TSから始まるヒロインアカデミア   作:破戒僧

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いつもより早く書けたので更新します。
今回で第3章は終わりです。

前回も前回でしたが、今回さらに永久がはっちゃけてるというか、およそ淑女らしくない暴走をしてるかもしれません……お目汚しだったらごめんなさい(恐々)


第60話 TS少女:オリジン

「ご、ご主人様って……え、どういうこと? ……そ、そういうプレイ、って奴?」

 

「そういう言葉がさらっと口をついて出るあたり、やや峰田に毒されてる節があるな、緑谷」

 

「そ、そうかな……でも、どっちにしろその、言ってる意味がよく……」

 

 混乱している緑谷。まあ、当然の反応だな。

 今まで普通にクラスメイト、ないし訓練仲間として接してきた私に対して、自分が後ろ暗い感情を、あるいは恋愛感情に成長しかねないものを向けているかどうかと思って精神的にアレだったところに……明後日の方向もいいところな要素をぶち込んでこられたんだから。

 

 立膝ついて、騎士や家臣っぽく緑谷にかしずいている私を見て、緑谷の頭の上には多分、『?』マークが5~6個くらいは浮かんでいるだろう。

 きちんと説明してあげないとな、順序立てて、1つ1つ。

 

 まず、私がどうしてこんなことを言いだしたのか……その根っこの部分から話すのが一番いいか。

 

 この姿勢、私気分いいんだけど、やっぱり緑谷が落ち着かなそうなので、ひとまず立ち上がって、緑谷の隣のソファに座り直す。

 

「よし、アレなこと言って混乱させといてなんだけど、一旦落ち着こうか緑谷。落ち着いたら話、始めるから」

 

「あ、うん……」

 

 その後、何回か深呼吸したあたりで、緑谷が『もう大丈夫』とGoサイン出してきたので、その待っている間に考えていた内容・順序で、1つ1つ話していくことにした。

 

 

 

「いいか緑谷。この世には、色んな性癖がある」

 

「すごい導入だね」

 

「自覚はあるから茶々は入れないように。例えば、年端もいかない幼女が大好きな奴をロリコン……略さずに言うとロリータ・コンプレックスと言う。同じように、小さい男の子が好きな奴をショタコンと言う。異性の汗なんかの匂いに興奮するなら匂いフェチと言ったりするし、おっぱいが好きならおっぱい星人なんて言ったりもする。濃いところでは、動物的な特徴に興奮するケモナーや、苦痛や支配・被支配の関係がファクタになるSMなんてものもある」

 

 緑谷は何ていうか……『いきなり僕は何でこんなある意味レベルの高い性教育みたいなのを聞かされてるんだろう』的な顔になってるが、構わず続ける。ここから本題だし。

 

「これらの性的趣向は、近年になって出て来たものもあれば、ずっと昔から人間の感情の発露と共にあったものもある。この『超人時代』が始まってからは、『個性』がそういう価値観と結びついて、ちょいと言葉にしづらいそれが誕生した例も少なくない。私の場合は、まさにそれに当たる」

 

「……!? 栄陽院さんの『個性』……『無限エネルギー』と関係があるってこと?」

 

 その問いに、私は首肯することで答える。

 

「そもそもっていうか……私の『個性』の本当の名前は、『無限エネルギー』じゃないんだ」

 

「え!?」

 

「騙してたみたいでごめんなんだが……ただ、別にコレ嘘ついてたわけじゃないんだ。公的機関に申請して登録してある個性名はきちんと『無限エネルギー』だし……内容も嘘ついてない。名前が違うっていうのは、私の家に先祖代々伝わる、別な呼び名があるっていう感じのものでさ。言ってみれば、どっちも本当の名前だけど、もう1つの名前が特別な意味を持ってる、って感じなんだよ」

 

「な、なるほど……」

 

「この名前は、親から子へ口伝のみで受け継がれ、また自分が教えてもいいと判断した人にしか、伝えられることはない。で、今から私、お前にそれを伝えるわけだけど……」

 

「あ、うん。えっと、光栄だけど……いいの?」

 

「うん、いい。で……その、本当の名前は―――

 

 

 

 ―――『オール・フォー・ユー』……っていうんだ」

 

 

 

 この名前について私が聞かされたのは……母さんに、別れた父さんについて聞いた時だ。

 

 母さんは思い出話の中で、いつも楽しそうに、嬉しそうに父さんについて語っていた。にも関わらず、なぜ父さんと別れたのか……自分の全てを捧げて尽くした父さんが、なぜ他の女と一緒になることを許したのか。どうしてもわからなかったので、そう聞いた。

 

 それに対して母さんは、『そうしたいと思ってしまったから仕方ない』と答えた。

 母さんが、そして母さんの『個性』が、そう望んだからだと。

 それが、『幾瀬家』に生まれた者の、また、『オール・フォー・ユー』を持って生まれた者の宿命なんだと。

 

「『幾瀬』……って確か……?」

 

 今しがた『オール・フォー・ユー』の名を告げた時、なぜだか一瞬びくん、と反応していたように見えた緑谷が、首をかしげていた。

 

「そう、私の旧姓。母さんが今の私の義父……栄陽院豊と結婚する前のね。だから私は、その時まで……『幾瀬(いくせ)永久(とわ)』だった」

 

 それに関しては、緑谷も知ってたはず。職場体験の時に電話で聞かれたからな。

 けど、問題なのはここから。

 

 『オール・フォー・ユー』は、代々『幾瀬家』に伝わってきた『個性』だ。男女関係なく発現するが、その使い手には……1人の例外もなく、ある共通点があった。

 それは、自分が『主』として認めた、ないし定めた誰かに対し、献身的に尽くすということ。

 

 ここからは、私の家に伝わる事実をもとに推測された内容を含む話になる。母さんから真剣に聞かされたことだから、私は真実だと思ってるが……証拠とか根拠資料があるわけじゃない。

 

 『オール・フォー・ユー』の使い手は、強い力を持つ者、あるいは強い力そのもの、そして何より、これからさらに強くなれる者に対して、非常に敏感であるらしい。

 そして、そういう者のうちで……自分と性格的・精神的に波長が合うというか……本質的に好みだと思うことができ、支えたいと思う者を、自分の全力をもって支えていくことに喜びを見出す。

 

 それは恋人、ないし伴侶としてそうするに限らず、付き従う部下として、肩を並べて戦う仲間として、寄り添う1人の女として……その他、様々な形でもって成されてきた。

 代々の使い手は、そうしたいと本気で思って、自分の『主』に全力で仕え、支えて来たのだ。

 

 母さんこと、トレーナーヒーロー・アナライジュはその最たるものの1つだ。

 もともと母さんのあの分析・育成能力は、ヒーローとしての武器である以上に……たった1人、自分が支えたいと思った父さんだけのために身に着けたものだったらしい。

 

 自分が支えたいと思った男を、トップヒーローの階を登るまでに育て上げるため。

 その他の全ては、そのテストケース。もちろん、仕事である以上全て真面目にやっていたものの……他のヒーローの分析・育成によって得た膨大なデータは、全て父さんを支え、育てることにフィードバックして使われていたそうだ。……別れるまでは、だけど。

 

 詳しくは教えてくれなかったけど、母さんは父さんに、自分が人生をかけてでも支えたいという思いを抱いた。そのために、己の全てをかけて彼を支え、育てた。

 

 もちろん、『個性』もフルに使ってだ。効果的にトレーニングをこなすために体力を供給したり、運動後のマッサージやら整体の際にも、『無限エネルギー』としての側面を使って支援し続けた。

 疲労を短時間で劇的に回復させることができ、本人の技量次第で急速に肉体の改善すら行えるこの個性は、他者を支え、育てるということに対して、無類の適正を持つと言っていい。

 

 だからこそ、この『個性』によって支えられた者は、形や程度は違えど、皆、一角の人物になって『大成する』未来に至ることができたらしい。

 

 そうして、自らの『主』が一人前、ないし超一流になって成功することこそが、『幾瀬』の名を持つ者の……『オール・フォー・ユー』を持って生まれた者、全てに共通する価値観なのだ。

 

 そしてそれは……私も例外じゃない。

 

「ここまで言えば……もうわかるよな?」

 

「……! 栄陽院さんが選んだのが、僕だった、ってこと? その……『個性』のせいで?」

 

「そうかもしれないけど、『個性』のせいで無理やりそうなったなんて思ったことはないよ。私は、間違いなく自分の意思で……あんたの傍にいたい、あんたを支えたいと思ってるから」

 

 始まりはあの日……雄英受験の会場で、一撃で巨大仮想敵ロボを粉砕した緑谷を見た時。

 そのパワーはもちろんだが、危ない目にあっている1人の女の子を助けるために、躊躇なく危険に飛び込んだ誰よりもヒーローらしいその精神に、私は心奪われた。

 

 その後、雄英で一緒に過ごすうちに……どんどん、緑谷に惹かれていった。

 

 詳細はわからないが、底なしに強力な『個性』、どれ程強くなるのかわからない『将来性』。

 そして、誰に何を言われ、どんな目に遭おうとも、あこがれの英雄の背中を追いかけて、自分もそこに至ろうと努力する不屈の心。どんな状況でも一点の曇りすら見せない、英雄の精神。

 

 気が付けば、もう私の心には……緑谷を『主』とする以外の選択肢はなくなっていた。

 

「もともと雄英には、母さんの勧めで入ったんだ。母さんの母校だって点や、ここでなら他のどんなヒーロー科のある高校よりも濃い経験ができる。その経験はきっと、私がいつか出会う、私の『主』を支える時に生かせる血肉になるから、ってね。ひょっとしたら、在籍中にその『主』が見つかるかもとも思ってたけど……まさか、入学とほぼ同時に決まるとは。さすがに予想外だったな」

 

「お前と同じだよ、緑谷。私のコレは……とても、恋愛とか友情とか、そんな普通ないし一般的な感情からなる願望とは言えない。なんだったら、私個人の価値観で塗り固められた、一方的な押し付けにも思えるものだ。ぶっ飛んでるにも程があるだろ? 『ご主人様になってほしい』なんて。……それでもさ、自分の心に嘘はつけない。例えお前に嫌われようとも、これが正直な私なんだ」

 

「私はお前が望むなら……望んでくれるなら……私の全てを捧げてお前に尽くす。心も、身体も、知識も、技も、『個性』も……私の全てをお前のために使う。お前が学生として学び高める道を行くなら、私は学友としてそれを支えたい。男として生きるお前を、女として支えたい。ヒーローとして戦うなら……『相棒(サイドキック)』としてそれを支えたい。トレーナー、プロデューサー、スポンサー、ブレイン……緑谷がなりたい自分になるために、何だってやってあげたい。私がお前に抱いているのは、そんな……人生をかけた、とてつもなく重い、はた迷惑な愛情だよ」

 

 

 

 いやー、すっきりした。

 結構長いこと心の中に抱えて隠してたもの、性癖込みで、洗いざらい全部ぶちまけて……もはや愛の告白とか通りこして変態性のカミングアウトになっちゃったけど、それもやむなし。

 まあ、まだぶっちゃけてない性癖?1コあるけど……それは、その時が来たらってことで。

 

 矢継ぎ早に告げられたあんまりな内容に、さっきまで浮かんでた罪悪感とか不安が全部ふっとんで、緑谷、ぼーぜんとした顔になっちゃってるけど。

 

 どのみち、いつかは告げなきゃいけないと思ってたことだ。

 緑谷が、自分の心の中にしまったまま私と付き合っててもよかったものを、真正面からぶちまけてくれたんだ……私だってこのくらいしなくてどうするって話だよ。

 

 ……依然として、この後、緑谷に何て言われるかは、少し怖いけどさ。

  

「…………えっと、ごめん……」

 

 しばらく間を置いて、緑谷は口を開く。

 

「その、こういうの初めてで……どんな顔をしたらいいのかもわからない」

 

 笑えばいいと思うよ、じゃなくて。

 

「ははは、無理しなくていーよ緑谷。そりゃ、突然こんなこと言われたら困るよな。表情筋も仕事できなくなるだろうさ……ひとまず、落ち着くまで無表情でも百面相でも好きにしてくれ」

 

「う、うん……す、少なくとも、心の方はもうちょっとしたら整理つけるから、ちょっと待って」

 

 そのまま緑谷、顔面の筋肉をぐにぐにとマッサージするようにしたり、気持ちを落ち着けるために深呼吸したり、それでも落ち着かなくて頭を抱えたり、私の顔をちらっと見て、目が合った瞬間に目を反らしたりと、存分に挙動不審になっていた。

 

 しかし、たっぷり5分くらいかけて、ようやくそれも収まったあたりで……真正面から私を見た。今度は、目をそらさずに。

 

「……その……話してくれたところにごめん、先に確認しておきたいんだけど……栄陽院さんは、僕が君を『欲しい』なんて失礼なことを思ってたことは、その……怒ってないの?」

 

「うん、全然。むしろ嬉しかったよ、『欲しがって』くれて」

 

「じゃ、じゃあ……これからも、一緒に特訓とか、勉強とか……色々、してくれるの?」

 

「もちろん。ってか、むしろもっと色々できるぞ? カミングアウトも済んだし。……そうだな、ちょっと俗っぽい言い方で言っちゃおうか。少し自画自賛入るけど」

 

 そう言って私は、ちょっと席を外し、部屋からタブレットを持ってきた。

 緑谷の座るソファの隣に腰を下ろして、並んで座るようにして……緑谷に寄りかかる。触れた瞬間にびくん、と緑谷が反応したのが分かったけど、まあ置いといて。

 

 すいすいと指を滑らせていくつか操作し、画像が保存されているフォルダを呼び出して……と。

 

「……! わ、何コレ……栄陽院さんだよね? ジーンズ履いて……ひょっとして職場体験の時?」

 

「ああ。コスチュームの改造の間、基礎トレする服がなかったんで、事務所備え付けのウェア借りたんだけど……あの事務所、貸し出し用の服もきっちりデニムなのな」

 

「ははは、そうだったんだ……でも、似合ってるよ? 栄陽院さん、足長いから、こういう服……あれ、別な写真もある。こっちもジーンズだけど……」

 

「こっちは、職場体験のラストの方で撮影した写真だな。発売近いから送ってもらえたんだ」

 

「発売……あ、そうか、雑誌の取材受けたんだっけ? じゃあ、コレその時の写真? うわあ……どうりでカッコよく撮れてるよ。すごくきれいだし……」

 

 単純に記念撮影だった基礎トレの時と違って、こっちは正真正銘のプロの撮影だしな。

 フラッシュのたき方然り、撮影するタイミングや位置取り然り、見事なもんだ。

 

「ん? コレ何? やっぱり栄陽院さんなのはわかるけど……なんか、スーツみたいな服だけど」

 

「ああ、コレはこないだ、『栄陽院家』本家に呼び出された時の奴だな。……家に入るのにおめかししなきゃいけないっていう、わけのわかんないルールが敷かれてる家だよ……肩凝るんだよなあ」

 

 レディースのよそ行き風の服に着替えて、襟元もきちっと占めて着て……少し疲れたというか、げんなりしてる様子の私の写真である。

 

「そ、そうなんだ……結構似合ってるけど……その時に撮ったの?」

 

「私がこんな服着るのは珍しいどころじゃないからって、義姉さん達に撮られた。そんでその後、その義姉さん達に色々着せ替えさせられて……ああ、コレコレ」

 

「わあ……すごい、本当に色々だ……」

 

 よそ行きの私に続けて、色々と着せ替え人形にされた写真が続く。義姉さん達ときたら、いつの間に、何を考えてあんな風に色々と私の服を買いそろえてたのか……まあ、何だかんだで私も割と楽しみながら着てたけど……私、実家(本家)に戻る予定ないのにな?

 

 ゆったりした部屋着みたいな組み合わせから、カジュアルな感じのコーディネート。

 革ジャンやGジャンをメインにした、ワイルドな感じの組み合わせのものもある。

 

 趣向を変えて、上下1体のツナギというか、バイクスーツみたいなの。わざと胸元を開けてて、お色気的な雰囲気になってたり。女スパイみたい、って笑われた。

 緑谷に見せたら、わかるかも、って言いながら笑ってた。ちょっと顔赤かったけど。

 

 その後……ああ、うん、メイド服も着せられたんだった。死ぬほど似合ってないな……背が高すぎて『可愛さ』の部分にちょっと欠落が見られる。緑谷は『そんなことない』って言ってくれたが……個人的には、その後着せられた執事服の方がかえって似合ってた気も……。

 

 あと、完全にコスプレだけど、女ヒーローっぽいコスチュームやらスーツ着せられたりもしたな……ミッドナイトのタイツスーツとか、Mt.レディのボディスーツとか着せられた。

 何を考えてあんなの用意してあったんだ……いやまあ、一時期18禁ヒーローの後継者扱いされたりしたけど……。

 見せたら、案の定緑谷に顔真っ赤にされた。でも割と似合ってるって。ならよし。

 

 その次はドレス姿。というか、これは緑谷もう見てるな。あの『ご褒美』の日に、ドレスコードのホテルで着てた奴だし。

 

 その次にあったまた別なドレスを見たら、緑谷また顔真っ赤にしてたけど。うん、まあ……背中丸見えの上、Vネックだかフロントなんちゃらだかっていう、胸に布当てて隠してるだけ的な……かなり露出多めのドレスだからな。八百万のヒーロースーツより露出多い。

 

 さらにその後には水着も。これまた色々あってビキニだったり、モノキニだったり……スリングショットとかいう、隠す気あるのかってものまで着せられた。さっきからずっと緑谷、顔赤い。

 

 極めつけの写真が……

 

「ちょっ……何で裸っ!? 何も着てな……何コレ!?」

 

「その後一緒に風呂入った時にさ、我が妹の成長記録だーとか何とか言って、悪ふざけで」

 

「家族内での悪ふざけでもコレは……っていうか、部外者に見せたらダメでしょ!」

 

 若干というか、数秒ほどガン見しちゃってた後に、はっとしたように目を反らして緑谷はそう言っていた。いいのに、もう緑谷には色々見られちゃってるし?

 具体的には、お泊りの翌朝とかにドジって。

 

 そう指摘したら、『そうだけどそれは事故だったし……』と言いつつ、しっかりその時のことを思いだしてまた赤くなってる緑谷。

 

 さて、それではここらで……長々と色々見せてきたわけだが、緑谷には褒めてもらえたり、褒めるとかではないけど顔赤くしてもらったりと、概ね好評だったようには思える。

 

 その上でだけど……

 

「なあ緑谷?」

 

「……う、うん……?」

 

 

 

「緑谷が望めば、全部手に入るんだぜ?」

 

 

 

「……ッ……!?」

 

 色々な『私』の写真を見てもらった。ゆったりした服でリラックスした私、クールないしカジュアルに決めた私、似合ってないけどメイドな私、ワイルドに攻めた私。

 もちろん、普段の学生服やジャージの私、ヒーローコスチュームの私も。

 そして……全力でセクシー方向に走った、ドレスや水着の私や……何も着てない私ですらも。

 

 緑谷が『見たい』ないし『欲しい』と望めば、全部手に入る。

 

「昔のゲームにあったみたいな、『世界の半分をやろう』とかいう、邪な感じの問いかけじゃない。きちんと私も同意の上で……というか、私もむしろ望んだ上でのそれだ。今までの写真を、そうだな……ぶっとんだ例えだけど、お見合い写真……いやむしろ、カタログだと思えばいい」

 

「か、カタログって……!?」

 

「『欲しい』なら、お好きにご注文をどうぞ? 普段通りの私が望みなら、勉強やトレーニングにも普通に付き合う。女の子らしい私が望みなら、カジュアルにまとめて食べ歩きや買い物にでも行こうか。水着の私をご所望なら、もう1ヶ月ちょいで夏になるし、海とかプールに行くのもいいな。ドレスの私は……他に比べりゃ出番少ないが、3つ星のレストランにでも行くか、ヒーロー関係のイベントあたりか? あるいは、服はいらない、ってんなら……風呂かベッドにご一緒するよ?」

 

 言いながら私は、ゆっくりと緑谷を押し倒した。

 顔を真っ赤にして、不整脈を起こしそうなくらいに心臓がどきどきしているであろう彼を、ソファに横にして……その上に覆いかぶさる。下腹部を、同じく下腹部でがっちりホールドして。

 

 そのまま、見つめ合うことしばし。

 

「……ふふっ、まあ……いきなりこんなこと言われても困るよな。ははは、ごめんごめん」

 

 そう言って私は、緑谷の上からどいた。

 

 まだ息が荒い緑谷は、少し動きづらそうにしながら、ゆっくりと起き上がって……今私が腰かけていた、というか乗っていたあたりをかばいながら?座り直す。

 

「ちょっと色々ぶっ飛んだことまで言っちゃったけど、私の気持ちは今言った通りだよ、緑谷。私は……お前に必要としてもらえてすごく嬉しい。だから、緑谷が今まで通り付き合っていきたいって言うなら、喜んでそうさせてもらう。今までと同じように、いや、今まで以上に、緑谷と一緒に強くなれるよう、私も努力していくから……うん、よろしくってことで」

 

「そ、そうだね、よろしく……お願いします」

 

「はい、お願いされました」

 

「そ、それでも……その……緊張しちゃって、今まで通りに戻すにはちょっと苦労するかもしれないけどね。ははは……いや、もちろんそんな風に言ってもらえて、うれしいんだけど……いきなりそういう風に付き合いを変えるのもアレだし、やっぱりひとまずはいつも通りがいいかなっていうか……むしろ僕も挙動不審にならないようにしないとだけど……」

 

 と、少々どもりながら言う緑谷。ははは、それは確かにそうだな。

 

 いきなり私らが付き合い方変えたら、色々勘繰られるし、騒ぎそうな奴らもいるもんな。

 恋バナ大好きな芦戸や葉隠とか、嫉妬全開の峰田や上鳴とか。

 

 ……緑谷に好意を抱いてると思しき、あの子とかこの子とか、な。

 

 まあもちろん私は、緑谷さえそうしたいなら、そういう感じになるでも全然オーケーだけど……とりあえず今は現状維持希望ってんなら、そうさせてもらう。

 すでに気持ちは伝えた。いつ、どんな風に返事をしてくれるかは――あるいは、言葉じゃなくて行動で示してくれても一向にかまわん――緑谷に一任する。

 

 それに、だ……

 

「こんな風に話しといてなんだけど……暫くはそれどころじゃないかもしれないしな」

 

「え? どういうこと?」

 

 不意の私の言葉に、緑谷はきょとんとした表情でそう問い返してくる。

 職場体験はもちろん、中間試験も終わってるのに、近々何かあったかな、って感じの顔だ。

 

 まあ、年間行事予定には載ってないからな……そりゃ、寝耳に水な話になるだろうが……

 

「詳しくはまだ言えないけど……多分明日か明後日あたり、相澤先生から発表あるよ。あー……私の母さん関連だとだけ言っておく」

 

「? 栄陽院さんのお母さん……『アナライジュ』……強化カリキュラム……あー……」

 

 その言葉で色々察したらしい緑谷。グラントリノから色々聞いてたっぽいからな。

 詳細は……明日ってことで。

 

 そしてそのまま、お互いにカミングアウトを終え、しこりなく今後も付き合えるようになった私達は、晴れ晴れとした気持ちでその日は分かれることとなった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……と、言いたいところだが。

 

「あー緑谷。私これから、買い物行ってくるね? 緑谷は、帰る前に……お風呂入っていきなよ」

 

「え、お、おおおお風呂!? な、何で!? ぼ、僕もう帰ろうと……」

 

「いや、だって、そのまま帰るのもアレじゃん……『気持ち悪い』だろ?」

 

 ぎょっとしてどもる……なんとなく、その先を言ってほしくなさそうな緑谷に、私は……ニヤニヤ笑みが浮かぶのをこらえられないままに、言う。

 

 

 

「遠慮しないで、洗い流してスッキリしてった方がいいって。洗濯機の使い方もわかるよね? ……パンツも洗っていきな。私、今新しいの適当に買ってくるから」

 

 

 

「…………っ~~~!!」

 

 一気に真っ赤になる緑谷を部屋に置いて、私は、ほんの少しだが……特徴的な匂いが漂っているリビングを後にした。

 閉じたドアの向こうから『うぁぁぁ……』と、絞り出すようなうめき声や、『ばれてた……』と、打ちひしがれるような声が聞こえた。

 

 ……ソファに押し倒して、上に乗っかった時、すでに変形してたし、服越しでもわかるくらいに熱くて硬かったし……その後、一瞬びくってなったあの時だろうな。

 うん、さすがに悪いことした。

 

 あ、でも可愛かったから写真撮っとけばよかった(反省ゼロ)。

 

 

 

 ……あそこでもう1歩、いやなんならもう半歩、私の方から歩み寄るなり押し込めば、きっと私は緑谷と、望む関係になれただろう。

 なんなら、男と女として、一線を越えることすらできたかもしれない。もうなんか、頭ショートして、流されるままだったしな、緑谷。

 

 けど、それはしない。私の方から『ご主人様』に、そんなことはできない。

 

 だから……

 

 

 

(明確な一線、そして、最後の一線は……越えるなら、緑谷の方から、緑谷の意思で……ね)

 

 

 

 だから、私は待とう。緑谷が……私のことを求めてくれる日を。自分のものにしてくれる日を。

 

 鏡で見なくてもわかるくらいに、赤く、熱くなって、そしてにやけている自分の顔に手を当てて、その熱を感じながら……私は、緑谷を残して部屋を出た。

 そして……適当に時間を潰してから、部屋に戻った。

 

 

 

 ? パンツ買いに行かなかったのかって?

 

 やだなあ、そんなの……もう用意してあるに決まってんじゃん。

 いつ、何があってもいいように……体育祭前から一揃え買ってあるよ。パンツだけじゃなく、シャツも、適当な部屋着も。

 どれも緑谷のサイズに合う奴を。『マッサージ』の時にそのへんは把握してたからね。

 

 ああ言ったのは、部屋を出るためのただの口実。私が暫くいない方が、緑谷も心を落ち着けやすいだろうし。

 

 

 




永久、覚悟完了。あとは緑谷の気持ち一つというところまで来ました。
とりあえず返事保留、焦らして意識させてる時間とも言う。発酵が進むかの如く悶々を抱えるデク君の心境やいかに……
永久も……前話でもけっこうカッ飛ばしてたけど、今回さらにアクセル踏み込んできた……



第4章ですが、こないだ予告した通り、期末試験……の前に、オリジナルの修行パートみたいなのを含む予定です。
それに伴って、クロスオーバーが頻繁に発生する可能性が高いです。書きたいことがたまってて……
クロス苦手とか、修行パートとか退屈とかいう人がいたらすいません。楽しんでもらえるよう頑張りますので、ご容赦ください。

以上、破戒僧でした。

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