TSから始まるヒロインアカデミア   作:破戒僧

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第59話 TS少女とカミングアウト

 

「緑谷の様子がおかしい?」

 

「うん。ここんとこ、元気ないっていうか、普段からそうなの差し引いてもオドオドしてるみたいで……それで、永久ちゃんなら何か知ってるかも、って思たんやけど……」

 

「その様子だと、君も何も知らないか……」

 

「……ああ、すまん。期待には答えられそうにないわ……」

 

 中間テストも終わり、徐々に日本列島を梅雨前線が北上し始めつつある、ある日のこと。

 私は、飯田と麗日から……そんな風に相談を受けていた。

 

 聞けば、2人共……ここ最近、緑谷が何やら元気ないというか、不安そうに過ごしている場面が多く見られるのを気にしていたそうだ。

 

 と言っても、何か致命的に不調とかいうわけじゃないし、勉強も実習(戦闘含む)もきちんとこなしてはいる。日中、ぼーっと考え事してる場面が増えたとか、表情の端々に影みたいなものが見え隠れしてる気がするとか、その程度の差だ。

 

 私もそれには少し気付いてたけど、緑谷って元々そういうとこあるし、誤差の範囲かなと思ってた。もうしばらく待って改善しないようなら、もうちょっと心配してたかもしれない。

 

 ただ、特に緑谷と仲良くしているこの2人が心配しているとなると……もう少し注意して見ていた方がいいのかもしれない、と思った。

 

 それに、ここ最近はなんか……私の家に来てくれなくなったしな。

 家で一緒にテスト勉強しないかって誘っても『自分の家でやるよ』って、少しオドオドしながら断るし……いや、勉強だけならまだしも、ここ最近はトレーニングもしてないんだよな。

 

 それも、家に――ジムに来ないってだけでなく、放課後の共同トレーニングも、ここ最近やってない。

 

 それも、テスト勉強でやる時間がないってわけじゃなく……自主的なそれはしてるようなんだ。

 ただ、勉強にせよトレーニングにせよ……私を避けてるような態度が、ここ最近目立つ。

 

 ただその割に、授業中とか休み時間とか、私のことを見ている場面が多い気がする。

 時々、ふいに緑谷の方に視線を向けたりすると、目が合うことが結構あるから。そしてその後、緑谷が慌てて目を反らすまではワンセット。

 

 ……どうしたんだろう、緑谷の奴……私、何かしちゃったかな?

 

 

 …………それとも……

 

 

 ☆☆☆

 

 

Side.緑谷出久

 

 この所、ずっと……暗い思いを抱えたまま、学校生活を続けている。

 

 それに気づいてしまった時ほど、困惑してはいない。

 むしろ、この感情との付き合い方はわりと心得ているから……少し時間を置いて落ち着いた今は、普段通りの学校生活が送れている、とは思う。

 

 中間試験も悪くない結果だったし、日々の学業に支障もきたしていない。

 

 ……ただ、最近、栄陽院さんとは……若干疎遠というか、あまり関われなくなってしまってるけど。僕が、一方的に避けているせいで。

 

 いやまあ、普通に考えて、交際してもいない男女が、部屋に招かれることなんてそうそうないわけだから……今のあり方が普通といえばそうなんだけど。

 

 ……もしかしたら、彼女は今のこの状況を、悲しく思ってくれているかもしれない。

 自画自賛が少し入るけど、僕と彼女は、それなりに仲がいい関係だったと思うから。

 

 けどあの日、僕が心の中に抱いているかもしれない思いに……もしそうだとしたら、ヒーローが持つべきものとは程遠いそれに、僕はまだ心の整理をつけられていない。

 

(人を……彼女を、『欲しい』と思うなんて……それも、恋愛とかそういうのじゃなしに……そんなの……ヒーローどころか……!)

 

 こんな気持ちを抱えている僕が、ヒーローになっていいのか、とまで、一時は思った。

 

 けど、僕はもう……立ち止まっていられない。

 オールマイトに期待してもらって、『ワン・フォー・オール』を継承して、そして……つい先日、彼が今まで隠してきた、ある『巨悪』の存在を打ち明けられた。

 

 『オール・フォー・ワン』

 

 オールマイトを半死半生に追い込むほどの傷を負わせ、その師匠だという、先代『ワン・フォー・オール』継承者を殺した……『個性を奪う個性』を持つ、最悪のヴィラン。

 恐らくは、成長や老化を止める類の個性によって、超常黎明期から裏社会に君臨し続けていた……最悪の存在。

 

 オールマイトが倒した……手加減が到底できない戦闘の中で、死に至らしめたとまで確信していたそいつが、未だに生きていて……しかもそいつこそが、『敵連合』の親玉である可能性が高い。

 

 そして、その『オール・フォー・ワン』が、『無個性』だった……と、思われていた、自分の弟に強制的に個性を与えた結果として生み出されたのが、『ワン・フォー・オール』。

 

 その上で、こうも言われた。

 

 『ワン・フォー・オール』は、『オール・フォー・ワン』を倒すための個性、といってもいい。

 この力を持つ者は、いつの日か、巨悪と戦う宿命を負う。

 

 僕が知らなかった、この『個性』の起源を交えて説明されたその事実に、僕は絶句した。

 

 けれど、それを聞いて……逃げようとか、そんな風にも思えなかった。

 

 それが……悪と戦うことが宿命なら、望むところだ。

 オールマイトがそれを僕に期待してくれるなら、猶更だ。

 

 ヒーローは、悪と戦うもの。だから、それが運命なら……僕は、いつか……その『オール・フォー・ワン』とだって戦ってみせる。オールマイトの後をついで、今度こそ……そいつの魔の手から、世界を救って平和にしてみせる。

 

 USJ襲撃や職場体験を経て、『敵』と戦うってことを実際に経験して学んだ僕が、その恐ろしさや危険を考えた上で――それでも、まだまだ経験が足りてない僕には、わかることができていないのかもしれないけど――それが、結論だ。

 

 ……だからこそ、こんな……邪とすら言えるかもしれない思いを抱えたまま、『卵』とはいえ、ヒーローとして戦い続けてもいいのかって……僕は……

 

 でも、こんなこと……誰に言えるわけもない。僕自身すらよくわかっていないことで……けど、もしそうだとしたらと考えると、怖くて……誰にも言えない。

 張本人である彼女はもちろん、友達である麗日さんや飯田君……相澤先生……お母さん……そして……オールマイトであっても。

 

(誰にどう相談したら……どうやって、コレを解決したらいいんだよ……!)

 

 と、考えていた時だった。

 

「おい」

 

「……え?」

 

 不意に、背後からかけられた声。

 それは……僕が、昔からよく知っている声だった。

 

 咄嗟に振り向くと……その瞬間、僕の目の前に……

 自分が吐いた鼻息が感じ取れるくらいの距離に、手のひらがあって……はい!?

 

 

 ――BOMB!

 

 

「おわぁ!?」

 

 直後、反射的にのけぞった僕の顔が一瞬前まであった場所目掛けて……かっちゃんの『爆破』が炸裂した。え、ちょ……何!? 何で今僕、え、爆殺されかけた!?

 

「か、かっちゃん!?」

 

「ちっ、よけんじゃねえっつの……」

 

「いや避けなかったら僕の顔吹き飛んでたから! っていうか、いきなり何……? ぼ、僕何か、かっちゃんを怒らせるようなことした、かな?」

 

「生きてる」

 

「無茶苦茶ッ!?」

 

 言外に『死ね』と言われてるも同然なその返事に、僕も目を見開いて絶句せざるを得ない。

 

 な、なんかかっちゃん、いつもよりより理不尽……昔ほどじゃないけど、なんかちょっと前までの、何かにつけて目の敵にされてた頃みたいな……いや、今もそうかもしれないけど……。

 

「……そりゃテメェだろうが」

 

「え!?」

 

 うそ、口に出てた!? っていうか、僕って、何が……

 

「表情がわかりやすいんだよボケ。……つくづくテメェ、俺の神経逆なでして来やがるよな」

 

「……ごめん、その……僕、何かしたかな? ホントにわからないんだけど……」

 

 そう正直に言うと、かっちゃんはまた、ちっ、と舌打ちして。

 

「朝、鏡見て顔洗ってんのかこのクソナード。テメェここ最近……ちっと前の、有言不実行のただのヒーローオタクだった頃と同じような顔になってんぞ」

 

「え……?」

 

 そう言われて、言葉が出なくなった僕に構わず、かっちゃんは続ける。

 

「少し前まで……折寺中の教室で腐るほど見て来た顔だ。なりたい、こうありたい自分のイメージがすでにある。なのにそれになるために何をすればいいか、何をすべきか考えてねえ……考えればわかるはずの『答え』が目の前にあるのに、それを見ようとしてねえ。自分には何もできないってふさぎ込んでるだけ。そのくせ、否定されるとむきになって、しょぼい睨みに乗せて、恨みつらみだけはこっちに向けてくる。吼えることはできても噛みついてくる度胸のねえ、負け犬の顔だ」

 

「…………」

 

「何に悩んでんのか知らねえし、知りたくもねえ。だが、テメェどうせ、それを取っ払うために何が必要なのか……もう気づいてんだろが。その上で『できねえ』『わからねえ』って現実逃避して足踏みしてんだ。また誰かから何かもらうまで(・・・・・・・・・・・)そのままでいる気か?」

 

「……っ……!?」

 

「……さっさと解決しろ、そんで、テメェの何かってーとビビッてオドオドするそのメンタル、少しでもマシにして……期末試験に来い」

 

 かっちゃんは、大方言いたいことは言い終えたのか、つかつかと歩いて僕の傍を通りすぎる。今はもう放課後だから、このまま帰るんだろう。

 

「次の期末試験なら、実技科目も含めて、個人成績で否が応にも優劣つく……体育祭みたいな半端な結果はいらねえ、そこで完膚なきまでに差ァつけて、テメェぶち殺してやる……! だから……」

 

 その先は言わないまま、かっちゃんは行ってしまった。

 けど、聞く必要はない。何を言いたかったのか、わかるから。

 

(かっちゃんはホント、相変わらずだなあ……どんな時でもブレないっていうか……それに……)

 

 僕なんかより、よっぽど人の心の一番痛いところを的確についてくる。

 

 ああ、そうだ……僕はもう知ってる。

 この気持ちを、誰にどう伝えればいいのか。どうすれば、『整理』することができるのか。

 

 もちろん、『こうすればきちんと解決する』確信があるわけじゃない。

 けど、1つのきっかけ、足掛かりになるであろうプロセスではあるはずだ。間違いなく。

 

 ひょっとしたら、僕自身すらよくわかっていないこんな状態で、こんな話されても……彼女だって迷惑かもしれないし、そもそも話の内容が内容だ。怒られても……嫌われても文句言えない。

 

 それでも……話そうと思った。

 彼女……栄陽院さんに。

 

 今まで心の中に押しとどめていたこの気持ちを、素直に白状して……謝ろう。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 距離開けられてる、と思ってた緑谷から、久しぶりに(といってもほんの数日程度のもんだけど)家にお邪魔したい、って言われて……普通にうれしかったので、2つ返事で招き入れた。

 

 何か大事な話かな、と思って向かい合ってみたら……なんか、謝られた。

 

 曰く、自分は今まで……いつからそうだったのかはわからないが、私のことを、褒められたものではない目で見ていたと。

 自分によくしてくれる、恩人とすら言っていいクラスメイト、しかも女子に対して、『欲しい』などという感情を抱いていたと。しかもそれは、恋愛感情とか純粋なものじゃなくて……自分でもよくわからないような、仄暗い感情である気がするということ。

 そんな感情を抱いている自分が、ヒーローにふさわしいとはとても言えない。それでも夢だから、大切な人との約束だから、ヒーローを目指させてほしい、ということ。

 

 ……うん、とりあえず……

 

「……あの、そんなこと私に相談されても、とりあえずポカンとさせられることしかできないんだけど……」

 

「えっ!? そ、その……ごめん……でも、伝えておきたくて……」

 

 ……例えが難しいけど、今の緑谷の懺悔?って……自分の脳内でやってただけの妄想を『君をネタにして猥褻なことを考えてしまった、ごめん!』って言ってくるようなもんじゃ……?

 それと知ったらドン引きかもしれないけど、知らなくても、というかばらさなくても特には誰も不幸にならないよね?

 

「う、うん……それはそうかもしれない。でも……一旦気づいちゃったら……そのままにしておくの、我慢できなくて」

 

「真面目だねえ、緑谷……」

 

「それに……それ以上に……そんな気持ちを抱えたままで、これからも栄陽院さんと一緒に過ごしていくのもどうなんだ、って思って……。もし栄陽院さんが、自分のことをそんな風に思ってる僕に対して、これ以上力を貸したいと思わないなら……それを聞くべきじゃないかとも……」

 

 ……わざわざ自分に不利な展開に今後なるかもしれないと承知の上で、私に事実を、自分の心の中をごまかしたまま今の関係を続けることに我慢できなくなったってか。

 本当にこいつは、呆れるほどまっすぐで、正義感と向上心の塊で……徹底的にと言っていいくらいに、自分より他人を大切にするんだもんなあ。

 それが例え、ヒーローや、自分と同じ『有精卵』であっても。

 

 どれだけ強くなっても、自分の力を決してひけらかしたりはしない。

 きちんと自分の実力を把握して動き、引き際を見誤らない。『ヒーロー』という者に対しての、神聖視とすら言える価値観を持っていて、そのために、言わなければばれないような、そもそも言う必要がないであろうことまで。

 

 ああ、ホントにコイツときたら………………いいなぁ。

 

「あのさ緑谷? 1つ確認したいんだけど……緑谷はそれで、いつもの私との生活に関しては……どう思ってくれてる?」

 

「? いつものって……一緒にやる訓練とかってこと?」

 

「それプラス、学校での……授業とかも含む、私との普通の付き合いは緑谷的にどう思ってるのかってこと。鬱陶しいと思ってるのか……それとも、楽しんでくれていたのか。」

 

 そう聞くと、緑谷は胸を張って『後者だ』と答えた。

 この胸の中の嫉妬の感情は問題だけど、そんなのは言ってしまえば、誰の心の中にでもあるもんだ。それを制御しきれなくなった奴が、大体『敵』になるってだけで。

 

 そしてその上で……そんな僕でも許してくれるなら、これからも一緒に訓練したり、もっともっと上を目指していきたい、と。

 

 ……そんなこと言われたら、私の答えなんて決まってるじゃんねえ……

 

 けど、それを伝えるだけじゃもったいないな……せっかくこうして、ここまで緑谷が真摯に私に向き合ってくれてるんだ。それに応えようと思ったら……私も、相応に『晒す』べきじゃないか?

 というか、『カミングアウト』するには……状況的にはもちろん、時期的にもそろそろ丁度いいんじゃないか?

 

 色々と考えて……私も、覚悟って奴を決めることにした。

 流石に緊張するので、ふぅ、と息を整えて……真正面から緑谷の目を見据える。

 

「あのさ緑谷、私が前に……そう、体育祭優勝の『ご褒美』の日に、帰りの車で言ったこと……覚えてる?」

 

「え? えっと……た、たしか……ッ!」

 

 思いだしたらしい。顔をボッ、と赤くして、しかしどうにか言葉にする。

 

「そ、その……僕のこと、好きだって……でも、どう『好き』なのかは秘密だって」

 

「他には?」

 

「どう『好き』なのか伝えたら引かれるから秘密なんだって言ってた。もし、自分にそれを言う覚悟ができたら、僕に話してくれるって……そして……」

 

 そこで、少し迷うようにして……

 

「ど、どうしても聞きたいなら……栄陽院さんをもらうって約束するなら教える、って」

 

 はい、よくできました。

 それじゃあ……こっからは私が。

 

「うん……緑谷、強くなったし……こんな風に、言わなくてもよかったであろうことまで私に話してくれるっていう、相変わらずのバカみたいな誠実さや正直さもいいと思うし……うん、そろそろ話してもいいんじゃないかと思った」

 

 それを聞いて、緑谷の背筋が伸びる。

 ホント真面目というか、態度に出るな、と思いながらも、私は続けて口を開く。

 

「これはさ、緑谷……私自身も、中々にぶっ飛んだ感情というか……むしろ『性癖』に入るよな、って思う上で……引かれるの半分覚悟しつつ、恐る恐るで言うんだけどな?」

 

(せ、性癖……!?)

 

 一部分に反応して、さらに緊張した面持ちになる緑谷。

 

 私はそんな緑谷の目の前で、リビングのソファに座っている姿勢からすっくと立ちあがる。

 同じように立とうとする緑谷を手で制し、緑谷が座ってるソファの傍にまで歩いていくと……私は、緑谷の手を取る。

 

 そしてそのまま……片膝をつく形で、跪いた。

 まるで、おとぎ話の騎士か何かが、自分の主に、忠誠を誓って礼をするように。

 

 ……ああ、やっぱりこの姿勢、心地いい……

 ずっと、こうしてみたかった。

 

 でも、緑谷いきなりこんなことされて絶賛混乱中だろうから、説明、説明しないと。

 

「これが、私の望み。私の『好き』だ。あのさ、緑谷……もしよかったら、お前……

 

 

 

 ……私の『ご主人様』になってくれないか?」

 

 

 

「…………へぁ?」

 

 

 

 

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