TSから始まるヒロインアカデミア   作:破戒僧

75 / 159
第75話 TS少女とワイルドワイルドプッシーキャッツ

「雄英高校1年A組、緑谷出久です! ヒーロー名は『デク』です、よろしくお願いします!」

 

「同じく1年A組、栄陽院永久です。ヒーロー名は『ダイナージャ』です」

 

「い、1年A組、麗日お茶子です! ヒーロー名は『ウラビティ』です!」

 

「雄英高校1年B組、宍田獣郎太と申します! ヒーロー名は『ジェボーダン』ですぞ!」

 

「雄英高校1年B組、塩崎茨と申します。真名は『ヴァイン』を名乗っております」

 

「同じくB組、取陰切奈でーす。ヒーロー名は『リザーディ』、よろしくお願いしまーす!」

 

 なんか1人だけ名乗り方が違った気がしたけど、この6人が今回『ワーキングホリデー』で『ワイルドワイルドプッシーキャッツ』の皆さんにお世話になる面子である。

 『デウス・ロ・ウルト』のカリキュラムの一環として来ている私と緑谷とは別に、独自に申し込んで採用されたのが残りの4人。麗日と、B組の宍田、取陰、塩崎である。

 

 ……多いな。

 

「ねこねこねこ……元気でよろしい! うん、堅くならずに楽に、楽しくいこう! 今日から2泊3日の楽しいキャンプだよ!」

 

「2日とも泊まる場所違うけどね。っていうかその監視員というか、職員としてだし」

 

 今、『ワイプシ』のメンバーである、それぞれ水色と赤の猫コスの2名……ピクシーボブとマンダレイが言った通り、今回の私達の仕事は、キャンプの手伝いである。

 正確に言えば、キャンプ場のあるこの山の、山岳監視員の手伝いだが。

 

「それじゃ、さっそく打ち合わせ始めるよー、あちきらについてきてー?」

 

 と、黄色の猫コスの『ラグドール』が言うのに従って、彼女達が運営しているというコテージのような宿泊施設の中に入る。

 

 ……彼女達、とは言いつつ、筋骨隆々の男性が1人混じってるけど……。

 名前は『虎』さん。茶色のコスチュームに身を包んだ、丸太のように太い手足を持つ……男性、である。一応。スカートはいてるけど。

 こないだ緑谷に聞いて知ったんだが、彼は『元女性』らしい。マジか。

 

 ……あともう1人、端っこの方にはなれていたけど……男の子が1人いたようだった。

 すぐいなくなっちゃったけど……アレ、誰かのお子さんかな? 子連れで仕事? わからん。

 

 

 

 今回の私達の仕事、というか体験内容は、さっき言った通り、キャンプ場のある山で山岳監視員の手伝いをすること。その具体的な仕事は、大きく2つに分けられる。

 

 1つは、キャンプ場に来ているお客さんたちの面倒を見ること。

 もっとも、何ら専門的なスキルは必要ない。キャンプその他に関わる指導は、キャンプ場の職員の人達や、『ワイプシ』の人達がメインで行うので、私達はせいぜい、危ないことをする人がいないか見て回ったり、適宜雑用をするくらいだ。

 

 ああ、言うのが遅れたけど、このキャンプ場自体は『ワイプシ』の人たちがやっているわけじゃない。彼女達も今回は、依頼されて面倒を見る立場なのだ。

 大規模なキャンプイベントがあったりする時は、不測の事態に備えて、山岳監視・救助のエキスパートである彼女達が依頼されて警備その他につくことも多い。

 

 で、もう1つの仕事は、この山自体の見回りないしパトロールである。

 

 この山は、自然が豊かに残っていて、野生動物たちも多く住んでいる。危険な奴……熊や猪なんかは、よっぽど奥に行かないと出てこないけど、狐やリス、様々な種類の野鳥なんかは人里近くでもけっこう目撃される。そういうのを見に来る、バードウォッチャーや登山家もなど多いそうだ。

 

 それだけに、よからぬことを企んでいるような者も少なくない。密猟者とかね。

 あとは単純に、登山に来て遭難してしまうようなこともなくはない。そういうのを警戒してパトロールを行い、何かあれば救助、あるいは拘束するのも仕事ってことだ。

 

「普段は我ら4人、あるいは他のヒーローとのチームアップで行っている事業だが、今回は丁度、後進の育成にちょうどいいということもあって、『ワーキングホリデー』を利用させてもらった。採用人数が多いことが気になっていた者も多いだろうが、そういう理由だ」

 

「基本的に私達4人は持ち場を決めてそこを担当するわ。具体的には、私とラグドールがキャンプ場の方を、ピクシーボブと虎がパトロールの方ね。あなた達にはローテーション組んでもらい、キャンプ場班、パトロール班、休憩・待機班の3チームに2人ずつ分かれて当たってもらうわ」

 

「休憩……休んでてええんですか? 空いてるところを手伝ったりとかしなくても……」

 

「いーのいーの。休憩だけじゃなくて待機もだって言ったでしょ? 何かあった時にそこに駆けつけて加勢するのもその班の役目だよ。それに、山歩き舐めちゃいけないよ、普通に舗装された道を歩くより何倍も疲れるんだから、きちんと休んどかなきゃいざって時動けない!」

 

「体調管理、休むのも仕事ってことか……ちなみに、その班分けはどうやって?」

 

「それはねー、はい、今決めた!」

 

 と、ラグドールが会議室のホワイトボードにささっと書き込んでいく。

 

 

1班:デク、ウラビティ

2班:ダイナージャ、リザーディ

3班:ジェボーダン、ヴァイン

 

 

「はい、これで決定!」

 

「今決めたんですか、これ?」

 

「うん、そーだよ。あちきの個性『サーチ』は、目で見た人の情報を知ることができるから、実際に会って見て、能力を把握してちょうどいい組み合わせをその場で決める、って予定だったの」

 

 とのこと。なるほど、理にかなってるな……決め方も、チーム分けそのものも。

 

「なるほど……ちょうど上手くタイプ別に分かれているようですな。それぞれのチームに、接近戦型とサポート型が1人ずつ入っている」

 

 緑谷、私、宍田が、フィジカルを武器に戦うタイプってことだな。まあ、私もどっちかっていえばサポートの方が得意でもあるんだが……まあいっか。肉弾戦も得意なのはそうだし。

 そしてそれを支援する、あるいは得意分野で力を発揮するのがもう1人か。

 

 緑谷と、彼と組めて嬉しそうにしている麗日がコンビ。A組でも仲が良くて、何かと縁があってお互いの個性や能力もよくわかってる組み合わせだな。

 

 同様に、宍田と塩崎もそうだろう。同じクラスで互いのことをよくわかっていて、連携も取りやすいだろうな。

 

 そして、私のとこだけ混成チームか……

 

「体育祭ではなんやかんやあったけど、よろしくね栄陽院。ああ、今は『ダイナージャ』か」

 

「うん、よろしく。えーと、じゃあ私も『リザーディ』って呼んだ方がいいか?」

 

「せっかく名乗ることが許されてる機会なんだし、コスチュームも着てるんだからそうしようよ。B組とA組ってほら、ただでさえ交流する機会とか少ないし?」

 

「あーまあ、合同授業も2学期にならないとないみたいだからなあ」

 

 見ると、あっちでも打ち合わせ……ってほどじゃないけど、よろしくね的に話してるな。

 

「塩崎氏、よろしくお願いしますぞ! 私も未熟者ながら、精一杯体を張る所存!」

 

「至らぬ者同士、微力を尽くしましょう、黙示録の獣よ……歩みを止めなければ、必ずその先に光はあります」

 

「うん、でも私『ジェボーダン』。名前でもどっちもいいから、ちゃんと呼んでいただきたい」

 

「よ、よろしくねデク君、今日も一緒に頑張ろ!」

 

「そ、そうだね麗日さ……あ、ヒーロー名の方がいい、のかな?」

 

「あー、えっと……ええよ、呼びやすい方で。あはは……」

 

「にゃははは、チームワークきっちりね! あ、そんでもって仕事はこれね?」

 

 と、言ってさらにホワイトボードに書き加えるラグドール。

 

 

1班:キャンプ場

2班:パトロール

3班:待機

 

 

「これがこの後、午前の部から始まるそれぞれの受け持ち場所ね。午後の部の前半と後半を合わせて順々にローテーション。仕事内容がそのまま上に繰り上がる感じでいくよ」

 

「なるほど……つまり、私とリザーディは最初パトロールで、次は待機、そんで最後キャンプ場か」

 

「然り。パトロールは一番体力を使うゆえ、その後に待機・休憩が来るようにしてある。午後の部が前半と後半、両方とも終わった後、反省会と明日の打ち合わせを行う。余裕があれば稽古をつけてやってもいいが、疲れが残りそうならやめておくべきだな」

 

「となると……最後にパトロールが来る私と塩崎氏は少し不利、ですな。いや、不利という言い方もおかしいですが」

 

「どうあろうとも全力を尽くすのがヒーローです。……自分の都合や希望などは、その余裕がある時に留めておくべきでしょう……」

 

 そう言いながら、なぜか塩崎は……緑谷の方を見た? しかも、意味ありげな、憂うような表情で。

 一瞬だけだったけど、そう見えたような……でも、何で? 塩崎と緑谷って、接点特になかったような気がするんだけど……気のせいか?

 

 と、思ったら、私と同じように塩崎の方を見て……なぜかニヤニヤしている取陰が見えた。

 そして、こっちの視線に気付くと、またニヤリと笑う。……何で?(2回目)

 

(2人共、緑谷と何か接点とかあったっけ? この雰囲気、まるで麗日と……)

 

「各々役割が分かったところで、各パートの仕事内容の説明に入る! 聞き逃さぬように!」

 

 と、虎さんの声で全員、ホワイトボードに注目した。

 ……まあ、いいか。後で思い出した時にでも聞こう。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 そして仕事開始。

 ピクシーボブと虎さんについて、山の中の決められたルートを歩いて様子を見ていく。

 

 ……なんか、マンダレイ達3人は普通にヒーロー名で呼べるのに、虎さんだけなぜか『さん』付けしたくなるのは何でだろうか。コードネームっぽくないからか……はたまたある偉大な風来坊の名前を思い出すからか……うーむ……

 

「体力的には余裕みたいだけど、考え事してると足場悪いから捻挫するよー、ダイナージャ」

 

「えっ、あ……すいませんピクシーボブ」

 

「うん、わかればよろしい。リザーディは反対に、ちょっと苦しそうかな?」

 

「いえ、全然まだまだいけますよ!」

 

「今はそのようだが、山歩きには基礎体力と、体を上手く使って動くことが重要になるからな。歩き方ひとつで疲れやすくも疲れにくくもなるものだ、この機会に学んでおくといい」

 

「そうなんですか。あー、面目ないです……私確かに、体力ある方じゃないし……」

 

「疲れたら言いなよ、私の分けてやれるから」

 

「ああ、そういやあんたの個性そうだったね。ははは、その時はよろしく」

 

 とは言いつつも、取陰もヒーロー科だけあって鍛えてはいるし、コスチュームも動きやすそうなデザインだから、まだまだ余裕ありそうだな。息遣いも乱れてないし。

 

 目元を覆うマスクに、体全体を覆うボディスーツが彼女のコスチュームだ。彼女の『個性』である『トカゲのしっぽ切り』をイメージしてか、爬虫類の表皮ないし鱗みたいな質感に見える。

 そしてそれが、体にぴったりフィットして、胸元も含めて体の線がはっきり出るデザイン。麗日のコスチュームより『パツパツスーツ』の呼び名が似合いそう。なんというか、露出は少ないけど煽情的に見える……。緑谷とか、微妙に目のやり場に困ってたな。

 

 というかむしろ、取陰が『ちょっと苦しそう』だってどうやって見抜いたのかがわからん。この道12年の経験からくる、ベテランの観察眼ってもんは流石に……

 

「何か失礼なこと考えなかった?」

 

「「いえ何も」」

 

 突如ぐりん、と首を90度くらいこっちに向けてそう言ってくるピクシーボブ。

 鋭い! てか怖! 何その年齢の話題に関する嗅覚……口にも出してないのに……

 

 っていうか、同時に取陰の声も聞こえたんだけど……同じこと考えてたのかな?

 

「そう? ならいいんだけど、何度も言うように私は心はじゅうは……」

 

「止まれ、何かある」

 

 と、虎さんの小さな、しかしよくとおる声が響いたのに反応して、全員すぐさまたたずまいを直し、周囲の様子をうかがう。ふざけた空気は一瞬で霧散して、警戒態勢に。

 

 虎はその場でしゃがみ込み、地面を指さしている。

 その示す先にあるのは……足跡?

 

「んー……登山靴の足跡だね。人数は2人。まだ新しい。できたばかりって感じだ。……この辺りは登山コースからは外れてるし、歩くにも適してないんだけど」

 

「まさか……密猟者とかですか?」

 

「いや、違うだろう。歩き方からして、この者達は自分の存在を隠す気はないし、山歩きにそこまで慣れているわけでもないな。加えて、靴の裏の形状……この登山靴は初心者用の安価なものだ。良くも悪くも手慣れている密猟者のそれとは、特徴が一致せん」

 

「足跡一つでそこまでわかるの……!?」

 

「慣れればな。……同じ場所を何度も歩き回っている、右往左往している印象だ」

 

「虎、こっちの切り株に、2人分の腰かけた痕跡があった。その脇の地面には、荷物か何かを置いたような跡も。……多分コレ、不用意に登山コースから外れて遭難しちゃってるんじゃないかな。道がわからず右往左往、疲れて休憩……行動パターン合うよ」

 

「……おまけに、片方は足をくじいたか何かしているな。足跡のつき方が不自然だ」

 

 すらすらと、僅かな痕跡からあっという間に状況を推理していく2人の見事な観察眼に、私と取陰はただただ驚くことしかできなかった。専門家とはいえ、ここまでのことができるのか……

 

「周囲を警戒しつつ、遭難者がいる前提で捜索に移る。リザーディ、『個性』使用を許可する、無理をしない範囲で適宜使え。それと、チームを二手に分ける。リザーディは我と来い。ダイナージャはピクシーボブとだ。見つからない場合は待機チームに声をかけて人海戦術だ、始めるぞ!」

 

「「「了解!」」」

 

 

 

 その後、遭難者は無事に見つけることができた。

 

 予想通り、色んな景色を見たいと思って登山道を迂闊に外れて帰れなくなっていたようで、しかも足をくじいていた。

 

 その場で私が、『エネルギー』を流し込んで体力を回復させ、同時に捻挫の個所にエネルギーを集中させることで大分症状を和らげることができた。ありがとう、ってお礼言われた。

 

 その後、無理させないために、ピクシーボブが『土流』の個性で作った『土魔獣』に2人を乗せて、彼女が最寄りの山小屋とかパーキングまで連れていくことになった。私達と虎さんは、引き続きのパトロールに戻った。

 

 

 

 




おや、B組の女子2人の様子が……?

どういうことかは、今後本編で。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。