TSから始まるヒロインアカデミア   作:破戒僧

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第55話 TS少女とテレビ局

 職場体験4日目、午後。

 

 今日からさあまた勉強の時間だ……と思ってたんだけども、予想に反して今日は『ジーニアス』で、簡単に今後の予定の確認と、今までの復習をするくらいで終わった。基礎トレへの参加すらなく。

 曰く、『昨日あれだけのことがあったんだから、療養も含めて今日くらいは休むといい』とのこと。

 

 傷はすっかり治ってるんだが……せっかくのご厚意だし、甘えておくことにした。

 

 ただ、それ以外に、いつもの仕事と違うことがあったな。

 

 こういうかなり大きめの事件に関わった時にはままあるらしいんだが、事務所全体で、マスコミ関係者やら何やらに対して『どう対応するか』『どこまで情報を公開するか』っていうのの意識ないし方針の統一を行っておく、というものだ。

 それ自体は、資料を何枚か用意した、簡単な打ち合わせみたいなものだったけど、プロはやっぱりこういう部分にも気を遣うんだな、って実感した。

 

 その後は、これまたいつもの仕事とは違って、事務所で委託しているカウンセラーから、何か精神面での問題がないかどうかカウンセリングを受けた。

 これも、大きな仕事の後や、強力ないし凶悪な『敵』との戦いの後なんかは実施してるんだそうだ。心に傷を負ったままでうやむやになったりしないように。

 

 ベストジーニスト事務所……福利厚生も、公私両面のアフターケアも半端ない。勉強になる。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 職場体験5日目からは、いつもの感じに戻った。

 

 午前中に基礎トレとパトロール、午後に事務作業実習を含めた座学。

 

 この日は、これといって特筆すべきこともない1日だった。

 

 ……あ、いや、そうでもなかったな。

 例の『ヒーロー殺し』の一件を知ったクラスメイト達から、めっちゃ連絡来たから。

 

 今日になって警察から公式に発表がされて、『エンデヴァーとベストジーニストがヒーロー殺しを逮捕した』っていうニュースに加え、本人達による記者会見も行われた。

 加えてそこで、私を含む雄英の職場体験生5名が、『不幸にも』それに巻き込まれてしまったことに関しても触れられたので、確定情報としてそれを知った皆が連絡を寄こす寄こす……

 

 麗日なんかの一部の友達は昨日のうちにくれてたけど、表ざたになってより騒ぎが大きくなると、流石にというか、学校で会うのを待てない人も多いようで。

 女子メンバーからは全員。男子メンバーからも、仲いい奴からは結構連絡来た。主にお弁当仲間の砂藤と瀬呂、それ以外でも何かと縁のある尾白や常闇あたりから。

 

 ちなみに耳郎からは『あんたまた変なハプニング起こしてないわよね?』って心配?された。

 変な、っていうのは、多分アレだ……例によって脱げてないかとか、セクシー系の意味だろう。今回は珍しくそういうことはなかった、と言っておいた。

 ……いや、ホントのことだけどさ……自分で珍しくとか言っちゃったよ。

 

 もちろんいずれにも、詳しいことは……というか、隠蔽に関わることは話してないが。

 

 

 

 そして6日目。今日はなんか、気分転換もかねていつもと違うことをすることに。

 

「テレビ局へ!?」

 

「ああ。事務仕事に関しては、職場体験で教えられることについては……復習も踏まえて、昨日までで大体終わった。だから今日は、メディアというものへの対応などについて学ぶ意味も込めて……私の取材についてきて欲しい」

 

 なんでも、今日はどっかのテレビ局で依頼された仕事が2件入っているとのことで、その付き人代わりに私を連れていくとのこと。

 

 内容は、インタビュー映像の撮影と、雑誌の取材。どちらも(ヴィラン)とかは全く関わってこないし、私の出番もない。

 あくまで私は、付き人ないしマネージャーとして、雑務を担当するためにベストジーニストに同行する形だ。その仕事だって、そこまで難しいことではない。

 

 経験を積む機会でもあるので、それを承諾。

 パトロールを兼ねて公共交通機関とタクシーを乗り継いでそこに向かった。

 

 入り口の警備員に対して、ベストジーニストは顔パスで、私はきっちり通行許可証(事前に貰っておいた)を確認された上で通る。

 中に入ると、やはり有名ヒーローってことで一気に視線が集まるものの、すぐにそれもなくなって、皆自分の仕事を続けていた。

 基本的に報道関係者の仕事場だからな。そりゃ、駆け寄ってくるファンなんてのもいないか。

 

 すれ違う関係者と思しき人達に『おはようございます!』と声をかけられつつ、こっちも『おはよう』『おはようございます!』と返して奥に進んでいく。勝手知ったる、ということなのか、案内板も特に見ずとも、ベストジーニストの足取りに迷いはない。

 

 ……しかし、こういうのの業界人の仕事場での挨拶って、何時だろうと関係なく『おはようございます』って言うんだっての、ホントなんだな。

 

 そんなくだらないことを考えつつ、控室を目指して歩いていた。

 その途中の廊下で、今日はどの部屋が自分の控室か見る時にだけ、初めて掲示物の一覧表を見たベストジーニストだったが、それと同時に、向こうから歩いてくる陰に気づく。

 

 それは、同じようにかなり有名な1人のヒーローだった。

 

「おや、偶然だな……ガンヘッド」

 

「うん、そうだねベストジーニスト。これから仕事?」

 

 顔を覆うマスクに、拳銃のリボルバーを思わせる籠手を装備した、何とも言えない物々しい見た目の男。バトルヒーロー『ガンヘッド』がそこに居た。

 

 テレビとかで見て知ってはいたが……外見に反して口調は割とかわいい。生で初めて見た。

 

 で、その後ろに……

 

「あ、永久ちゃん!」

 

「! お前も来てたのか、麗日」

 

 私と同じように付き人としてか、あるいはただの付き添いか……ガンヘッドの事務所に職場体験に言っている麗日が、同時にこっちに気づいて手を振ってきた。

 

 

 

 どうやら麗日とガンヘッドがこのテレビ局に来てたのは、ガンヘッドが参加してるテレビ企画で『素人から始める護身術入門』っていうコーナーに出演するためらしい。

 麗日はそれに出るわけじゃないけど、単に付き添いとして。

 

 その後、『積もる話もあるだろうから、ちょっと2人で話してくるといいよ』とのガンヘッドからのご厚意で、共有の休憩スペースで、私と麗日は飲み物を飲みながら話すことに。

 ベストジーニストも、テレビ局の人との打ち合わせまでまだ時間あるからって。

 

 私は例によってカフェオレ、麗日はお汁粉(白玉入り)を飲んで一息ついたところで、やっぱりというか話題になったのは、例の出来事だった。

 

 麗日はその翌日のうちに連絡くれてたからな。緑谷にも連絡よこしてたみたいだし。

 

 無意識にだろうが……事件のことを聞いている最中、特に緑谷のことを心配しているのが伝わってきた。他の4人を心配してないわけじゃなくね、特にというか……1つ1つ気になって、聞かずにはいられない感じというか。

 まあ、全然かまわないんだけどね、話せる事実を話す分には。

 

「ほな、その……ほんまにもう心配ないんやね? 皆……」

 

「そういうこと。私と爆豪は翌日、そのさらに翌日には残り3人も退院したから。まあ、後の3人に関しちゃ、全部傷が完治したわけじゃないようだけど……雄英と違ってリカバリーガールみたいな治癒の個性持ちはいないからな。ま、ヒーロー活動に支障がなければ問題ないだろ」

 

「よかった……テレビでも有名な『敵』に遭遇したって聞いたから、心配だったんよ……。一昨日電話した時は、デク君まだ病院やったし、詳しくは聞けなくて」

 

「よかったな、安心できて。そーそー、その緑谷だけどな、また更に強くなってたぞ? まあそれは他の連中もだけど……きっちり職場体験先のヒーローに扱かれてたみたいだな。麗日は?」

 

「うん! すごく……有意義な時間を過ごせてるよ……!」

 

 ……うん? 何だ?

 今なんか一瞬変な気配が……麗日から武人のような雰囲気というか、オーラが立ち上ったような感じがしたんだが……え、何? 気のせいか?

 

 呼吸音が一瞬『コォォォ……』って感じのそれになったように聞こえもしたが……え? もし気のせいじゃなかったとしたら……。

 というか、よくよく見てたら麗日、微妙に動きに『軸』ができてるような……ガンヘッドのとこで何教えられてんの?

 

 次の瞬間には普通の麗日に戻ってたので、気のせい、だと……。

 

「そっかー……デク君、また強くなったんや。うちも負けてられんな。いろいろ勉強して、ヒーローとして一人前になるために力つけんと」

 

 ……いつもの麗日だ、うん。

 緑谷のことを考えて……自分で気づいているかどうかわからないけど、ポッと頬を染めて楽しそう、ないし嬉しそうにしてるこの感じは、紛れもなくそうだ。

 

 ……まあいっか、気のせいってことにしとこ。

 気のせいじゃなくても、別に人格形成に悪影響があるわけでもなきゃ、問題ないだろうし……。

 

 なんてことを考えてたら、はっとしたように麗日が、

 

「せや、も1コ聞きたかったんやけど……ヒーロー殺しの現場にあの……『脳無』ってのもおったんよね? ニュースとかでも言われとるけど、やっぱ、ヒーロー殺しって『敵連合』と……」

 

「……その辺はわかんないんだよな、まだ。脳無が暴れてたのは事実だけど、犯行声明とかその類は依然としてないし……USJの時の、死柄木や黒霧を見たって話も聞かない。それにむしろ、ヒーロー殺しは脳無とも戦ってたし……」

 

 戦ってたっていうか、普通に殺してたしな。

 あの量産型を除いても……少なくとも、羽付きと太っちょの2体を。

 

 最終的に、今回確認された脳無は、死体含めて9体だったそうだ。それ以上のことは、私達には知らされなかった。

 『脳無』が『敵連合』の戦力であることに疑いはないが、一体、何を考えてあんなもんを、あれだけの数放ってきたのやら……

 

 そもそも、ヒーロー殺しと『敵連合』……特に死柄木の行動原理? みたいなのは、てんで違いすぎる気がするしな……ホントに両者が繋がってたのかすら疑問だ。

 仮にも信念を持って動いていたヒーロー殺しに対して、死柄木はどう甘く見ても『力を持った子供』にしか見えなかったし。アレって案外、死柄木がヒーロー殺しを殺そうとして、ついでに騒ぎを起こして悦に浸ろうとして脳無をけしかけたとかじゃないのか?

 

 結局、これに関してはいくら考えても結論出ないんだよな……。

 

 はぁ、とため息をついた瞬間、向こうの方に……見慣れた人影が見えた。

 

 思わず『うん?』って表情が変わってしまって、それを見た麗日も『何だろう?』と振り向いて……その先にいた、何やら考え込む様子で歩いている八百万に気づく。

 その後ろには、もう1人若い女子が……あのサイドテール、B組の拳藤か? ヒーローコスチューム、あんな、なんか……チャイナドレスみたいな感じなんだな。

 

 たしか八百万はスネークヒーロー・ウワバミの所に行ってたはず……何でここに?

 

 というか、八百万も拳藤も……あんな風に、髪にウェーブかかってたっけ?

 

「うん? アレって……A組の、麗日と栄陽院か?」

 

「えっ!? ほ、本当に……お、お2人とも、なぜここに!?」

 

 と、向こうの2人もこっちに気づいて驚いていた。

 

 その後、2人も交えて女子トークに花を咲かせた。さっきの微妙に暗くなってしまった話題からの転換もかねて。

 結果的にだけど、八百万、ナイス。

 

 その八百万(と、拳藤)だが、ウワバミの付き人的な立ち位置で、パトロールとかはもちろん、こういうテレビ局での仕事にもついてくるらしい。けっこうメディアに出てるヒーローだからな。

 

 そして2人が今日、ここにいた理由だが……なんと、ウワバミのCM撮影のためらしい。

 しかも、それに2人も一緒に出てるっていうから驚きだ……TVデビューしたんか、あんたら。

 

 なんでも、ヘアスプレーのCMなんだとか。それで髪そんなんなってんのか。

 

 そのCMいつ流れんの? 1か月後くらい? へー、そうなの。

 え、恥ずかしいから見ないでくれって? いや、そんなどのチャンネルでいつ流れるかもわからないもん、無茶言うなよ。

 

 その場での会話は、八百万が提供してくれた話題のおかげで、明るい空気のまま終わることができた。

 

 

 

 その後、ベストジーニストの取材に付き合った私は、その場の空気とかマスコミのやり取りとか、見稽古的に色々と学ばせてもらったんだが……雑誌の取材の際、私の存在に気づいた記者が、『まだ話題熱い人物だし一緒に取材したい』って言って来たのにはちょっとびっくりしたが。

 

 なんか、雑誌は雑誌でもファッション誌だったらしく……背が高くて足も長いから、ベストジーニスト同様ジーンズ似合いそうだし、ルックスもいいから絵になるって。取材と写真撮影、スタジオ借りて何枚か取りたいって言ってきて。

 

 余りに熱のこもったアプローチ(体育祭の時の発目って子を思いだす勢いだった)に困っていると、『彼女はまだヒーロー科にすら入ったばかりで勉強中です』『私が預かって責任もって面倒見ている最中ですので』って、ベストジーニストが間に入って守ってくれた。

 

 ただ、あんまりに熱心だったのと、ベストジーニストも結構お世話になっているプロデューサーも乗り気だったこと、そして、ベストジーニスト自身も私にジーンズが似合うと思っていたことで……ごく簡単にインタビューと写真だけ受けることになっちゃったけど。いいのかコレ?

 

 まあ、悪いってこたないんだろうけどさ……さっき聞いたばかりだけど、八百万なんてCM出てるわけだし。

 

 撮影含めてもほんの30分ちょっとくらいでさっと終わったけど、緊張した……

 

 当然ながら、写真は雑誌に乗るらしい。特集のページの端っこにちょっとだけ程度くらいだろうとは言ってたけど。一応、関係者ってことでゲラの写しを送ってくれるそうだ。欲しいような欲しくないような。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 どこかにある、とある建物の中。

 バーのような空間になっているそこで……カウンター席に座っている死柄木弔は、黒霧がどこからか調達してきた、何種類もの新聞を代わる代わる見ていた。

 

 しかし、どうやらどの新聞にも、彼が見たがっていた内容の記事は乗っていなかったようで……苛立ちを隠そうともせず、チッ、と舌打ちして……くしゃくしゃに丸めると、5指を使って握りしめることで、塵にした。

 

 それを見て、バーカウンターでグラスを磨いていた黒霧がハァ、とため息をつく。

 

「せめて普通にゴミ箱に捨てませんか? あなたの個性で塵にすると、床の小さな隙間に入り込むので、掃除するのも手間なのですが……」

 

「うるさい……くそ、どうして思い通りにならない? 先生が脳無を9体もくれたのに……どこもかしこもヒーロー殺しヒーロー殺し……俺達の方がおまけ扱いだ」

 

 

『機嫌が悪いようだね、弔』

 

 

 何の前触れもなく、バーに設置されたテレビが点灯し、その向こうから声が聞こえてくる。映像は伴っていない。

 それを聞いて、手の形のアクセサリーの向こうから、じろりと死柄木は視線をそのテレビに向ける。

 

『報道は僕も耳にしているよ。残念ながら、彼の名前の方が大きく広まっているようだけど……それでも、『敵連合』の名前もまた大きく広まったのも事実だ。それは気に入らないのかい?』

 

「ヒーロー殺しのおまけとして、だろ? こんな形で広まったところで喜べるかよ……気に入らない奴がより一層ちやほやされて、壊せてないし、なぜかあのガキどもまでいるし……なあ先生、脳無は後何体いるんだ? 最近、なんかすごい早いペースで作ってるって聞いたけど」

 

『まだいくつかいるけど、調整と実働試験を終わらせて使える状態なのは、この間全て出してしまった。しばらくは生産に注力しないといけないね』

 

「ちっ……」

 

 こちらでも当てが外れたのか、面白くなさそうにする死柄木。

 憂さを晴らすように、黒霧がコップに注いだドリンクをごくり、と一気に飲み干す。

 

「ぷは……いっそのこと、あのガキ共の誰か……1人か2人攫って脳無の材料にしてみたらどうだ? 『個性』だけ見れば悪くないのが揃ってるし、素体にできそうなのもいるだろ」

 

 そう言って死柄木は、雄英体育祭の映像から抜粋して印刷した、自分が特に気に入らない生徒の写真を卓上に並べる。その最右翼に来ているのは……USJの時、策を弄して脳無を一時的にとはいえ無力化した上、自分の顔面を殴り飛ばした少年……緑谷出久のそれだった。

 

 雄英体育祭では、2人同時とはいえ優勝の栄冠に輝き、今最も話題となっている1人。今回の騒動でも、報道はされていないが、級友達との共闘の末にヒーロー殺しを退けた。

 日の当たる道を夢に向かって堂々と歩き、進む……まさに自分とは対極の人物。

 

 他にも、轟や爆豪、飯田などの写真が並ぶ中……ふと死柄木は、1枚の写真を手に取る。

 それは……栄陽院永久の写真だった。

 

 USJ事件の時には、火炎放射器を投げつけてきたり……他ならぬ緑谷出久を、身を挺して脳無の攻撃から守っていたのを思いだす。

 結局、その直後にオールマイトが駆けつけたせいで何ともなかったが、それがなければこの女は死んでいたはず。それを承知で、緑谷をかばった。実にヒーローらしい思考だと死柄木は思った。

 

「コイツなんかどうだ? ガタイもいいし……『個性』も割といい。素体にしてよし、『個性』を奪ってよしじゃないのか? うちには回復キャラとか、ちょうどいないことだしさ」

 

『ふむ、その子か……実は僕も、その子……というより、その子の『個性』には興味があってね、ちょっと調べてみていたんだ』

 

「へえ? で、どうする先生? 攫って奪うのか?」

 

 少し期待するような死柄木の問いに対して、画面の向こうの『先生』の返答は……

 

 

 

『まさか。いらないさ、あんな欠陥『個性』。頼まれたってお断りだ』

 

 

 

「……? 欠陥、ってどういうことだ?」

 

 予想していなかった言葉に、死柄木はそう聞き返した。

 特に機嫌が悪いわけではない。純粋に、今の言葉の真意を測りかねて、というもののようだ。

 

『その話は……少し長い上にややこしいから、いずれね』

 

「……あっそ」

 

 答えが返ってこなかったことにむしろ少し苛立ったのか、死柄木はその場で写真を全て塵にする。

 

『いずれにせよ今は無理だ。材料にするにも向き不向きがあるし、雄英のセキュリティは堅固だ。軽々しくそこまでのことはできないだろう。ちまちま動いても敵の警戒心を上げるだけ、行動を起こすなら、タイミングを合わせて一気に、というのが望ましい。これは前に話しただろう?』

 

「……わかってるよ。さすがに今回は……少し考える。ちょうど、脳無も補充する時期みたいだしな……今までと同じようなペースで作るのか?」

 

『向こうが思ったより順調に『進んで』いるようだからね……加えて、『あの個性』の持ち主が手を貸しているというなら、こちらも相応の準備が必要だ。弔、これからしばらくは……ヒーロー殺しが広げた波紋が、社会に広がっていく時間になるだろう。君にとっては面白くないことかもしれないが……何、悪いようにはならないはずさ。傷を癒しながら、待って、考えてみるといい』

 

 その言葉を最後に、テレビは沈黙した。

 

「だと、いいが」

 

 静寂が戻ったバーのカウンターで、死柄木は、いつの間にか黒霧が用意してくれていた新しいドリンクのグラスを持ち、今度は少しずつ味わって飲み始めた。

 

(……『あの個性』ってのは……何のことだ……?)

 

 僅かな疑問を、胸に残したまま。

 

 

 

 


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