TSから始まるヒロインアカデミア   作:破戒僧

35 / 159
決勝戦、緑谷VS爆豪! ……の前に、すいませんちょっと一息入れます。


第35話 TS少女とトーナメント⑧ 保健室にて

「……知らない天井だ」

 

「やれやれ……ようやく起きなすったかい、このじゃじゃ馬は」

 

 定番のセリフがとっさに口をついて出たかと思った直後、横の方から聞こえて来たそんな声。

 

 やたらと体が重い。そしてどうやら、ベッドか何かに横になっているようだ。

 どうにか首を動かして横を向くと……自分の腕に刺さってる点滴のチューブと、その向こうにいる小柄な老人……あ、リカバリーガールか。彼女の姿が目に入った。

 

 そして思いだした。自分は確か、爆豪との試合で……ここにいるってことは、負けたか。

 

 最後の最後、『自食作用』によるエネルギーもほぼ使い果たして、もうほぼ気合だけで爆豪の首を締め上げてただけだった中、突然押し上げられるような浮遊感があったところまでは覚えてる。それで息が詰まって、しかもよくわかんないけどその後、洗濯機の中でシェイクされまくったような感覚があって……そこから覚えてないな。アレ何が起こったんだろ?

 

 って感じのことを、リカバリーガールに聞かれて説明した。そしたら、呆れられた。

 

「ってことは、落下の瞬間までほぼ無意識だった……気合と本能だけでしがみついてたってわけかい……やれやれ、緑谷って子がちょっとはマシになったかと思ったら、女子の方にも無茶苦茶やる子がいたもんだ」

 

「今年は粒ぞろいですねえ、うちのクラス」

 

「自分で何言ってんだい。ハァ……とりあえずあんた、そこ動くんじゃないよ? その点滴全部入るまでは絶対安静だからね」

 

「……あの、結局、どんな感じでここにいるのか聞いてもいいです?」

 

「信じられないことに『栄養失調』だよ、軽度のだけどね」

 

 そこから試合の結果も含めて聞くことができた。

 

 どうやら私は、爆豪との試合で負けた……ってのは予想通りとして、そこからこの『リカバリーガールの出張保健室』に担ぎ込まれ、さっきの診断を受けたそうだ。

 『個性』による貯蓄に加えて、『自食作用』により体の各部に蓄えられてたエネルギーも根こそぎ使い……人体最後のエネルギー貯蔵庫である、肝臓のグリコーゲンすらも底をついていた……とは言わなかったが、とにかく栄養が足りていなかった。

 

 そのせいで『治癒』もろくにできず、点滴で体力の回復を待つしかない状態だったらしい。彼女の『治癒』は、対象者の体力を使うからな……それが底をついてりゃ、普通の治療法しか選択肢もないか。

 

「本当にねえ……今年の一年は粒ぞろいだよ。色々な意味でね……しかし、そろいもそろって危なっかしいってのはどうにかならないもんか。頑張りはとっくに認めてるけど、素直に褒められないってのはこっちも割かし辛いんだよ?」

 

「すいません……どーにも熱くなると歯止めがきかないもんで」

 

「ま、若いうちは無理してなんぼってのもホントだしね……限度が過ぎなきゃきちっと大人が面倒見てやるとも。……ただお嬢ちゃん、あんたは別な意味でも自分のこと大事にしなよ?」

 

「はい?」

 

「今の自分の恰好、よく見てみな」

 

 そう言われて、布団の下になってる自分の体を、布団をめくって見てみると……なんて言うんだろ、コレ? 病人着、でいいのかな? 入院患者とかが着てるようなの……

 

 ……でもその下に何もない。ノーブラだ。かろうじてパンツはあるが。

 

「……あれ、私の服は?」

 

「ジャージはあんたが脱ぎ捨てて拘束に使ってたろ? 下のズボンもボロボロで、治療の邪魔だったから脱がしたよ。そんで、上の下着は着弾の瞬間にぶっ壊れてた」

 

 あ、そうなんだ……その『着弾』っての私覚えてないけど……え、しかしそれだと……

 

「……放送、事故?」

 

「……痛めつけられた相手ではあるけど、あの爆豪って奴に感謝しときなよ。壊れたブラが外れて取れる前に、ボロボロのジャージかぶせて体ごと隠してくれてたからね。その後にミッドナイトもそれに気づいて、ハンソーロボに任せると万一があるから、自分で抱えてここまで運んで来たんだ、ジャージが取れて見えないようにさ……その光景自体のせいで別な歓声が上がってたけどね」

 

 セーフ! セ――――フ!!

 どうやら私はポロリしないで済んだらしい……よかった……マジでよかった。

 

 羞恥心もそうだけど、それ以上に相澤先生にキレられるとこだ……公共放送にトップレス晒したせいで説教……あるいは処罰とか情けなさすぎる。

 

 しかし、安心したら……

 

 

 ―――ぐぅぅううぅぅう……

 

 

「……腹が減った」

 

「おやまあ女の子がはしたない……けど、そんな音が鳴るってことは、少なくとも胃腸が弱ってるってことはなさそうだね。ま、栄養失調とはいえ、過程がかなり特殊だからそんなもんか……点滴終わったら普通に食事しても問題ないだろう。それまでは大人しく寝ときな」

 

「そうですね、そうしま……」

 

 ……あれ、でも待てよ?

 

 私が爆豪に負けた。それはいい……悔しいけど、あいつの方が強かったってことだ。

 

 でもだとすると、あいつは……っていうか、この後は……!

 

「り、リカバリーガール!? トーナメントは!? 試合は!? 決勝戦は!? 次ですよね!?」

 

「あん? ……そうだね、舞台の修繕もあるから少し長めに休むって言ってたから……もうそろそろ始まるんじゃないかね」

 

 やっばー! 寝てる場合じゃねー!

 次決勝戦じゃん! しかも、緑谷と爆豪じゃん! 見逃せるわけないだろこんなカード!

 

「リカバリーガールすいません退院しますお世話になりました!」

 

「何言ってんだい、あんたここから動かせるわけないだろうこのバカちんが! 栄養足りてない上にろくに治癒できなくて全身ボロボロだってんだよ! しばらく寝ときな!」

 

「そんな殺生な!? あの2人の試合見るなってんですか!? 栄養補給なら見ながらやりますから……この点滴持ってけばいいでしょう? よくあるじゃないですか、病院で点滴持って、適度な運動とかのために病院の廊下歩いてる入院患者!」

 

「殺生も関白もあるかい! あんたなぜかやけに元気だけど、本来なら点滴全部入った後『治癒』してようやく動けるかって程なんだ、それまで一歩もベッドから出さないよ。試合どころか表彰式だって無理だよ、そこにあるテレビで映像だけなら見られるからそれで我慢おし!」

 

「あぁぁんまりだぁぁあぁぁああ!!」

 

 

 

「(ガチャ)あら、何よ思ったより元気ね」

 

 

 

 突如、保健室の扉が開いて誰かが入ってきた。

 と思ったら……あ、昼休みぶりの見知った顔。

 

「あん? 今面会謝絶……って、あんたは……何でこんなとこにいるんだい?」

 

「ご無沙汰してますーリカバリーガール。あ、仕事がてらうちの子の様子見に来ました」

 

「母、さん……?」

 

「……ああ、そうか、そういやあんた達親子だったねえ……。妙に納得しちまったよ……方向性は微妙に違うが、無茶苦茶っぷりがそっくりだ」

 

 そこに居たのは、うちの母だった。キャリアウーマンスタイルで、にっこり笑って、横にいる保健室の主に挨拶している。

 

 何か、知り合いっぽいけど……あ、そうか、母さん雄英OGじゃん。

 リカバリーガールはもうだいぶ長いこと雄英に勤めてるって話だから、なるほど知ってるのか。

 

「もう決勝戦始まるっていうのに、永久ったら中々こないんだもの。見逃しちゃかわいそうだと思って呼びに来たのよ……その様子だと、リカバリーガールにお止めしていただいてた感じですか?」

 

「当たり前だろ、まだこの子は動かせるような状態じゃないんだからね。あんたも親なら、バカなこと言ってる娘にきちっと言ってきかせな」

 

「それはまあ、親としてはそれが正しいんでしょうけど……『女』としては、娘を応援したくなっちゃうんですよねえ」

 

「あん? どういう意味だい?」

 

 ちょっと顔を赤らめてそんなことを言う母さん。ニヤニヤ笑ってこっちを見ながら。

 待て、いきなり何を言……そうか! 昼休みに母さんには、私は緑谷の動画見てニヤついてたの見られて……ってか、緑谷のこと知られてたんだった。

 

「ちょっと母さん!? あ、あの、あんまりそういうことは……いや、味方してくれるってんならそれはありがたいけど、でも……い、一応私それオープンにしてるわけじゃなくてね!?」

 

「うふふ、若いっていいわね~……そんなわけでリカバリーガール、どうにかこの子に決勝戦、見せてあげられませんか? 見れなかったら多分、そっちの方がストレスになっちゃいますし……私も手伝いますから」

 

「……何を通じ合ってんのかいまいちわからないけど、あんたねえ……だからこの子は栄養が……いや、なるほど……あんたがいれば話は別、か」

 

「そういうことです。よいしょ」

 

「わぷ!?」

 

 ベッドのそばまで来た母さんは、私の頭を抱えて……その胸に押し付けるようにして抱いた。ふにょん、と柔らかい、極上のウォータークッションのような感触が心地よく当たる。そして……

 

「覚えていらっしゃるでしょう? 私の『個性』も……この子と同じ『無限エネルギー』だって」

 

 それと同時に……『エネルギー』がどんどん私の体に流れ込んでくる。

 見る見るうちに肌の色がよくなり、血色を取り戻す。疲れも吹き飛んで、痛みも和らいできた。

 

 ものの数十秒ほどで、点滴の必要が全くない程度には回復できたはずだ。それを確認して、やれやれ、とため息をつきながら、リカバリーガールは点滴の針を抜いてくれた。

 

「相変わらずの人間点滴だね。ま、保健委員にはうってつけの能力だったのは確かだが」

 

「母さん保健委員だったの?」

 

「ええ、最後の1年は委員長もやったわよ? 思いだすなあ……あの頃もこうやって、色んな子にエネルギーを分けてあげて、それとリカバリーガールの『治癒』のコンボで、どんな怪我でもすぐにすっかり治してあげてましたっけね」

 

「それと同時に、あんたに対して勘違いする男子が続出したかわいそうな年でもあったけどね……在校生の3分の1が在学中1度はあんたに惚れてて、そのうちの半分がアタックして玉砕したっていう悲劇だらけの3年間だったよ。あんたの当時の仇名覚えてるかい、『魔性の抱き着き魔』だよ? あんたまさか、いい年してまだその抱き着き癖直ってないなんてことないだろうね?」

 

「まっさかあ、もうこの通りのおばさんですし、旦那もいるんですからそこまでしませんよぉ」

 

 何ちゅう青春時代を過ごしてたんだ、この人……

 

 ひょっとして、プロヒーローの間で、母さんの……『アナライジュ』の存在がほとんど語られることのない背景には……

 

「その過去に触れてほしくない奴が多すぎるってのもあるだろうさ……全くほら、手をお出し、動ける程度にまでは『治癒』してあげるよ」

 

「ありがとうございます!」

 

「ふふふ、よかったわね永久。それじゃ、私は最後のお仕事しなきゃいけないからここで失礼するわ……緑谷君、勝つといいわね?」

 

 そう言い残して、にこにこ機嫌よさそうに笑いながら、母さんは帰っていった。

 

 私はその後、リカバリーガールに『治癒』してもらって、問題なく動けるまでに回復してから……母さんが持ってきてくれていたジャージ+下着に着替え、1-Aの皆が最後の試合を見るために集結しているであろう観客席へ、急いで戻っていった。

 

 

 

 

この世界のデクとくっつけるなら誰?

  • 永久(オリ主ルート)
  • 麗日(原作メインヒロインルート)
  • その他
  • ハーレム(英雄色を好むルート)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。