TSから始まるヒロインアカデミア   作:破戒僧

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第44話 TS少女と体験先

 緑谷のヒーロー知識を思いっきりあてにした末に、どうにかこうにかその日のうちに職場体験先を決めることに成功した私は、次の日の朝、普通に登校していた。

 教室に行く前に職員室によって、先生に申し込み用紙を提出する予定である。

 

 そしたら、校門からちょっと入ったところで、今日も元気に機嫌悪そうな爆豪が緑谷に突っかかってるのが見えたので、2人共ひょいと、肩に担ぐように抱え上げてさっさと正面玄関に向かう。

 

「てめっ……何しやがるデカ女コラァ! 降ろせボケ! 放せバカ力!」

 

「通行の迷惑だっての。出入口の前で止まってるなよ」

 

「うわわわわ!? え、栄陽院さん、ちょ、近、あたって……!」

 

「はいはい、もうちょっといったら放すから……全く、顔合わせりゃ喧嘩すんだからあんた達は」

 

「永久ちゃん、なんかやんちゃ坊主の母親みたいなセリフやね」

 

「けろ、突っかかってるのは爆豪ちゃんだけなんだけどね」

 

 おや、麗日と蛙吹も合流か。

 よし、ここらへんでいいな……どっこいしょ。

 

 爆豪はさらに機嫌悪そうにしていたものの、チッ! と舌打ちをしてずかずかと歩いていく。

 

 ……しかし。

 

「……あぁ!? ついてくんなや、何なんだよテメーら全員!?」

 

 爆豪が歩いていく先に、私達も全員ついていく。

 緑谷に私、それに麗日に蛙吹もだ。全員同じドアを開け、同じ曲がり角を同じように曲がって、一塊になって歩いていくもんだから、うざったく思ったらしい爆豪がまた吼えることと相成った。

 

 けど、仕方ないだろそれは……ホントにたまたま行き先が同じなんだから。

 

 多分だけど、全員同じ理由で。

 

「え、ええ……でも僕、行き先こっちだから」

 

「私も。つか……全員そうなんじゃね? 理由も含めてさ」

 

「けろ。そうね……多分皆、あそこに用があるのよね」

 

 蛙吹が指さした……じゃなくて、その長い舌で『舌さした』先にあるのは、『職員室』の表示。

 うん、やっぱりね。皆、職場体験の希望表提出しに行くと見た。家で考えて決めたのをプリントに書いてきたから、それを始業前に相澤先生に提出する、というわけ。

 

 ホームルームの時でもいいのかもだけど、他にもそう考えてる奴いると思うから、かぶって時間かかる事態にならないようにそうしたんだが……皆、同じ考えだったか。

 

 結局最後まで団体行動をとる羽目になった爆豪は、けっ! と大げさな、つか絶対わざと大きく言ってんだろってくらいの音量で悪態をついて、職員室に向けて歩き出す。

 その際、ポケットから提出物であろう紙を出して…………うん?

 

 ――ぴっ

 

「あ゛!? おい、テメェ何しやがんだデカ女!?」

 

 爆豪の提出用紙、そこにかかれた希望先が目に入った瞬間……ほぼ反射的に、私は爆豪が手にしていたその紙を、横から奪い取っていた。爆豪が反応するよりも早く、なおかつ、破けたりしないようにパッと一瞬で。

 当然ながら憤慨する爆豪。加えて、『え、どしたの!?』って視線を向けてくる緑谷達。

 

 爆豪を『ちょっと待て』と手で制しつつ、紙に目を通して、見間違いじゃないことを確認し……

 

「爆豪、お前ここ行くの?」

 

「ああ!? だったら何だってんだ返せさっさと!」

 

「……あのさ、コレは純粋に善意から言わせてもらうんだが……ここ、やめたほうがいいぞ?」

 

「……あ?」

 

 割と真面目なトーンで私が言って来たことで、何かを察したらしい爆豪が、持ち前の意外とクレバーな部分を発揮して、ぴたっと止まる。

 同時に、緑谷達も、突然の私のセリフに『え?』と少し驚いたようにしていた。蛙吹のは相変わらず表情的にわかりづらいが。

 

「……どういう意味だデカ女、そこ行くと何かあんのか?」

 

「緑谷、お前……ここ見てどう思う?」

 

「え、ぼ、僕? いや、どう思うって言われてもそんな、ていうかかっちゃんどこに…………あー、なるほど……」

 

 ぴら、とその紙を見せた途端、納得したような表情になる緑谷。

 同時に、爆豪の方を見て何とも言えない表情になったので、さらに爆豪の機嫌が悪くなる。

 

 気になったらしい麗日と蛙吹が、横から紙を覗き込んできた。

 

「ええと……『ジーニアス』? ここって確か……」

 

「けろ。No.4ヒーローの『ベストジーニスト』の事務所ね」

 

 そう。若者たちのカリスマ的ファッションリーダーとしても知られる、ビルボードチャートNo.4の若手超実力派。

 テレビで見た感じだと、顔までジーンズ履いてるような独特なコスチュームで……気のせいじゃなければ、なんか天津飯とか自爆するガンダム乗りとかバビロンの戦士っぽい声だったあの人だ。

 

「こんなところから指名来てたなんてすごいわね、爆豪ちゃん……でも、この事務所がどうかしたの? やめたほうがいいって……緑谷ちゃんも、コレ見て何か納得してたみたいだったけど」

 

「うん、もちろんその……ビルボードチャート4位だけあって、すごいヒーローだよ。戦闘能力も高いし、色んな事件解決に協力して貢献してて、実績もある。ただ……」

 

「ただ?」

 

「ベストジーニストってさ……不良や乱暴者を更生、ないし矯正させることに力を注いでるヒーローとしても有名なんだよね……」

 

「あ゛ぁ!? んだとテメェそりゃどういう意味だデクゥ!?」

 

「そういう意味だろ。てか、もうちょっと離れよう、職員室の近くで騒ぐと先生方こえーから」

 

 多少騒いでも大丈夫なところまで、少し移動してから続きを話す。

 

「つまりその……かっちゃんの体育祭での暴れっぷりとか、そういうのを見て、『矯正しよう』と思って指名してきた可能性が無きにしも非ず、ってことで……もちろん、断定はできないよ? でも、もしその予想通りだった場合……かっちゃんが期待しているような活動はできない、と思う」

 

「……っ……!?」

 

「もちろん、職場体験として引き受ける以上は、色々と指導はしてくれるだろうし、身になる経験も積ませてくれるだろうとは思うが……多分だけど、お前がランキング4位っていう肩書から想像したような派手な展開はない。むしろ、足踏みに近い時間を過ごすことになる可能性もあるな」

 

「いや、そこで教わるであろうことも、実際に大切なことなんだろうけどね? ただ、さっきも言った通り、かっちゃんが期待してる時間の使い方と違うっていうか……勉強したくないと思ってることを徹底的に勉強し直す時間になっちゃうというか……」

 

「けろ……なるほど、爆豪ちゃんには合ってない可能性が高いわね、確かに」

 

 何一つ嘘は言っていない。淡々と、事実を述べているだけだ。

 口調からそれを悟ったんであろう爆豪は、イライラしている様子を隠そうともせずに……しかし、私達の忠告を聞き入れて、そのまま提出するのはやめたようだった。

 

 用紙をポケットにしまい、一人まっすぐ教室の方へ歩いていく爆豪の背中を見送って、私達はあらためて職員室に向かい……そこで、相澤先生にプリントを渡した。

 

 緑谷が、昨日聞いた通り『グラントリノ』とやらの事務所。

 

 蛙吹が、海難事故や港湾関係の事件を専門に扱う『セルキー』の事務所。

 

 麗日が……

 

「あれ、麗日提出しないの?」

 

「あーその……ごめん、ウチもう提出してて……昨日のうちに。その……なんか、言いだすタイミング無くて」

 

「あ、そう……」

 

 まあ……うん。あるある。

 

 さて、で私だが……

 

「「……え?」」

 

 そしてそこで、私の用紙を見た麗日と蛙吹のセリフというか、反応がこれである。

 

「えっと……永久ちゃんの行く先、ここなん?」

 

「さっきはあんな風に言ってたのに」

 

「そりゃ、真実を言ったまでですから。実際爆豪には合いそうにないでしょ? まあでも……

 

 

 

 ……私が行かないとは誰も言ってない」

 

 

 

 2人が『えー』って顔になり、唯一知っていた緑谷が苦笑する中……はい、提出。

 

 そんなわけで私が行く職場体験先は……『ジーニアス』。

 ヒーロービルボードチャート4位、ファイバーヒーロー『ベストジーニスト』の事務所だ。

 

 

 ☆☆☆

 

 

「そういうわけで、ほぼほぼ職場体験の希望はまとまりつつありますね……そちらにも参考までにお送りします。7日間の体験が終了したら、各ヒーローから報告が上がったその内容も」

 

『了解よ、それも含めて最終的な強化プランを策定するわ。現段階での情報は、一部その体験先のヒーローにも送付するのよね?』

 

「そうさせていただく予定です。しかしまあ……ものの2、3日でここまでのデータをまとめて貰えるとは、感謝しますよ……流石は最高峰のトレーナーですね」

 

『ほめすぎよ。まだまだ仕事はこれから、ここからが本番。引き受けた以上は最高の形で終えてみせる、っていうのが私の信条ですからね。それじゃあね、イレイザーヘッド』

 

「ええ、アナライジュ」

 

 かちゃ、と、デスクの受話器を置く相澤。

 その視線はすぐに、電話から手元の資料に移る。

 

 自らが担任する、1年A組の生徒達について、1人1人のデータを詳細にまとめられたそれは、今の段階でも極めて有用な教育資料として使えるものだった。

 しかし今しがた話した電話口の相手……この資料の製作者は、それを『まだまだ未完成だ』と、さらりと言ってのけた。納得のいく出来に仕上げるには、もう少し情報と時間が要る、と。

 

 生徒1人1人について、まるで彼ら・彼女らが成長する段階を目で追って来たかのように、個々が持つ長所や伸ばすべき点、逆に改善すべき問題点や性格上の欠点、さらには一部の生徒については、『個性』ごとの特性や伸ばすべき点、伸ばし方の案や扱う上での注意点まで……信じられないほど事細かに。それでいて、判断根拠まで上げ連ねた説得力のある文面になっていた。

 

 これがさらに昇華されるとなると、はたして、改良カリキュラムが本格稼働する頃には、一体どんなことになるのだろうかと、味方のことながら戦慄する相澤だった。

 

「現役でこれだけできて、何であの人隠居なんかしたんだ……つか、何で教員やってねえんだ?」

 

「それは僕も思う所だね! よければ君の口からぜひとも聞いてほしいものさ!」

 

 いつの間にか隣に来ていた校長・根津をちらりと一瞥し、相澤はため息をつく。

 

「それは無理でしょう……あの人は仕事は真面目にやるが、基本の所は自由人だ。やりたくないことはやらない……今回のコレを引き受けてくれただけで驚愕ものでしたよ」

 

「まあ、そうだろうね。実のところ、僕も何度か彼女には雄英に来ないかアプローチしているんだけど、そのたびに振られてしまっているのさ。まあ、無理強いはできないとはいえ……これだけの能力を遊ばせていることを考えると、もったいないとしか言いようがないね」

 

 相澤の手から資料を受け取り、ぱらぱらぱら……と流し見しただけで、根津はその内容全てを頭の中に叩き込んだ。

 個性『ハイスペック』。人間を超えた頭脳を持つ彼だからこそできる、速読と理解のなせる業だ。

 

 そんな根津ですら、相澤同様、トレーナーヒーロー・アナライジュには一目置いている。

 彼女の持つ観察眼と解析能力、そしてそれらによって得たデータをもとに、対象者が今以上に強くなるための確かな道筋を組み上げ、それを示してみせる。

 

 そして、苦しみながらもその道を征き、最終的に大成した者達を、根津は何人も知っている。その道を踏破できるかどうかまでは流石にその当人たち次第とはいえ、彼女の『育てる』力は当時から本物であり、今なお健在である。

 

 しかもコレは彼女の純粋な知識と技能のなせる技であり、個性とは完全に別物なのだ。

 

 そしてその『個性』もまた、人を育て、支える上で極めて有用で、応用範囲が広いものであることも、根津は理解していた。

 

 だからこそ根津は、この力こそ次世代のヒーローを育てるために必要だと感じ、今まで何度もアナライジュ―――栄陽院叶恵に、雄英で教鞭をとってくれまいかとアプローチしてきた。

 しかし、そのことごとくを彼女は断った。失礼にならないようにやんわりと、しかし頑として首を縦に振ることはなく。

 

 毎度、『昔のようにはもういきませんから』『隠居した過去のヒーローには荷が重いです』と、頑なに拒み続けた。

 

「しかしすると、今回に限ってなぜ仕事を受けてくれたのやら……教職につくよりは気楽にできそうだと思ったのか……それとも、対象のクラスに娘がいたからか……」

 

「出席番号5番の栄陽院永久君だね。入学試験の資料で彼女の名を見た時は流石に僕も驚いたよ。その後の実技試験の映像を見てもっと驚いたけどね。ただ、僕個人的な意見を述べさせてもらうなら……そのどちらも、違うとまでは言わないが、本質の理由は別にあると思う」

 

「と、言いますと?」

 

「恐らくだけど……彼女も察しているんじゃないかな? これから先、もっと強いヒーローが必要とされる時が来るであろうことを。新学期早々に(ヴィラン)の襲撃を受けるなんてことがあったくらいだ。世間にもよくないニュースが多いし、次世代を育てることの重要性を、彼女は認識し始めたのかもしれないね」

 

「成程……それは結構なことで。ついでに再就職も検討してほしいもんです」

 

「それはもっともだね! なんだったら、君のクラスの栄陽院君から、お母さんに掛け合ってもらうのはどうだい? 可愛い娘の頼みならワンチャンスあるかもしれないね!」

 

「……いや、無理でしょう。あいつも本質は母親と同じです。やりたいようにやるタイプだ。母親がやりたくない、やるつもりがないと言っていることを勧めるようなことは想像できない」

 

 もともと冗談のつもりだったのか、根津も『それもそうだね!』とすぐに諦めたように言ったものの、ふと気づいた、あるいは思いだしたように、

 

「そう言えばその栄陽院君だけど、最近、緑谷君と仲がいいようだね?」

 

「? ええ……どうやら放課後によく、2人で訓練室を予約して一緒に訓練しているようです。2人共似た『増強系』個性ですからね、互いに高め合う目的だとは思っていたのですが……今思うと恐らく、緑谷の急激なパワーアップの陰には……」

 

「なるほど……彼女の『個性』ならざる力は、娘に受け継がれつつある、ということかな?」

 

「まだ一部でしょうが、色々と叩き込まれている可能性は高いかと。緑谷が急成長し始めた時期と、2人が合同で訓練を始めたと思しき時期が一致しています。緑谷に目をかけた理由というか、きっかけまではわかりませんが……」

 

「ふむ……何にせよ結構なことじゃないか。生徒同士が高め合って上を目指していくのは素晴らしいことだと思うし、これをきっかけに栄陽院君も『指導』という面で力を発揮できるようになれば、ますます君のクラスにとってプラスになると思うしね!」

 

 そう言い残して、今度こそ職員室を後にした校長。

 しかし、ドアから出て校長室を目指す途中も……彼の『ハイスペック』な脳髄は、回転を、思考を続けていた。

 

(『ワン・フォー・オール』を受け継いだ緑谷君の急成長……平和の象徴の限界という特大の課題を前にして足踏みせざるを得なかった現状を打開しつつあるとして、喜ばしく思っていたけど、少し気になってきたかもしれない。元々オールマイト君からの報告で、緑谷君と栄陽院君の関係は知っていたし、彼女が『ワン・フォー・オール』に関わる事情を知っているとは思えないが……栄陽院君はなぜ、緑谷君に目をかけて育て始めたのか……そしてこのタイミングでアナライジュが我々の要請を受けて生徒達の育成に手を貸してくれて……これは果たして偶然なのかな? 結果だけ見れば喜ばしいことの連続と言えるけど……何か情報が、パズルを完成に導くための決定的なピースが足りていないような気がする……。恐らくは、彼女達だけが見て、知っている、何かが……)

 

 

 

 




ヒロアカのSSで主人公が職場体験でどこの事務所に行くのかってばらつきありますよね。
作者が今まで見てきた感じだと、一番多いのがエンデヴァー事務所で、他にはワイプシ、ギャングオルカ、ミルコ、Mt.レディとかかな、っていう印象です。あ、最近ナイトアイも見たか。あとはオリジナルヒーローあたりかな……

何が言いたいかというと、見たことない=参考資料ないのにベストジーニスト事務所に行かせるわけですが……はたして上手く書けるかどうか。
な、生温い目で見守ってください(不安でいっぱい)。

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