TSから始まるヒロインアカデミア   作:破戒僧

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週休二日? 知らない子ですね(遠い目)
ストレス解消になるのでPCの前につけば筆はガンガン進むんですが、その時間もないとなるとどうにもならないなあ……
というわけで、いつもとちょっと違う時間ですが更新です。できたて。

あと今回、ちょっと独自設定が出ます。具体的には一番最後の方に。展開上ご容赦ください。


第48話 TS少女と事務仕事

「ダイナージャ! 見て見てコレ! すごい話題になってるよ!」

 

「そうそう、あちこちのニュースサイトや掲示板に写真とか上がってるし。あーどれもよく撮れてるなー! またファンが増えるね!」

 

 2日目の終わり、事務所に帰った後に、『ジーニアス』のサイドキックの人たちにそんなことを言われて、パソコンやスマホの画面を見せられた時の一コマである。

 

 何かと思って見てみたら……私がベストジーニストとパトロールしている様子が、ネット上で話題になっていたのだ。まだ体育祭効果というか、熱が抜けてないから、こういうのも大きく取り上げられちゃうってことかね。

 

 ただしそれは私に限った話ではない。

 部屋に戻って、興味本位でエゴサと一緒に色々調べてみたら、雄英職場体験絡みの記事をあちこちに発見できた。

 

 さっき見た私のそれもそうだし、パトロールの途中で会った緑谷の記事もあった。

 どうやらあの後、チンピラ敵の小競り合いを鎮圧したらしく、『雄英体育祭優勝者のデビュー戦!』というタイトルで話題になっていた。

 突発的な事件だったらしいから、取材とかはなかったようだけど、警察に引き渡す時の緑谷、コッチコチに緊張してたな……あんなんでメディアの前に出たらどうなるやら。

 

 さらに、轟と爆豪の2人についての記事もあった。

 2人ともエンデヴァーの事務所に行ってたはずだな、と思ったんだが……なぜかそこに上がってた記事は、『エンデヴァーが保須市に出張してる』というもの。それに付け加えられる形で、『体育祭で活躍した1位と3位のコンビ、職場体験でエンデヴァーと共にパトロール』というのが。

 

 保須……なるほどね。

 どういう理由でそこに行ってんのかは……なんとなくわかるな。

 

 ……飯田の奴も保須の事務所に行ってたっけな。

 こっちはあまり評判にはなってないようだが。

 

 まあ、決して有名とは言えないヒーローの事務所だし……飯田のコスチューム、顔が隠れるからな。露出してる特徴が足のあのエンジン部分だけじゃ、わからなくても無理はない。

 

 他の男子だと、峰田や切島、常闇がちょいちょい話題になってるな。

 峰田は豪語してた通り『Mt.レディ』の、切島は確か……任侠ヒーロー『フォースカインド』って人の所に行ってたんだっけ? っていうか、鉄哲が一緒にいるみたい。職場体験先まで被ったのかあの2人。

 常闇は九州の方で、No.3ヒーロー『ホークス』の事務所だったが……何か振り回されてるっぽいな。

 

 麗日は『ガンヘッド』のところで、梅雨ちゃんは『セルキー』のところでそれぞれ頑張ってるみたいだ。クラスの女子が入ってるグループSNSで夜、色々話したりするので、その辺は調べなくてもよく知ってるんだよな。

 

 耳郎なんか、今日はちょっとした事件の解決に貢献したようだ。

 やったことは、『イヤホンジャック』を使っての索敵と、避難誘導くらいだったらしいけど、立派にヒーロー活動やってるじゃんね。

 

 芦戸や葉隠も同じ感じだが……なんか八百万だけ、心なしか元気がない感じだったな。

 いや、元気がないというより、『これでいいのか』的な戸惑いがあったような気がするというか……あいつが行ってたのって、スネークヒーロー・ウワバミの事務所だったな? 何かあったんだろうか? メディアにもよく出てる人だったと思うが……インタビューでも受けたか?

 

 あと、当然のように私のコスチュームについても話題になってたな。

 前の改造学ランを知ってる皆は『いつの間に変えたの!?』って驚いてたけど、同時に似合っているとも言ってもらえたのでよかった。さすがアパレル関係のカリスマ監修のデザイン……素人の私が考えた不良チックなファッションよりよっぽど受けがいい。

 

 けど……アレ、そんなに乱暴そうに見えたかなあ……?

 ちょっとそういうワルっぽいところがあった方がかっこいいんじゃあないか、とか考えていたあの頃の私の価値観は、一般から外れていたのかと、画面に並ぶ評判を見ながら少し落ち込んだ。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 職場体験3日目。

 

 今日も今日とて職場体験。

 昨日と違い、簡単な基礎トレを済ませた後、今日は午前中からベストジーニストとパトロールを行っていたんだが……こちらも昨日と違って、今日は事件に出くわした。

 

 最初に出くわしたのは、バイクを使った2人組のひったくりだった。

 見つけた瞬間に私に手短に指示を出した後、ベストジーニストが『ファイバーマスター』の個性でそいつの服をきゅっと締め上げて動けなくし、その場で確保した。

 

 自分が着てる服に締め上げられ、バイクに乗ったままの姿勢で空中で固定されている2人の姿は中々滑稽だった。

 何かの雑誌では『人が服を着ている限りは逃れられない超強力な個性』とか言われていたが、まさにその通りだなって、この光景を見ると思う。

 

 その後、乗り手を失ったバイクは、徐々に減速しながらではあるが車道を暴走してしまっているのを、私がひょいとつかんで持ちあげて止めた。こういうパワー系の労働は得意である。

 

 スピード? 爆豪や緑谷の方が速かったし、楽勝。

 もともと、まさにこれから加速するってところだったのか、そんなに出てなかったしね。

 

 被害者の女性にバッグを返し、『ありがとうございます!』ってお礼を言われて一件落着…………ではない。

 むしろここからが仕事である。

 

 チラッ、とベストジーニストから視線をもらって、私は帽子に仕込まれている通信機を起動させ、『ジーニアス』の事務室に通信をつなげる。

 

「こちらパトロール中のダイナージャ。ジーニアス事件情報担当へ報告です」

 

『こちら担当。情報承ります、どうぞ』

 

「午前9時41分、場所は○○区××…………路上にてひったくり事件発生。犯人は2名。手口は1人が運転する2人乗りのバイクで走り、もう1人が後ろからバッグをひったくって逃走するもの。すでにベストジーニストが確保済みです。警察にも通報済み。書類作成をお願いします」

 

『了解、いただいた情報をもとに作成します。帰還後にチェックをお願いします』

 

 以上、通信終了。

 

 ヒーローが活動した際にやったことや、事件解決への貢献度などを公的機関に申告し、それに応じて給与が支払われるというのは、初日に座学で教わった通りだ。今の通信は、それの一環である。

 

 事務所によって、ヒーローによってそのやり方は異なるようだが、ベストジーニストの事務所では、こんな風に事務担当にその場で事務所に報告する、というのがメインのやり方だ。

 

 ベストジーニストが事件に遭遇、ないし解決した際、同行しているサイドキック――今回は私である――がその顛末を通信で事務の人に伝える。

 

 すると担当者は、あらかじめ用意してあるひな形を使用し、通信で聞いた内容から必要事項を拾って簡単に書類を作っていく。

 場所はどこ、時間は何時何分、犯人は何人、罪状や手口はどんなもの、犯行の際に『個性』を使ったかどうか……などなど、それらを事務的に書き連ねていくのだ。

 

 そして、パトロールから戻ったベストジーニストや、同行していたサイドキックがその書類を確認し、ここは正確にはこうだった、こう直したほうがいい、という校正・手直しを経て、最終的にハンコを押した正規の書類が出来上がって、初めて事件は終了、となるのである。

 なお、その書類は後で1日~数日分をまとめて、定期的に公的機関に提出される。

 

 座学の中で教わった内容にはこういうのも含まれていたので、今これ幸いと実践させてもらったのである。

 職場体験とはいえ、ベストジーニストの事務所の一員として事件解決に寄与できたような気分になれて、少しうれしかった。

 

 ちなみに、さっきも言ったが、こうした『報告書の作成』にかかる作業の形式は、事務所によって、ヒーローによって異なる。

 事務所に帰ってから書類を作り始める人もいれば、同行しているサイドキックが1から10までそういう事務を一任されている事務所もあるそうだ。

 

 後からそういう仕事が待っているのはわかっているので、忘れないように必要事項をメモしていると、ベストジーニストから『行くぞ』と声がかかった。パトロールの続きだ。

 

 

 

 午前中のパトロールでは、さっきのひったくり事件の他に、もう1件事件が起こった。

 

 建築現場からの資材の窃盗だったんだけど、大型トラックで豪快に盗み出しやがったもんだから……その馬力やら何やらのせいで、近場にいたヒーローも手を出せないようだった。街中を結構なスピードで暴走してるもんだから、下手に事故れば二次災害の危険もある。

 

 しかしここでも『ファイバーマスター』無双。

 

 歩道橋の上で待ち受けていたベストジーニストは、トラックの屋根に飛び乗ると、運転してる奴の服の繊維を操り、ハンドルを固定した上でアクセルから足を外させ、ブレーキを踏ませて緩やかに、安全にトラックを停止させた。

 その後は、追いついてきたヒーロー達も加わって犯人は全員拘束。

 

 ただその際、スピード出しすぎたおかげで荷台から結構資材が、それも大型鉄パイプみたいな大きくて重いものまで転がり落ちてしまっていたので、報告後にそれの回収を手伝った。

 

 力仕事は得意なので、何本かまとめて運んでいたら、1本運ぶのにも苦労している他のヒーローの皆さんが唖然としてて……ちょっと目立ったな。

 まあ確かに、大の男でもちょっと苦労する重さではあったかもしれないが。

 

 そんな感じで午前中のパトロールが終わった後、一旦事務所に戻る。

 そして、昼休憩の前に座学の時間になった。内容はズバリ、さっきの事件にかかる書類作成。

 

 既にサイドキックの人が作っていた資料に目を通し、実際に現場を目で見ている私とベストジーニストが手直しを行うというわけである。まだ記憶が新しいうちに。

 

 内容の正誤のみならず、文体や言葉遣いにも気を使って『ピッチリ』整った書類を作るやり方を教わった。

 

 1件目の事件の書類で要領を教わり、2件目の書類は私1人でチェックした後、コレでいいかどうかベストジーニストに採点してもらったのだが……大分直された。

 紙、赤ペン先生ばりに真っ赤だよ……文才ないのかな、私。

 

 1つ1つ、どうして直したほうがいいのか指摘され、それ自体はまあ、理由としては納得できるものだったし、これも将来のためと思えば苦ではなかったが……正直に言うと『そこまで細かく?』とは思ってしまった。微に入り細を穿つ、って表現がぴったりだと思ったくらいだったのだ。

 

 そして、それはきっちり見抜かれていたらしい。

 

「まあ、君が言いたいこともわからないではない。多忙を極める業務の中、書類の表現1つにここまで気を使う必要があるのか、と思っても仕方ないだろう」

 

「はあ……その、すいません」

 

「確かに、ここまで細かく気を遣わなくとも、おおよその意味が伝われば書類というものは受理される……ここまでするのは、私のこだわりも含まれている。それは否定しない」

 

 だが、と続ける。

 

「『このくらいはいい』『この程度でもいい』……そういう、率直に言って『甘え』になるような考え方は、どこかで気の緩みを招く。いつしか、完璧でなくてもいいという考えが常態になってしまいかねない。それは、普通にヒーローをやっていく上ではよくとも……上を目指す者にとって、あるいはそれと共に歩む者にとっては、決して許容してはいけない『堕落』だ。そういう意味では……体育祭の時に見た彼……爆豪という少年は、そこだけは評価できる」

 

「爆豪……ですか?」

 

「正直、私は彼のことは好きではない。『矯正』する対象として魅力的に感じてはいるがね。ただ……彼の、一切の妥協を許さず、常に『一番』を目指す姿勢は好ましく思った」

 

 ああ、確かに……あいつ、他の誰が納得していようが、自分が納得できない結果なら、勝利すら意味がないとまで言い切ってるからな。

 言動からはちょっと想像できないが、意識高い系の完璧主義者なのは……間違いないか。

 

「これは受け売りのセリフだが……『常に一番たらんとする者と、そうでない者。この差は特に、社会に出てから大きく響く』。それは何も、勝負事に限ったことではない。事務仕事然り、訓練然り……常に100点満点を追い求めるか、99点、98点で満足しているかは、小さいようで大きい差だ。君が何を目指すにせよ、誰と共に歩みたいと思っているかにせよ……覚えておくといい」

 

 そう締めくくったところで、本日の午前の部は終了。昼休憩と昼食の時間に。

 

 そして午後、ベストジーニストはまたパトロールに出かけた。

 今度は私ではなく、別なサイドキックを連れて。

 

 私は今度は、事務所で待機しつつ、通信で入る事件情報を受け取る側の訓練だそうだ。

 ベストジーニストやサイドキックの人が事件に遭遇した場合、その情報を今度は私が受け取り、それを元に書類を作るわけだな。

 

 一応、私に入った電話は、聞き逃しがないように別なサイドキックの人も一緒に聞いてくれるらしいので、安心ではある。気負いすぎず、気を楽にして……しかし、さっき言われた通り、きちんと『最善』を目指す気持ちは心に留め置いて……

 

 ―――TRRRR!!

 

 早ぇよ!?

 

「は、はい、こちらジーニアス、事件情報担当直通電話!」

 

『私だ。早速だが事件に遭遇した。既に解決済みだ。記録を頼む』

 

「は、はいベストジーニスト! 報告をお願いします!」

 

 覚悟を決める前に、さっそく実践の機会が巡ってきた。

 いや、いいんだけどさぁ……ホントに忙しいんだな、都心のヒーロー事務所。

 

 

 

 そしてその日の夕方、私はベストジーニストに連れられ、再度外に出た。

 

 もちろんパトロールのためではあるんだが、それと同時に、作った書類をどこにどんな風に提出するのかってのも体験させてもらえることになったので、途中で警察署によって、事務所から持ってきたそれを担当課に提出した。

 まあ、出すだけだからそんな別に他に何もなかったんだけど……なんか緊張した。

 

 で、本来ならその後、残りのパトロールさえ終われば、事務所に帰るだけの予定だったんだが……パトロールの途中にベストジーニストの携帯に連絡が入って、予定が変わった。

 

「すまないが、今から行きたいところができた。急で悪いが、君にもついてきてもらえないか?」

 

「はい? ええ、大丈夫ですが……どちらへ? ヒーロー関係ですか?」

 

「そうでもあるが、どちらかというと私用に近い。が、職場体験生を受け入れている以上、事務所待機でもしているのでなければ、原則として受け持ち先のヒーローが一緒にいなければならないからな……君だけここから1人で帰らせることは好ましくないんだ」

 

 ああ、だから私も同行ってわけなのね。

 

「そして、一度事務所に帰っている時間はなさそうでね……面会時間が終わってしまう」

 

「……面会? 病院とかですか?」

 

「ああ。知人の見舞いに行く……先程の事務所からの電話で、ようやく、身内以外の面会お断りが解除されたようだと知ってね。ただ、彼も有名なヒーローだから……明日以降になると、マスコミが嗅ぎつけて、押しかけたり騒ぎそうなんだ」

 

「なるほど、だから今日のうちに……それで、どちらへ?」

 

「ああ、場所は―――

 

 

 

 ―――保須市総合病院。プロヒーロー『インゲニウム』がそこに入院しているんだ」

 

 

 

 


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