TSから始まるヒロインアカデミア   作:破戒僧

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第38話 TS少女と表彰式

 前代未聞。まさかの『同時優勝』。

 

 まあ……オリンピックでそんなもんがまかり通るとは思えないし、マイク先生が言ってた通り、ある種の『暴挙』なんだろうが……あれだけの熱気の試合を見た後で、妙にテンション上がってノってしまっていた観客たちは、寛容と言うかなんというか、大歓声でそれを受け入れた。

 

 運営側からすれば、あの戦いで最高にスタジアムが温まってるところに、中途半端なミニゲームで決着を持ってきて、場が冷めるようなことをしたくないって思惑もあったかもだが。

 

 かくいう私としても、今回の結果には一応納得いっている。

 あの場で見せてもらった戦いは、本当に……『もうどっちも優勝でいい』とすら言えそうな名勝負だった……ああ、思いだしたら顔がまたにやける……気張れ、私の表情筋!

 

 そんなわけで、両脇に3位の台が2つあり、真ん中に1位の台が2つあるという変則的な表彰台を舞台に、ようやく表彰式が始まろうとしております。

 

 よく見るような『凸』な形のそれではなく、それぞれの立つ台が、円柱型で独立しているものだ。

 こういうもんを即興で用意できるあたり、セメントス先生ホント重宝するな……今日はもう何回も大仕事させちゃったわ。お疲れ様でした。

 

 …………ただ、さっきは観客も含めて皆、この終焉の形に納得してるって言ったけど……1人、納得してないのがいるんだよなあ……

 

 ……表彰台の真ん中、その片方に。

 

「■■■■■~!!!  ■■■■■゛~!!!」

 

「…………」

 

 2つ並んだ1位の台、その片方に立っているのは、こちらは普通に静かにしている緑谷だ。

 リカバリーガール……と、恐らくはうちの母という名の点滴によって、最低限普通に動けるまでには治癒されているものの、全身あちこちに包帯を巻いており、右腕にはギプス。

 

 痛々しいと見るか、名誉の負傷と見るかは人それぞれだろう。

 

 で、問題はもう1つの方に立ってる爆豪なんだが……立ってるというか、立たされてるというか、むしろ括り付けられてるというか……

 

 うん、なんかこの『2人優勝』って結果に納得いってないようでさ……治療終わって起き上がるなり暴れ出したらしいんだ。緑谷と決着つけさせろって。

 けど、かなりアレな大怪我だったのは本当だし、この上回復して更に戦わせるってのも絵面アレだし……あともうマイク先生発表終えちゃってたし、そんなのは無理だった。

 

 が、いくら言い聞かせても聞かないので、最終的にこのスタイルに落ち着いたのだ。

 『落ち着いて』はいない、とか言ってはいけない。

 

 全身に対凶悪(ヴィラン)用らしい拘束具を装着され、さるぐつわまで噛ませられ……挙句の果てに、セメントス先生特製のコンクリの柱に鎖で括りつけられて表彰台にそのままセットされている。

 というか、よく見ると強度を保つために、柱を始めとした拘束設備が表彰台と一体になっているのがわかる。何ちゅう改装加えさせてんだよお前……。

 

 そんな爆豪は、くぐもってて何言ってるかわからないけど、緑谷にヘドバンよろしくぶんぶん頭を振って、視線で殺さんばかりの目で睨みながら唸り、暴れ続けている。

 

 必死でその隣で目をそらし、知らないふりをしている緑谷。すごい居心地悪そうだ……。眼下に並ぶクラスメイト達の顔に、同情あるいは恐怖(爆豪への)の表情が浮かんでいるのがよく見える。

 

 しかしさすがにそれも限界だったのか、おそるおそる、って感じで、

 

「か、かっちゃん、もうそろそろそのへんで……ね? お、落ち着いて、もう表彰式始まる……」

 

「■■■■■~!!!  ■■■■■゛~!!!」

 

「いやその、そんなこと言ったってもう決まったことだからさ。いいじゃない、2人とも頑張ったんだし……その、僕は嬉しいよ?」

 

「■■■■■~!!!  ■■■■■゛~!!!」

 

「えぇ!? そ、それはでも、そんな……」

 

 ……何で会話が成立してんだろ。

 

 何度聞いても、およそ人の言語になってるとは思えない雑音しか聞こえてこないんだが……緑谷って超パワーの他に言語翻訳の個性とか持ってたっけか? あるいはテレパシーとか。

 

 轟にちらっと視線を向けてみるも、返ってきたのは首を横に振るジェスチャー。やはり奴にも、爆豪が何を言っているかはわからないらしい。

 

 そしたら今度は、爆豪は……なぜか私や轟に対しても、殺気の乗った視線と謎言語の咆哮を叩きつけてくる。もちろんヘドバン付きで。

 

「■■■■■~!!!  ■■■■■゛~!!!」

 

「えっと、それはホラ、轟君も色々事情があって……あ、あんまりそう言うのに踏み込むのよくないよかっちゃん、個人の考えなんだから!」

 

「■■■■■~!!!  ■■■■■゛~!!!」

 

「うぇっ!? そ、それは……その……うん、僕も試合では生意気なこと言っちゃったから、後でちゃんと轟君には謝らなきゃって思ってたけど……」

 

「いや、気にしないでくれ緑谷……お前のおかげで、色々と思いだしたり、気付いたりすることができた。むしろ……俺の方が礼を言いたい気分だ」

 

「そ、それは、そんな大したこと……って……ちょっとかっちゃん!」

 

「■■■■■~!!!  ■■■■■゛~!!!」

 

「だ、ダメだよかっちゃん! お、女の人に対してそんなこと言ったら……テレビ映ってるんだよ!? ごめんね栄陽院さん、かっちゃん、その……悪気があるわけじゃないんだ、ただ敵意とか殺意とかその他諸々があるだけで……あと、自分にも他人にもすごく厳しいだけで……」

 

「うん、そろそろツッコミ我慢するの限界になってきたわ。緑谷何であんたその謎言語解読できてんの? てか今私爆豪に何言われたん? 結構気になる。つかむしろ通訳して」

 

 緑谷が顔色変えて止めてたところからして、放送禁止用語や差別用語でも飛び出してたんだろうか。

 あと、悪気はなくても敵意だの殺意だのがあるってそれ十分に問題だと思うのですが。

 

 しかし、その話が先に進むより早く、主審のミッドナイト先生の声が響いた。

 

「さあ、それじゃあいよいよ表彰式を始めちゃうわよ! 今回メダルを授与してくれるのは……もちろん、この人!」

 

 その瞬間、スタジアムの屋根から、大柄で筋骨隆々な人影……オールマイトが飛び降り、表彰台の前に着地して現れた。

 

 

「私が! メダルを持ってき――

 

「我らがヒーロー、オールマイト!!」

 

――きた、のに……」

 

 

 そして、打ち合わせ不足だったのだろうか、とても悲しいことになってしまっていた。

 

 雄英高校、何でもかんでも行き当たりばったり、勢いで行動し過ぎると思うんだよなあ……入学式バックレさせて体力テストさせる担任とかいるし、オールマイトも通勤途中とか人助けしてて、しょっちゅう授業遅れてくるし。

 

 手を合わせて、軽い感じで『カブった、めんご!』みたいに謝罪するミッドナイト先生。

 それに何か言いたげではあったものの、気を取り直してオールマイトはメダル授与に移る。介添え――メダルとか賞品乗っけたお盆持つ係の人――はミッドナイト先生がするようだ。

 

 ……しかし、きっちり金メダル2つ用意されてる。予備でもあったのかな?

 

「轟少年、おめでとう!」

 

 まず、3位の轟から。

 表彰台より少し低い位置に立っていながら、それでも轟を見下ろす体格のオールマイトに、頭を下げてメダルをかけてもらう轟。

 

 その際に、『顔が以前と全然違う』とか、『清算しなきゃいけないものがまだある』『俺もあなたのようなヒーローになりたいと思った』とか、いくつか話していたのが聞こえた。

 あまり要領を得なかったのでよくわからなかったが、何やら緑谷との戦いの中で、色々と考えさせられるものがあったようだ。

 

 オールマイトも『深くは聞くまい』と言っていたので……気にはなるが、少なくとも心配することはなさそうだ。

 

 ハグして祝福される、憑き物が落ちたような表情の轟を見て、気付けば緑谷も笑っていた。

 

 続いて、同じく3位の……私だ。

 

「おめでとう、栄陽院少女!」

 

「ありがとうございます!」

 

「ははっ、元気がいいな! ……しかし、今言うことじゃないかもだが、君は本当に背が高いな……私が見下ろせない女子ってなかなかいないから少し新鮮だ」

 

 オールマイト220㎝に対し、私192㎝(確か)。まあ30㎝差はあるが、確かにあまり見ない身長だろうなあ……表彰台の分と合わせると、ほとんど目線の高さ合っちゃってるもんな。

 私自身、異形型以外で私より背が高い女の子には会ったことないし。

 

「恵まれたフィジカルに頼りきりにならず、テクニックに洞察力、そして最後まであきらめないガッツ! 『個性』も含め、君の並々ならぬ努力の積み重ねを見た気がするよ。ただもうちょっと、慎みを持つというか、自分の容姿に無頓着なところは直したほうがいいかな、HAHAHA」

 

「ははは……よく言われます。幸いクラスには私より女の子らしい子がいっぱいいるので、これから課題として学んでいこうかなと。……女なのにそれを学ばなきゃいけないあたり、すでにどうかと思うところですけど」

 

「そんなことはないさ! 君の成長を楽しみにしているよ!」

 

 ハグするのは少し恥ずかしい……かと思ったが、そんなことはなかった。

 むしろ、ぽんぽん、と背中を軽くたたかれるその感じに、安心するというか……まるで、父親のようなぬくもりを感じた。

 

 ……私の『今の』父親は、いい人だけど、そういうイメージとは大きく違うから……どこか懐かしく思いつつも、新鮮な感じだった。

 

 続いて……

 

「さあ、緑谷少ねうおぉぉおい!? 泣くな泣くな! これからだってのに!」

 

「はい゛っ、オ゛ールマ゛イ゛ト!!」

 

 メダル掛けられそうになって感極まって泣く緑谷の図。

 

 人間の涙腺の限界を明らかに突破しまくっている勢いで溢れ出している涙。コレで『個性』とかじゃないってそっちの方がすごい気が……ていうか、割と本気で脱水症状を心配する量だ……オールマイトもちょっとびくっとしてたぞ。

 

 下の方からは『しまらねえなあ……』『決勝戦での熱さはどこへ……』『ええやん、いつものデク君で安心する』なんて声が聞こえる中、HAHAHAと笑ってオールマイトはメダルをかける。

 

「体育祭を通して見せてもらったよ。君の力も、成長も、そして何より……戦いの中にあってなお輝く、君のヒーローとしての在り方を! それを眩く思ったのは、決して私だけではないはずだ!」

 

 ガッツポーズと共にオールマイトの口からそう言い放たれた瞬間、緑谷の横で、爆豪と轟がぴくりと反応したのは……気のせいじゃあるまい。

 

 緑谷は、黙って聞いている、というか……感激で上手く言葉が出ないようにも見える。

 

「あえて多くは語るまい! ただ、これからも君の目に映っている未来へのビジョンを手にするためにがんばってくれたまえ! いつの日か、私もこの目でその世界を見ることができる日を、楽しみに待つことにしよう! あらためておめでとう、緑谷少年、君が優勝だ!」

 

「……っ……はい! ありがとうございます、オールマイト!!」

 

 首元に光輝く金メダルの重みを感じながらだろう、緑谷は、今度こそは涙をこらえて、笑顔でオールマイトの祝福とハグを受けとめていた。

 

 ……そしてとうとう、順番は最後……もう1人の優勝者に移る。

 

「さて爆豪少年……っと、こりゃあんまりだな」

 

 流石にメダル授与の時になってまで拘束具はあんまりだと思ったのか、カポッとそれを外すオールマイト。ようやく爆豪の口元、というか顔全体がカメラに映ったことだろう。

 

「伏線回収見事だったな、優勝おめでとう!」

 

「いらねぇ!!」

 

 突如叫ぶ爆豪。しかし半ば予想してたのか、オールマイトに動揺はない。

 

「意味ねえんだよ、オールマイト……こんななあなあの形での、決着にすらなってない1位なんて……! 誰にも何一つ文句言わせねえ、俺が満足いく1位じゃなきゃだめなんだよ……!」

 

 ……顔すげえ……。

 歯をむいて、眼がありえないくらいに(角度的に、顔の輪郭的に)吊り上がってる。正直怖い。大丈夫だろうかテレビ映り……子供泣くぞコレ。

 

 『爆豪って異形型だっけ?』『緑谷と同じで遅咲きの個性が今……?』『んなアホな』……下の方から聞こえる会話。もっともな感想だと言わざるを得ないが。

 

「大したものだ。常に相対評価にさらされるこの世界、不変の絶対評価を己の心に持ち続けられる者はそう多くない……だが1つ訂正しとくぞ爆豪少年。あの見事な試合を見て、『なあなあ』なんて言葉が出てくる奴はいないさ!」

 

 そこでオールマイトは、一瞬ちらっと緑谷を見て、

 

「君と緑谷少年、その魂のぶつかり合いは、加減も横着もない、正真正銘の全力同士の戦いだった

……それは、戦っていた君が一番よくわかっていたはずだ。君にとっては、どちらか1人に勝者が決まらないなんて中途半端に思えるかもしれないが、燃え尽きんばかりに戦った君達『2人』に、このメダルがふさわしいと思われたからこそ、こんな形の表彰台が今あるんだよ。なあなあなんかじゃない、今日1番輝いていたのが、本当にあの時、あの場での君達2人だったんだ! 君がそう思うなら、傷としてでも構わないさ、次へつなげるために……受け取っとけよ爆豪少年!」

 

 そう言ってメダルをかけようとするオールマイトだが、あくまで爆豪は『いらねぇっつってんだろが!』と、めっちゃのけぞるような形で、首にメダルをかけられまいと抵抗した。

 

 仕方ないな、とため息をついて、オールマイトは爆豪の後ろのコンクリの柱を……拳でちょっと小突いて真っ二つに割り、それでできたスペースを使ってメダルをかけてしまった。やだ、豪快。

 

 そのままハグまで決めて……それを見ていた皆が『マジかよ』って表情になっているまま、最後に、正面のカメラに向き直る。

 

「さぁ皆さん、今回は彼らだった! しかし! この場の誰もが、ここに立つ可能性を持っていた! ご覧いただいた通りだ……競い、高め合い、さらに先へと昇っていくその姿! 次代のヒーロー達は、確実にその芽を伸ばしている!」

 

 気負うことなく、言葉を素直に受け止めて前を見る私達4人。眼下にいるクラスメイト達もそうしているようだ。

 

 表彰台のてっぺんに立つ2人……緑谷も、涙を拭いて覚悟の炎が燃える目で。

 爆豪も、今は不本意だろうが、次こそは絶対に完膚なきまでに勝つという、という決意の目で。

 

 どっちにしても……未来を見据えたいい目じゃないの。

 

 うん、いいじゃん! こういう終わり方もさ!

 

「てな感じで最後に一言! それではみなさん、ご唱和ください……」

 

 

 

「「「Plus Ul「お疲れ様でした!!」」」」

 

 

 

 ……あーあ。だからさあ……

 

「そこは『Plus Ultra』でしょオールマイト!」

 

「あ、いや……疲れただろうなーと思って……」

 

 

 

 本日の教訓。

 何事もリハと段取りは大事。

 

 

 

 その後、折角だからってクラスの皆で記念写真撮ったりした。

 1-Aで表彰台独占したお祝いみたいなのもかねて、まず入賞した4人で。

 

 爆豪がさっさと帰ろうとしたけど、力ずくで参加させて。体力足りてないから楽だった。

 

 一番体が大きい私が爆豪の肩をつかんで抑えながら、恥ずかしそうにする緑谷を抱き上げて、ちょっとどうしたらいいかわからなさげな轟も引き寄せて、なんか家族写真みたいになった。でも、あったかいドタバタ感があって割と好きな感じに撮れた。

 

 その後クラス全員で記念写真。まさかの相澤先生も参加。マイク先生が連れてきてくれた。

 

 嫌そうにしながらも、どうにか言いくるめて……セメントス先生にも協力してもらってひな壇作って写真撮った。なぜか横から、マイク先生とミッドナイト先生も飛び入り参加してきたが。

 

 ……撮る時になって気づいたんだが……飯田、早退したせいで一緒に写れなかったな……残念だ。家の用事だって言ってたらしいが、真面目なあいつが体育祭途中ですっぽ抜けて行くなんて……一体どんな用事だったんだろうか。

 

 そのあと教室に戻り、相澤先生から今後の予定について連絡を受けた。

 明日・明後日は休校。

 加えて、体育祭の話を聞かされた時に一緒に言ってた、『プロからの指名』についても、学校側がまとめて、休み明けには発表されるとのこと。

 

 休みが明けたら、また新たな課題へのチャレンジが私達を待っているようだ。

 

 それまでは言われた通り、ドキドキしながらゆっくり休むこととしよう…………

 

 

 

 

 

――♪~~♪ ♪~~♪

 

 

――着信

  from『栄陽院 豊(父)』

 

 

 ……と、言いたいところだが、この休日2日間も……色々やることありそうなんだなあ。

 

 はいもしもし……はい、はい、わかりました、明日……本家で。

 それと1つお願いが。明後日とかなんですが……ええ、はい……ありがとうございます。

 でわ。

 

 電話を切り、クラスの皆が解散していなくなってしまう前に……お目当ての人物の所へ行き、こっそり耳元で用件を伝える。

 

「緑谷」

 

「え? あ、栄陽院さん……何?」

 

「明後日の昼からなんだけどさ……空いてるかな?

 

 

 

 ……体育祭、優勝したご褒美……欲しくない?」

 

 

 

「……ふぇっ!?」

 

 

 

 




Q.なんで爆豪へのメダル授与、原作と違って口にじゃないの?

A.緑谷には首にかけてるんだからおそろいにしたいじゃない。せっかくの同時優勝だもの。

この世界のデクとくっつけるなら誰?

  • 永久(オリ主ルート)
  • 麗日(原作メインヒロインルート)
  • その他
  • ハーレム(英雄色を好むルート)

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