今回、久々に作者の悪癖である『クロスさせたい病』が久々に猛威を振るっています。苦手な方ご注意ください。
いわゆるお祭り回なので、あんまり深く考えずにお楽しみ下さい。
あとまあ、クロス先が分かんないって人は……そのまま普通にお楽しみください。
Side.緑谷出久
「ごめんな緑谷、今日はホントにお祝いだけのつもりだったのに、あんな話に付き合わせてさ」
「そんな! むしろ僕の方が感謝したいよ……僕なんかを、あんなすごいプロジェクトのテスターに選んでくれて……ヒーローとして強くなるために必要なこと、全面的にバックアップまでしてくれるって言ってもらえたんだからさ……むしろ、普段からお世話になり過ぎっていうか……」
「あーだからそれに関しては何も気にしなくていいって……いや、まあ、緑谷が喜んでくれるんであれば、私としてもありがたいというか、嬉しいけどもさ……元々そのためにうちの事業を使うことを検討してたわけだし(ぼそっ)」
展望カフェで聞かされた、ヒーロー強化プラン『デウス・ロ・ウルト』。
そのテスターとしての勧誘を、僕はその場で受けることに決めた。
強くなるために、貪欲に、出来ることは全部やったほうがいい。いや、やりたい。
育乃さんの口から『オールマイトに代わる、次代の英雄の必要性』を説かれて……改めて僕は、僕が背負うべきものの大きさを、そしてそれが差し迫っていることを再認識した。
だからこそ、一日でも早くそこに、求められている強さに至るために……全力で鍛えなきゃ。
よく知りもしない他人が突然持ってきた話なら、こんなうまい話があるはずないって疑ったところだっただろうけど……栄陽院さんのお姉さんなら信用できる。
それに、『栄陽院コーポレーション』自体も、様々な事業で知られる有名企業だ。それ自体への信用も、実績もある。だから、そこが主導でやってくれるバックアップなら、むしろ心強い。
ただ、その場で契約とかそういうのをするわけじゃなく……一旦持ち帰って考えてくれていい、って言っていた。そのために必要な資料とか色々渡してくれて、ゆっくり家で読んでくれって。
なんでも、昨日急に僕に会うことを決めた関係で、あっちも色々準備する書類とか足りてないらしくて……そんな急に決めたのか。フットワーク軽いな、大企業の重役なのに。
なので、今日はこの説明だけして一旦解散。
これ以上のことは、しばらく準備に時間かかるから、日を改めて話を進めようってことになった。その際の話し合いの場所には、栄陽院さんの家、というか部屋を使うって。
僕自身も、こういう事業に参加するってこと、オールマイトや相澤先生なんかに相談した方がいいだろうしね。
そういうわけで、彼女のお姉さん達――厳密には『お義姉さん達』だそうだけど……色々複雑な事情があるらしい――2人との話はこれで終わり、ということになった。
そして、その別れ際、
『今日は突然、こんな話を持ってきてしまって、驚かせてごめんなさいね? お詫びと言っては何だけど……この後、体育祭優勝の『ご褒美』、たっぷり楽しんでちょうだい』
『私達も、ちょっと色々内容に協力させてもらったから、満足してもらえると思うわ。そんじゃ、心行くまでごゆっくり~♪』
そんなことを言い残して、2人は僕が乗せられてきたのと同じ形の、黒塗りの高級車に乗って、ホテルを後にしていた。
その時になって僕は、ようやくと言うか今更と言うか、今日は僕は、栄陽院さんプレゼンツの『ご褒美』のために呼び出されたんだった、と思いだして……今更ながら別な緊張がよみがえってきたのだった。
そこからの半日、僕は栄陽院さん(と、彼女のお義姉さん達)が用意してくれた、いろんな施設で、めくるめくひと時を過ごした。
こんな、こんな、夢のような素晴らしいひと時を過ごせるなんて……生まれて初めてかもしれない、こんな『贅沢』なひと時を過ごさせてもらったのは……心身ともに満たされた感じだ……
前のマッサージみたいに、ひょっとしたらちょっとどころじゃなく刺激的な世界に連れ込まれるんじゃないかとか、警戒してた、邪な考えを持っていた僕を殴りたい……。
帰りのリムジンの中で、僕は心地よい満足感に包まれて……来るときは緊張しかしていなかったふかふかのソファで、ゆっくりリラックスして座っていた。すばらしいこの日を、思い返しながら。
昼食は、ホテルの近くのレストランでとった。
個室だからあんまりテーブルマナーとか気にしなくていいし、好きなように食べていい、って。依然としてドレスコードはあるけど。
こういうレストランって、なんかこう……細工物みたいに奇麗に整えられた、けど量が少ない料理とかがでてくるイメージだったんだけど、そんなことはなく、普通の料理だった。
というか、こういうレストランで、僕の好物の『カツ丼』が出てくるとは思わなかったんだけど。
ただのカツ丼じゃなくて、なんとかっていう高級な食材を使って、一流の料理人が作った『高級料理としてのカツ丼』だそうで(聞いたことないフレーズである)……すごくこう、事前説明通りの、むしろそれ以上の美味しさだった。
外側の衣はサクッと快音を響かせ、中の肉は歯ごたえは残しつつも、舌の上でトロッと崩れてとろけて……よく絡んだふわとろの卵や、甘く煮込まれつつも歯ごたえのある玉ねぎとのハーモニーが……。ご飯はふわっふわで、肉や卵との相性も抜群。
何だコレ、カツ丼にこんな領域があったのか、ってくらいに感動的だった。というか、これはホントにカツ丼なのかと思ってしまいそうなほどだ。
付け合わせの漬物やみそ汁も、本来はそのへんの定食屋とかで食べるような料理のはずなのに、どうやってこんなハイクオリティに仕上げてるのか……食材から厳選してるからだろうけど、ぶっちゃけ、食堂のランチラッシュ以上のそれじゃないかっていう美味しさだった。
そんな風に感動しながら食べる僕の隣で、にこやかに笑いかけながら、ドレス装備の栄陽院さんは、お嬢様らしく上品に食事を……なんてことはなく、僕と同じように、普通に自由に食べていた。
彼女の方は、山盛りの……オムライス? デミグラスソースかかってる奴。
卵何個、ご飯何合使ったんだってくらいの。まごうことなきデカ盛り。付け合わせにソーセージとかポテトフライとかこれでもかってほど盛られてる。
それを、大きなスプーンで美味しそうに食べている。テーブルマナーとか特に気にせずに。
大分量に差があったように見えたのに、僕と彼女が食べ終わったのはほとんど同時だった。
「ここの料理、美味かったろ、緑谷? ここ、私の数少ないお気に入りの高級レストランなんだ。量も多いし、普通の庶民派的な料理やB級グルメも扱ってるし、個室だから堅苦しいテーブルマナーとかも気にしなくていいからさ」
「ああ、そういうことだったんだ……いや、ホント美味しかった。ありがとう、栄陽院さん、こんな美味しい店で食べさせてくれて。正直、食堂で食べるランチラッシュのご飯よりも美味しかったかも……」
「ふふふ、まあ、そうだろうねえ……今日は、特にね」
「え?」
ふと見ると、なぜか栄陽院さんは……頬杖をついてニヤニヤと笑ってこっちを見ていた。え、何だろ……僕、何か変なこと言ったかな?
ええと、『ランチラッシュより美味しい』って言って、『そうだろうねえ』って……どういうことだ? ここの料理が、ランチラッシュの料理より美味しいのは当たり前だ、とでも言いたそうな……というか、何か今まさにいたずらに成功した子供みたいな顔になってる気が……
なんてことを考えていたら、向こうの方の……恐らくは調理場から、誰かがこっちにやってくるのが見えた。えっと……なんか、小さなシルエットの、お婆さんみたいな……え?
え? え!? えぇぇええぇえええ!!?
「あ、あなたは……」
「ごちそうさまー、今日も美味しかったよセツ婆!」
「はいはい、お粗末様。毎度残さずきれいに食べてくれるのう、永久ちゃんは」
「セツ婆、って……や、やっぱり!? クックヒーロー『せつのん』!? もうずいぶん前に引退したって聞いてたのに……何でここに……?」
ピンク色の髪に、曲がった腰、温和そうな顔つき、間違いない!
ランチラッシュ以前から、何十年もクックヒーロー界のトップに君臨し続けた伝説のコックだ! ホント、何でここに!? 引退後ここに勤めてたの!?
「話すと長いんだけど、『
「やれやれ、ちゃっかりしおって。まあでも、子供の頃から知っとる永久ちゃんにいい人ができた記念とでも考えれば、いい機会だったかもしれんの」
そうなの!? すごい! 伝説のコックが作った料理なんて、道理で美味しかったはずだよ……感動的!
余りの喜びに、なんか今ツッコミどころがあった気がするけどスルーしちゃう!
「っていうか、栄陽院さん! それならそうと教えてよ!? そしたらもっと味わって食べたのに!」
「いーや、事前に教えてたら緑谷の場合、緊張で味がろくにわからなくなってた可能性の方が高い」
「そ、それは確かにそうかもしれないけど……で、でも、『国宝級』とまで言われた料理を、あんな普通な感じで……もったいない……」
「これこれ、若いの。そんな風に考えずともよい。料理人はの、作った料理を美味しく食べてもらって、笑顔で『美味しい』と言ってもらえるのが一番うれしいんじゃよ。それだけで十分なんじゃ」
そう言って、柔和な微笑みを向けてくれる節乃さん。おお……すごい説得力というか、言葉の重みみたいなのが……けど、すごく安心できる、優しい雰囲気だ。
「ふふふ……それに、国宝だの伝説だの、そんな堅苦しくせんでよいぞ、普通に『せつのん』で」
「あ、ありがとうございます……で、でも、いくらヒーローネームとはいえ、そんな同級生みたいな呼び方って少しその……」
「誰が同級生じゃクラァ馴れ馴れしい!」
そこはダメなの!? 沸点わかりづらい!
そのまま少し話した後、『2人共雄英じゃろ? リカバリーガールの奴によろしくの』って言い残して、せつのん(やっぱ呼び方違和感……)は厨房に引っ込んでいった。昔馴染みなんだって。
び、びっくりした……いきなりすごい、引退したとはいえ大物ヒーローに会っちゃった……。
やっぱり、さっきの栄陽院さんのニヤニヤ笑いはそういうことだったんだな……っていうか、ちょっと待って? ひょっとして栄陽院さん、今日……
「普通にお金使うだけの『贅沢』よりもさあ……緑谷へのお祝いは、こういう形でやった方が喜ばれるんじゃないかな、って思ってたんだよ。どうやら、あたりだったっぽいね」
「じゃ、じゃあやっぱり、これから……」
「そういうこと。今日これから行く先々、元含め、色んなプロヒーローがいるとこで贅沢な時間を過ごさせてあげるから……たったの半日だけど、じっくり堪能しなよ、緑谷?」
「~~~~!!!(声にならない声)」
食事の後は、生まれて初めて……『エステサロン』というものを体験することになった。
男の僕が、こんな場所に来ることになろうとは……夢にも思わなかった。
マッサージとかする関係で、前みたいにまた薄着で……従業員だっていう若いお姉さんたちに囲まれているのは、ちょっとどころじゃなく緊張してしまった。
しかも、今度は栄陽院さんも一緒で、彼女も当然ながら、下着みたいに薄くて頼りない服装で同じ空間にいるもんだから、もう色々とヤバかったんだけど……その少し後、『彼女』が来てからは、別な意味で興奮がどうしようもなくなってしまった。
「ごめんごめん、遅くなっちゃった! いやー、久しぶりね永久ちゃん!」
「お久しぶりです、ビスケさん、今日はよろしくお願いします!」
「はいはい、よろしくしちゃうわさ! っと……こっちは永久ちゃんの言ってたお客さんってわけね。雄英体育祭、今年の1年の覇者、緑谷出久君ね?」
「は、はい!? あ、あの……美容ヒーロー『ビューティービスケット』ですよね?」
ピンクのゴスロリっぽいファッションに身を包み、頭の後ろで金色の髪をまとめた……見た目は中学生くらいにしか見えない、小さな女の子。
しかしその正体はプロヒーローであり、このエステサロンのオーナーだ。
「あら、よく知ってるわねえ、あたしみたいなののことまで……聞いてた通りのヒーロー好きってわけだ。ふんふん……んん、よく鍛えられてるわね、これはやりがいがあるわさ」
ぺたぺたと僕の体を触って、筋肉やら何やらのつき方を確認していくビューティービスケット。
プロヒーローにして、美容健康業界の第一人者でもある彼女のエステの腕は超一流。さらに普通のエステのみならず、整体や接骨治療、栄養指導まで、美容と健康にかかわることならなんでもござれの知識と技術を持つ。弟子入りを志願する人が後を絶たないっていう話だ。
そんな人の施術を受けられるなんて……光栄だし夢みたいだ。邪な気持ちなんて吹っ飛んだ。
「ふふふ……若い子の体、引き締まった筋肉……いいわね(じゅるり)」
……ちょっと不穏な空気を感じないでもないけど……
「でも、私以前に手が加えられた形跡が少しだけあるわねえ……コレ、永久ちゃんでしょ」
「あ、わかります?」
「わからいでか。あなたにマッサージ仕込んだのは誰だとお思い?」
「え!? 栄陽院さんのマッサージって、ビューティービスケットが指導したんですか!?」
「んー、まあ、基本的なところは母さんから教わったんだけどさ……その母さんも、ビスケさんの指導で覚えて使えるようになったって言ってたから……親子二代にわたって弟子、みたいな?」
「そ、そうだったんだ……すごい……」
道理であんな見事な、とろっとろになるほどのマッサージができたわけだ。
個性使ってとはいえ、僕の体がここまで動くようになるほどに……
「ま、私に言わせりゃあんたら親子そろってまだまだだけどねえ……免許皆伝には程遠いわさ。卒業したらうち来ればいいのに、そしたら1から100まで美容と健康の髄を叩き込んでやるわよ?」
「あははは……ありがたいですけど、私が目指すルートとはちょっと違うかなって」
「見込みあるのにつれないわねえ……なんならインターンとか、今度の『職場体験』でもいいから、ちょっとこういう現場の空気に触れるくらい考えてもらえないかなー。指名出しといたから」
……? インターンに、職場体験って……何だろう?
聞こうかと思ったけど、それより前にビューティービスケットの手が、うつぶせに寝ている僕の背中のあたりにぽん、と触れたので、どきっとして口を閉じてしまった。
「さ、それじゃ始めるわよ……リラックスして、私に全て委ねてくれていればいいわさ。ビスケちゃんのマジカルエステ、ご堪能あれ……♪」
この後、2人そろって滅茶苦茶とろっとろにされた。
その後に行ったのは、劇場。
映画館じゃなくて、舞台演劇である。
「俺の財宝か? 欲しけりゃくれてやる……探せ! この世の全てをそこに置いてきた!」
「海賊王に、俺はなる!」
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!」
「お前はもう、死んでいる!」
「わが生涯に一片の悔いなし!」
ああ、なんて幸せな時間……短めの演劇とはいえ、3本も続けて見ちゃった……。
演劇自体の完成度もさることながら、出演している俳優のプロヒーロー達が……!
プロレスヒーロー『マッスルマン』、イケメンヒーロー『アマイマスク』、隈取ヒーロー『自来也』、ドッペルヒーロー『パンドラズ・アクター』……その他にも、若手からベテランまで、色んな劇団所属のアクター・アクトレスヒーローが……!
しかもその後握手会があって、それにも参加できた!
しかもその時『体育祭で見たよ!』って言ってもらえた! サインも貰った! 写真まで一緒に撮ってもらえた! 何コレ!? 夢なら覚めないで!
その後は有名ヒーローが地場産品や協賛商品を持ち寄って販売する直売・即売イベントに行って、シンリンカムイ作の『シンリンカムイキノコ』や、Mt.レディ生産協力の牧場牛乳ほか乳製品、スイーツヒーローチーム『キラキラ☆アラモード』のスイーツ詰め合わせなんかを買ってお土産に。
さらには信じられないことに、あの有名なグルメリポートヒーロー『ロンリー・ゴロー』監修の駅弁まで売られてた! 彼が食べてリポートした店は、評価にもよるけど売り上げが数倍から数百倍に跳ね上がるとまで言われている美食の第一人者だ!
これは流石に栄陽院さんも予想外だったのか、驚きつつも反射的に駆け出して、ラスト数個しかなかった弁当を、僕の分と、母さんへのお土産も含めて3個買って確保してくれてた。感謝しかない!
せっかくなので、移動中のリムジンの車内で食べることにした。
どうせなら電車で食べた方が、とも思ったけど、僕らが電車に乗ろうとして駅なんかに行ったら……自分で言うのもなんだけど、今有名になってるからなあ……囲まれちゃうかもだし。
そんな感じで、いろんな場所でいろんなヒーローに、あるいはそのゆかりの品々に触れながら……僕は、夢のような1日を過ごしたんだ。
帰り道、弁当も食べ終わり、夢見心地でリムジンに揺られていた僕は、ふと、隣に座る栄陽院さんのにこにことした顔を見て、ずっと聞きたかったことを……なんとなく、今、聞く気になった。
「あのさ……栄陽院さん。前から気になってた……というか、聞きたかったんだけど」
「うん? 何、緑谷?」
「……ひょっとしたら、こんなこと聞くの、失礼なのかもしれないんだけどさ……どうして、僕にここまでよくしてくれるの?」
毎度毎度流されてしまう僕だが……ずっとコレは思っていた。
1つ1つ、思い返せば……彼女が僕にしてくれていることは、単なる仲のいい同級生に対するお節介や世話焼きなんかのレベルを、どう考えても超えていると思うんだ。
自分なんかより全然弱い――少なくとも、あの訓練を始めたての頃は――僕につきっきりで個性の指導をしてくれた。
USJでは、恥ずかしい場面もあるだろうに僕の作戦に乗ってくれて、その後、ピンチになった僕を身を挺してかばってくれまでした。
その後、体育祭に向けた特訓では、家に招待された上に、すごく豪華なジムでのトレーニングを指導してもらって、体を解きほぐすマッサージまでしてもらって、家に宿泊までさせてもらった。
そして、今回のこの『ご褒美』ないし『お祝い』だ。
それこそ、彼女が男っぽい性格で、僕とのスキンシップ染みたふれあいを気にしないという面も含めて考えてみれば……決して不満があるとか、文句をつけるわけじゃないんだけど、それでも……単なる友達にすることじゃないように思えてしまう。
ここまで時間も、手間も、お金も、『個性』も費やしてくれるなんて……それこそ、身内だったとしてもしないんじゃないか。あまつさえ、異性を家に泊めたり、肌と肌を触れさせたり……
一体彼女は、僕をどんなふうに見てるんだろう? それを、聞かなきゃいけない気がした。
もしかしたら、ひどく自己中心的……ないし、自意識過剰なもの言いかもしれないんだけど……栄陽院さんは僕のことを好きで、それでこんな風に、尽くすようにして気を引こうとしてくれてるのかな……って思ったことは、何度かある。
もしそうなら、僕は……正直、嬉しい。彼女みたいに奇麗で、強くて、そして優しい人に、そんな風に思ってもらえるなんて。
けど、こんな風に僕のために、時間もお金も、何もかもいっぱい使わせるようなことを……そのままでいいのか、とも思ってしまう。たとえそれが、彼女の好意からくるものだとしても。
もちろん、それに今まで散々甘えて来た僕が、そんな生意気なこと言うのなんて……今までの彼女の厚意を否定するような気持ちすらして、怒られても文句言えないかもしれないけど……それでも、例えここで怒られても嫌われても、言わなきゃいけないと思った。今言わなきゃ、これからもずるずると彼女に甘えていってしまいそうで……!
そんな感じのことを、走っているとは思えないほど静かで、揺れも少ないリムジンの車内で、黙って聞いてくれている栄陽院さんに話した。
全て話し終えてから……自分で話しておいて、僕がびくびくしながら待っていると、しばらく黙って考えていた風だった栄陽院さんは……ふいに、いつもと同じ笑顔でにっこり笑って、
「いつもながら、真面目でいい奴だねー、緑谷は」
そんな風に言って……まるで、年下の小さな子にやるように、僕の頭をぽんぽんと叩いた。
きょとんとする僕の目の前で、栄陽院さんは椅子に深く座り直し、背もたれに体を預けてぐぐーっと体を伸ばすようにして脱力した。そして、ふぅ、と息をついたところで口を開く。
「えーっとねえ……何だっけ? 私が緑谷を好きなのかどうか? 一体何考えてこんな風に緑谷を……甘やかすみたいにしてるかってかい? んー、直球ですんごいこと聞いてくるよね、緑谷。轟の時もそうだったけど、結構遠慮なくずかずか他人の心とか入ってくるっていうかさ」
「……っ!? ご、ごめん……でもその……」
「でも、それがあんたのいいところでもあるからね……けどそうだなー……何と言うか、一言でさくっと答えるのが難しい問いだな」
栄陽院さんはそのまま、リムジンの天井あたりを睨みながら少し考えて、
「好きかどうかで言ったら……そりゃ私は好きだよ? 緑谷のこと」
「……っ……!?」
「でもさ、どう好きか、って言おうとすると……上手く言えないんだコレが」
「……? どういうこと? どう好き、って……」
「『好き』にも色々あるだろ? 友達としての『好き』、人間として『好き』、尊敬する意味での『好き』、家族に向けるような『好き』……それらで言うと、一体どういう風に、私から緑谷への『好き』を表現していいかわからないんだ。だから……今ここで、上手くは言えない」
……その言い方だとつまり、少なくとも栄陽院さんは……僕に対して、男女というか、恋人同士的な意味での『好き』な感情を抱いてる……ってわけじゃなさそう、だな。
ほっとしたような、残念なような……複雑な気分だ。
けど、だとしたらどういうことなんだろう? 色んな形での『好き』があるのは確かにわかる……僕だって、母さんに対しての『好き』や、オールマイトに対しての『好き』、かっちゃんや麗日さん、飯田君達クラスメイトに対しての『好き』、その他色々なヒーローに対しての『好き』……そして、栄陽院さんに対しての『好き』……まさに、色々ある。
今の所、僕はどれも……恋人的な意味での『好き』には至ってない……と、思う。
いや、あえて言うなら、一番交流する機会の多い、栄陽院さんが一番それに近かったりするのかもしれないけど……はっきり『そうだ』って言い切るまでにはない、かも、だし……。
「……まあ、多分だけどさ……緑谷が今ここで私に対して愛の告白でもしたら、私は……OKとか出すと思うよ?」
「え!? そ、そういう意味での『好き』じゃないんじゃなかったの?」
「私からはそうじゃなくても、そのくらいの好感度は緑谷に対してある、ってこと。異性からアプローチを受けることでその人を意識する、なんてのはよくあることだしさ。っていうか……緑谷にそういうレベルでの好意を抱いてそうな女子なら……私、1人か2人知ってるかもだし」
うっそ!? そんな子いるの!? 誰!? ……あ、教えてはくれないのね、そうですか……
い、いや信じられないんだけどね? ぶっちゃけ……僕に異性として気がある女子がいるなんて……一番ありそうだと思ってた栄陽院さんが違ったのなら、余計に。やばい、どうしよう気になる。
け、けど今は栄陽院さんの話だ。何か今もどうにかして僕に、わかりやすく説明しようとしてくれてるようだし……
「もっと正確に、正直に言えば……私がどういう風に緑谷のことを『好き』なのか、無理すれば、どうにか言葉にして伝えられるかもしれない。けど……今はまだ、やりたくない」
「何で……?」
「……引かれるから」
「…………はい?」
……え、何その理由!?
『引かれる』って……引かれるような変な理由なの!?
「うん……一般常識的に考えれば、ちょっとどうかなって感じのそれになりそうだなー、と思う。私個人の価値観とか、恋愛観、男女観も含めて考えれば……多分……いや、確実にどん引かれる。下手したら嫌われる……私に、今、そこまでの覚悟はない」
だから許して、と言ってくる栄陽院さん。
よ、余計に気になる……い、一体僕、どんなふうに思われてるんだ、彼女に!?
「いつか、上手い感じの言い方が見定まったら……あるいは、私の覚悟が決まったら説明するよ。それは約束する、だから……今は許して。それでももし、どうしても聞きたいって言うなら……」
「い、言うなら……?」
すると栄陽院さんは、僕の方にずい、と身を乗り出して、真正面の、しかも至近距離から僕の顔を覗き込むようにして……にやりと、いつもの悪戯っぽい笑みを浮かべて、
「私のこと、貰ってくれるって約束するなら……教えるけど?」
「…………ぅえぇえ!?」
☆☆☆
結局その後、僕は自宅の前で降ろされて……栄陽院さんは、そのままリムジンで去っていった。多分だけど、彼女の自宅であるあのマンションに向かうんだろう。
最後の
てっきりすぐに『冗談だよ、ははは』くらいに言ってくるかと思ってたんだけど……
そう言うまでもない、と思ったのか……あるいは、本気でそうだったのか。
『約束』したら、彼女は本当に僕に、それを教えてくれたんだろうか。
……それに、さっきからずっと考えてるけど……やっぱり、わからない。
時間も手間も、お金も『個性』も惜しみなく使ってくれて、プライベートな空間にも躊躇なく迎え入れてくれて、肌を見られてもスキンシップを超えて触れ合っても受け入れてくれて、家族にも紹介するわあけすけな話もするわ、パーソナルスペースにすら僕を立ち入らせることに何の抵抗もない……まるで僕を、他人として見ていない、警戒心を向けてないかのような対応……。
感情的には『好き』にカテゴライズされて、しかし恋愛感情や友愛、親愛の類とはどれも違って……それでいて、詳しく説明しようとしたら僕にドン引きされるような、それでも『貰ってくれる』と約束するなら説明してもいいような、そんな感情……
……だめだ、さっぱりわからない。僕は彼女に、どう思われてるんだ?
「……あら出久、帰ってきたの? どうしたの、そんなところでボーッとして……っていうか両手に持ってるの何それ!? 全部お土産か何か!?」
「あっ、母さん……ごめん、すぐ家入るから」
結局、その日……いくら考えても、納得のいく結論は思いつかなかった。
僕は、最高の半日となった休日2日目を、95%の満足感と、5%ほどのモヤモヤ感の中で終えることになった。
……まあ、結局今まで通りなんだな、と言ってしまえばそうなんだけど。
せめて明日からの学校では、いつも通り栄陽院さんと接するようにしたほうがいいのかな……ちょっと色々意識しちゃいそうで、難しいかもだけど……。
Q.今回出てきたクロス先の人たち、今後も出てくるの?
A.いえ、ほとんどは今回一発限りなので、特に覚えなくても大丈夫です。ただし一部は……また登場するかも。何らかの形で。