TSから始まるヒロインアカデミア   作:破戒僧

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今回、オリキャラが出ます。
多分ですが、本編にまともに、ないし多少なり絡んでくるオリキャラのはこのキャラが最後……かも。チョイ役でなら今後も多少あるかもですが。

第67話、どうぞ。


第67話 TS少女と工房の女ヒーロー

 

 

Side.緑谷出久

 

 雄英高校、校舎1階。コスチューム工房。

 ヒーロー科のみならずサポート科や経営科も利用するそこでは、日夜コスチュームの改良や、サポートアイテムの研究開発が行われている……らしい。

 

 僕はまだここ利用したことないから、今日が初めての利用なんだけど。

 

 そして、一緒に飯田君と麗日さんも来ている。2人も何かしら、コスチュームで改良したいところがあったんだそうだ。

 

「ねえ、デク君はどこ改良するん?」

 

 と、麗日さんが聞いてくる。

 何かにこにこ笑ってて、凄く楽しそうというか嬉しそうというか……機嫌いいな。コスチュームの改良、そんなに楽しみなんだろうか?

 

「僕は、最近、前までよりかなり動けるようになってきたから……思い切って靴もコスチュームに組み込もうかなって。あとは、動きを阻害しないように、腰の部分のポーチとかの位置調整かな」

 

「ふむ、そう言えば緑谷君のコスチューム……靴だけは普段から履いているそれだったな」

 

「あ、そう言えばそやね。手袋とかと同じで、頑丈な素材にするん?」

 

「それもあるけど、まず接地面の安定性が第一かな。思い切り力入れて踏ん張っても、後ろに流れないように、力が上手く地面に伝わるようにしたい。あとは、蹴り技を使うために補強も」

 

 2人は? と聞くと、飯田君は自分の足を指さしながら、

 

「俺は足の冷却装置(ラジエーター)を強化してもらおうかと思っている。レシプロのデメリットを軽減してもっと使いやすくすれば、今日のような場面でもより機動力を大きく、長く保てるからな……こういう『個性』だから仕方ないと諦めていてはだめだと痛感した。麗日くんは?」

 

「私はもっと酔いを抑えたくて……今のコスチュームでも、冷却用のチューブとか色々ついてんねやけど、他に使えそうなツールや技術があればって思って、それの相談もかねてるんよ。自分を軽くして機動力を上げられれば、ガンヘッドさんに習った近接も生きてくるし」

 

 2人共、きちんと具体的な目標を見据えてるんだな。飯田君は、今ある持ち味をより伸ばす方向。麗日さんは、今の弱点になってる部分を潰して選択肢を増やす方向、か。

 

 僕もそういうの、考えていかないとな……今やってる、自分の地力を伸ばす方向の訓練も大事だけど、もっとできることがあるかもしれないし。積極的に、自分の課題を見つけていこう。

 

 そんなことを考えている間に、工房の入り口に到着。

 何かやたら大きな金属の扉だな……教室と同じでバリアフリーなのかもしれないけど、材質は……ああ、工房だから音とかが外に漏れないようにしている、とか?

 

 まあいいや、早速中に入ろう。……コレ、ノックしても中に聞こえるのかな?

 

「すいませーん、コスチュームの改良のことで相談が……」

 

「コスチュームの改良!? よくいらっしゃいましたさあさあどうぞ入ってください!」

 

「「「誰!?」」」

 

 扉を開けた途端、明らかに先生ではない誰かがすごい勢いで突進してきて中に迎え入れられ……え、ホント誰、何いきなり!? ピンク色の髪に、作業着の……女の子?

 思わず再度看板を確認してしまうが……うん、間違いなくここコスチューム工房だ。

 

 ……っていうか、アレ? この人、どこかで見覚えがある気が……

 

 とか思ってたら、向こうの方も『おや?』って反応をして。

 

「ああ、誰かと思えば体育祭の人!」

 

 そう言って、装着していた特徴的な……スチームパンク的なデザインのゴーグルを上にずらす。

 ぱっちりとした目がその下から出てきて、顔全体がようやく……あ、思いだした。

 

 この人、体育祭の騎馬戦で一緒になった発目さんじゃないか。あの時と違って、作業着っぽい姿だからすぐにはわからなかった。

 ……さ、作業着にしてはちょっとその、露出大きい気も……まあ、熱くて上着脱いでるからそう言う感じに見える……のかも? 知れないし?

 

 って、それはどうでもよくて……何で彼女がここに?

 

 見ると、麗日さんも気づいたみたいだ。飯田君は……まだピンと来てないかな? 騎馬戦で戦ったってことくらいしか接点ないから仕方ないかもだけど、決勝トーナメントには出てたから、顔を見た記憶はあるはずだ。

 で、残る発目さんはというと……

 

「お久しぶりですね! 1位の人と無重力の人! えー……すいません名前忘れました」

 

 あけすけというかドライというか……うん、まあそう来るんじゃないかって予感はしてたけど。

 思い返せば、僕、あの体育祭当日でさえ『1位の人』とか主に呼ばれてて、名前で呼ばれた記憶がいまいちないというか……あったかもしれないけど思いだせない。

 

 まあ、初対面で『立場利用させてください』って言ってきたことからして、そもそも僕に興味とか抱いてないだろうから、無理ないかもだな。

 飯田君に至ってはナチュラルに触れてもいないし……スルー?

 

 一応自己紹介して……で、何で彼女がここにいて、僕らを招き入れるの?

 

 ああでも、ここにいること自体は不思議じゃないか。サポート科や経営科も利用するって先生は言ってたし……なるほど、体育祭にあれだけ多彩なアイテム(発目さん曰く『ベイビー』)を持ち込んでた彼女は、ここに入り浸って研究開発しててもおかしくはない。

 

 でも、あくまで彼女がここを利用してるとしても、ここの主はパワーローダー先生のはず。その先生にできれば一声挨拶したい……っていうか相談したいんだけど。

 

「あの、発目さん、パワーローダー先生は?」

 

「ん? 先生でしたらさっき呼び出しかかって3年生の校舎に行くと言って出ていきましたが」

 

「えっ、いないの?」

 

 あちゃー……どうしよう? まさか急用入って留守にしてるとは……。

 相澤先生の話だと、免許持ってる先生がいないとコスチューム弄れないんだよね? コレは今日は出直したほうがいいのかな? その用事がすぐに済むもんなのかもわからないし。

 

 麗日さんと飯田君に視線をやると、2人もやはり『どうしよう』という表情になってた。

 どっちにしろ、僕らだけここにいてもやれることはないわけだし、やっぱり今日は……

 

「それよりも皆さん、コスチューム改良の話でしたね? さあさあこちらにどうぞ! 粗茶ですがお茶でも飲みながら詳しい話をお聞かせください! あ、でも飲む場合は自分で入れてくださいそこにティーパックと電子ケトルありますので!」

 

 けど一番部外者のはずの発目さんのヒートアップが一向に止まらない。

 所々言ってること滅茶苦茶だし……なんか、体育祭の時もちらっと思ったけど、病的に自分本位な人だな……それも、俗に言うマッドな方面に。

 

 やる気なところ悪いけど、発目さんも学生である以上は免許とか持ってないはずだし……しかしコレ普通に言ったくらいじゃ聞かないよな、どうしたもんか……

 いっそこのまま帰『ガチャリ』あ、扉に鍵かけられた。うわあ帰さない気だよ、ガチだこの子。

 

 椅子を3つ用意して、そのうちの1つに自分が座って(結果1人分足りなくなってることに気づいているのかどうか)、発目さんは『さあ来い』とばかりに目で催促してくる。

 ホントどうしようかと、僕らがアイコンタクトで会議をしていたその時、

 

 部屋の奥の方から、黒い紐みたいな何かが伸びてきて……発目さんを腰のあたりでからめとり、勢いよく引っ張り戻してしまった。『ぐぇ!?』と女の子らしからぬ声を上げて飛んでいく発目さん。

 

 とっさにそれが伸びて来た方向を見ると……そこには、1人の女性が立っていた。

 

 なんというか……特徴的な服装の人だな。

 かなり厚手の、黒いマントかローブ、あるいは法衣みたいなものに身を包んでいて……その隙間から見える手足も、グローブやブーツ、さらにボディスーツか何かと思しき、こちらも黒い衣服でおおわれている。

 

 首から上以外、肌が露出している箇所が全くない人だ。加えて、一番外側に着ているマント?が重厚なせいで、体のラインがほとんど見えない。

 

 それでも見る限り、体格はやせ形で、やや身長は高め……僕より少し背が低いくらいかな? あ、でもはいてる靴がヒールっぽい奴だから、ちょっと背伸びしてるみたいになってるかも。

 

 やや赤みがかった黒髪。長さはセミロングで、メガネをかけた知的な雰囲気の美人さんである。年齢は……女子大生くらいか、それよりちょっと上、かな?

 

 そして、たった今発目さんをからめとった黒い紐みたいなものは、そのマントの端の部分から伸びていた。まるで、マントが変形したような……いや、実際に変形してるのか? 『個性』?

 

 誰だろうこの人? ここにいるってことは関係者だと思うけど……雄英にこんな先生いたかな……? いずれにせよ、コスチューム着てるってことはプロヒーローだよね? こんなコスチュームのヒーローいたかな? 脳内のリストにそれらしき人が中々……

 

 悩んでいると、その人はハァ、とため息をついて。

 

「発目さん、いけませんよ、パワーローダー先生に断りなく勝手なことをしては……戻るまで大人しく待っているように言われていたでしょう?」

 

「コレは失礼しましたラバーエンプレス先生! ですがこの方たちも忙しい合間を縫って工房に足を運んでくれたのですから、話を聞くくらいはさせていただいてもいいのではと思いまして!」

 

「それだけで終わるつもりないでしょうに……でも、せっかく来てくれたんだからというのもそうですね。そこのお三方もこちらへどうぞ、コスチュームのお話は私がききましょう。ああ、申し遅れました」

 

 そう言って、その女性はにこりと微笑んで……あぁ、思いだした! この人は……

 

「私は呉武(くれたけ)絵守(えす)。今週からですが、雄英高校で『非常勤職員』として勤務することになりましたプロヒーローです。ヒーロー名は……今発目さんが言っていましたが『ラバーエンプレス』です。コスチュームやサポートアイテム加工の資格も持っているので、主に工房で皆さんのお手伝いをすることになります。よろしくお願いしますね」

 

 

 

 造形ヒーロー『ラバーエンプレス』。

 個性『ゴム』。

 自分の周囲にあるゴムを自在に操る『個性』を持つプロヒーローだ。

 

 オールマイトやエンデヴァーみたいに、一線で戦うようなヒーローじゃなく、またメディアへの露出もさほど多くないので、知名度では劣ると言わざるを得ない。

 相澤先生……もとい、イレイザーヘッドみたいな、アングラヒーローほどじゃないが。

 

 しかし、『個性』に加えてその美的センスや手先の器用さを武器にしたアイテム・ツール類の作成においてはかなりの腕前を誇り、ファッションからサポートアイテム開発まで、様々な業界で辣腕を振るうヒーローである。

 

 研究者や発明家としての面ももっており、様々な技術や素材を作り出して世に送り出している。その中には、ヒーロースーツの素材として多くのヒーローが愛用しているメジャーなものも、決して少なくない数含まれている……っていうのが、僕が知っている範囲での知識だ。

 

 そんな彼女が雄英に……この工房にいるのは、非常勤職員として務めるからだそうだ。

 

「校長先生から伺っています。今年の1年生は粒ぞろいだと。この工房を利用する機会も早いうちから増えるだろうから、人手が欲しいということで声がかかりまして。OGの縁もあり、非常勤でよければ、とお誘いを受諾したわけです。気軽に何でも相談してくださいね?」

 

 理知的な笑みを浮かべるラバー先生(長ければ略していいって言ってた)。重厚さを感じるコスチュームとややギャップがあるけど、それは彼女の『個性』柄必要なんだろうな。

 

 彼女の『個性』は……簡単に言えば、セメントス先生のゴムバージョンだ。

 自分の周囲にあるゴムを自在に操れる。形も、動きも。

 セメントス先生と違って、直接触れなくても、『個性』の効果範囲内にあれば操れるらしい。このへんはそうだな……ベストジーニストの『ファイバーマスター』に近いかもしれない。

 

 さっき発目さんを拘束していたのもこれだ。ゴムでできた装甲マントの一部を紐みたいに変形させて伸ばしてからめとっていた。それは今は、もとのマントの形に戻って纏われている。

 

 そして、ゴムの種類は問わない。硬質ゴムだろうが生ゴムだろうが、加工前のものだろうが、輪ゴムとかゴム紐みたく加工されているものだろうが操れるらしい。ただし、燃えたりして化学変化を起こし、ゴムとは呼べなくなってしまった場合は操れない。

 それでも十分な強個性だと思うが、彼女自身はコレを使って第一線に出る気はそもそもなく、さっきも言った通り、裏方で研究やものづくりをすることをメインに活動している。

 

 そう。こんな風に。

 

「はい緑谷君、そのまま動かないで。飯田君も…………はい、採寸終わりましたよ」

 

「早!」

 

「採寸というか、もうコレは型取りでしたね……」

 

 コスチューム関連の要望を伝えた僕ら。

 それを聞いたラバー先生は、案を出して考えるところから入らないといけない麗日さんをまず後回しにして、僕と飯田君のコスチューム改良を進めることにした。

 

 どちらも足部分の改良なわけだけど、ラバー先生は僕と飯田君に、膝から下の衣服を脱ぐかまくるかして素足になって座るように言った。

 言われた通りにすると、次の瞬間、ラバー先生の『個性』が発動。

 

 装甲マントの1枚がどろりと解けるように変形し、僕と飯田君の足に絡みついて……ギプスみたいにがっちりと固定した。膝から下を全部、隙間なく覆いつくす形で。

 

 僕らがその光景にびっくりした、さらにその次の瞬間には、それがパカッと真っ二つに割れて、そのままの形でラバー先生のところに戻っていく。

 あっという間に先生は、ゴムで僕らの足の『型』をとってしまったのだ。

 

 それを使って今度は、型にゴムを流し込んで固める形で、僕と飯田君の膝から下をゴムで再現して作ってしまった……ここまで、僕らが座ってから10秒も経ってない。

 

 な、なるほど……これが『ゴム』の個性……実際に見るとすごいな。超がつくくらいにモノ作り向けの個性だ。

 

 余りの早業に呆気にとられる僕らの前で、ラバー先生はまず、僕の足(ゴム再現)を持ちあげてじっくり見つつ、僕の今着ているコスチュームとも見比べながら話し始める。

 

「緑谷君の戦闘スタイルは、徒手格闘がメインでしたね。今現在のコスチュームは……防御性能はそこまでではなく、動きやすさと体の各部……特に関節部の保護がメインのようですね。追加する脚部のパーツも同様のコンセプトにするつもりで行きますか?」

 

「あ、はい。今の靴だと、強く踏み出そうとした時に、場所によっては足裏が地面をとらえきれなくて流れてしまうこともあって……そのあたりをまずどうにかしたいと思ってます。あとは……」

 

 そんな感じで希望を伝えつつ、初めてのコスチューム改良は、担当してくれる先生の優秀さもあって滞りなく進む……

 

「それなら、こんなのはどうでしょう!?」

 

 ……進む、かと思ったんだけどね……

 

 

 

 結論から話すと、とりあえず僕ら3人共、コスチューム改良に関する道筋はある程度見えた。

 

 途中からはパワーローダー先生も戻ってきてくれたし、麗日さんの要望についての相談もできたから……さすがにすぐにとは言えないけど、数日中には形になって、より機能を強化させたコスチュームが僕らの手元に届くはずだ。

 

 ただ、そこに至るまでが大変だったけどね……

 改良案を考えるのもそうだけど、そこにいちいち割り込んでくる発目さんが……

 

 『足を冷やしたいなら腕で走ればいいと思うんです!』って、飯田君に腕に装着するタイプのブースターを渡して、暴走させて壁とか天井に激突させたり。

 ラジエーターを強化、って具体的な注文出してるのガン無視だもんな……

 

 『酔いの解消には唾液を分泌したり、ショウガの成分がいいそうですよ!』って、麗日さんに強くかむと仕込んだカプセルからシロップとかが滲み出す特殊なマウスピースを渡して、試してみた彼女を酸っぱい梅干しのエキスで悶絶させたり。

 濃度的に、唾液が出る以前の問題だったっぽい……ていうか、ショウガじゃないのか。

 

 そして僕には、足のツボや筋肉を電流で刺激してキック力を何倍にも上げてくれるっていうスニーカーをくれた。……あの、だから僕、踏ん張った時により強く力を伝えられるようにって言ったんであって、別にキック力の増強は自分でっていうか、自前でやれるから……

 何? 小学生の子供でもサッカーボールで大人を一撃で昏倒させられる威力? いや僕高校生だしサッカーボールも蹴らないしそもそもこっちの話をホント聞いて……

 

 ……まあ、その後に提案してくれた『アイアンソール』はホントに使えそうだったから、検討していく方向で話はまとまったけど……。

 他のアイテムも、こっちの意向に沿ってないのはともかく、性能自体は見事だったしな……発目さんってホントに、サポート面での実力はあるみたいだ。

 

 パワーローダー先生もラバーエンプレス先生も、そこだけは認めて褒めてたし。

 ただ、協調性とか人の話を聞かないところとか、人格面、コミュ力面での課題は山積してるけど。

 

 とまあ、こんな風なことを繰り返して、1つずつコスチュームの改良を進めていくんだろうな、と思っていた僕は……この時、ラバー先生が、僕に向けていた意味ありげな笑みに気づかなかった。

 

 もちろん、彼女が何を思ってそんな風に笑っていたのかという、理由も。

 

 僕がそれを知るのは……もう少し後のことだった。

 

 

 

 




というわけで、ちょっと前に名前だけ出て来た『ラバー』こと、オリキャラ『ラバーエンプレス』の登場回でした。
さて、今後どんな感じで絡んで来ますやら……

あと、地味に発目を上手く書けてるかどうか不安です。
思考回路とか口調がぶっ飛んでる系のキャラって書くの難しい……難産でした。違和感あったらすいません。

……トガちゃんどうしよう……今からもう書ける気しねえよ……

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