流石にちょっと影が薄くなりすぎてたかなって思ったのと、思いついたから書かずにはいられなかったという2つの理由で彼女の出番です。
いつまでも一向に本筋のストーリーに進まず申し訳ないですが……
それでは第72話、どうぞ。
Side.緑谷出久
暗い。狭い。息苦しい。
身じろぎ一つ満足にできない、そこにいるだけでやっとっていう感じの空間。
2人分の荒い息遣いが、静寂に支配された暗闇に、やたらと大きく響いて聞こえる。
1つはもちろん、僕のものだ。
そして、もう1つは……
「で、デク君……っ!」
「っ……う、麗日さん……ごめん……っ!」
一緒にここに入っている、麗日さんのそれだ。
僕と彼女は今、互いの息遣いが聞こえるほど近くにいる……なんてもんじゃない。
僕らは今、体と体をぴったり密着させて、正面から抱き合っている。お互いの顔を肩に乗せる形になってて……必然的に互いの口は、耳元に置かれている。そりゃ呼吸がうるさいはずだ。
密着してるせいか……気のせいか、互いの心音まで聞こえてきそうだ。
神聖な学び舎で、こんな状況になってるなんて……後ろ指さされても文句は言えない所業だ。
でも、離れられない。抱きしめ合っているこの体勢から、離れることができない。
小さく震えている麗日さんの体を、僕はより強く抱きしめることで――この行為が正しいのかどうかすらわからないけれど――その震えを抑えてあげるくらいしかできない。
「ぁ――ありがとう、デク君……」
そんな、小さく抑えるような声を耳元で聞きながら……僕は、どうしてこんなことになってしまったのか……それを思い出していた。
☆☆☆
事の発端は、数十分前……『ヒーロー基礎学』の授業開始時に遡る。
今日のお題は……っていうか、ヒーロー基礎学の時って、先生方みんな、お題が書かれたプラカードみたいなの出して告げるよね。今更だけど、あの仕様何なんだろ?
まあいいや、今日そのカードにかかれていたお題は……『
日本語訳で、『かくれんぼ』である。
こないだの『鬼ごっこ』に続いて、子供の遊び派生のお題だ。
その時にね、ちょっとしたトラブルが……というか、ToLoveるが……うん。
『かくれんぼ』のルールは、こないだの『鬼ごっこ』とほぼ同じような感じである。
市街地演習場の……全体だと広すぎるので、どこか1カ所の建物の中をステージに指定し、『鬼役』と『隠れ役』に分かれて、文字通りのかくれんぼをする。
鬼役は時間内に隠れ役を全員見つけることが目的。隠れ役は鬼役に見つからないことが目的。
当然『個性』使用は自由。なので、耳郎さんや障子君、口田君みたいな、探知系の個性を持ってる人に有利なお題だ。
その時、僕は学校を模したステージで隠れることになって……どこに隠れたらいいかなって、ちょうどいい場所を探してた。
けど運悪く、隠れる前に鬼役の人の足音が聞こえてきて……慌てて近くにあった部屋……調理室に駆け込んだ。
どこに隠れたらいい? 冷蔵庫? いやさすがに寒すぎる。食器棚? さすがに狭い、無理。シンク下……同じ理由で無理。他の棚も、狭かったりものがもう入ってたりでダメ。
入ってるものを出して入ろうにも、それが外に出てたら即ばれるし……隠してる場所も時間も……どこか、どこかないか……!?
そんな風に必死に探してた僕は、最悪、狭いのは覚悟でシンク下に体をどうにか押し込めようかとか考えたところで……ふと、あるものを見つけた。
視線の先にあるのは、小さめの食器棚だ。まあ、小さ目って言っても2m弱くらいはあるんだが……金属製で、中に食器類は入っていない。でも、棚自体はほとんど引き出しとかだし、大きめのスペースはガラス張りなので、隠れることはできない。
それはいい。問題は……その食器棚の下の床に、床下収納と思しき小さな扉が見えることだ。
一般家庭にもある、野菜とか調味料とかを入れてしまっておくようなそこは、扉の大きさからして、僕でも楽に入れそうだ。深さにもよるけど……
もし僕が入れそうな深さなら、ここはいい隠れ場所かもしれない!
上の戸棚くらいなら、最近常時15%くらいまで使えるようになった『フルカウル』なら、簡単に持ちあがるだろう。その後で、格納庫の扉を閉めて、同時に戸棚が上に乗っかるようにすれば……戸棚でカモフラージュされた隠れ場所の完成だ。
それだけでも見つかりにくいだろうし、万が一戸棚の下の収納が見つかっても、『こんな戸棚をどかして隠れるのは無理だろ』って見逃される可能性もある。そもそも普通の人じゃ、戸棚をどかすだけで一苦労だから、手間っていう点を考えてもスルーされる可能性は高い。
一か八かってことで、音を立てないようにそっと戸棚をどかして、床下収納を開けてみると……よし、十分広い! これなら中で胡坐かいて座るくらいなら割と楽にできそうだ!
そう思って中に入ろうと思った瞬間、ガラッと音を立てて、調理室の扉が開いた!?
っ!? そんな、まさか鬼がもう……と思ったら、
「っ、誰……へっ!? で、デク君!?」
「う、麗日さん!?」
入ってきたのは……同じく鬼から逃げて隠れているらしい、麗日さんだったのだ。
その後、本当の鬼(役の飯田君)が近づいてきていたので、慌てた僕らは……何をテンパったのか、2人一緒にその床下収納に隠れてしまったのである。
麗日さんの『個性』のおかげで、戸棚を上に乗せる偽装工作は、僕が覚悟してたよりよっぽど楽で、しかも静かに行えたのはよかった。戸棚を無重力にした後、扉と一緒に収納の上に置いてから解除する形で。外に出る時は……無理やりになるけど。
が、問題は……決して広いとは言えない(というか狭い)この空間に、僕と麗日さんの2人が密着して入ることになってしまったことだ。
収納庫の中に僕が胡坐をかいて座り……その上に麗日さんが、向かい合う形で座っている。
どこにって、僕の膝というか足の上にだよ……どうしてこうなった。いや、入ろうと思ったらこの姿勢くらいしか取れる姿勢ないだろうけどさ。それはわかるけどさ。
しかもそれでもスペースギリギリだから、少しでも密着しないと苦しいのだ。なので、さっきから僕らは、座って向かい合って抱き合ってて……つまりは、冒頭の状況である。
こんな状況で何かこう……よからぬ想像でもしてみろ……っていうか今の、麗日さんと密着してるっていうこの状況だけでヤバいって!
『変形』する! どこがとは言えないけど!
いつもとは違うんだぞ! 栄陽院さんならこのくらい笑って見逃してくれる――というか、そもそも『その先』だって大歓迎だって言ってくれたくらいだし――けど、麗日さんは違うぞ!?
いや、彼女を悪く言うわけじゃなくて、むしろそれが普通だし……そう、普通の女の子にそんな……『変形』させて押し付けるなんて真似、性犯罪者以外の何物でもない! 普通に大問題っていうか、ホントに大変なことになる! マジで除籍とか処分もあり得る!
ああああ、でも自分の意思じゃ抑えられない、徐々に腰から下に血液が、熱くなって……
「……あれ……?」
麗日さんが隣で何かに気づき始めたように見えたっ……もう本当にダメだ! 一刻の猶予も……何か、何か気分が沈むようなことを考えろ! 無理やりにでもテンションを下げるんだ!
そうだ、中学生の頃……僕が『無個性』の『クソナード』だった頃のことを……
『個性は諦めた方がいいね』
『出久……ごめんね、ごめんねぇ……!』
『あぁ、そういや……緑谷も雄英志望だっけか?』
『プ―――ッ!!』←クラス全員の嘲笑
『つーわけでさ、雄英受けんな、ナード君!』
――BOMB!!
『ああっ、僕のノート……!』
『来世では個性が宿ると信じて! 学校の屋上からワンチャンダイブ!』
『君が危険を冒す必要は全くなかったんだ!』
…………うん、下がった。色々下がった。
あー、しかし、いやあ……改めて思い返してみると酷いな、僕の中学時代……いや、ちょっと前にかっちゃんにも言われた通り、僕自身がダメだった点もあるけど……周りの環境も中々……
特にかっちゃんのコレ、あの時も思ったけど、教育倫理的に割と洒落になってな……
「………………」
――ぎゅっ、がしっ
え……? ちょっ、え!?
「う、麗日……さん!? ちょっと!?」
何で!? 何で余計にっていうか、さっきより強く抱き着いてくるの!?
しかも、ただ僕の膝の上に乗っかってるだけだったさっきまでの状況でもまずいのに……今度は麗日さん、両腕だけじゃなく両足も、僕の腰のあたりに回してがっちりホールドしてきて……み、密着面積がさらに増えた上に、麗日さんの体のほぼ全面ががががが……!
こ、こういうのって……『だいしゅきホールド』って言うんじゃなかった? 峰田君が前に言ってたような……あんまり思い出すのもアレな、卑猥な話と共に、だけど。
ていうかダメだ、思い出すな! というか意識するな!
峰田君がそういう話の中で語ってきたってことは、恐らくこの体制は18歳未満お断りのそういうジャンルで使われるもので、つまり本来はこの姿勢で男女がああああああ消えろ煩悩!
『どうして!?』という意思を込めて横に視線をやると、麗日さんも顔を赤くしていた。そんな恥ずかしそうにするならやらなければいいのに……!?
しかもなぜだろう、なんとなくその表情は、面白くなさそうな、意地に?むきに?なってるっていう感じのそれにも見えて……何でそんな顔して僕にしがみつくの!?
スペースならさっきまでのそれでも十分……っていうか、なんか微妙に動くから感触が……う、麗日さん!? 僕の邪推じゃなければ、その……こすりつけるように動いてない!? どうして!?
う、麗日さんの胸の、お腹の、腕の、足の感触が……彼女の体そのものの重みすら心地よく感じられて……い、一旦意識しだすとあらゆる刺激が突き刺さって……! ふぁさっと当たる髪の毛の感触が! しっとりした肌の、僅かな汗のにおい、息遣い……ああああああああ!
こんなっ、せっかく精神を無理やり落ち着けたのに……あ……だめだッ、もう……無理……
ごめんなさい、オールマイト……僕、除籍されるかもしれません……!
☆☆☆
Side.麗日お茶子
『いつから』って聞かれたら、ちょっと困る。
恐らく、『いつの間にか』って答えるしかあらへんから。
きっかけはまあ、多分、入試の時に助けてくれたことだったと思う。
その後、入学してから色々話したり、交流するようになって……初めての『戦闘訓練』でも一緒になって……授業や休み時間、お昼休み、体育祭……色々なところで縁があって、彼の……デク君の姿を見て来た。
多分だけど、
多分、だからこそ、私は……彼のことを好きになった。
明確に『いつから』とかはない。気づいたら、好きになってた……と思う。
最初は決して強くなかった、ただただ、心配になるくらいに危なっかしい子だったデク君が……恐らくは、人の何倍も努力して、下手なコントロールじゃ使うことすら危険な、超パワーの『個性』を使いこなせるようになって。
体育祭で優勝し、職場体験では『ヒーロー殺し』すら現れた保須市での死闘を乗り越え……いつしか、学年全体でもその名を知らない者はいないくらいの有名人になった。
そうなるまでの彼をずっと見ていて……優しくて、真面目で、ひたむきで、一生懸命で、けどちょっとドジで抜けてるところもあったり、かわいらしい一面も変わらず持ってる……そして何より……誰よりもヒーローらしい心をもった彼のことが、気付けば頭から離れなくなってた。
今となっては、授業とかで一緒のグループになったり、昼休みに一緒に学食でおしゃべりランチするような時に、どうしようもなく幸せを感じている。
このままずっと一緒にいたいな、なんて思うことすらある。
けど、そのたびに思い出してしまう。
おそらくはクラスでただ1人、私よりもデク君に近い女の子のことを。
だいぶ後になってから知ったことだけど、デク君は永久ちゃんとは、ずっと前……入学直後くらいから、一緒に訓練室を借りて『個性』の訓練をしてたらしい。2人とも同じ増強系で似てるからって、互いに得るものがあるだろうからって、早くから協力関係にあったんだって。
けど、それが単なる協力関係ではなさそうだってことくらいは……わかる。わかってしまう。
2人が話す時に見せる、お互いに対しての距離の近さや、安心したような、楽しそうな表情。
偏見かもしれないけど、ただの男女の友達ってだけじゃ、ここまでにはならない……と思う。
それはつまり……デク君と永久ちゃんが、単なる友達以上の関係なんじゃないか、って思うには……十分な懸念材料で。
体育祭の時なんか……恐らくは私以外気づいてなかっただろうけど、ほんの一時、デク君が永久ちゃんの手を握ってた一幕もあった。
ちょうどそう、常闇くんと永久ちゃんの試合が終わった後だったと思う。中々にアレな内容だったか……心配したのかな。
……敵に対してや、授業の上でならともかく、基本的に今でもちょっとヘタレなところがあるデク君が、あんなふうにするっていうだけで……単なる友達では絶対にないんだってことは、嫌でもその瞬間わかってしまった。
……考えるだけで胸が苦しくなった。
もし本当にそうなら……デク君と永久ちゃんが付き合っているなら……私にはどうしようもない。
私が入る隙間がもう残されていないなら、私には、この始まってもいない恋を……諦めることしかできない。
そんなことはわかってる。
それでも……どうしても、あきらめたくなくて。
デク君に、どこかに行ってほしくなくて……私の手を取ってほしくて。
それが限りなく不可能なことだとわかってても……私は……!
(いや、だからって私は今何しとんのやろ……)
うん、そろそろ現実逃避はやめて戻ってこよう。デク君もテンパってるやろうし。
『ヒーロー基礎学』の授業で『かくれんぼ』している最中、床下収納にデク君と一緒に隠れて、密着して……
最初こそ『何この状況!?』って思ったけど、その……下世話な話、ぶっちゃけすごく嬉しかったから、内心嬉々として密着してた。こんな大胆なことしてるってことが、永久ちゃんよりもデク君の近くにいられているようで……いや、アホなものの考え方だってわかっとるけども。
そんな時に、デク君の上に座って密着してた太ももの部分に、なんかこう……硬いものが徐々に押し付けられる感触がありまして。
これってひょっとして!? とは思ったものの……その、不思議と嫌な気分じゃなかった。
お、オンナの性(さが、と読みます)、あるいは本能って奴やろか。デク君が私で反応してくれたってことが嬉しいというかね? その、全然不快な感じじゃなくて、いや、だからってさすがに『ばっちこい!』とまではならへんねんけど、というか授業中にそんなんアレやし……
しかしその直後、おそらくはデク君が鋼の精神力で(すごい必死そうな表情しとったし)それを抑えて……けどその瞬間、私は何だか、面白くないと思ってしまった。
なんか昔……小学校の頃、私の友達の女の子が持ってきて学校で見せてもらった少女漫画のワンシーンを思い出していた。主人公の女の子が、男の子に『もう俺我慢できないんだよ!』って言い寄られるシーン、さ、最近の少女漫画って過激なシーン多いんです。
その場面が思い出されて、今の状況と被さって……こう……
(へー、そうなんや。我慢できる範囲なんや、私)
なんかちょっと面白くないな、と思って……気が付いたら私は、パツパツスーツに包まれた体をぎゅっと密着させてデク君に抱き着いて、むしろなんかこすりつけるように動いて……
そして、再びその感触が太もものあたりに押し付けられたのを感じて『よし、やった』とかアホなことを思ったところで我に返った。
(あ、あかんどないしよ……なななななんか勢いで痴女みたいなことやってもうた……)
ほ、ホントにどないしよコレ!? で、デク君にこんな、わざと、は、恥ずかしいこと……不自然にも程があることやし、絶対バレとるよね!? 下手したら……呆れられてる!? 軽蔑されてる!? い、いやらしい女だって思われてたらどないすれば!?
は、離れなきゃせめて……なのに、か、体が言うこと聞かへん!? どうして!? あ、アレか!? 体は正直やっちゅうお決まりの……
っていうかデク君の体、あったかくて、い、意外と柔らかい……筋肉とかすっごいついとるのに、触ってみるとこんな風なんや……男の人って汗臭いって聞くけど、そんなことないっていうか、むしろ悪い感じじゃないっていうか……いやこんな時にまで私は何考えとるん!?
こ、コレホントになんとかしないと……わ、わたしデク君に嫌われ……が、学校でも問題に……せっかく雄英に行かせてくれた父ちゃん母ちゃんに顔向けが……! く、口止めせんと……どうにかデク君にこのこと黙っといてもらわんと!
どうすればいいんやろ? どうしたら黙っといてもらえるかな!? ここは、定番のお金? いや無理や、デク君真面目やし、不正とかそういうの嫌いそうやし……そもそもそんな余裕はあらへん。
そ、そうなるとやっぱり体で……それならむしろ……いやだからそういう思考が祟ってこういう状況になっとるんやっちゅーねんえーかげんにせーよ私ィ!
☆☆☆
Side.緑谷出久
何かさっきから麗日さん小刻みに震えてきてるっぽいんだけど……息も荒くなってきてるみたいだし、ちらっと見たら……泣きそうになってる!?
そ、そんなに嫌だったの!? そこまでされると傷つく……いやよく考えたら当然じゃん、こんな性犯罪の被害者も同然の状況で……まずい、まずいよ……本格的にコレ僕この先雄英にいられなくなるパターンじゃ……
どうしようホントに……土下座じゃ足りないよね絶対……さっきから嫌な汗が止まらない、嗚咽がこみ上げてきそうだ……!
誰か、誰か助けて……いややっぱ誰も来ないで、この状況見られる方がまずいし。
あとこんな状況でさらに注文着けるなんてアレだけど、麗日さんできれば震えるのやめてほしいっていうか……気のせいじゃなければさっきからさらに密着してきてない? 女の子特有のいい匂いが鼻に届いてさらに精神の余裕が削れていくっ……。
し、しずまれ煩悩……お願いだ、僕にこれ以上恥をかかせないで……いやもう僕はどうなってもいい、せっかく雄英でできた大切な友達なんだ、これ以上傷つけさせないでくれ……!
☆☆☆
Side.麗日お茶子
なんかさっきからデク君震えとる上に泣きそうになってない!?
そ、そんなに嫌なんやろか、私とこうしてるの……いや、よく考えてみたら、男だからって女の子の体押し付けて喜んでもらえるなんて、そんなん偏見やん。男女差別やん。
女の子が電車の中で痴漢にあって泣きそうなくらい怖い思いしたって話はよく聞くし、そういう男に対して世の中の女の子はすべからく冷たい目を向けるはず。同時に、被害にあった女の子に対しては心配していたわってあげるはず。
それが、男女逆転してそういうことが起こらないってどうして言える?
今の状況は、私が加害者でデク君が被害者……逃げ場のない空間で淫猥な行為に及んだ私を、世間の冷たい目が責め立てて、被害にあったデク君が優しく慰められるという図式……あ、あかん、私終わったコレ……
そんな状況だってのにデク君いい匂いやって思ってしまう、怯えて震えるデク君ちょっとかわいいなんて思ってしまう私はもうアレやな、うん、死んだほうがええんや……うぅ、泣きそう……いっそ殺して……
……そして、その時は訪れた。
恐らく、互いに頭ン中真っ白になってた私とデク君の頭の上で、不意にガタゴト、って音がしたかと思うと、天板が取り去られて……
「おっ! 緑谷見ーっけ………………お邪魔しました」
「「待ってぇ!」」
その後、天板をどけて私達を見つけ出した永久ちゃん(鬼)への言い訳と、報告はやめてくれるようにっていう説得をして(なぜかデク君まで一緒になって)、
さらにデク君と私がお互いにただひたすら謝り続ける土下座合戦(謝るのに必死で話が頭に入って来んかった)を経て、その場はどうにか収まった。
最終的に第三者である永久ちゃんが上手いことまとめてくれたけど、どんな感じで上手く収まったのか……テンパりすぎて正直覚えてへん。
ちょっと前まで悔しく思っていた……そして、デク君と一番親しいであろう永久ちゃんにそんな場面を見られて、どう思われているのか……っていう部分にすら思い至れなかった。
けどとりあえず、危惧していた事態にはならなかったし、デク君にも嫌われてない。
それだけで安心して私は、あとは何も考えずにその日を終えてしまった。
それで変に気を強くしたというか、調子に乗ったというか……
今思えば、その翌日、よく私はあんなふうに彼を誘えたものだ。
「で、デク君! こ、今度の日曜日もしよかったら……」
オリジナル編が長くなってて申し訳ないです……まだ続くんですが。
ただ、訓練パートはもうこのくらいにして、そろそろオリジナルストーリーの方に行こうかと思ってます。期末試験もうちょっと待って……
……予定通りいけば、3週間以内にはストーリー本筋に戻る……と思う……(長い)
連休挟むし、外出自粛してずっと閉じこもって書いてると思うので(不健康)
なお、割とドでかい原作ブレイクの気配がしてます。
今後考えてる展開に絡むので飛ばせなくて……今しばしおつきあいください。楽しんでもらえるように頑張ります。
今後ともよろしくです。