TSから始まるヒロインアカデミア   作:破戒僧

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第33話 TS少女とトーナメント⑥ 緑谷VS轟

 

「君の、力じゃないか!」

 

 スタジアムに響く緑谷の声。

 相対している轟に向けて、心の底からの叫びをぶつけるその姿は……彼ら2人の間に一体何があったのかを知らない私でも、心を震わされるものがあった。

 

 それを真正面から受け止めている轟の心中は、いかほどなものか。

 

 驚愕やら困惑やら何やら、色んな感情を浮かべて、私を含む観客席のクラスメイト達が……いや、全ての観客が見守る中で……ステージの上に変化が起こる。

 今までは寒々しい白が埋め尽くしていた空間に……赤とオレンジの混ざった、暖かい色が迸った。

 

 

 

 ちょっと時を巻き戻す。

 

 

 

『第一、第二種目からともに注目度抜群の2人! ここまで来たら多くを語る必要はねえよな!? 緑谷出久VS轟焦凍、スタートォ!!』

 

 マイク先生の合図と共に始まった緑谷と轟の試合は、やはり開始早々に轟が氷結を放って緑谷の動きを封じようとした。

 しかし、それを読んでいた緑谷は、『デラウェアスマッシュ』で衝撃波を放ってそれを粉砕。

 

 直後、また別な方向から迫ってくる轟の氷を、また緑谷が砕く……しばらくこれが繰り返された。

 

 轟の冷気のコントロールはかなり繊細で正確だ。いろんなルートで、時には蛇行させるようにして凍らせてくるし、短いスパンで連続して放ってきたりすらする。

 

 緑谷が、拳を振って使う『テキサススマッシュ』じゃなく、指ではじく『デラウェアスマッシュ』をメインで使ってるのは、そのあたりが理由だろう。威力は弱いが連射も小回りも利くし、両手連射ならよっぽど大規模な氷結でない限り打ち消せる。

 

 それでも対応できない規模の奴が来た時だけ、『テキサススマッシュ』。氷を砕いて余りある威力で、その向こうの轟にまで爆風を響かせている。

 が、轟は背後に大きめの氷壁を作って、リングアウトにならないようにしている。

 

「轟はやっぱ、緑谷を近づけさせないで戦うつもりみたいだな」

 

「それはまあ……緑谷くんのパワーは、下手をすれば一撃当てれば勝負を決めてしまえるレベルだからな。警戒は当然だろう……だが同時に、緑谷君も恐らくは轟君に接近するつもりはない。だからこそああして中距離で戦っているんだろう」

 

「? どうして? デクくんやったら一気に近づいて戦った方が有利やのに」

 

「近づくということは、それだけ近くで轟さんの冷気にさらされるということです。氷結の規模によっては、攻撃する暇もなく一瞬で行動不能にさせられる可能性もありますわ」

 

 膠着状態の戦況を、各々分析しながら見ている中、ふと切島がこんなことを言った。

 

「けど爆豪といい轟といい、強烈な範囲攻撃ポンポン使ってくるよな……俺らみたいな、そういうの持ってねえ奴はそれだけで不利だ」

 

「緑谷はそれ、力ずくでかき消してるけどな」

 

「ポンポンじゃねえよ、バカ。『個性』ってのはあくまで身体機能の1つだ……筋肉酷使すりゃ筋繊維が切れるし、走り続けりゃ息が切れる。同じように、『個性』にも何らかの『限度』はある」

 

 と、爆豪。頭は意外とクレバーなんだよな、こいつ。

 

「その理屈で行くと、轟にも何らの『限界』があるってことか? もしかして緑谷は……」

 

「それを見極めるのもかねて、『中距離』で戦っているのかもしれませんわね」

 

 ……だんだんと、クラスの皆が真実に近づきつつあるな。

 今迄の試合、そのほとんどをことごとく瞬殺と言っていいほどの短期決戦で決めてきた……それゆえに誰も気づかなかった、轟の弱点に。

 

「飯田、ちょっと聞きたい、っていうか確認したいんだけどさ……」

 

「ん? 何だい、栄陽院君?」

 

「第2種目の騎馬戦、轟と組んでただろ? その時さ……轟の体に触ってて、どうだった?」

 

 視界の端で、今の会話の一部分に反応したらしい峰田がぐるん、と首を回してこっちを振り向いてて来たが、気にしないようにして……つか、今の一瞬で何を想像した?

 

「冷たくなかったか? 轟の手とか足、特に左側」

 

 そして問いかけには、飯田のみならず、同じくチームだった上鳴と八百万も答えてくる。

 

「え? そりゃあ……氷使ってるんだし……結構冷たかったぜ? ていうか、寒かった」

 

「ええ、そうですわね……事前の作戦会議の時も、もし予想以上に冷えるなら、防寒対策の手袋か何か使ってくれ、と言われました」

 

「え、マジで? 俺言われてねえんだけど……」

 

「轟君の冷気は主に体の右側から出るからじゃないか? 上鳴君が支えていたのは左側だから、そこまで強くは届かないと思ったんだろう。実際、今の試合を見ていてもわかるが……彼の冷気のコントロールはとても精密だしな」

 

「あーそうか。それで……あれ、でも……」

 

 その時、ふと上鳴が何かに気づいたような、あるいは何か思いだしたような仕草をした。

 

「どうしたの、上鳴ちゃん?」

 

「え、ああ梅雨ちゃん。大したことねえんだどさ……ラストの方、一瞬だけ熱くなった場面があったなーって。ホラ、最後の最後、緑谷の反撃を防御するために、轟の奴左側の炎使っただろ? その時はさっきまでと違って手が熱くなってさ……ちょっとびっくりしたの覚えてる」

 

「その時あんたウェイってたらしいのによく覚えてるね」

 

「ウェイってたってゆーな! てか耳郎なんで笑うの!?」

 

 ぷくくく……と、思い出し笑いなのに微妙にツボったらしい耳郎に上鳴が反論する中、私は『やっぱりな』と、自分の中の仮説をほぼ確定したものにしていた。

 同時に今の話を聞いて、八百万と飯田もはっとしたようだ。

 

「ま、まあ、熱使ってんだから熱くなるのは当たり前なんだけど……八百万も熱かっただろ?」

 

「……いいえ、冷気に阻まれたのか、私の所にまでそのような熱は届きませんでした。しかし言われてみれば……あの瞬間より後、手元から感じる冷たさが少し和らいでいたような気が……」

 

「僕も思いだした。というか、そういうものだと思って今まで違和感に思っていなかったのだが……僕は前側の騎馬として、両手で轟君に触れていたんだが……今になって思えば、彼は、左右で体温がそこまで大きく違わなかった。無論、冷気を使っている右側が『寒い』『冷たい』とは思ったんだが、『冷たい』はむしろ、程度は違えど両足に共通して感じていた。そして……最後に熱を使った瞬間、どちらの体温も少しだけ温まっていた」

 

 それらの話を聞いて、クラスの中にも何人か、『それ』に気づく者が出始める。

 

「どーいうこと? 轟の氷って右からしか出ないから、右側が冷えるならむしろわかるけど……上鳴が触ってた左側も同じように冷えてたってことだよね?」

 

「しかも、左から熱を放つと、八百万が触ってた右側も温まった……そして、飯田曰く、轟の『体温』は、冷たいって点では共通していたが、左右でそこまで違わない……」

 

「それってつまり……轟の奴、冷気を使うと体が冷えて、体温下がるのか? しかも、右側だけじゃなくて、全身」

 

「直接触れてた飯田がそう感じたってことはそうなんだろう。それにその予想、どうやら正しいみたいだ……。見てみ、轟の奴……右側だけじゃなくて、左側にも体にだんだん霜が降りてきてる。それに、動きもだんだん悪くなってきてる」

 

 そう言った私が見ている先に、皆注目し直す。

 試合開始直後と比べて、轟は動きがどこかぎこちない。もともとあんまり動かないスタイルではあったが、よく見ると体が震えているし、氷結攻撃自体のキレも悪くなってきている。凍らせるスピードが遅いし、威力も弱いようだ。緑谷の『デラウェアスマッシュ』で、より大きく砕けている。

 

「人は体温が下がった状態では、筋肉の柔軟性も、関節の可動域も大きく落ちる。最高のパフォーマンスには程遠い動きしかできなくなる……一流のアスリートやらスポーツマンほど、入念にウォーミングアップをするのはそのためだ。爆豪とは逆で、勝負に時間がかかればかかるほど、轟は自分の冷気で追い詰められる……言わば、尻すぼみ型ってことか」

 

 今までの試合は、どれも瞬殺だった。だから誤魔化せた。

 さらに言えば、第1種目は走ることである程度体が温まるから、第2種目は轟は『騎手』で、自分で動く場面が少なかったから気づけなかった。

 

 それがここに来て……瞬殺できない力量を持つ緑谷と当たって長期戦になってしまったことで、それが初めて露呈している。轟の、弱点が。

 ……そして同時に、それが本来は『弱点』たりえないはずだということも。

 

「でもさ、上鳴が言ってたことがホントなら、轟って左側の炎を使えば、逆に体温上がるんだろ? 左右どっちもバランスよく使ってれば、それ弱点じゃねえじゃん……何で使わないんだ?」

 

「……『戦闘において、左は絶対に使わない』……騎馬戦の直前、彼はそう言っていた」

 

 飯田の言葉に、クラスメイト達のほぼ全員が『どうして』という、疑問を持った顔になった。

 何か理由があるんだろう、とは思っている。でも、それが何なのかはわからない。そんな顔。

 

 そして、恐らくその理由を知っていると思われるのは……今まさに、何か覚悟を決めたような顔で、ステージ上で轟と相対している……

 

(緑谷だけか……やっぱりアイツ、何か狙ってる……というか、轟に『何かしようとしてる』な?)

 

 恐らく、彼お得意の『お節介』の類だろうとは思う。

 けど、かなり厳しいな……何せ…………緑谷だって、もうあんまり余裕はないはずだ。

 

 

 ☆☆☆

 

 

「……指、動きが悪くなってきてるな」

 

「……!」

 

 ステージの上で、もう何十回目になるか、氷結攻撃を砕かれた轟が、呟くように緑谷に言った。わずかに強張った緑谷の表情を見て、轟は続ける。

 

「入学してすぐの頃に比べて、お前の動きは確かに恐ろしくよくなった。ペースを考えれば異常なほどに早くな……でも、どうやら攻撃に力を使うのに。まだ完全には慣れてないな? お前が当初から散々悩まされてた『反動』……それをまだ、克服できてねえ」

 

「……!」

 

「腕や足、拳はまだいい。体の中でもある程度太く大きい部位だから、力を制御できてれば十分に耐えられるらしいしな。だが、それよりも細くて脆い『指』は……その空気弾を多用すると、殺しきれない反動が蓄積してダメージが無視できないものになる。さっきから左右の手で、色んな指で代わる代わる放ってるのはそのためだろ? どれか一本だけ酷使すると寿命縮まるんだろうな」

 

 見抜かれている。緑谷はそう感じた。

 

 永久との特訓の中で、確かに自分は反動なしで戦う術を身に着けた。

 しかし、『動く』ことを優先的に鍛えていたために、たった2週間ではどうしても時間が足りず、轟の言うように、指で力を使うところまで完全に、繊細に制御することはできなかったのだ。

 

 永久曰く、『あと10日、いや1週間あればどうにかなるのに』とのことだったが、ないものねだりをしていても仕方ない。

 

 むしろ、この2週間……いや、永久と修業を始めた期間の進歩はそもそもが破格だ。

 それがなければ、自分はまだ1発1発の攻撃で自分の体を壊してしまうような、実戦には程遠いコントロールのままだっただろう。緑谷はそう直感していた。

 

(今ある手札で何とかするしかないのはわかってたことだ、見抜かれたって関係ない。それに……)

 

「それは君も同じだろ、轟君……震えてるよ」

 

「……!」

 

 『個性』の反動は自分に限った弱点ではない。ここまでの戦いで、緑谷もそれに気づいていた。

 轟の……冷気を使えば体が冷えるという弱点に。

 

 それに加えて、轟が、それを解消できる『左側』を使わない理由も……緑谷は、昼休みの間に、他ならぬ轟本人から聞かされたことでそれを知っていた。

 

 ……本当は爆豪もそれを陰で聞いていて知っているのだが、口にはしない。観客席から腹立たしそうな眼付きで睨んでくるだけだ。

 

 父親であるNo.2ヒーロー『エンデヴァー』との確執。

 

 強い『個性』を持って生まれたがために、他の兄姉と離されて育った孤独。幼い頃からの虐待に近い過酷な訓練。それをかばって徐々に病んでいき、自分に煮え湯をかけるまでに憔悴して病院に隔離された母。それら全ての根源である、父への憎悪。

 

 だから、炎を使わず、氷だけで、母の力だけで戦い抜くと決めて……

 

 ――ドゴォッ!!

 

「がっ……!?」

 

『おーっと強烈なの入ったァ――! 緑谷、ここに来て攻勢! 轟の氷結を振り切って、右の拳が炸裂! 得意のインファイトでここから一気に攻め始めるかァ!?』

 

 氷結が弱まったことで、緑谷を一気に捕らえるだけの力を出せなくなった轟は、警戒していた接近戦に持ち込まれて一気に不利になる。けん制のために氷を放つも、それも迎撃ではなく回避で対応されてしまう規模に留まる。

 

「僕は君じゃない! だから、君の過去を聞かされたって、君の気持ちはわからない! でも、だからって全力を出さずに一番になろうだなんて、いくらなんでもふざけるなって、今は思ってる!」

 

 消耗は互いに同じ、しかし、流れは確実に変わってしまっていた。

 

 緑谷を捕らえられるほどの冷気を出せない轟に、1発、また1発と拳が突き刺さる。

 

「皆、本気でやってる! 目標に、理想に少しでも近づくために! 期待に応えるため……誰にも負けないため……誰かを支えるため……人それぞれ目指すものは違っても、そこだけは絶対に変わらない! 僕だってそうだ! 半分の力で勝つ? 全否定する? 君の理想は、そんなものの先にあるのか!? そんなやり方で本当に手に入るものなのか!? 一体君は何になりたいんだよ!」

 

 そしてそれ以上に、言葉が突き刺さる。

 

「それでも、俺は左を……俺は、親父を……!」

 

 

 

「君の、力じゃないか!」

 

 

 

 そして、場面は冒頭に戻る。

 

 

 

「使った……!」

 

 観客席で、飯田はそれを驚きと共に呟いていた。

 目の前で、轟の左半身から炎が吹き上がっている光景を見て。

 

「俺だって……ヒーローに……!!」

 

 轟の周囲にある氷が、その熱気で溶けていく。

 しかし、右半身が生み出す冷気そのものはむしろ上がっていく……というよりもむしろ、本来の勢いを取り戻していくようで、作り出される氷は、炎に負けずに大きく育っていっていた。

 

『焦凍ォォオォオ!!』

 

 驚くクラスメイト達の耳に、突如そんな声が聞こえた。

 いや、スタジアム全体にとどろくような声量で、その声は響き渡っていた。

 

『いいぞ、やっと己を受け入れたか! それでいい、俺の血をもって俺を超えていけ! 俺の野望をお前が果たせ!』

 

 見ると、離れた場所で観戦していた轟の父親……エンデヴァーが絶叫していた。

 

 実況のプレゼント・マイクは『親バカ』とぼそっと言っていたが、そんなことを気にすることもなく、上機嫌で、狂喜とすら言えそうな笑みを浮かべている。

 

 しかし、轟はそれを一瞥すらせず、目の前の緑谷だけを見ていた。

 

 その直後から、轟の左右に冷気と熱気が吹き荒れる。

 目には見えなくても、その周りに湧きあがる氷と、燃え盛る炎がそれを示している。今までと比較してなお別格のエネルギーが周囲を席巻する。

 

「敵に塩を送ったんだ……情けねえ負け方すんじゃねえぞ、お前も本気出せ!」

 

「もちろんだよ…………行くぞ!」

 

「来い!」

 

 その瞬間、轟はステージ全体に……瀬呂戦でみせたものを、低く、その分より広く凍らせるような大氷結を放ち、それをもって津波のように緑谷を飲み込もうとした。

 

 しかし緑谷は、初戦で永久が見せたような踏み込みによる衝撃で、自分に届かんとする氷を砕いてそれを防ぐ。

 

 が、そこで轟の攻撃は終わらない。

 緑谷のいるところを避けてできた氷を、そのまま成長させて、ステージのほぼ全体を凍らせ……その状態で、左側を過熱していく。

 

 ボボボボボボ……と、短く爆ぜるような音を立てて燃え上がっていく左腕。

 それを、そしてこの状況を見て、緑谷は轟の意図を悟った。

 

 もともと緑谷は、生粋のヒーローオタクであり、様々なヒーローについて調べ、研究してきた。最早習性とすら言えるそれは、当然、クラスメイト達にまで及んでいる。自分が知っている限りのクラスメイト達のデータをノートに書き連ね、分析している上……それぞれの『個性』を使って、どんな戦い方ができるか、どんな必殺技が出せるかというところまで考えていた。

 

 そんな緑谷だからこそ、この後に起こることを予想でき……理解した瞬間、彼は、今までつけていたリミッターを外すことを決断した。

 

(轟君の背面の氷壁、これだけ冷やされた冷気、そして、一瞬だけだけど間近で感じたあの熱量……っ……これしかないか。……久々にリカバリーガールに怒られるな……!)

 

 全身を覆うスパークがさらに増し……特に、右腕に力が集中していく。拳を握り、大きくそれを後ろに振りかぶる。

 

 その光景を見て、轟もまた緑谷の意図を悟った。今まで何度も目にしてきた彼の力の中でも、特に鮮烈で印象深い記憶となっている……拳の一撃。アレが今、自分に向けられようとしている。

 

 それでも怯むことなく、轟は左腕を突き出して、全力で炎を、熱を放つ。

 

 同時に緑谷は、こちらも全力で拳を前に突き出す。

 いつものように、振りぬくと同時に、喉の奥、腹の底から声を張る……その瞬間、

 

 迫りくる熱波、ぶつかり合う衝撃の向こうに……緑谷は、確かにその声を聞いた。

 

 

 

 

 

「―――緑谷……ありがとな」

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、すさまじいまでの爆風が吹き荒れ……観客戦全体が暴風に襲われて、ものが、人が飛ぶまでの事態が起こった。

 

『何コレぇぇえぇええ!?』

 

 A組の観客席……のみならず、スタジアム中でそんな声が響き、小柄な者(峰田など)が吹き飛ばされて席から転げ落ちていた光景もちらほらあった。

 微動だにせず立っていられたのは、エンデヴァーなど、一部の体格のいい者だけだった。

 

 とっさにセメントスが、ステージの周囲……特に、爆心地となったステージ中心付近を壁で覆っていなければ、もっとひどいことが起こっていただろう。

 

『何今の……お前のクラスマジ何なの?』

 

『轟が凍らせるだけでなく、そのたびに緑谷が砕いて、空気中に氷の粒が舞って……延々その繰り返しで散々冷やされた空気が、瞬間的に熱されて膨張したんだろう。それが、緑谷の全力の一撃と真っ向からぶつかって……まあ、御覧の有様だな』

 

『『だな』じゃねーよ! それでこの爆風って、どんだけ高熱だっつーの! それと張り合う緑谷も、どっちもとんでもねーな……何も見えねーや。おいどーなったァ!? 勝負は……』

 

 煙が徐々に晴れる。ステージが、見えるようになる。

 

 皆が最初に注目した、盛大に崩壊したステージの中心には……誰もいない。

 

 ステージの端を見て見ると……両足をくるぶしのあたりまでめり込ませ、場外ギリギリのラインで踏みとどまっている、緑谷の姿があった。拳を振りぬいた、その姿勢のままで。

 全力で踏ん張った結果がコレなのだろう。ステージの中心あたりから、それを示す軌跡がコンクリの地面に深々と刻まれていた。

 腕は内出血で真っ赤に腫れ上がっている。A組の者達にとっては、何度か見たことのある姿だ。

 

 その反対側で……叩きつけられたのか、壁にもたれかかって、眠るように気を失っている轟の姿があった。右半身に降りた霜と、左半身から上がっていた炎は、どちらも消し飛んでしまっている。

 

 勝敗は決した。それを確認した主審のミッドナイトが声を上げようとしたその瞬間……

 

 

 ―――ぽつり

 

 

「……雨?」

 

 気付いた誰かが言った。

 

 空には雲一つない……とまでは言わないが、どう見ても雨など降りそうにない好天だ。だというのに、次々と降ってくる雨粒。崩壊したステージを濡らすそれを前に、唖然とする観客たち。

 

 彼らの中には、およそ1年前……あの現場に居合わせた者もいた。

 

「あの野郎……っ……!」

 

 その時のことを、思いだす者もいた。

 

 『ヘドロ事件』。

 その時に巻き込まれた中学生と、飛び出した中学生。そのどちらもが、この会場にいる。そのうちの1人が……あの時と同じように、大衆の目が向けられる中で、ささやかな雨に打たれていた。

 

『何だコレ、天気雨? 狐のウエディング?』

 

『天候そのものが変わったわけじゃない。衝撃で粉々になった氷の粒が爆風で上に吹き飛んで……上空で溶けて水になって落ちて来た……ってとこか。その証拠に、固形物が混じってるし……ほらな、すぐ降りやんだ』

 

『もう俺今日は何がもう起こっても驚かねぇ自信ある。まあ、ともあれ……』

 

 

「轟君、場外! 勝者、緑谷君……決勝進出!」

 

 

 その瞬間、巻き起こる大歓声の中、緑谷出久は……憧れのヒーローと同じように、左の拳を握り、天高く突き上げていた。

 

 

 

 

この世界のデクとくっつけるなら誰?

  • 永久(オリ主ルート)
  • 麗日(原作メインヒロインルート)
  • その他
  • ハーレム(英雄色を好むルート)
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