TSから始まるヒロインアカデミア   作:破戒僧

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第37話 TS少女とトーナメント⑩ 緑谷VS爆豪(後編)

「テメェに――」

 

「君に――」

 

 

「「勝つ!!」」

 

 

 瞬間、再び2人は激突し、大威力の拳と爆発がぶつかり合って衝撃波をあたりにまき散らす。

 

『やや長めの語り合いを経て今、戦闘再開! 時間的にも残りの体力的にも、こいつがラストイニングと見てよさそうだ! お前ら一瞬も目ェ離すなよ! やる気全開150%OVERのぶつかり合いだ、目に焼き付けろォ!!』

 

 弾かれるように離れる2人。しかしまた距離を詰めてぶつかり合う。そして離れる。

 

 先程までのような動きの速さや激しさはない。しかし、振りぬかれる拳の、はじけ飛ぶ爆破の1発1発に、勝利への執念が乗っていた。

 

 むしろ、観客達にも目で追える速さになったからこそ、その激しさはかえって伝わりやすくなり……そして同時に、決着の時が近いことを思わせた。

 

 何度目かの交錯を経て、また距離を開けた2人。

 しかし、また地を蹴って駆け寄ろうとした緑谷は、先程までと違って動き出さず、両掌をこちらに向ける爆豪を見て、顔色を変える。

 

(両手……デカいのが来る! 正面から行ったら吹き飛ばされる……けど、回避するには時間が足りない! だったら……『アレ』で!)

 

 その瞬間、爆豪の手のひらから、前方を広範囲に薙ぎ払う大爆発が放たれ――

 

 

 ――るよりも早く、一瞬でその間にあった距離をゼロにした緑谷が、爆豪を殴り飛ばした。

 

 

『な……何が起きたぁ!? 爆豪がデカいのを一発ぶちかまそうとしてたのは見えたが……まるで瞬間移動したみてえに緑谷がそれを殴り飛ばしたぁ!? おいマジか! アイツあんなに速く動けたのかよイレイザー!?』

 

『……足ぶっ壊すのと引き換えのバカ力で加速すりゃな。だが、今回は違うようだ……緑谷がさっきまでいた場所、見てみろ』

 

『あん? 何だありゃ……爆豪がゼロ距離爆破でもしたのかってくらいにステージボロボロになってんぞ。蜘蛛の巣状って言やいいのか、あのえげつないヒビは』

 

 殴り飛ばされつつも、どうにか場外にはならずに済んでいた爆豪の目にも、それは見えていた。

 

 まだこんな奥の手を隠していたのか、と沸騰しかけるも、爆豪は今殴られたきりで追撃が来ないことを不自然に思う。緑谷に目を戻して注意深く観察すると……足が震えているのが分かった。

 

「特訓で、習得した技の1つ……いや、『習得した』なんて口が裂けても言えない……! 全然反動を制御できてなくて、足がボロボロになるから……使えなかった……。それでも……今、使う……! 君に、勝ちたいから……!」

 

(『障害物競走』で出したようなスピードを出すには、助走をつけなきゃいけない……でも、勝負してる最中にそんな暇があるわけがない。だから、助走の分の勢い付けを一瞬で済ませるために……一瞬で何回も地面を蹴って無理やり加速する!)

 

 再び、蹴り砕く勢いで地を蹴って急加速する緑谷。

 ドン! と、爆発音にも似た音が響くと同時に、またしても爆豪は殴り飛ばされる。

 

(見えなくはねえ……だが、回避が間に合わねえ! だが、アレはデクの足も……)

 

(やっぱり、ふくらはぎから足首にかけての負担がすんごい……でも、折れるほどじゃない! 痛いくらい何だ、乗り越えろ!)

 

「ああああああああ!」

 

『緑谷、ここに来て切り札を切ったか!? 超加速技で爆豪に反撃の隙を与えずに攻める攻める!』

 

『足への負担も大きいようだが……1回で骨折してた頃からすりゃ十分な改良か。爆豪は、反応できないわけじゃなさそうだが、流石に防戦一方か……しかしあの加速、まるで飯田のレシプロだな』

 

 その相澤の言葉を聞いたクラスメイト達は、確かに、と思った。

 大きな反動と引き換えに超加速を得る……それが『足技』であるということも相まって、飯田の俊足に慣れ親しんでいるクラスメイト達には、それを連想する者も多かった。

 

 そして実際に……それは、間違っていない。緑谷がこれを思いついたのは、1速、2速、3速と段階を踏んで徐々に加速していく飯田の個性『エンジン』を参考にしたからだ。

 さらにはその過程で、無理やりエンジンをふかして瞬間的に急加速できるのではないか、という可能性にも思い至ったがために、彼の『レシプロバースト』を警戒できたという背景もある。

 

 ちなみにその修行中、『一瞬で何回も地面を蹴る』という原理を聞いた栄陽院が、ある諜報部隊の高速移動技を思い起こしていたことは、緑谷は知らない。

 

 急加速についていけない爆豪は、最早なすすべなく撃たれるだけかと思われたが……

 

 

 ――ドォオォオン!!

 

 

「んなっ!?」

 

 彼らしい力技で、それは破られる。それは……

 

「これ……麗日さんの……!」

 

『あーっと爆豪! よけきれねえ緑谷の超高速移動を、両手爆破でステージを砕いて、瓦礫を散弾みてーに吹き飛ばした面攻撃で迎え撃って防御した! しかもその後、上に吹っ飛んだ奴が降ってきて妨害する二段構えだ! っつーかコレ、麗日の『流星群』じゃねえかおい見覚えあんぞ!』

 

「誰がパクるかボケェ! 今自分で思いついたっつーの!!」

 

 まるで暴風雨のような勢いで、爆風と無数の瓦礫が飛んでくる状況。まさに、麗日が爆豪戦で使った『流星群』……それを、横から叩きつけるかのごとき攻撃。

 さすがに緑谷も強行突破はできず、さらにはその場で止まっていると、時間差で上からも瓦礫が降ってくる。たまらず後方に抜けた緑谷だが、これで迂闊に超高速は使えなくなった。

 

 その一瞬の迷いを見逃さず、加速を使う暇すら与えずに……

 

「って、かっちゃんは来るの!?」

 

「あたりめえだバカが! 瓦礫に当たらずに飛べるルートぐれえ計算してるわ!」

 

 意図的に作り出した瓦礫の中の死角を、爆豪は一気にすり抜けて自分だけは攻撃に移る。

 

 何でもないことのように言っているが、あの一瞬、たった1発(両手なので厳密には2発だが)の爆破でそれを成し遂げているあたり、改めて戦闘におけるセンスは、そして『個性』そのもののコントロールが規格外だと、見ている者達は一様に戦慄した。

 

 形勢逆転とばかりに食らいついて、距離を取られないようにインファイトを挑んでくる爆豪。

 だが元々インファイトは緑谷も得意な分野である。一歩も引かずに殴り合う。

 

「くっ……『セントルイス……』」

 

「アホかテメェはァ!!」

 

 ガキィ!! と、緑谷が繰り出そうとした足技を、出がけを潰す形で爆豪は同じく足技……膝蹴りで潰した。

 

「……っ……あ゛っ……!?」

 

 しかし、それにしても異様なまでに強烈な痛みに、緑谷は顔をしかめて膝をつく……より前に、爆豪に蹴飛ばされて吹き飛んだ。

 

「超加速で負担かかってる足で蹴りなんか出そうとすっからだ……痛む個所をかばってるおかげで力みが足りてねえ、不自然に脱力してほころんでる場所が弱点だって丸わかりだ……!」

 

「力み……ほころび……?」

 

(切島君の時も、そんなこと言ってた……『硬化』し続けて、力みがほころんだ部分をついて『爆破』を叩き込んで……やっぱりかっちゃん、観察眼もすごい……!)

 

 折れてはいない。が、激痛に否応なしに動きが鈍る。

 足を潰され、完全に機動力がそがれた緑谷目掛け、爆風を叩きつける構えを取る爆豪。

 

 避けるのは不可能、防いでも片足では踏ん張りが足りず、高確率で場外まで吹き飛ばされる。

 そう判断した緑谷は、一瞬後ろに視線を向けて……

 

(……っ……あそこだ!)

 

 視界に映ったある場所目掛けて、空中から踏みつけるように、無事な足を突き出した。

 その蹴りがなぜかステージの一角に叩き込まれるのと、爆豪のはなった爆風が緑谷を襲うのがほぼ同時。リングアウトほぼ確実の威力が緑谷の体を煽り……

 

 その瞬間、緑谷の蹴りでめくれ上がった、石畳のような形の瓦礫が、その背後で『壁』になり……そこにぶつかることで、緑谷は強引にリングアウトを阻止した。

 

「ハァ!?」

 

「痛っ、だ……でも、セーフ!」

 

『何じゃありゃあ!? 緑谷の背後に瓦礫の壁が……あ、さっきの蹴りか!? つか、今度はアレ轟戦のリングアウト防止の氷壁戦術じゃねーか!』

 

 その『壁』を、両足での『超加速』で蹴って……蹴り砕く勢いで緑谷は跳ぶ。突然の『壁』に驚いた爆豪はそれに反応できず、『流星群』を発動するタイミングを逃してしまい……

 

「うらぁぁあああ!!」

 

 ――ズドォン!!

 

 そこに、空中で両足をそろえた緑谷の、加速の勢いそのままのドロップキックが突き刺さる。一気に爆豪をステージ中央付近まで押し戻す。

 

 だがやられてもただでは終わらない爆豪。爆破の勢いで体勢を変え、攻撃直後ですぐには動けない緑谷を後ろから片手で襟首をガシッと捕まえ……

 

「ん、だ、らぁぁああぁあ!!」

 

 ――ガゴォン!!

 

 大きく後ろに反り返り、さらにもう片方の手の爆破の勢いを乗せて、ステージに叩きつけた。

 

『っどあぁ――ここに来て猛攻の応酬! つか今の緑谷のドロップキックと、爆豪の爆破加速バックドロップ、今度はどっちも栄陽院の技か!? さっきから俺、この大会のハイライト見せられてる気分になってんぜ!? まさしく集大成の戦いって奴だ!』

 

「だ・か・らパクってねえって言ってんだろうがァ!!」

 

「んっ、ぐぅぅ……と、咄嗟に……!」

 

 吼える爆豪、起き上がる緑谷。

 どちらももう相当にボロボロになっている2人を見ながら……相澤は、真剣な表情で彼らの一挙手一投足を見守っていた。

 

(元々使えた切り札だったらしい『超加速』はともかく……緑谷も爆豪も、ここに来て今まで目にしたことのある戦術を『咄嗟に』思いついて使っている。それは確かに『パクリ』ではないが……今まで見てきた、経験してきた戦いが、間違いなく身に、血肉になっている証明でもある。体育祭……互いに競い合い、刺激し合い、向上心にさらに火をつける目的で行われるイベントなわけだが……これは今年は、見てる側にも出てる側にも期待以上の効果が望めそうだな)

 

 ふと観客席に目をやれば、食い入るように見つめ、応援する1-Aの生徒達の姿。

 

 少し離れた位置の1-Bの生徒たちが集まる区域でも、この闘いを見逃すまいと目を皿にしている生徒たちは数多くいた。

 トーナメント出場枠のほとんどをA組が占めてしまったことを悔しく思い、ここから先、一層の飛躍を誓っている者も少なくはないだろう。

 

 心操を筆頭に、ヒーロー科への昇格に意欲を高ぶらせる普通科、

 発目同様、彼らを支え、さらに飛躍させるアイテムを作る意欲に燃えるサポート科、

 戦闘力ではどうにもならない範囲でヒーローと共に歩むビジョンを見据える経営科、

 

 それぞれ形は違うだろうが、間違いなくこの闘いを見て、この大会を通して、己の心を燃やしているはず。

 

 鉄は熱いうちに打て、という格言もある。彼らのこの熱気が冷めないうちに、一層力を伸ばせるように叩いてやるのが自分達教員の役目。カリキュラムを一部組み直す必要があるかもしれない。

 

 教職員席に目をやった瞬間、同時にこちらを見ていたらしい1-B担任、ブラドキングと目が合った。どうやら同じことを考えていたらしい。牙を見せてニヤリと笑う筋骨隆々の同僚を見て、相澤も密かに、この先の学校生活に気合を入れ直していた。

 

 そして、彼ら彼女ら全ての視線が集中する先で……緑谷と爆豪は睨み合う。

 

 互いに既に体はボロボロ。限界ギリギリだ。

 何度も殴られ、蹴られ、爆破され、叩きつけられ……全身傷だらけの満身創痍。どうして倒れていないのか不思議とすら言われそうなほどの風体で立ち会っている2人。

 

 がくがくと足が震え、最早動くこともできないのではないかという状態で……先に沈黙を破ったのは、爆豪の覚悟の咆哮だった。

 

「オォォォオオォォオォオオ!!」

 

 雄たけびと共に、両手を地面に向けて爆発させて飛びあがった爆豪。

 そのまま、上空高く舞い上がっていく姿に、緑谷も観客達も何事かと彼を目で追う。

 

 空高く飛びあがった爆豪は、体を反転させて緑谷の方を向くと……またしても連続で爆発を起こし……それによって超高速で落下を始める。さらには回転まで加わっている。

 

 緑谷は直感した。アレは、間違いなく最後の……とどめの一撃だと。

 

(避ける……無理! もう足がろくに動かないし、かっちゃんなら追尾してくる! 防御? 無理! 爆発の威力に位置エネルギー、回転による爆風の収束……どう考えても今までで一番ヤバい威力になる! 避けるのも防ぐのも無理なら…………こっちも全力をぶつける!!)

 

「はぁぁああぁぁああぁああ!!」

 

 緑谷の体から、今日一番の勢いでスパークがあふれ出す。その輝きは周囲を照らし、彼の髪が鮮やかなライトグリーンに見えるまでになっていた。

 

 爪が皮膚を突き破り、指の骨が折れるかと思うほど力いっぱい拳を握り、右腕に全力で力を籠める。だが……それだけではない。

 

(今までの戦いで酷使しすぎて……かっちゃんの爆破に打たれすぎて、右腕に思うように力が入らない……『100%』を、十分に力を乗せて打てない……このままじゃきっと押し負ける。だったら……思い出せ、強くなるために、一番最初に栄陽院さんから教わったこと!)

 

 すると、緑谷の体が更に輝きを増す。

 迸るその光が、まるで右腕に力を集中させるように流動して見える。

 

(『フルカウル』と同じ……右腕だけじゃなく……右肩……背中……腰……両足……腕と繋がってる体全部を使って、威力を上げる! どこもかしこもボロボロだけど……これなら!!)

 

 今日一番の凄まじい威圧感を放つその姿に、爆豪も、次で全てが決まると悟る。

 自身の出し得る最強の一撃、それをぶつけるにふさわしい緑谷の気迫。

 

 最早、彼の頭の中にあるのは、目の前の敵を打ち砕くことのみ。

 彼が少し前まで、自分が見下していた『無個性』の『クソナード』であったことなど吹き飛んでいる。一時的なものであろうが、それが焦りも迷いもなくし、ただ一撃に全霊を集中させた。

 

 流星のごとく降ってくる爆炎の砲弾を、恒星のごとく輝く緑色の拳が待ち受ける。

 その二つはしかし、お互いを『射程圏内』に収めた瞬間……ぶつかり合うより前に炸裂した。

 

 大気圏で燃え上がり、炎に包まれる隕石のように。その最大の輝きを、

 全く同時のタイミングで……交差させる。

 

 

 

「ハウザァァアァアアア……インパクトォォオオォオオ!!!」

 

「デトロイトォォオォオ……スマァァアァアアッッシュ!!!」

 

 

 

 その瞬間――世界から、音が消えた。

 

 2つの極大の一撃がぶつかり合い、ステージが崩壊するほどの大爆発に変わる。

 

 爆発の規模自体は轟の空気膨張ほどではないが、全てを込めて放たれた互いの一撃は、局地的には本当に破滅的な威力の爆風を発生させており、ステージの上にはクレーターができ、ステージ自体も鏡開きをした後のように、中心から亀裂が入って粉砕されていた。

 

 吹き飛ばされそうになりつつも、どうにか踏みとどまったミッドナイトが確認すると……その上には、誰の姿もない。

 

 左右に目を走らせると、完全に場外……というよりも、どちらもスタジアムの壁に叩きつけられてずり落ちたとしか思えない位置に、緑谷と爆豪が倒れていた。

 

 すぐさま、セメントスと2人でそれぞれ駆け寄って確認する。ピクリともしないし、全身ボロボロだが、少なくとも息はある。すぐに命に関わるようなこともなさそうだった。

 そのことにほっと一息つきつつ……ミッドナイトは声を張る。

 

「緑谷君、爆豪君共に場外! よってこの勝負引き分け! 決着は双方の回復を待ってつけることとします! 医務室へ!」

 

 

 ☆☆☆

 

 

「……すごかったな」

 

「ああ……マジですごかった」

 

「うん、すごかったねー……」

 

「すごかった、つか、すごすぎだろ……あいつら2人共……」

 

「あははは、皆さっきからそれしか言ってないよー」

 

「それしか言えねえんだよ」

 

 なんだか全員、言語中枢がしばらく開店休業してそうな雰囲気の1-A観覧席である。

 

 別に、全力放電後の上鳴ウェイみたくなってるわけではなく、ただ単に……今目の前で見せられた決勝戦のインパクトが強すぎて、言葉が出てこない感じだ。

 舞台の上で交わされた言葉も含めて、まー色々と考えさせられる試合だった。

 

 もちろん、緑谷の雄姿を見れて私も大満足、試合中に雌の顔になってなかったか自分で心配になるくらいの、幸せな時間を過ごせたのだが……それ以上に、皆と同じように……ヒーローの卵として、『火がつく』試合だったな、って思った。

 

「……落ち着くまで時間が要りそうだよな、コレ……なんか、映画一本見終わった後みたいな、満足感というか燃え尽き感というか……」

 

「あ、その表現ぴったりや。ナイス永久ちゃん」

 

「なんかウチ、今日からもっとトレーニングとか頑張れそうな気がする」

 

「あーわかる。何か熱がこもってるよね……胸の奥あたりに」

 

「というかむしろ今からでも走りに行きてえ……つか体動かしてえ」

 

「切島熱血ぅ。けど気持ちわかるな……何でもいいからとにかく頑張らなきゃって気持ちになった……燃え尽きたってより、むしろエンジンに火が入った感じはする」

 

 そんな周りの声を聴いていると、つくづく今の試合ってすごかったなと実感した。

 全力同士のぶつかり合い……あの『戦闘訓練』の時より、何倍も激しく……そして、恨みも焦りも何もなく、ただ闘志だけを胸に、お互いの本当に全身全霊をぶつけあった一戦。

 

 恐らくは、ヒーロー科もそれ以外も関係なく、何かを考えさせられる試合になったと思う。コレで、見る前と後で何も変わらないって奴がいたら……ちょっとどうかってレベル。

 まあ、既に全力で突き進んでいるような人だったらわからんが……少なくとも、見える範囲にいる奴らは、何かしら変わりそうな気配はある。

 

 ふと、観客席入り口付近に……キャリアウーマン姿で、手に持ったバインダーにカリカリと何やら書き込んでいる母さんが見えた。

 すぐにペンは止まり……ふとこっちを見て、にっこり笑ったかと思うと、そのまま出ていったが。

 

(……母さんの仕事の成果も、この分なら十分に生かせそうだな……今年の1年A組は、いやきっとB組もだ、皆ガッツリ強くなる。緑谷や爆豪に負けてたまるかって感じで……。それを考えれば、今日この場に母さんを……『アナライジュ』を呼んだのは、英断そのものだったと言っていい。親だっていうひいき目なしに……あの人は、こういう火をさらに燃え上がらせるのには最強のやり手だ)

 

 そんなことを考えていると、ふと横からこんな声が聞こえて来た。

 

「それにしても……遅いな、アナウンス。緑谷と爆豪が搬送されて結構経つのに」

 

 時計を見ながら、ふと尾白がそんなことを。

 しかし、確かに遅いので、皆それに『そう言えば』と乗っかっていく。

 

「切島と鉄哲の時は、もっと早く発表されたよね、決着方法」

 

「まあ……俺らはどっちも防御力高くて、傷自体は大したことなかったからな……リカバリーガールの『治癒』もちょっとで回復して、体力もほとんど消耗無かったし」

 

「2人、結構酷かったもんね……特に最後のヤバかったし、骨とかイってたんじゃない?」

 

「……そうなると少し不安ですわね。お2人共、特に準決勝からこちら、相当な激戦を経てあそこに立っていました。ケガの度合いにもよるでしょうが、『治癒』に必要な体力は果たして残っているかどうか……そもそも、あの傷では意識が戻っているかも怪しいですわ」

 

「えーそれ大変じゃない? 2人共この後、何かして決着つけなきゃいけないんだしさ」

 

「というか、何で決着つけることになると思う? あの戦いの後で、変なゲームとかで決着なんか付けるようなことになったら、しらけるっつーか……そういうことしてほしくねえんだけど」

 

「俺もそれは思った。けど、想像もつかねえな……それに決着つけねえってわけにも……」

 

(……決着……つけない……?)

 

 と、瀬呂の言葉に私がふいにあることを思いついた瞬間、

 

『レディース・アンド・ジェントルメェン!! 大変長らくお待たせいたしましたァ! 今さっき審判団による協議の結果が出たっつーことだ! よく聞きなリスナー!』

 

 実況席から聞こえて来たプレゼント・マイクの声に、全員の興味がそっちに移った。

 

『さて! 緑谷と爆豪の決着をどうやってつけるのか! そしてそれはいつ始まるのか! 皆聞きたくてうずうずしてる……と思うが、ひとまずそれは待ってくれ、先に報告することがある』

 

「報告……?」

 

 何か心配そうな表情で麗日が呟く。

 

『緑谷と爆豪の容体についてだが……知っての通りうちの学校にはパーフェクトなドクターがいる。だから怪我については問題ねえ、深刻なアレもなくきちんと回復するって見立てだ』

 

 それを聞いてほっとする者が多く出たが、さらに続けるマイク先生。

 

「だが残念ながら、2人共『今日中に』は難しいってよ。今日1日で蓄積しすぎた疲労が多すぎて体力が足らず、勝負できるようになるまでの治療は難しい……簡単に言えば、2人そろってドクターストップだそうだ……このあとやる予定だった、何かしらの『勝負』も含めてな」

 

 今度は『えぇ~~~っ!!』という言葉の大合唱だ。

 その困惑は当然、1-Aの観覧席にも伝わって、というか湧きあがっている。

 

「えっ!? それって……決着つけらんねえってことだよな? どうなるんだ勝負?」

 

「まさか……無効試合とかに……ならないよね?」

 

「あの試合を見せられた後でそんなことになったら、ブーイング殺到だろうし、ないとは思うが……しかしそうすると……」

 

『さて、リスナー諸君はこう考えていることだろう。ならこの今の勝負、一体どうやって決着をつけるのか、と。……そこでだリスナー諸君、ちょいと尋ねるぜ…………どーしても、決めなきゃダメか?』

 

(((は?)))

 

『確かにこれは体育祭! 競い合い、優劣を決めて最後の最後、最高成績を取った者を皆で称えるのが正しい形で、今までずっとそうしてきた。けどなお前ら……今の試合を見てどう思った? 心の中に燃え上がるもんがなかったか? リスナー諸君、アレ見て火がついたりしなかったか!?』

 

(おいおい、まさか本当に……)

 

『てっぺん決めるのも確かに大切さ! だがそもそもヒーローのてっぺんってのは、人々に安心と未来への希望を、社会に平和を与える役目を担う存在だ! オールマイトみたいにな! そして……平和はともかくとしてだ、今の戦いを見て、お前らの中に心を動かされなかった奴がいたか? そしてあいつらが戦ってる最中に……ほとんどの人が思ったんじゃねえか。どっちが勝ってもおかしくないってよ……だったらよ、一字違いでこうなっちまったらおかしいか?』

 

 

 ――どっち『も』勝っても、おかしくない

 

 

『もうどういうことか予想ついてきた奴もいるかもしれねーなあ……! あれだけ見事に人々の心をに火をつけた、卵とはいえ最ッ高に熱いヒーローを、どっちか排斥するようなことがあっていいと思うかよ!? 奇麗事!? 上等じゃねーか、こちとら命張って奇麗事実践するのがお仕事だ!』

 

「おい、それって……」

 

「マジかよ……まさか……!」

 

『繰り返して言うが、あの時のステージ上でのあの2人は紛れもなく『ヒーロー』だった! 己の行動で人々の心を動かし、前へと進む炎を燃やした2人が、ヒーローじゃなきゃ何だってんだ!? いいかリスナー諸君、これは、これが、うちの運営本部が校長まで巻き込んで話して決めた最終決定だ! それが例え、雄英史上一度もなかったような『暴挙』だとしてもな! つーわけで……』

 

 一拍。

 

 

『結果発表! 今年度の雄英体育祭、1年の部優勝は……緑谷出久と爆豪勝己の2名! こいつら両方が同時優勝だ! ルールと枠組みすら覆し、審判団にカッ飛んだ決定をさせたスーパールーキー2名をどうか盛大に祝福してやってくれリスナー! Congratulation Heroes!!』

 

 

 ―――うおおおおぉぉぉおおおおっ!!

 

 

『マジかよ!?』『そんなのアリ!?』『いやアレは確かにそうなってもしょうがないって!』『鳥肌立った……』『やべえすげえ試合見ちゃった』『聞いたことねえこんなの! でも熱い!』『どっちもおめでとー!』

 

 大歓声が響き渡るスタジアムはしかし、一様にこの『暴挙』を歓迎し、祝福していた。

 

 彼ら一般客よりも、緑谷と爆豪に近い位置にいる私達1-Aは、しばし唖然としているしかなかったが……じきに再起動するだろう。したらしたで大騒ぎになるだろうが。

 

『なお、表彰式はこの後少し時間をもらってから開催するぜ! 何せこの結果だ、表彰台もちとデザイン変えなきゃいけねえからよ! それと緑谷と爆豪だが、特別な点滴とうちの養護教諭の治療で、どうにか動けるようになるまでもう少しかかるからそれも待ちだな! それまでレンズ磨いて準備しとけやマスメディア! あとそれから準決勝出た残り2人……轟と栄陽院! お前らも出番来るから準備しろよ!』

 

 マイク先生の言う『特別な点滴』ってのの正体には大体予想はついたが……その後に続いた言葉ではっとした。

 やば、普通に表彰式見るつもりでゆっくりここに座ってたわ……私出るじゃん。とりあえず控室行っとけばいいかな……

 

 しかし、ホントすごいことになっちゃったな、今回の体育祭……。まさか、同時優勝なんてことになるとは、読めなかった……この私の目をもってしても。

 

(まあ何ていうか、予想とはだいぶ違う形になっちゃったけど……おめでと、緑谷)

 

 後で直接言ってやろうと思いつつ、私は轟と一緒に、準備のために控室へ向かうことにした。

 

 

 

 




今回、大分カッ飛んだ形で終結させたなあ、と自分でも思います。こんな結末、ヒロアカSSでも、少なくとも作者はまだ他に見たことないし……
『いや決着はつけようよ!』とか、しっくりこない方にはすいません。でも、ここまでやらせたらこれもひとつの形かな、って作者は思っちゃいました。

次回、体育祭クライマックスです。

この世界のデクとくっつけるなら誰?

  • 永久(オリ主ルート)
  • 麗日(原作メインヒロインルート)
  • その他
  • ハーレム(英雄色を好むルート)

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