲んでるのかって。

 

 と、思ったら、またしても何か聞いたことあるセリフが意外な角度から。

 

「ほー……炭酸抜きコーラか。考えたなっつーか、大したもんだ」

 

「砂藤? お前何か知ってんの?」

 

「知ってるっつーか何つーか……炭酸を抜いたコーラってのは、エネルギーの効率が極めていい、って話は聞いたことがある。一昔前のアスリートなんかは、競技直前に愛飲してた者もいるらしい」

 

「もちろん、そういったものよりも、専用に調整されたドリンクなどの方が吸収効率はいいのでしょうが、手軽に手に入ってすぐに飲めるという点では評価できるものでしょう。もっとも、それを余すことなくエネルギーに変換でき、大量摂取を苦としない消化能力があってこそですが」

 

 八百万まで加わって解説をどうも。ふー……6本目、これで3リットル。

 カロリーにして1500キロカロリーくらいか? 飲み物系は消化吸収は早いけど、固形物に比べてエネルギーの補給効率は悪いんだよな。

 

「じゃあつまり今、栄陽院は……エネルギーの補給中ってことか?」

 

「次の試合に向けてな。相手が相手だ、どれだけ蓄えても……安心ってことはない」

 

「確かになあ……」

 

 自分がついさっき戦った男の強さ、そして容赦のなさを思いだしてだろうか。ある程度納得したようにそんなことを言っていた。

 

 ……にしても、やっぱ水っぽいもんばっかり食べてると腹の調子が変になるな……ちょっと固形物もいれるか。

 ちょうどいいところに、経営科の生徒が売り子しながら歩いてたので、呼び止める。

 

 雄英には『ヒーロー科』『普通科』『サポート科』『経営科』の4つがある。

 

 『ヒーロー科』は言わずもがな、自分の能力をアピールしてプロへの覚えをめでたくするため、『普通科』は優秀な成績を残してヒーロー科に編入するため、『サポート科』は自分の発明や研究成果を外部の企業などにアピールするためと言った風に、体育祭に臨むメインの理由がある。

 

 ただし、『経営科』は基本的に体育祭に参加するメリットはない。

 

 彼らは例えば、ヒーローが事務所を立ち上げた時なんかに、事務所経営を請け負ったり、裏方としての商売の手管を学ぶ立場だ。商業系の専門学校や、大学の経済学部みたいなもんだろうか?

 

 ゆえに今は、体育祭で活躍した選手を材料に、『○○の事務所経営を請け負ったとして売り出しの方法は……』みたいな感じでシミュレーションしたり、売り子として軽食やらドリンクを販売したりして、商人としての勘を磨く場としている。

 

 そのへんあちこちを歩いてるので、声をかければ捕まる。おーい、何かつまめるもんない?

 

「はいよー! おー、A組の栄陽院さんか、お疲れさん。何にする?」

 

「炭水化物が食べたい。焼きそばパン……2つかな。ええと、財布財布……」

 

 

 ボストンバッグの中をまさぐって財布を探す、これかな、よいしょっと。

 

 ――ずぼっ ← さっき着替えた時に突っ込んだブラジャー(破損)

 

 あ、違った。えーと……

 

「緑谷、コレ持ってて」

 

「え? うん……うん!?」

 

 反射的に返事をしたものの、自分がいま手渡されたものが何なのかをよく見て理解した途端、手の中にあったブラジャーを二度見した緑谷。

 しかしそんな彼に構わず、私はもういちどバッグの中を探し……あったあった。

 

 はいお金。はい商品ね、ありがと。

 

 こんな状況でも営業スマイルを崩さない経営科の彼にプロ根性を感じつつ、お金を払ってお目あての焼きそばパンを2つ手に入れた私は、財布と、今緑谷にもっててもらったブラジャーを中に戻そうとして……

 

 ……あの、緑谷? そんなに力いっぱい握りしめられると、取れないんですが。

 や、まあ……どっちみちもう壊れてるから捨てるしかないんだけどさ。

 

「え、壊れてもうたん?」

 

「第1種目から動きまくって無理させてきてたからなあ……常闇戦でダメんなった。予備持ってきてたからよかったけど、修理コレ難しいかもなあ……っていうか、緑谷ー? 聞こえてる? おーい?」

 

 握りしめて放そうとしない緑谷の顔の前で手をぷらぷら降ると、放心状態からはっとしたように意識を取り戻した。

 そしてすぐに、手を開いてブラジャーを放したけど……

 

「……欲しいの?」

 

「え゛!? いい、いやいやいや違う違います別にそうじゃなくて! びっくりして固まってただけだから……」

 

 大慌てで首と手をぶんぶん振って否定してくる緑谷。まあ、だろうとは思ってたけど。

 それに、どっちみち壊れてるんだからあげたところで使えないだろうしね。……いや、それ以前に男子がブラジャーなんか貰っても使い道無くて困るだけか。まあ、当たり前だな考えてみれば。

 

 ……だというのに、視界の端で、食い入るように見つめてくる峰田と上鳴は何なの?

 峰田に至っては手が、委員長決めの時の飯田ばりにめっちゃ挙手してそびえたってるし。

 

 女子たちの白眼視にも負けず、この場のアレな空気にも負けず、彼らの視線は私が持っているブラジャーに注がれている。……いや、あげないよ? たとえもう捨てるだけだとしても。

 

「3,000円!」

 

「5,000円!」

 

 何で値段付けた。買おうとするな、売りもんじゃないから。

 

 周囲の女子たちの視線がさらにアレなことになっているが、気付いていないのか、気付いていて気にしていないのか……。

 

「6,000円!」

 

「7,000円!」

 

「8,500円!」

 

 だからそんな値段上げても……おいちょっと待った、何か声が増えてる気がするんだけど?

 

 よく見ると、A組じゃない男子も何かせり(?)に参加してるみたいだし……B組と……見覚えないのも何人かいるな……ひょっとして普通科も交じってる感じ?

 

 なんか知らんが私の下着が大人気だ。そんなに欲しいのか、壊れてるのに。

 

 値段は1万円の大台を超えてなお上がっている。何コレ、不思議な気分だ……

 本人の意向そっちのけでオークションが始まってるんだが……これだけ評価されて欲しがられてるのを喜ぶべきなのか、私は?

 っていうか、別に売る気なかったんだけど、コレ出品しなきゃいけない流れ?

 

「いや、喜んでどうする、むしろ怒れこんなん」

 

「せんでええよ、出品。普通に捨てよ? 普通に」

 

 ツッコミ気味に耳郎と麗日がそう言った。だよねー……

 

 そんな、なんかどうしようもない空気の中、

 

「え、えっと……それじゃあ僕、次試合だから……そろそろ行くね」

 

 緑谷はそう言って、おずおずとその場を後にして行った。

 

 

 

 ちなみに私の下着オークションに参加してた連中のうち、B組からの参加者は拳藤が全員連れて帰った。物間でおなじみの当身で気絶させて。

 

 普通科の連中は心操が『洗脳』して連れて帰った。『騒がせてすまん』って一言頭まで下げて。いやいやこちらこそ手間取らせてごめん。

 

 なお、上鳴と峰田はイヤホンジャックの一撃で散った。今日何度目だ……南無。

 

 

 

 




ジャージの部分は独自設定です。このくらいあってもおかしくないかな、と思いました。原作第2試合の轟の時とか、普通に燃えてましたしね、ジャージの左側。

この世界のデクとくっつけるなら誰?

  • 永久(オリ主ルート)
  • 麗日(原作メインヒロインルート)
  • その他
  • ハーレム(英雄色を好むルート)

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