TSから始まるヒロインアカデミア   作:破戒僧

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第66話 TS少女と軍隊式教練

 

 走る。走る。走る。

 足を止めずにひたすら走る。

 

 止まればやられる。後ろから追ってくる圧倒的な暴力に、なすすべもなく撃ち抜かれる。

 

「永久! 動きが単調になっている! そんなことでは狙い撃たれて終わりだぞ! 貴様もだ緑谷出久! いちいち向かう先や狙う的を視線で見るなと何度言ったらわかる!」

 

 決して狭くはない、多用途訓練スペース。まあ要は、広くて頑丈な道場みたいな場所なんだが……そこで私達は、我が友人であるターニャの指導を受けていた。

 

 今年で15歳になるターニャは、私達より年下だが、その能力はあらゆる面で下手なプロヒーローを上回る。戦闘能力もさることながら、洞察力、頭脳、そして指導に関しても。

 この実力がどんなふうにして培われたのかってのは……前に聞いたことがあるけど、あまり聞いていて気分のいい話じゃなかった。

 

(もっとも、その理屈を今回の『デウス・ロ・ウルト』では活用してるんだけど……!)

 

 道場の中で、私と緑谷は2人がかりでターニャを相手にしてるんだが、正直勝負になってない。実質、ターニャからの攻撃を避けて逃げて防ぎ続けるばっかりだ。

 

 ターニャ自身の総合的な実力もそうだけど、何より『個性』が強力すぎる。

 

 点、線、面……あらゆる範囲で攻撃してくる上に、さっきも行ってたけど単調な動きじゃ先読みされて狙い撃たれるからだ。

 

 今ターニャは、一昔前のライフルっぽい武器を構えてこちらに向けている。

 しかし、そこには鉛玉が込められているわけではない。飛んでくるのは……彼女が『個性』で、自前で用意した弾丸だ。

 

 ドゥン! という轟音と共に……暴風が圧縮された弾丸が放たれ、間一髪射線から逃れた私のすぐ横をかすめていく。

 しかもそれが2発、3発と放たれるので、足を止めてなんかいられない。

 

 と、私が撃たれている間に、緑谷がターニャの死角から最高速度で突っ込んでいくけど、ターニャはそっちを見ずに宙返りしてその攻撃をかわす。

 それを追って緑谷が、いつも通りの身軽な動きで空中に跳ぶ……が、

 

「筋肉の駆動、視線の移動、予備動作のベクトル……全てがお前の次の動きを私に教える」

 

 跳躍と同時に、その方向に割り込んできたターニャの足に突っ込んでしまった。

 頑丈な軍服の、しかも金属が仕込んであるらしいつま先が鳩尾にめり込む。かはっ、と苦しそうに……肺から空気が抜けた音が、緑谷の口から洩れた。

 

「動きの癖まで今すぐに直せなどと無茶は言わん。だが、いつまでも課題をそのままにしておくことは私は認めん。口でわからぬなら……」

 

 そして、ターニャの持つ銃の銃口が、緑谷を射線にとらえ……

 

「それができないとどうなるか……体で覚えろ!」

 

 バズーカみたいな威力で放たれた空気の砲弾が、緑谷を反対側の壁まで吹き飛ばし、叩きつけた。

 

「が……は……!」

 

「緑谷! くっ……」

 

 気絶はしていないが、ダメージが大きすぎてすぐには動けなそうだ。

 その緑谷に向けて、追撃とばかりにターニャは銃口を向ける。

 

 助けに行こうととっさに、大回りして私が動くと……しかしそれもターニャは察知していた。

 私が駆け出した先に、またしても先読みするように何かが放り投げられ……手榴弾!?

 

 大慌てでそこから飛び退ると、その手榴弾は次の瞬間、私の目の前で爆発……はしなかったが、代わりにその周囲にとんでもない暴風が発生して、離れた所にいた私も吹き飛ばされそうになった。何て威力……本物の手榴弾かってくらいの爆風だ。

 

「他人の心配とは余裕だな永久……お前とて未だ、前線に出るには褒められた領域にはいないぞ!」

 

 そして、銃口がこっちに向き……私が体勢を立て直すより先に、すさまじい暴風が……しかも、体全体にたたきつけられるような衝撃のそれが襲って来た。

 2度、3度それを食らってしまい、たまらず私は床に倒れ込んだ。

 

 しかし、倒れてそのままじっとしてたんじゃ追撃が飛んでくるだけなので、どうにか転がって攻撃範囲から逃げようとする。

 

「痛った……今の、散弾銃か!? そういうの軍人が使うのは条約違反じゃないの?」

 

「軍人同士の戦いならな。だが、(ヴィラン)からすればそんなものは関係のない話だ。日本の連中は特にそうでもないようだが、海外ではこの程度珍しくもない。国や地域にもよるが、銃器や毒物その他で武装した敵など当たり前のようにいる。殺されてから『銃を使うなんて卑怯だ』と恨み言でも言う気か? 15秒待ってやるから呼吸を整えてさっさと立て」

 

 ごもっともで……あー、心身に身になるなあ、この鬼特訓。

 

 

 

 こんな感じでここ数日、私と緑谷は夕方の特訓、ターニャにもまれ続けている。実践的な訓練……というか、彼女がやると実『戦』的なそれになるというか、もはや戦そのものというか。

 

 指導方針が軍人のそれを踏襲してるから、容赦なくて、しかし教えの全てに意味がある。

 見つけた弱点をそのままにしておくことを絶対に許さない徹底的な指導のおかげで、日に日に動きが改善されていくのがわかる。ハードさに見合ったリターンが実感できる訓練だ。

 

 聞いた話じゃ、本国で指導教官としてターニャが着任した際、本来は2年かかる実戦指導プログラムを1ヶ月に短縮して実施して、脱落者多数出すも、50人近くのエース級軍人を育て上げたっていうから、筋金入りだよな……彼女に教えてもらえている現状は、幸運以外の何物でもない。

 

 なおその訓練、脱落者の中には重軽傷者多数だったらしいが、一応死者も再起不能者もいなかったらしい。そんなところにも彼女の確かな手腕が光る。

 

 それに加えて、彼女自身の『個性』の使い方も絶妙だしな……ただ火力に訴えるんじゃなくて、繊細に制御して指導方針に合わせた使い方をしてくる。

 

 ターニャの個性は『気流』。空気に流れを作って、穏やかな風から竜巻クラスの暴風まで作り出したり、空気を圧縮して弾丸にしたり、風圧の爆弾にすることもできる汎用性の広い『個性』だ。

 

 今回みたいに銃に込めて空気の砲弾を打ち出したりすることもできる。しかも威力は彼女のさじ加減1つ。縁日のコルク銃クラスから、対物ライフルクラスまで自由自在だそうだ。

 さらには弾丸の形態を変えることで、さっきみたいにショットガンにしたり、火炎放射よろしく薙ぎ払ったりもできる。

 

 さっき私がくらった手榴弾もその応用の1つだ。あの手榴弾はただの偽物というか玩具なんだけど、その周囲に圧縮した空気を纏わせて、彼女が投げた瞬間に『起爆』させ、周囲に暴風をまき散らしている、という仕組みだ。

 おもちゃの手榴弾を核に使っているのは、見た目でわかりやすいようにっていう、単なる訓練時の私達への配慮である。その気になればターニャはアレを不可視の爆弾にしてできる。

 

 見たことはないけど……やろうと思えば、空気を超圧縮してプラズマを発生させ、それを使って全てを焼き払うような超破壊力の攻撃をも繰り出せるとかなんとか……。

 

 齢15にしてドイツのトップヒーローに数えられ、ゆくゆくはNo.1ヒーロー確実とまで言われる実力者っていう看板は、偽りも何もなし、ってわけだ。

 今更だけど、私すごい奴と知り合いだわ……母さんの人脈に感謝だな。

 

 2日、3日と繰り返すうちに、私達の動きはどんどん良くなっていった。

 いや、身体能力が劇的に変わってるわけじゃないんだが……ターニャのしごきは、私と緑谷の体に、『戦場で生き残るためにひつようなこと』を徹底的に叩き込んでいったのだ。

 

 何と言っても極意は『雑に動かないこと』……これに尽きる。

 

 よく格闘漫画とかでは言われることだけど、達人、ないしある程度以上の実力者は、相手の体、ないし筋肉の動きや視線の向きを見て、相手が次にどこを狙ってどんな攻撃をしてくるかを察知するという。それによって、相手の行動を予測し、そこに回り込む形で迎撃する。

 相手はそれに気づけず、わけもわからないまま、気が付いたら負けていた、なんてことがよく起こる。『個性』なんて使わなくても、人間は極めればそれだけのことができる。

 

 私達に課せられたのは、それをできるようになることと……同時に、それをされないようにするための訓練だ。一挙手一投足に自分の意思が乗らないように、読まれないような体運びを心がけ、目は一点を見ず全体を見るようにし……戦いの中の一瞬一瞬の情報戦を制する。

 

 今は考えながらでいい、だがいずれは意識せずにできるようになれ、それがターニャの課題。

 無茶苦茶なことを言っているが、それができるようになれば……それまでの私達とは一線を画する強さが手に入るのも事実だ。

 

 とはいえホントに厳しくて……毎度毎度限界まで体を酷使して、それが終わると倒れるように床に……いや、ようにじゃなくて倒れてるな。ランナーズハイとかアドレナリンの過剰分泌?で無視できてた分の疲労と苦痛も一気に襲ってくるから、そのまま動けなくなる。

 

 しかもこの訓練、私達『個性』使わずにやってるからね……体の動きとかその他を鍛えるのが目的だし、ターニャは適切に手加減してくれてるからそこまで危険はないけど。

 私の場合……まあ、『エネルギー』があればスタミナ無限だから、使ってると体鍛える系の訓練がしづらいってのもあるからなあ。スタミナ鍛える時には意図的に切ることはよくしてるけど、その状態でこの訓練やるのホントにきつくて……

 

 そしてその後、『個性』が解禁されたら速攻で『エネルギー』を使って体力を回復させる。

 緑谷にも、私の体力を分け与えて回復させる。

 

 ……で、その後、最後というか1日のしめくくりに、『個性』を解禁して、時間制限つけた状態でターニャを相手にあらためて全力で模擬戦。

 ここで今日の特訓の成果を確認して……そしてやっぱりボコボコにされ、ようやく1日が終わる。

 

 

 

 こんな感じで私達の1日のトレーニングメニューは終わる。

 限界まで酷使した体を引きずって歩き、シャワーを浴びて汗を流し、どうにかリフレッシュしてから部屋に戻る。

 

 なお、シャワーは最近、私も緑谷も冷水で浴びている。

 そろそろ夏も近づいて気温も上がってきてるのに加え、ハードトレーニングで体中に熱がこもっちゃってるから、冷たい水が気持ちいんだよね……。

 加えて、温水よりも冷水の方が、疲労物質を流して落とす力が強いらしいし。

 

(まあ、体に熱がこもってるのは多分、ハードだからだけじゃないんだけど……)

 

 緑谷と一緒に修行できて、一緒に強くなれてドキドキしてるから……ってわけでもない。

 

 この『熱』は多分……隠れて進行しているあるカリキュラムが順調に進んでいる証明だ。今はまだ、緑谷には言えないけど……

 

 それでも、動くのも億劫なくらいに体中ボロボロなわけだが、この過酷なメニューを支えてくれているのは……ほかでもない、ビスケさんである。

 

 2日に1回やってきて、トレーニング終わりの私達にマッサージをしてくれているのだ。

 

 ビスケさんの必殺技の1つに、『桃色吐息(ピアノマッサージ)』というものがある。

 彼女の『個性』である『肉体活性』を使ったマッサージなのだが、これが彼女の神憑り的な整体技術と相まって、恐ろしいほどの疲労回復効果を叩き出す。曰く、たった30分のマッサージで、たっぷり8時間、夢も見ないくらいに熟睡したのと同じ回復効果があるそうだ。

 

 緑谷はもちろん、私もお世話になっている。『エネルギー』で疲労は回復できても、筋肉が断裂したり、普通に怪我したりしてる部分はあるからなあ……そこすら急激に癒しつつ、また筋力を増強するために必要な『超回復』もきちんと起こしてくれるんだからすごいってもんで。

 

 今日も夕食を食べた後、私達2人に施術してくれて……コレのおかげでどうにか、学校のカリキュラムと『デウス・ロ・ウルト』のカリキュラム両立できてるんだよなあ……。

 

 そうして体力を回復した後は、座学の講義を受けたり学校の課題をこなしたりして……まあ、普段通りに1日が終わるわけだ。

 

 そこから寝るまでは自由時間。読書するもよし、PCで動画見るもよし、ゲームするもよし。

 

 こんな風にターニャの晩酌に付き合うもよし、だ。

 まあ、晩酌とか言いつつ、飲んでるのはきちんとジュースだけどね。いつもの奴。

 

 ふぅ、と一息ついてゆっくり体を休めつつ、ふと気になったことを聞いてみる。

 

「ターニャさあ……いつまでこっちにいられるの?」

 

「? 何だ突然、鬼教官に早く帰ってほしいのか?」

 

「そんなんじゃないって。ターニャって一応、ドイツ軍所属だろ? 飛び級までして軍大学も出てるし……仕事、忙しくないはずないのに、よく日本(こっち)にいる時間あるな……っていうか、よくこのプロジェクトに乗って渡日する許可取れたなって」

 

「そのことか。まあ、アナライジュにはインターンの時の恩もあるし……現在の私の能力の基礎を作ってくれたのは彼女だ。その彼女から、お前を鍛えるために手を貸せと言われたんだ、そりゃあ義理を通して手伝いくらいするさ。日本食の味もそろそろ恋しかったしな」

 

「ははは、ちゃっかりしてるな」

 

 そう言えばターニャ、そのインターンで日本に来た時は、卵かけご飯の美味しさに驚愕して絶句してたっけ。

 味もそうだけど、生卵をこんな風にためらいなく食べられる、日本の衛生管理の優秀さにも。

 

 その他にも、寿司、天麩羅、お刺身、お茶漬、蕎麦……実は彼女、中身は日本人じゃないかってくらいに日本食大好きなんだよな。日本語も上手いし。

 

「……それに……別の用事もあってな」

 

「? 別の思惑……?」

 

「悪いがそれは話せん……軍務の一環だ。何、お前達に迷惑をかけることはないから安心してくれ」

 

 ……? 軍務の一環で日本に? 一体どういうことだろ……?

 

 

 ☆☆☆

 

 

Side.緑谷出久

 

「デク君、今日すごかったね! あっちこっちぴょんぴょん跳ね回って!」

 

「ホントだぜ緑谷! 体育祭からまた強くなってんじゃね? 結局最後まで、誰にも1回も捕まらなかったしよ!」

 

「あ、あはは……ええと、ありがとう」

 

 今日の『ヒーロー基礎学』、課題はずばり『鬼ごっこ』。

 相澤先生が取り出したカードには『 CHASE(チェイス)』と書かれていた。

 ヒーローが敵を捕まえる際の追跡能力を鍛えるためのカリキュラムだそうだ。

 

 ルールは簡単。市街地を模した演習場で、『鬼』役に設定した4人の生徒が、その他16人の生徒を追いかけて捕まえるというゲーム形式だ。

 

 そして、『鬼』役もそうでない生徒も、当然『個性』の使用は自由だが、相手を足止めする程度ならともかく、明確に『攻撃』であると見れる使い方はNG。減点になる。

 あくまで『逃げる』『捕まえる』ことに注力して結果を出さなければならない。そして、町や施設への破壊等の被害も極力抑える(かっちゃんがすごく面白くなさそうな顔をしてた)。

 

 まあ、ヒーローが逃げる敵を追っかけるために、町とか壊しまくってたんじゃダメだしね……加速や跳躍の際の力加減も重要になる。

 

 『鬼』は逃げる人にタッチすればそれで確保になる。確保テープを巻くのとかは必要ないし、体のどこにタッチしてもOK。

 

 これを制限時間を定めて5回繰り返し、20人の生徒が代わる代わる鬼をやる。全員が1回ずつ鬼をやるようにする、っていう内容だった。

 

 ルールを聞いた栄陽院さんが何やらブツブツと、『逃走中』とか『ハンター』とか言ってた気がするけど……何だったんだろう? よくわからなかったな。

 

 なお、ルール説明の最後に『タッチと称してセクハラ行為に及ぼうとする者が出た場合は、個性による反撃を許可する』というのが付け足されたんだけど……誰を想定しているのかがあまりにもわかりやすい文言である。その瞬間、全員の視線が峰田君を見たから。

 

 そして実際、峰田君はやろうとして……梅雨ちゃんの舌に絡めとられて投げ飛ばされ、耳郎さんのイヤホンジャックで昏倒させられたところを、相澤先生に拘束されて演習場の外に連れ出された。『後で補習だ』って言ってたのが聞こえた。うん、まあ、自業自得だし何も言えない。

 

 やっぱりというか、機動力のある個性の人が強かったな。足が速い飯田君とか、立体的に動ける瀬呂君や梅雨ちゃんとか、スタミナ無限でずっと全力疾走できる栄陽院さんとか。

 

 けど、その他のみんなも『個性』を上手く使ってた。

 

 あらかじめ道を氷で塞いで逃げ道を限定して、詰め将棋みたいに追い詰めてく轟君、

 

 ドアを通り抜けた後、ドアノブを酸で溶かして開かないようにしていた芦戸さん、

 

 進行方向にあるものを次々に浮かせて障害物&目くらましにしながら逃げ続けた麗日さん。

 

 『鬼ごっこ』じゃなくて『かくれんぼ』になってて、時間いっぱい見つからずに逃げ切ることで機動力不足をカバーしていた葉隠さん、

 

 峰田君も……逃げる側にいる間は、『もぎもぎ』を上手く使ってトラップにしたりして、上手いこと逃げてたんだけどなあ……。まじめにやれば便利で強い『個性』なのに。

 

 僕はというと、『フルカウル』の機動力を生かして逃げ回ったのはもちろん、最近のトレーニングのおかげで『考えて動く』ことも得意になってきたので、『鬼』役でも活躍できた。

 

「緑谷が『鬼』やった時すごかったよな……隙をついて逃げようとした時には、その方向にもう回り込まれてたぜ? 『逃げる前に』もう緑谷動いてたよなアレ?」

 

「あ、やっぱそれ気のせいじゃなかったんだ。俺も……意表ついて急に方向転換しようとしたら、本命の逃げ道の先にもう回り込まれてた。んで、テープつかまれて逃げらんなくなって御用」

 

「けろ。私も全然フェイントが通じなかったわね……緑谷ちゃん、いつの間にそんな予測が得意になったの?」

 

「あー、うん。色々僕も試してみててさ……その成果、かな」

 

 こうして実際に実戦で使って見ると、この技能の重要さや便利さがよくわかるんだよね。

 相手がとっさにどこを見るか、どんなふうに体を動かすかで次の動きを予測して、そこに回り込むように動く。意表をついて驚かせると同時に、動き的なアドバンテージを得られる。

 

 このコンボでかなり活躍できた。ただ、顔全体を覆うマスクしてたり、サングラスとかしてる人相手だと、視線が見えないせいで効きが悪いけど。

 

 一番コレが通じなかったのは……やっぱり葉隠さんだな。目どころか何も見えないし、途中で本気出して全裸になられたから……足跡とか呼吸音以外に手掛かりがなくて、すぐ見失う。

 僕が鬼になった時も、唯一彼女だけ、捕まえられなかった。

 

 なお、その時の僕以外の『鬼』は、かっちゃん、芦戸さん、口田君だった。探知タイプがいなかったってのも敗因だな……葉隠さん相手に、肉眼だけが武器ってのは不利どころじゃないし。

 犬でもいれば口田君に頼んで匂いを追ってもらえたかもしれないけど、演習場にそんな野生動物なんて中々いないしな……。

 

 そんな感じで色々考えていると、ふと視線を感じた。2つ。

 

 1つは……斜め後ろから感じた。そっちを見ると、麗日さんと目が合った。

 すると、なんか慌てて目をそらされた。……ちょっと傷ついた。

 

 どうしたんだろ、何か用事でもあったのかな? 顔赤いけど……後で聞いてみようか。

 

 で、もう1つの視線だけど……そっちの主は自分から僕の方に近づいてきた、

 で、普通に話しかけてくる。

 

「緑谷、お前さっきの訓練中、所々足取られてたろ?」

 

「えっ!? あ……はい、すいません」

 

 と、相澤先生。

 相変わらず、見てないようで生徒のことよく見てる先生だ……さっきの模擬戦で、何度か僕の足が、靴底が僕の動きについてこれなくて流れてたの、見抜いてる。

 

「何で謝る。……お前、ぼちぼち今のコスチュームが成長に追いつかなくなってきてるな。時間ある時に、なるべく早く工房に行っておけよ?」

 

「え、工房?」

 

「そうだ。……いい機会だから全員に話すか。今年は例のカリキュラム強化のおかげで、例年より伸びがいい生徒が多いからな」

 

 全員集合、と声をかける先生。

 

 うちのクラスは相澤先生の声にはどれだけ騒がしくしていようとも反応するように教育されているので、すぐに私語をやめて全員が先生に注目する。

 これで集まらなかったら目がキュピーンって光ってたところだろう。

 

「お前ら、入学してからこっち、様々な課題を乗り越えて実力を伸ばしているわけだが……中には純粋な成長然り、方針転換然りで、今のコスチュームでは戦いをカバーできなくなってきている者もいるだろう。そういう問題はそのままにしないで、コスチューム改良できちんと解決しておけ」

 

「コスチューム……改良? コレ、いじれるんすか? 雄英で?」

 

 と、切島君。他にも何人か、『できるの?』っていう顔になってる人がいる。

 

「できるに決まってるだろ。校舎1階の……あー、場所は後で各自確認しろよ? コスチュームやサポートアイテム開発用の工房がある。そこ行けば、簡単な改良くらいならすぐにしてもらえるし、規模が大きかったり、具体的なプランが定まってなくても、相談に乗ってもらうこともできる。轟や栄陽院なんかは既に利用してるだろ?」

 

 と、先生が言うと、その2人に視線が集まった。

 

「……はい。色々あって『左』も使うことに決めたんで、それに対応したデザインに変えました」

 

「私は……大枠弄ってもらったのは職場体験の時なんですが、微調整のために利用してましたね」

 

 轟君は、以前は『戦闘に左側は使わない』っていう方針だったから、左側を氷の怪物みたいなアーマーで覆ってたし……栄陽院さんは職場体験の時にガラッとコスチューム変えたからな。その時に調整しきれなかった部分を、通って弄ってたみたいだ。

 なるほど、2人とも必要に応じてきちんとコスチュームに手を加えてるわけだ。

 

「でも、雄英の『被服控除』って、コスチュームのデザイン会社に申請が必要なんですよね?」

 

 と、麗日さん。そうそう、その申請をしないと、コスチュームの開発にお金かかるからな。

 『被服控除』の制度は、在学中のコスチュームの発注や改良なんかを無料、あるいは格安でできるシステムだ。ただし、その都度コスチューム会社に申請が必要だったはず。

 

「それも工房の方で代行してくれるよ。もっとも、弄るのには免許がいるから、きちんと担当の先生がいる時でなきゃできんがな。今日は確かパワーローダー先生がいたはずだし、大丈夫だとは思うが。それと、弄るにしてもノープランで行くなよ? きちんと現状の自分のコスチュームの問題点が何か、どうすれば改良できるか、どういう風に変えたいかを自分で考えてから行け」

 

 最後に先生が付け足した言葉で、何人かが体をこわばらせていた。とにかく考える前に行ってみよう、試してみよう、とか考えてたメンバーかもしれない。

 

 僕の場合は……色々と課題はあるけど、とりあえず改善したい部分はもういくつか思い浮かぶな。放課後までに、どういう風にしたらいいか考えて、それでいこう。

 

 いや、そういえば『デウス・ロ・ウルト』のプログラムに、コスチュームやサポートアイテムに関しても援助してくれるっていう項目もあったっけ。そっち利用してもいいかもな……?

 

 

 

 

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