TSから始まるヒロインアカデミア   作:破戒僧

34 / 159
第34話 TS少女とトーナメント⑦ 永久VS爆豪

『大 ☆ 崩 ☆ 壊したステージの修復もようやく終了! 準決勝第2試合、ようやく始まるぜ!』

 

 アナウンスと共に、私と爆豪はステージに上がる。

 言葉は交わさない。互いに無言のままだ。

 

『今度の対戦カードは、どちらも今大会、別な意味で波乱を巻き起こしてきた2人! R18限界ギリギリを行くジャイアントヴァルキリー、栄陽院永久! 対! R18-Gの限界ギリギリを吹っ飛ばすデンジャラスボンバー、爆豪勝己!』

 

 ……今の紹介文は流石に私もちょっと一言モノ申したいんだが……

 

 まださっきの戦いの興奮冷めやらぬ会場は、次なる試合にもさぞかし期待していることだろう。……荷が重いんだけどなー……正直、あそこまですごいのの後とかになると。

 

 もっとも、それで余計に爆豪が火ィついてる可能性は高いけど。

 さっきから視線がもうなんか……人殺す直前の凶悪犯って感じだ。緑谷への苛立ちも乗っけてきてるんじゃないかって思うくらいに。

 

 恐らくそれがそのまま攻撃性に反映される。

 かといってコイツは、それで周りが見えなくなるような奴でもない。戦いに関しては本当に天才の領域にいるのだ。

 

 ……それにしても、この歓声……

 

 ―――爆豪! 爆豪! 爆豪!

 ―――爆豪! 爆豪! 爆豪!

 

 さっきまでヒール役全開だった爆豪にこの声援……まあ、何を期待してるのかはわかりやすいが。

 

『つーか俺今からこの2人の試合心配なんだけど! 毎回必ず何かしらハプニングを起こす栄陽院と、何が起ころうと一切遠慮しねえ爆豪のコンボだぞ!? おまけに会場中に爆豪コールが溢れかえってるし、これ以上ないってくらいに何を期待してんのかわかりやすいなおい!』

 

 そんな雑音にも一切耳を貸さず――こいつの場合声援すら含めて雑音だと思ってても驚かないな私は――ステージ上でぎろりとにらみを利かせる。

 

「剥かれるのがこえーならさっさと降参しろ。俺の目の前に立つ以上、中途半端な覚悟で戦るのは許さねえ」

 

「相変わらずそーいうとこまじめだね、あんた。セリフが完全に悪役だけど……ここまで来た以上、こっちも中途半端で終わるつもりはないよ。安心しな、マイク先生はああいってるけど、私は何が起ころうが戦いの中のことを恨んだりする気はないから」

 

「そうかよ……じゃあそっちも安心しろ。途中でマッパになろうが止まらねえぞ、完膚なきまでに爆破してぶっ殺して勝つ」

 

 ―――うおおおおおおお!!

 

 ―――爆豪! 爆豪! 爆豪! 爆豪!

 

『戦闘前会話が既に不穏だー! おいリスナー共、男として気持ちはわかるが歓声上げんな! ヘイ、ミッドナイト! セメントス! 万が一の時は頼むぜマジで!』

 

「両者、審判による停止宣告には絶対に従うこと。いいわね? では……」

 

『レディー…………スタート!!』

 

 ――ドゴォオン!!

 

 開幕と同時に顔面目掛けて手のひら爆破が叩きつけられてきた!?

 慌ててのけぞって避けるが、その余波でジャージが……くっ、またかよ!

 

 しかもまた容赦なしに、もう片方の手で私の肩をつかんで逃げられなくし、さっきと同じように顔面目掛けて爆破を……

 食らうとさすがにまずそうなので、大きく体をひねって拘束を無理やりほどく。

 

 同時に爆破の打点もずらして、側転の要領で横に抜けて距離を取る。あっぶな……ホントにあっぶな! 開幕から決められるとこだった!

 わかっちゃいたがホントに躊躇も容赦もないな!

 

『いきなり来たー!? 爆豪ガチで容赦なし! 開幕の一撃が顔面狙いってクレイジーすぎだろ! そしてやっぱりこうなるのか!? 栄陽院のジャージが肩出しドレスみたいになっちまったぜ! 俺ってばこの後が怖くてたまらねえ! 頼むからこれ全国生放送だってお前ら忘れな……』

 

「全部吹き飛ばしたらぁぁああ!!」

 

「やれるもんなら……やってみろぉ!!」

 

『聞いてェ―――!!』

 

 

 ☆☆☆

 

 

Side.緑谷出久

 

 腕1本治さなきゃだったから時間かかった……リカバリーガールのお説教も聞いて、その後『買い物』もしてたから遅くなっちゃった。もう準決勝第二試合、始まってるよね? 急がないと。

 

「あ、デク君!」

 

「麗日さん、試合どう?」

 

「はじまってちょっと経ったとこ! ……ってデク君それ、永久ちゃんの真似?」

 

「え? あ、うん……試合大変だった上に、『治癒』もしたから疲れてさ、少しでもエネルギー補充したいと思って、さっき聞いたの試してみようかと」

 

 すぐそこで売り子の人から買ったコーラのボトルを握りしめた僕を見て、麗日さんはさっきの栄陽院さんのがぶ飲みシーンを思いだしたみたいだった。

 もちろんこのコーラは、来る途中に水飲み場で既に炭酸は抜いてある。まあ、だからって栄陽院さんみたいに何本も飲めないけどね……もう1試合あるし、1本がせいぜいだ。

 

 その相手が決まる戦いを見なきゃと思いつつ、僕も、ちょうど空いている麗日さんの隣に腰かけて、会場に目を……

 

「……うわぁぁ……」

 

「うん……そうなるやんな……この試合みたら」

 

「すげえよな、色々と……」

 

 そこでは……すごい戦いが繰り広げられていた。

 

 絶え間なく響く爆発音。その合間合間に、薙ぎ払うような風切り音。

 コンクリートの、直したばかりのはずのステージが割られ、砕かれ、抉られ、吹き飛ぶ。

 

 その中心で、ものすごいスピードで交錯しながら、一切止まらずに戦い続けるかっちゃんと栄陽院さんがいた。

 

 爆破による推進力で縦横無尽に、立体的に動き回るかっちゃんは、麗日さんや切島君の時の戦いを遥かに超える、鬼気迫る感じで攻撃を続けていた。懐に飛び込んだり、後ろに回り込んだりして近づいて爆破する。単純だけどその素早さと1発1発の威力は驚異的と言う他ない。

 

 それらを避けて、あるいは拳で爆風を撃ち抜いて反撃する栄陽院さん。長い手足をフルに使ってかっちゃん目掛けて刃のように振るう、あるいは叩きつける。さっきから聞こえる風切り音の方はこっちだったか。

 

 力強く、しかし軽快な動きで……踏み込みや流れ弾でコンクリートのステージが砕けてるところを見ても、栄陽院さんの攻撃は1発1発がかなりの威力を持ってる。

 そうでもなきゃ、かっちゃんの爆破を拳でぶち抜くなんてできないもんな。

 

 けど、当たらなければ意味がない。

 かっちゃんはそのほとんどを、その反射神経で見てからかわして、カウンターを狙って爆破を叩き込んでいるし、食らったとしても直前で後ろに飛んだりして威力を受け流してる。

 

 被弾数では……栄陽院さんが多い。

 けど、1発1発のダメージは互角か、フィジカルで勝る栄陽院さんが強いから、かっちゃんの方が深刻と言っていいようだ。

 

 黒髪を振り乱し、長い手足をしならせて攻撃する流麗な戦いと、轟音を伴った爆破によって移動と攻撃を同時に行う豪快な戦い。激しい動きの中なのに、2人の戦いは対照的なものに見えた。

 

 ……そして何より、目が行くのが……行ってしまうのが……!

 

「「服が……!!」」

 

 隣の麗日さんもちょうどそう思っていたらしい。声が揃った。

 

 栄陽院さん……また服が大変なことに! ボロボロであちこち穴開いて、袖とか両方吹き飛んでほぼノースリーブになってるし、肩も出てて……ズボンも、右足は膝から下が、左足は太ももから下が全部なくなってる……!

 こ、このままじゃホントにまずいことに……さっきの試合と同じく、全国生放送で大変な映像が流れてしまう可能性が……っ……!

 

 そんなことを考えながらも、この超ハイスピードな戦いから目が離せな……ん?

 

 何だろう、コレ……?

 さっきから見続けて、なんだか……かっちゃんの動きに、違和感を感じる。

 

 どれもこれも、すごい速さと威力を伴った攻撃だ。かっちゃんはスロースターターだから、時間をかけて体が温まってくるほどに、攻撃の威力も移動速度も上がっていくから、栄陽院さんはどんどん追い込まれていっているようだ。

 

 けど、何だかかっちゃん……さっきから、繰り返し同じ位置ばかり狙ってるような気が……?

 

 けん制目的で爆破を繰り出してる様子でもあるけど、メインで狙ってるのは……顔、お腹、両足の膝のあたり、大体この3つだ。

 えげつないとか思ってはいけない。かっちゃんのやることだし、このくらいは予想できてた。

 

 ……それにしても、狙いすぎじゃないか? 別の個所を狙えばより効率よくダメージを与えられそうな時にまで、無理やりそこを狙ってる……おかげで上手いこと躱されたり、ふせがれたりしてるじゃないか。

 かっちゃんは、意味もなくそんなことをする奴じゃない。だから、何か意図があるはず……

 

「……そろそろか……?」

 

 ふいに、かっちゃんはそんな言葉を呟いて……また栄陽院さんの顔面目掛けて爆破を放つ。

 栄陽院さんはそれを、横に跳んで回避しようとして……

 

 ――かくん

 

「っ!?」

 

 ……できなかった!? 力を入れようとした瞬間に、何か、足が……上手く踏ん張れなかったみたいに……

 

 とっさに顔の前で腕をクロスさせ、爆風から身を守るものの、その勢いで後ろに飛ばされてしまい……ゴロゴロとステージに転がる。

 

 それをかっちゃんは追撃……しない!?

 あえて手と足を止め、注意深く栄陽院さんを観察してるように見える……

 

『あーっとコレはきっついの食らったかぁ!? かわしていなして舞うようにここまで戦い続けて来た栄陽院、ダウンを取られた! ガードはしたようだが、ダメージでかかったか!? しかし爆豪、同じくここまでノンストップで攻め続けて来た手をあえて止めた? これはどういうことだ?』

 

 かっちゃんが見ている前で、栄陽院さんは素早く……とは言いづらい動きで立ち上がる。

 また構えなおすが、どうやら息も上がっているようだ。肩で息をして、呼吸も荒い……

 

 ……? 息が、上がってる? 栄陽院さんが?

 

「まさか……」

 

「え、デク君どうしたん? 何かわかった?」

 

 もしかしたらわかったかもしれない予想を、麗日さんに話そうとするより前に、ステージに立っているかっちゃんが凶悪な笑みを浮かべて言った。

 

「やっぱりな……デカ女、テメェ……

 

 

 ……もうほとんど『エネルギー』残ってねえな?」

 

 

 その言葉に、クラスメイト達のほとんどが驚いたような顔をする。麗日さんも同じだ。

 そして……僕も今、かっちゃんと同じことを言おうと思っていた。栄陽院さん、もうエネルギーの蓄えがなくなってるんじゃないかって。

 

「え、エネルギーって……永久ちゃんが食事するたびに補充して蓄えられるアレのことだよね? たしか、それ使って体の強化とかしたりするんでしょ?」

 

「ええ……そして、それが続く限りはスタミナは無尽蔵。しかし言われてみれば、栄陽院さん、先程から肩で息をしていますわ……まさか、本当に……」

 

「かなり汗もかいているし、呼吸も早い……どうやら、その通りのようだ」

 

 芦戸さんの困惑したような問いに、八百万さんと障子君がそう答える。

 

「で、でもよ、栄陽院の奴、あんだけ飲んだり食べたりしてたんだぜ!? コーラ6本に焼きそばパン2個、それに八百万が言ってた話だと、昼休みも教室でめっちゃ大量に弁当食べてたって話だし……何千キロカロリー食ったかも分かんねえよ! それなのにエネルギー切れって……」

 

「逆だ……エネルギーがないからこそ、大量に食べて補充してたんだ……!」

 

 思わず言ってしまった僕に、皆の視線が集中する。

 

「多分だけど、障害物競争と騎馬戦で使ったエネルギーが想定よりだいぶ多かったんだ。身体能力を強化したり、スタミナの肩代わり、さらにはリカバリーガールによる治癒の際にも……加えて、強化の幅が大きければ大きいほど消耗も早くて、1秒ごとにガンガンエネルギーが削られていく」

 

「つまり、消耗も早い、ってことか……でも、普段から栄陽院ってめっちゃ食べてるだろ? ちょっとやそっとじゃどうにもならねえエネルギー量が蓄えられててもおかしくねえんじゃねえか?」

 

「それは俺も思う。弁当とか、成人男性何人分だよってくらいペロッと食うからな」

 

「それは確かにそうだと思うけど……この2週間、皆もそうだったと思うけど、『個性』絡みの訓練ずっと続けてたでしょ? そこで妥協なんかしてたら本番までに十分鍛えられないし、栄陽院さんもきちんと『個性』の訓練はしてたはず。そこで消費するエネルギーのことを考えると……」

 

「日々の貯蓄も切り崩してたってことか……? や、そうするとむしろ栄陽院の『個性』って……普段から力を溜め続けて、ここぞって時に出す、っていう形がデフォルトなのかもしれねえな」

 

 そして……コレは僕以外知らないことだけど、栄陽院さんのエネルギーの貯蔵量は、計り知れないほど多い……ということは、実はない。

 

 それはなぜかというと……彼女の個性『無限エネルギー』には、ある弱点が存在するからだ。

 もちろんそれは、エネルギーが切れると戦えなくなるとか、そういう部分ではない(それも確かに弱点ではあるが)。

 

 栄陽院さんは……エネルギーを蓄えすぎると、その『吸収効率』が悪くなるのだ。

 

 以前それについて雑談の中で聞いた時、『少し恥ずかしい話だから、人には言わないでくれ』って言われて聞かされたんだけど……彼女は実は、ほとんどトイレに行かない。普通の人なら、消化吸収しきれずにトイレで排出してしまう分のエネルギーすら、彼女はほぼ吸収してしまえるからだ。

 

 しかし、あまりに大量にエネルギーを蓄え続けると、徐々にではあるが、吸収できるエネルギーの割合が、効率が下がっていく。同じ量の食べ物を食べても、吸収して蓄積に回せる量が違ってきてしまう。最良の状態をほぼ100%とすると、99%、98%と徐々に下がっていき、その分を、トイレの回数を増やして『出して』しまうようになる。

 

 ちょうど、人間の体が『満腹感』を覚えるのと同じように。十分に食事を、栄養を取れたと判断した脳は、『これ以上食べたくない』という信号を出す。同じように、エネルギーを蓄えすぎた状態の栄陽院さんの体は、拒みこそしなけれど、徐々に『吸収』と『蓄積』に消極的になってしまう。

 

 これを防ぐには、訓練の際に『個性』を積極的に使うなどして、普段の生活の中でエネルギーを消費していき、『ため込む』一方にならないようにすればいい。別に、食べたもの全部出す必要はない……運動して、きちんとエネルギーを、少しずつでも『循環』させる形にできていればいい。

 

 普通の人が、一度満腹になっても、そのあと空腹になったらまた食欲が出てくるように。あるいは、脂肪が蓄積して太るのを防ぐために、適度に運動するのと同じように。

 

 そうすれば、限度はあるが、何もしないでいるよりもずっと多くの量のエネルギーを、蓄えた状態で維持しておくことができるそうだ。『効率』を落とさずに。

 

 そして、一旦下がってしまった『効率』を元に戻すには、酷く時間も手間もかかるらしい。

 

 前に一度、調子に乗って暴飲暴食を続け、エネルギーを大量にため込んだはいいものの、かなり『効率』を下げてしまったことがあるらしいが、その時は、暴飲暴食してたのと同じかそれ以上の期間を、厳しいトレーニングと食事コントロールの元で過ごして、ようやく治すことができたらしい。太っちゃって体質改善と痩せるためにダイエットするみたいな話だな、と思った。

 『アレは地獄だった、二度としたくない』と、遠い目をしながら語ってくれた。

 

 だから彼女は、その気になれば大量にため込むことはできるが、それは自分が最高のコストパフォーマンスで動けるということとイコールにはならないため、『効率』を保てる上での最大限を目安に、そこから大きく逸脱しないようにエネルギー量を管理している。

 

 だから、それが彼女の実質的な『上限』なのだ。

 彼女が自分の『個性』を、『名前負け』という、大きな理由のひとつである。

 

 もっとも、それでも相当に多い量だから、一度に大量のエネルギーを『譲渡』したり、ハードなスポーツや戦いを長時間ぶっ続けでやるとかでもしない限りは全く問題ないんだけど……さっきから話しているように、ここんとこずっとハードなトレーニングを続けていたおかげで――その上僕にその都度『譲渡』までしてくれていたから――貯蓄量は徐々に削れてきていたのだ。本人曰く、僕に分け与える量なんて、自分の消費量に比べたら誤差の範囲、微々たるもの、だそうだが。

 

 その分補給することはできなかったのか、と思うかもしれない。

 けど、それも難しいというか……限界があったのだ。なぜなら……

 

「それに永久ちゃんは、確かにいくらでもエネルギーを溜められる。けど、『一度に』いくらでも補充できるわけじゃないはずよ。消化器官の機能ってものにも限度があるもの」

 

 と、今まさに考えていたことを、蛙吹さんが口にしたので、そっちに意識が向く。

 

「え、どういうこと梅雨ちゃん?」

 

「食べた後に働く胃腸を何だと思ってるの、ってことよ。一度に食べ物を食べ過ぎれば当然、消化吸収の限度を超えてお腹を壊すわ。永久ちゃんはもともとがフードファイター顔負けの大食いだからわかりづらいけど、その限界は確かにある。だからあんな方法で補充してたんでしょうね」

 

「あんな方法……っ! そっか、コーラ!」

 

「いつでもいくらでも食べられるなら、それこそエネルギー量が多いもの……炭水化物やたんぱく質、脂質なんかを取れば、急激にエネルギーを取ることは可能のはずよ。その辺で売ってる、いかにもカロリー高そうな総菜パンとかね」

 

「けど、そうしなかったのは……今食べても、試合までに吸収しきれないから? だから、エネルギー効率がいい炭酸抜きコーラでどうにか補充しようとしてた?」

 

「あるいは、持ってきて食べたお弁当が既に消化吸収の許容量だったのかもしれません。これ以上お腹にものを下手に入れられない、もたれて逆に悪影響になると思ったとしたら……」

 

 皆が考察しているのを聞きながら下を見れば、かっちゃんは既に勝ち誇ったような顔で、威嚇するように手のひらを爆発させ続けていた。

 

「ごまかすのが下手ってもんだぜデカ女……間抜け面の時も影野郎の時も、テメエはずっとこうなることを危惧しながら、なるべくエネルギーを節約しながら戦ってたな? それを悟らせねえように、わざとステージを踏み砕いたり、いきなり激しく動いたりするパフォーマンスまで交ぜ込んでよ……けど、それ以外はテメェは基本、動きを抑えてカウンターがメインだった。服ビリッビリにされた影野郎の時、既にタンクの底が見えてたな? その後のコーラのがぶ飲みで確信したぜ」

 

「そういうとこ気が付く辺りはホントにお前聡いんだよなあ……まさかとは思ってたけど、さっきから私の急所ばっかり不自然に狙ってたのは、強制的に動かせてエネルギーを使わせるためか?」

 

「顔や腹、そして機動力に直結する足を狙われたら、しかもそこに叩き込まれるのが俺の爆破なら……食らって耐えるって選択肢は出ねえよなァ? もちろんこうなる前に隙ができれば即座にぶっ殺すつもりだったが、まあ……よくもった方じゃねーのか!!」

 

 その瞬間、かっちゃんは爆速ターボで一気に距離を詰め、猛攻を再開させる。

 

 しかし、栄陽院さんはさっきまでの動きのキレを失っていて、どうにか避けるので精いっぱいって感じだ。

 もちろん、基礎的な身体能力そのものは高いから、それなりの動きはできてるんだけど……あまりにも相手が悪い。ここまでの戦いで体が十分に温まったかっちゃんは、フルスロットルの栄陽院さんでも相手をするのは難しいはずだ。

 

 思うように体が動かないのか、服がはじけ飛んで傷が増えていく。

 

「それでもそこらの奴よりは速ぇか! 大したもんだな……だが……『エネルギー』がねえテメェなんざ……『無個性』と同じだ! 『閃光弾(スタングレネード)』!!」

 

 瞬間、かっちゃんは両手の平を合わせて……すごい光をそこからあふれさせた!?

 何だアレ……新技!? 光で目つぶしか!?

 

 思わず手で目をかばった栄陽院さんの懐に飛び込んで、かっちゃんは手のひらを突き出し……しかし、すんでのところでそれを見極めた栄陽院さんは、その手をつかんで大きく逸らして防ぎ……

 

「手を警戒しすぎだバカが!!」

 

「っ……ぐはっ!?」

 

 鳩尾に膝蹴りを叩き込まれて、息が詰まって後ろに転がされ……そこに、もう片方の手で爆破を叩き込まれて、大きく吹き飛ばされた。

 

 今のは流石に大きなダメージになったみたいだ……意識はあるみたいだけど、ほとんど動かない。ステージの端で、ミッドナイト先生が、続けられるかどうか注意深く見始めた。

 

 けどかっちゃんはそれを待つ素振りすらなく、一気に勝負を決めるために突撃していく。

 

 麗日さんの時と同じだ。ここまで来た実力を認めてるからこそ、警戒してるからこそ……かっちゃんは手加減しない!

 

 何人かの息をのむ音が聞こえる中、射程距離にとらえた栄陽院さんに、突き出した手からのとどめの一撃を浴びせようとして……

 

 

「……発、動!」

 

 

 その瞬間立ち上がり、地を蹴って懐に飛び込んだ栄陽院さんが……渾身のボディブローを叩き込んでかっちゃんを吹き飛ばした!?

 

「な゛ぁ、っ……!?」

 

 驚愕を顔に張り付けながら、殴り飛ばされてかっちゃんはステージ上を転がる。今のはモロに入った……暫く呼吸もろくにできないレベル!

 けど間違いなく今のは……『エネルギー』なしで撃てる威力じゃなかったぞ? 栄陽院さん、まだ力が……

 

『あーっとぉ、ジャージ以上に絶体絶命に思われた栄陽院、ここに来て再起動だとォ!? もう力は残ってねえと思ってたが、アレか? ひと芝居打ちやがったのか!?』

 

「テメェ……騙しやがったのかよ、俺を……!?」

 

「……残念だが、私はそこまで芸達者じゃないよ……。あんたの言う通り、とっくに私のタンクはすっからかんだ。動くだけならともかく、『個性』は使えない」

 

「じゃあ何だ今の威力はよ……テメェの全力には程遠いが、明らかに『個性』なしじゃ出せねえ威力だろうが……ッ!」

 

「……『自食作用(オートファジー)』って知ってるか、爆豪?」

 

「…………ッ!? ……はっ、なるほどな!」

 

 はっとした表情になるかっちゃん。

 それと同時に、僕や八百万さんなど、その言葉を知っている者達の顔色も変わる。

 

「『自食作用(オートファジー)』……ですって!?」

 

「知っているのかヤオモモ!?」

 

 葉隠さんのその問いかけに、こくりと頷いて八百万さんが説明する。続けて、僕も。

 

「『自食作用(オートファジー)』とは、栄養飢餓状態に陥った生物が引き起こす、自己防衛機能の一種ですわ。自らの細胞内のたんぱく質をアミノ酸に分解し、一時的にエネルギーを得る……おそらくはそれと同じ仕組みで、栄陽院さんは一時的に『個性』を発動させたのでしょう」

 

「でも……まずいよ。ざっくり言えば、今の栄陽院さんは『自分の体を食べて』エネルギーを得ているのと同じことなんだ。カルシウムが足りなくなった時、人体は骨を分解してカルシウムを得るけど、その分骨がもろくなる……エネルギーも同じだ。八百万さんの説明の通りに、彼女の体がタンパク質を分解しているとしたら……あれも長くは持たない。それどころか……」

 

「正真正銘の『最後のあがき』ですから……少し前までの緑谷さんの自爆と同じか、それ以上に危険かもしれません。下手をすれば、ドクターストップがかかってもおかしくは……」

 

 しかし、八百万さんがそれを言い終わる前に、2人は動いた。

 2人共わかってるんだろう。今の栄陽院さんの状態が長く続かないことも……下手をしたら、このばでミッドナイト先生がドクターストップをかけるかもしれないことも。

 

 そして、そんな結末になる前に全てを終わらせようと……動き出した。

 

 かっちゃんの爆破が正面から決まる。栄陽院さんは腕をクロスさせてそれを防いだ。

 

 もう一発の爆破。しかし今度は、真正面から拳でぶち抜いてかっちゃんの顔を狙う。

 拳も無事じゃないし、かっちゃんの持ち前の反応速度で避けられるが……少しかすって、頬が斬れて……血が出た。

 

 もうさらに1歩踏み込んで、かっちゃんの腹に拳を一撃……と見せかけて、フェイントの肘を上からたたきつけて、かっちゃんを地面に叩き落とした。

 

 そのままそれを踏みつけようとするけど、かっちゃんはその場で手を連続で爆破させ……ブレイクダンスかカポエラ、あるいはねずみ花火みたいな動きで、高速回転しながら移動してかわす。

 回転しながら低空を……膝のあたりを蹴りつけて怯ませた。

 

 よろけた栄陽院さんに両手を向けるが、その瞬間栄陽院さんは、引きちぎるようにして上のジャージを脱いだ。そして、爆破が起こる前に、それを、突き出されたかっちゃんの腕に……

 

「縛った!? 捕縛術!?」

 

「上手い……これで爆豪の腕を封じた! 爆破使えなくなったぞ!」

 

「でも、あんなボロボロのジャージじゃいつまでも抑えてられへんよ? 第一、結ぶことも……」

 

 麗日さんがそう言った直後、栄陽院さんはその縛った服の端を……結ぶ時間がないからだろう、持ったまま放さないようにしながら、かっちゃんの後ろに回り込み、がしっと両腕で……その首を締め上げた!

 

『おぉーっとここで栄陽院、爆豪の両腕を封じた上に、その後ろに回り込んでスリーパーホールドだあァ――ッ!! 胸部装甲が爆豪の背中に押し付けられてるが、果たして爆豪にそれを堪能する余裕があるようには見えねえ!? コイツは決まったかぁ!? 奇跡の大逆転かぁ!?』

 

『どうだろうな……スリーパーホールドは本来、腕を上手く食い込ませて血管を押さえることで脳への血流を減らし、それによって意識を刈り取る技だ。上手く決まれば数秒で、あまり苦しむこともなく落ちるんだが……ありゃ失敗してるな。気道を締めちまってる。意識が飛ぶまでに数十秒はかかる上に、かけられてる方は地獄の苦しみだ。となれば当然……』

 

「っ、がああぁぁぁあぁぁぁあああああ!!!」

 

 栄陽院さんに首を抑えられながら、かっちゃんは激しく暴れて身をよじらせ、どうにか拘束から逃れようとする。

 

『暴れるわな、あんな風に』

 

『こいつは……栄陽院のジャージが千切れて爆豪の腕が自由になるのが先か、爆豪の意識が飛ぶのが先か……』

 

 会場中がかたずをのんで見守る中、時間は過ぎていき……ヘドバンみたいに頭を暴れさせる上、締め上げる腕に噛みついてまでかっちゃんは暴れるが、栄陽院さんは意地でもそれを解こうとしない。巻き付けているジャージも、ギリギリで持ちこたえている。

 

 このまま耐えきるか、と思った瞬間、かっちゃんの手元で爆発が……自分の体をも巻き込む形で起こり、ジャージの一部がはじけ飛んだ。

 それにより、まだ腕は動かないし、文字通りの自爆でダメージを受けたが、かっちゃんの手のひらは自由になった。

 

 かっちゃんはそれを地面に向けて……思い切り連続で爆発させて、締め上げている栄陽院さんごと空中に飛びあがる。

 残り少ないであろう意識の中で、滅茶苦茶な軌道で飛ぶ。まるで、空気をパンパンに詰めた風船の口を離して、空気が吐き出されるその勢いで風船がふっ飛ぶように。

 

 上下左右に本当に滅茶苦茶に、洗濯機の中でシェイクされるより酷い動きで飛び回った後……すごい勢いでそのまま落下して、轟音と共に、2人はステージを外れた場外に叩きつけられた。

 

 立ち込める土煙が晴れた時、そこには……折り重なって倒れている2人の姿があった。

 かっちゃんは意識があるようで、身をよじっているが……その下になっている栄陽院さんは、動かない。

 

 ミッドナイト先生が駆け寄って、2人の様子を確認する。

 数秒後、すっくと立ちあがって……

 

「落下時の状況から、先に体が場外の地面に落ちたのは……栄陽院さんの方! よって、勝者……爆豪君! 決勝進出!」

 

 歓声の中、かっちゃんはゆっくりと起き上がり……自分の足で歩いて、出入り口の方に歩いていく。

 腕を拘束してたジャージは、解いて……投げつけるようにして、気絶している栄陽院さんにかけてやっていた。優しいんだか乱暴なんだか……。

 

 ……その、歩いて退出する直前、僕と目が合った。

 

 ただそれだけで、別に何も言葉をかわしたりはしなかったけど……僕はその一瞬で、心に1つの事実を突きつけられた気分だった。

 

 それは、次の瞬間聞こえたマイク先生のアナウンスで、より鮮明に形になった。

 

『両者の健闘をたたえてクラップユアハンズ! さあ、小休止を挟んでその後は……いよいよ今日最後の戦いが始まるぜ! 雄英体育祭、1年の部を締めくくる決勝戦! 対戦カードは、緑谷出久VS爆豪勝己に決定だァ! お前ら、この一大決戦見逃すんじゃねーぞォ!』

 

 ……相手は、かっちゃん。

 

 僕がずっとその背中を追って来た、一番身近で、一番強かった……ずっと、敵わないと思っていた相手。

 ずっといじめられていた相手で……それでも、僕のあこがれだった、すごい奴。

 

 戦闘訓練の時みたいに、油断なんてもうしてくれないだろう。けど、望むところだ。

 

 真っ向勝負で……今度こそ、君に、勝つ!

 

 

 

 

この世界のデクとくっつけるなら誰?

  • 永久(オリ主ルート)
  • 麗日(原作メインヒロインルート)
  • その他
  • ハーレム(英雄色を好むルート)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。