TSから始まるヒロインアカデミア   作:破戒僧

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前回に引き続き、また説明回みたいになっちゃいました。特に後半。
くどくならないようにネタとか可能な限りちりばめたけど……


第62話 TS少女とプログラム説明

 

 案の定というか何というか、その日の学校は放課後までずっと、『ワーキングホリデー』の話題でいっぱいだった。

 『職場体験』と同様に、己の身になる経験を積める(かもしれない)機会だ。形は違えど、向上心に溢れたメンバーが集まっているこのクラスの皆なら、まあこうなるだろうなとは思っていた。

 

 しかし、すぐには、そう簡単には運ばないのがこの世の常である。

 

 体育祭で指名をもらった者達の中には、早速今回の制度について指名先に説明を行い、『受け入れやってますか?』と確認した者も多くいたが……

 

「ぬぁー……ガンヘッドさんの事務所、インターンの受け入れはやってないって……。今回の『ワーキングホリデー』も多分やる予定ないって言われてもた……」

 

「けろ、セルキーさんも今のところそうだって言われたわ。やっぱり『職場体験』とは勝手が違うみたい」

 

「やっぱそういうとこ多いんだな……俺もフォースカインドさんに思い切って聞いてみたんだけど、さすがにそこまではやってねえってさ。あー、見込み外れちまった」

 

 麗日、梅雨ちゃん、切島の3人は、どうやら昼休みとかに早くも聞いてみたらしいが、いずれも撃沈したようだ。

 

 まあ、向こうの負担ある形でのことだし、そう簡単にはうなずいてはもらえないよな。

 こっちからすれば、『仮免がなくても受けられる』という点で利点だけど、あっちからすればそれは自分にとっての負担になるからな。常に目の届くところに置いておいて見ておかなければならないわけだし……何かあったら自分の責任になる。ヒーロー殺しの時みたいに。

 

 まして、インターンは有償……すなわち給料をきちんと支払っての『就労』って扱いだからな。である以上、中途半端な戦力はお呼びでないだろう。

 

 『ワーキングホリデー』はその限りではない。給料が出るかどうかは、どう契約を結ぶかによるから、双方が納得済みであれば、有償でもいいし無償でもいい。

 生徒達からすれば、そこで積める経験が既に報酬だともいえるし。

 

 それこそ、こっちが明確に戦力として機能するとか、あっちが雄英生とのつながりを持ちたがってるとか、何かしらのメリットでもない限りは……余程後進の教育に力を入れてるような事務所でもない限りは『ご縁がなかった』ということになるだろう。

 

(後進の育成か……ベストジーニストの事務所なら、相手にもよるけどやるかもしれないな)

 

「ねえ、永久ちゃんはどうするの? 職場体験先に聞いてみた?」

 

 と、ちょうど思ってたのと同じことを梅雨ちゃんに聞かれた。

 

「いや、まだ。まあ、やるにしても色々都合とか、勉強のスケジュールとか考えないといけないし……今々急いで取り掛かることも無いかなー、とか思ってる」

 

「俺も同様だ。経験を積むのは意義あることだが、その為に別な部分を疎かにしていいわけではないだろうからね」

 

 と、飯田も。相変わらずのカクカクした動きでそう言ってくるが、その直後にちょっと気まずそうにして、

 

「それに俺の場合、職場体験ではマニュアルさんに迷惑をかけてしまったから、頼むどころか相談もしにくいし……そもそもあの人は、その一件のせいで、教育資格のはく奪期間中なんだ。だから現状、当てもないと言った方が正確だな」

 

「ああ……飯田の場合はそれも絡んでくるのか。ヒーロー殺しのせいで飛んだとばっちりだな」

 

 切島のその言葉に、ちょっと飯田が言葉に詰まっていた。

 飯田からしてみれば、兄であるインゲニウムは襲われるわ、自分も職場体験の時に襲われるわ、その事務所にも『監督不行き届き』ってことで迷惑がかかるわ……傍から見たら、そりゃまさしく疫病神にも等しい存在だ……という風に切島は思ったんだろう。

 

 ……実際は、職場体験先の選択とか、実は飯田の方からヒーロー殺しに攻撃を仕掛けてたとか、色々問題行動もあったんだが……まあ、その辺はもう『なかったこと』になっている。

 それもあって、飯田は少し居心地悪そうな表情になったんだろう。

 

「ん? ってことは、エンデヴァーやベストジーニスト、それに緑谷が世話になった……あー、誰だったか忘れたけど、その人も受け入れ無理な感じか? 教育権なんちゃらで」

 

「いや、同じようにあの一件に関わりはあったけど、親父は教育権はく奪は食らってねえからな。今度の休みに、面接行けることになった」

 

「マジかよ!? いいなー轟……」

 

 轟が言ったように、あの件に『受け入れ先』として関わった4人のプロヒーロー……エンデヴァー、ベストジーニスト、マニュアル、そしてグラントリノは、誰もかれもが監督不行き届きで同じ罰を受けたわけじゃない。

 

 きちんと私を監督下に置いて(というか私がきちんということを聞いてというか)面倒を見ていて、本当にヒーロー活動の中でしか被害を出さなかったベストジーニストは、お咎めなし。

 

 エンデヴァーは、一応轟の要請に応じて(友達がピンチかもしれない、っていう程度のものではあったが)許可を出していた。

 結果的にその見込みが甘かったせいで怪我をさせたっていう落ち度はあったものの、教育権のはく奪はなし。わずかに減給を食らったくらいである。

 

 グラントリノは、緑谷が勝手に行動してしまったものの、その大部分はベストジーニストが代わりに面倒を見ていたのでそこまで危険に対する責任は大きくならず、教育権はく奪と減給。

 もっとも、元々ヒーロー活動にそんなに興味ない人らしいので、特に堪えてないらしいが。

 

 そしてマニュアルが一番重い。内容としてはグラントリノと同じだが、彼の場合、ほぼ最初から最後まで飯田の暴走を許してしまった上、戦いに加わる=監督下に戻すまでも一番長かったからな。

 それでも、隠蔽のカバーストーリーのおかげでそこまでの罰にはなってないが。

 

「すると、轟ちゃんは『ワーキングホリデー』、エンデヴァーのところで受けるのかしら?」

 

「多分な。日程とかはこれから調整することになるけど、早ければ今月中旬くらいからやる予定だ。面接も形式的なもんだって言ってた。給料出すかどうかは成績とか見て決めるってよ」

 

「うっそ、お給料まで出る話になっとるん!? えーなー……でも、エンデヴァーって轟君のお父さんやから……実質、お小遣いもらってお手伝いみたいな形になるん?」

 

「……アイツからただ金貰うだけってのも癪だから、一応労働の対価ってことで考えようと思う」

 

 ちょっとつまらなそうな轟。反抗期の子供みたい。

 

 まあそれでも、職場体験の時同様、そこに行くことで得るものがあるとわかってるからこそ、こういう判断を、しかもその日のうちに下したんだろうな。

 

 未だにどういう理由でかは詳しくは知らないけど、なんか不仲っぽかったし。

 今だって、解消できたわけじゃなさそうだが……轟家、依然として闇が深い?

 

「けどそうなると、緑谷は?」

 

「え? あーっと……僕の担当だった人は、教育権はく奪くらっちゃったから……いやそれ以前に、別件で今なんか忙しく動いてるみたいで、どっちみち無理みたい。他当たれって言われた」

 

「そっかー。そうなると……指名来てた他の事務所とかに手あたり次第電話かけてみるしかあらへんのやろか?」

 

「そうね。でも、いい機会だから私、きちんと基礎を固めながらゆっくり考えようと思うわ。『フレックスタイム』の貯蓄は、貯めるだけならやっておいて損はないだろうし……受け入れ先が見つかった時にすぐにでも動けるようにしておくのもいいかもしれないわ」

 

「それもいいかもな。……俺の場合、勉強の方にもあんまり余裕あるわけでもねーし……」

 

 と、切島はふいに思いだしたらしい、中間テストの成績を思い返して言っていた。

 うんうん、さっき飯田も言ってたけど、座学を含めて他のところを疎かにしちゃいけないもんな。

 

 ……ただまあ、私の場合……いや、私と緑谷の場合は、どこに電話して決める以前に、そういうのは既に決まってるも同然なんだが。

 

 緑谷の方も……なんか、いつものよくわからないオールマイト関連ネットワークが頼れなくなったみたいだし、好都合だ。

 

 梅雨ちゃん達が『爆豪も轟と一緒にエンデヴァー事務所に行くのか』って聞いてるのを見ながら、私は緑谷にそっと声をかけて、耳打ちする感じで言った。

 

「緑谷、今日の放課後空いてる? ……もし来れそうなら、うちに来て」

 

「えっ!? う、うん、いいけど……何?」

 

「……義姉さん達から連絡入った。いよいよさ、始まるって。『デウス・ロ・ウルト』」

 

「……っ……!」

 

 

 ☆☆☆

 

 

 はい、というわけで我が家です。

 場所はリビングルーム。緑谷が居心地悪そうに、若干小さくなって座っております。

 

 今となっては、緑谷は私の部屋に来たくらいじゃさして緊張することもなくなったんだが……今の室内の男女比が1:4だからね、仕方ないかもしれない。

 男が緑谷1人なのに対して、女性は私と、育乃義姉さん、成実義姉さん、そしてまさかの母さんまでそろってるからな……緊張しても仕方ないだろう。

 

 しかし、これから始まる話をするうえで、ここにいるメンバーは全員必要な面子なので、そこは諦めてもらうしかない。

 

「それじゃあ緑谷君、永久、これから私から、2人に体験してもらうトップヒーロー育成プログラム『デウス・ロ・ウルト』について、本格的な説明をさせてもらうわね」

 

 育乃義姉さんがそう言ってリモコンを操作すると、机の上に置いてあったプロジェクターが起動して、壁にスライドショーが浮かび上がった。部屋が明るくてもきちんと見えるタイプの奴だ。

 義姉さんはそこに映し出される資料を使い、順序立ててこのプランについて話していく。まんま企業の会議かプレゼンみたいな感じである。

 

「まず大前提として、これから行うプログラムはあくまでこちらのテストケース。内容についての相談・調整は随時受け付けるし、かかる費用は被服控除の分も含め、全てわが社が負担するから、心配はいらないわ。その上で……今日学校から発表された、『ワーキングホリデー』と『フレックスタイム』。この2つを最大限利用して進めていきます」

 

 そう言って画面を切り替える。映し出されたのは、おおまかなスケジュール表。

 6月から8月までの3ヶ月分のカレンダーが表示されていて……その中にはいくつか、既に予定のようなものが書きこまれていた。プログラムもそうだが……学校行事もあるな。

 

「見てもらうとわかる通り、雄英高校はこれから先、7月上旬に期末試験、夏休みに入ってからは『林間合宿』が設定されているわ。加えて……」

 

「これはまだ外部に明らかにされてはいないけど、夏の終わりにある『仮免試験』において、今期の1年生も参加が検討されているの。今回のカリキュラム調整も、それを見据えて生徒1人1人の実力を伸ばすためっていう意味合いが強いと思ってもらえばいいわ」

 

 と、母さんが付け加える。

 なお、緑谷は母さんとは今日が初対面なので、さっき既に挨拶は済ませてある。

 

「『仮免』……普通は2年生になってから取得を検討する人が多いって聞きました」

 

「普通は、ね。でも、こう言っては何だけど……今年の雄英1年ヒーローは、粒ぞろいと言ってもいいくらいに有望な子が揃っているのに加え……普通じゃない事態が続いているでしょう? 学校側としては、生徒達にもより成長の機会を、そしてそれ以上に、自己防衛の手段を持たせることが必要だと考えているようなの。そのために、限定的な条件下であれど、公共の場で『個性』を使うことができるようになる『仮免』の取得が急務、ということよ」

 

 インターン関連の話で、ちょうど今日聞いたところだった言葉が出て来たな。

 これも、偶然ってことはないだろう。雄英の教師陣は……そして、そこから委託を受けているうちの母は、どの辺までを見据えて動いているのやら。

 

「そのために少しでも実力を伸ばすため、新たに今日説明された2つの制度が導入された。今回の『デウス・ロ・ウルト』でも、それらを最大限活用するわ。具体的には……6~7月の休日や放課後にびっちり補修を入れたり追加課題をもらったりしておいて、可能な限り『フレックスタイム』を貯蓄しておく。それを使って、要所要所でこちらが設定した強化プログラムに参加してもらう」

 

「それに加えて、普段の日常生活からも可能なアプローチを組み込んでいきます。食生活や基礎トレーニングの改善による体作りや、本格的な体術訓練なんかも含めてね。もっとも、それらは既に雄英高校が最高水準のそれを用意しているだろうから、多少手を加えるだけでいいと思うけど」

 

 まあ、確かにね……ヒーロー基礎学では、最初にやった『戦闘訓練』や、最近やった『救助レース』みたいに派手さのあるものもあれば、普通に対人の格闘訓練とか、救助の際に必要になる器具(避難トンネルとかAEDとか)の取り扱いも学ぶからなあ。

 そういうとこで、あくまで基礎であれば学べるし、体作りのためのトレーニングもやる。

 

 もっとも、それだけではトップヒーローになるには足りないから、そのへんを補填するために、っていう扱いで学ぶことになるだろう。

 

「それと、座学についてもバックアップさせてもらうわ。実技のみに注力して座学が疎かになり、後顧の憂いを抱えてしまうようでは本末転倒。『フレックスタイム』の確保のためというのもあるし、不足なくこなせるように講義をこちらで手配するわ」

 

「そこまでしてもらえるんですか……!?」

 

「トップの中のトップを目指すんだから、これくらいはね。特に今の時期は、仮免取得のために、確実に実力をつけていくことが必要とされるから、スタートダッシュの意味でも、少し過密気味にスケジュールを詰め込むわ。適度に息抜きなんかも設けるけど、辛すぎて心身へ負担が大きいと思ったら遠慮なく言ってちょうだい。調整するから」

 

 そしてそこから、育乃義姉さんと成実義姉さんは、私達の強化プランを詳しく説明していく。

 

 

 

 ……たっぷり1時間ほどもかけて、説明は終わった。

 

 何ともまあ……予想以上に大掛かりで、しかもかなり環境が急変するような内容だった。

 私も緑谷も、心の準備は色々としてたつもりだったんだけど……コレは流石に、すぐに決められるようなものでもないんじゃないか?

 

 いや、私は緑谷が望むならすぐにでも準備始めるつもりだけど……さすがに生活の変化が大きすぎると思うし、即決は難しいのでは……と思っていた。

 

 が、緑谷は少しの間考え込むようにしたかと思うと、『よし』と小さく言って。

 

「わかりました、その内容で準備始めたいと思います。さすがに引っ越しともなると、親への説明なんかも含めて、色々準備期間はほしいですけど……」

 

 そう……このプラン、しょっぱなからド本気だということがわかる基準の1つとして、住む場所までこっちで用意するというのだ。

 体作りのために、衣食住全てに手を入れるようで……マジか、と思わず思ってしまった。

 

 私はともかく、流石にコレは緑谷にいきなり大きな負担じゃないかと思ったんだけど……緑谷は緑谷で本気度が前よりも上がっているように感じた。なんと、即決である。

 親の説得は苦労するかもだけど、なんとかするって。

 

「それなら問題ないわね。まずはできる部分から取り掛かっていく予定で見ているから。そうね……2週間後くらいを目途に用意を進めてくれればいいと思うわ」

 

 緑谷の要望を、快く承諾する育乃義姉さん。もともとこのくらいは想定していたようだ。

 

「いいのか緑谷? 結構大きく生活変わるけど……そんなにすぐ決めて?」

 

「うん、大丈夫だよ栄陽院さん。元々、強くなるためなら何だってやらなくちゃ、って思ってたし……ここまでのものを用意してくれたっていうんなら、僕だって応えたいから」

 

「やる気十分、ってわけだ? なら話は早いわ。訓練施設だけど、明後日から利用できるようにしておくから、放課後はそこに通うようにしてちょうだい。荷造りとかの期限は特に設けないけど……まあ当然早いほうがいいわね。用意ができたら、資料に乗せてある電話番号に連絡を入れてくれれば業者を向かわせるわ。それと……永久と緑谷君には、コレも渡しておくわね」

 

 そう言って成実義姉さんは、私と緑谷の目の前に、封筒を1つずつ置いた。

 促されるままに、開けて中身を確認して見ると……中に入っていたのは、1枚のカードと、何枚かの説明書と思しき書類。

 

 何だろコレ? キャッシュカードとかクレジットカードにも見えるけど……色が、黒い?

 説明書を読んでみると……

 

「え、栄陽院さん、コレ……!?」

 

 ……どうやら、同じ内容を目にしたらしい緑谷の、何かこう……助けを求めるような視線が飛んできた。うん、まあ……気持ちはなんとなくわかるよ。こんなもんポンと渡されたらね、そりゃ、ありがたい通り越して怖いよね。

 

「あー……義姉さん達? 母さんも、ちょっとコレは流石に……」

 

「いいのよ、そのくらいは持っててもらった方が。ヒーローってのは何かとお金かかるもんだし、心配しなくても経費なら唸るほど用意してあるから」

 

「あんまり関係ないことに無駄遣いとかしたら注意入るけど、学業及びヒーロー活動に関して何か必要なものがあれば、全部それで落としちゃっていいからね? あ、被服控除とか、テストケース自体についての報酬はもちろん別に用意するから安心して頂戴」

 

 このカードの正体は、『栄陽院コーポレーション』が支払元兼保証人になっている、複合機能カードだった。クレジットカードとして使用することができ、たいていのものはコレで購入できる上、残高の許容圏内であれば、キャッシュカードみたいに現金を引き出して使うこともできる。

 限度額は流石に存在するものの、毎月リセットされる。

 

 要するに、この事業にかかる経費の前渡しみたいなもんか。何か必要なものはコレで買えと。

 

 基本的に『テストケース協力費』の名目で支給されるものなので、ヒーロー活動及びその関係の学習に不必要な、ないし関係ないものを買うと経費として認められない可能性もあるが、割とその辺ガバガバのようだ……書類を見る限り。

 

「飲食費、被服費、接待費、資料代……この内訳っていうか、具体例詳しく聞いてもいい?」

 

「飲食費はそのまんまよ。雄英の学食から、訓練中に飲むスポーツドリンク、口休めに買うお菓子まで何でもOK。被服費は、汗かいて着替えたり拭くのにシャツとかタオル買うでしょ? 接待費は、クラスメイトや、事業関連で会う人とかとの付き合いに使うお金とかあるでしょ? ファミレスとかで打ち合わせしたり。資料代は……特に緑谷君とかならわかると思うけど、ヒーロー関連の書籍や雑誌なんかそれで買っちゃってOK」

 

「ちょっとそれ経費の幅広すぎません!? 何か途中、いくらでも解釈広げられそうなものが結構まじってましたよ!?」

 

 思わず緑谷から悲鳴が上がる。

 彼の心境は、いきなり札束を『必要な時に使いなさい』ってお小遣いとして持たされたようなものだろうか。信頼と期待が重いというか、分不相応なもの持たされて高級感が怖いというか。

 

「いいのよそんなもんで。あまりに常識はずれな……それ使ってテレビゲーム買うとか、アイドルのコンサート行くためにネットオークションでつぎ込むとか、ソシャゲで課金しまくるとか、そういうアホな使い方しなければOK」

 

「漫画家や小説家だって、書く作品のジャンルに応じて、フィギュアとかエアガンとか写真集とか経費で落とせたりするでしょう? ならヒーローの卵が成長するために必要なものを買うのに遠慮なんかいらないわ。都度現金を支給するのも手間だし、必要だと思ったらそれで買ってしまってちょうだい。経費の書類作成やら精算なんかは、きちんとこっちで履歴を見て行っておくから」

 

 ……とんでもない特別待遇だな……訓練メニューの設定から講師その他の手配、さらには経費の支給までしてくれるとは……

 

 ありがたいけど、純粋にプレッシャーも強い……緑谷も横で、ちょっと後悔してるような顔色になってるし……

 

 まあ、乗り掛かった舟だ、なるようになれ。私は何にせよ、全力で行くだけだ。

 

 

 

 


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