TSから始まるヒロインアカデミア   作:破戒僧

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第76話 TS少女と取陰切奈

 

 無事にパトロールを終え、午前の部を終了させて帰ってきた私達は、コテージでお昼ご飯の時間を迎えていた。

 昼ご飯は、待機組になっていた2人、塩崎と宍田が課題として作ってくれていた。

 

 曰く、災害時などにおける炊き出しなんかも救助活動の一環だからって、簡単にだけど複数人数用の食事を作る体験ってことだったんだそうだ。なるほど考えてるな。

 

「白米の飯もちょうど炊き上がりましたぞ! さあさあ皆の衆、遠慮なく食べられよ!」

 

「食事は日々の活力。我らの糧となってくれる命に感謝していただきましょう」

 

「「おー!」」

 

「「おー……!」」

 

 先に響いた『おー!』が私と取陰。美味しそうな食事を見て。

 で、後の方の『おー……』が……緑谷と麗日である。どしたの、めっちゃ疲れてない?

 

 たしか2人は……午前中、キャンプ場の担当だったよね?

 

「うん、そやったんやけど……子供連れが多くて……」

 

「相手するの、思いのほか疲れた……子供って何であんな元気なんだろう……」

 

 あー、そういうことね。

 確かに、遊んでる時の子供って、体力底なしだよな……なんであんなに動き続けられるのかわかんないってくらいに。テンションもずっと高いし……キャンプなんてワクワクする場ならなおさらだろう。

 おまけに予想外の行動めっちゃとるから、気も抜けないし……精神的に疲弊したのか。

 

「あははは……うん、ホント大変そうだったわね。2人とも体育祭で有名になっちゃってるから余計に、ってとこかしら。まあ、将来子供ができた時の予行演習だと思えばよかったんじゃない?」

 

 と、マンダレイは場を和ませるつもりで言ったようだったが……その瞬間、電撃走る。

 

 ドキッとして赤くなった顔を急に上げ……とっさにこっちを見てくる緑谷。

 

 同じようにはっとして赤い顔を上げ、緑谷を見る麗日。しかし、その視線が私の方を向いているのをみて……何だか辛そうに、面白くなさそうにする。

 

 塩崎もぴくっと反応して、視線だけ動かしてちらっと緑谷の方を。その後すぐ、少し恥ずかしそうに、ほほを赤く染めて目を反らした。

 

 取陰は、私と同じようにその場の全員を見ながらニヤニヤしてる。

 そして自身も……特に、緑谷の方を見ているようだ。心なしか、熱のこもった視線で。

 

 なお、宍田はタイミングよく?悪く?飲み物を取りに台所へ行っているので今ここにはいない。

 

 そして視界の端で……交錯する女子たちの視線に『え、何この空気?』とちょっとマンダレイが戸惑っていて……

 

「……ぐふっ!」

 

 ……その隣で、精神にダメージを受けたらしいピクシーボブが崩れ落ちた。

 

「さあさあ皆の衆、お茶とジュースどちらが……何ですかなこの空気は?」

 

 あ、宍田帰ってきた。

 

 

 

 食事を終えて片づけの最中、ふと私と緑谷は、マンダレイが1人分と思しきおかずと、ご飯をおにぎりにしてマンダレイがキープしているのを見つけた。

 そしてそれを彼女は、食堂の外にいた小さな男の子に渡していた。

 

 あの子、集合場所にもいたな……マンダレイの息子さん?

 

 と、思っていると、その子がこっちに気づいてなぜか睨んできて……それを見てマンダレイもこっちに気づいた。

 

 で、聞いたところ、彼の名は洸汰君。マンダレイの子供じゃなく、従甥だそうだ。『じゅうせい』と読みます。

 関係性は……いとこ、の子供……だな。ゆえあって預かってるらしい。

 

「そうなんですか……あ、僕、緑谷出久。よろしくね」

 

 そう言って手を差し出す緑谷だが、ぷいっとそっぽを向いてしまう洸汰君。

 それを、どうしたの? と緑谷がさらに声をかけても、無視。私にも同様だ。

 

「えーっと、どうしたの? 僕何かしちゃったかな?」

 

「あー、ごめん。気を悪くしないであげて? その子さ……」

 

 と、マンダレイが何か言おうとした瞬間、洸汰君は突然振り返って、突如としてパンチを繰り出した。振り向きざまに、恐らくは緑谷の……大切な部分を狙って。

 

 いきなりそんなことするなんて、何かよっぽど気に障ることでもあったのか、なんて思ったが……それよりも、その拳は緑谷のリトル緑谷、あるいはお稲荷さんを捕らえることはなかった。

 

 パンチした位置、ないし高さからして、緑谷がさっきまでと同じようにそこに立ってたら当たってしまった可能性は高いが、タイミング悪く緑谷はその瞬間、マンダレイの言葉に反応して立ち上がって、少し場所をずれ……代わりにその位置には、私がしゃがみ込んだところだったのだ。なるたけ洸汰君と目線を合わせて話せばいいかな、とか思って。

 

 結果、

 

 ―――ぼすっ

 

「……あ」

 

「……っ!?」

 

 洸汰君の拳は、ちょうど私のコスチュームの軍服の、ボタン止めてる個所の間にあたり、そのまま……私の胸の谷間に突き刺さった。食事時でボタン緩めたままだったなそういや。

 

 その光景を見て、驚いて顔を真っ赤にする洸汰君。固まる周囲の空気。

 面白くなさそうにし、責めるような視線になる緑谷。その隣で冷汗をかくマンダレイ。

 

 そして周囲からは……『何してんだこのエロガキ』とでも言いたげな視線が針のむしろのごとく洸汰君に襲い掛かる。しかし洸汰君、驚きすぎて動けない様子。

 

 どうしようコレ、何て言えばいいかな、とりあえず怒るべきかな、とか思っている間に、マンダレイが再起動し……流石に見過ごせなかったのか、洸汰君を引き離して私の胸から腕を抜き取らせ、そのままげんこつを落とした。

 

「ご、ごめんなさい栄陽院さん! 洸汰! 謝りなさい!」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

 流石にコレは悪い、あるいは謝らないとまずいと思ったか、洸汰君、素直に謝る。

 マンダレイも一緒に謝る、腰を90度に奇麗に曲げて。

 

 ああうん、いーっていーって。わざとじゃないみたいだし……ただ、アレが私じゃなくて緑谷に当たってたら、そのヒット個所はあまりよろしくない場所だっただろうことを考えると……少し、アレだけど。

 

 もう見たまんま『自分の子供がいけないことをしてしまって必死で謝る母親』と化しているマンダレイにも、気にしていない旨を伝えて、その場は収めた。

 

 ちょっとびっくりしたけど、緑谷が私のために怒ってくれる視線というレア映像を見れたから良しとしよう……脳内フォルダに永久保存決定である。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 午後、私と取陰のチームは待機から始まった。

 

 何もしないでただ休んでいるのも退屈なので、持ってきていた学校の課題その他をやりながら、交代の時間が来るのを待っていた。

 取陰も同じようにしているが、そんな中、ふいに取陰が口を開き、

 

「あのさぁ栄陽院、ちょっと聞きたいんだけどさ」

 

「何?」

 

「緑谷のこと、好き?」

 

 まるで『今日の朝何食べた?』とでも聞くような気軽さで、結構なことを聞いてきた。

 それに一瞬驚いてきょとんとするものの……いつも通りの、ギザっ歯を見せた笑みを浮かべながら……しかしどこか真剣なまなざしでそう聞いてくる取陰に、私も、普通に返すことにした。

 

「あー、うん、好きだよ。一応ね」

 

「やっぱそうかー……私も好き」

 

「……やっぱり?」

 

 今日、所々で見られた反応見てて、そうじゃないかなとは思ってたんだよね。けど、本人の口から裏取れるとは思わなかったなー……そうか、好きなのか、取陰、緑谷のこと。

 

「あと、塩崎もそうだよ?」

 

「あ、そっちもやっぱり? ていうか、いいのそんなこと勝手にばらしちゃって?」

 

「そんなこと言って、気付いてんでしょ? 塩崎ってば、わかりやすかったもんね今日」

 

「それはまあ確かに……あーでも緑谷自身は気づいてなさそうだけど」

 

「あはははは、鈍いみたいだしねアイツ。ていうか、見た感じ麗日もそうだよね……何この偶然、緑谷のこと好きな女子が『ワーキングホリデー』に一堂に……来てないの蛙吹ぐらい?」

 

「そこまで把握してんのか……」

 

 そう、私がそうじゃないかとにらんでいる、A組で緑谷のことを好きであろう女子。私と麗日と、もう1人は……梅雨ちゃんである。恐らくはUSJの時、あるいはそれがきっかけになって心惹かれるようになって……って感じだと思う。表情変わらんからわかりにくいけど。

 

「だてに中学時代ギャルやってないよ。この手の噂とか大好物だし、割とそう言うの見てて鋭い方だよ、私?」

 

 ギャルとそれ関係あるのか、つかギャルだったのか、なんてことを思ったが……さっきから私ら、結構アレな内容のことをごく普通のトーンで話してるな……

 

 こういうのって、きゃぴきゃぴテンション上げながら姦しく話すもんだっていうイメージ強いんだけど……実際に、芦戸や葉隠がいたらそんな感じになっただろうし。

 けど、私や取陰みたいに、どっちかっていうとサバサバ系?な女子が話すと、コイバナもこんな感じになるんだろうか?

 

「というか、それ関係で気になってはいたんだけど……取陰と塩崎って、ぶっちゃけ緑谷と接点なかったよね? 何でっていうか、いつの間に、何があって好きになったの?」

 

「お、聞いちゃう? それ聞いちゃう?」

 

 ニヤニヤと笑いながら、ちょっと機嫌よさげに言う取陰。

 ちょっとだけもったいぶった後、思い出すようにして取陰は話し出した。

 

 

 ☆☆☆

 

 

Side.取陰切奈

 

 気弱そうなヘタレ男子。いっつもびくびくしてて、独り言も多くて、なんかオタクっぽい。

 それが、私が緑谷に対してはじめに抱いた感想だった。

 

 前の学校……というか、私が中学校の頃にも、そういうのはどこのクラスにもいた。陰キャって言えばいいのか……他人と積極的に関わったりすることが得意じゃなくて、弄られ役になってたりする、なんというか……頼りない感じの男子。

 私や、つるんでた同じギャルな女子たちからすれば、率直に言って、嘲笑の的だったと思う。

 

 別にいじめてたとかそんな事実はないけど、内心では正直、バカにして見てたような存在だ。

 緑谷もそんな感じなんだろうなって、正直思っていた。

 

 USJでA組が『敵』騒動に巻き込まれてからも、その評価は変わらなかった。

 

 一部の噂では、緑谷も前面に立って敵と戦ったとか言われてたけど……その真偽は定かじゃなかったし、あの頃はまだまだ自信なさげな緑谷のままだったから、どうせ爆豪とか轟、あとは栄陽院あたりの、入学直後から注目されてた連中がメインだったんだろうなって思ったし。

 

 本格的に注目するようになったのは、やっぱり体育祭の時。

 

 下馬評を大きく覆してその実力を見せつけ、トーナメントでは轟や飯田といった実力者を相手にして勝利。さらに決勝戦では、性格はともかく実力的には学年最強クラスと目されていた爆豪と、一対一で一歩も引かずに戦い、同時優勝なんてしてみせて。

 体育祭を通して、その圧倒的な実力と、ヒーローにふさわしい不屈の闘志を見せつけた。

 

 この時点で、何もできない気弱なオタク男子なんていう評価は吹っ飛んでたけど、さらには職場体験で、かの凶悪ネームドヴィラン『ヒーロー殺し』を相手にして交戦・生還までして。

 

 この頃にはもう……ヒーローとして戦う時に見せる緑谷の顔に、オドオドした弱い心みたいなのはほとんどなくなっていて……学年全体で、あいつに対する評価が爆発的に上がっていった。

 

 それでも普段の緑谷は、入学当初よりはマシになったとはいえ、やっぱりどっかオドオドして、いつも緊張気味で、あと……女子と上手く話せないヘタレのままだった。

 やっぱりというか、私の中では、ヘタレ男子っていう評価は根強く残ってたんだよね。

 

 緑谷は覚えてるかどうかわからないけど、何度か私達は学校内で会っている。

 いや、会ってるって程じゃないかな、せいぜい一緒の部屋にいたくらいのもんだし。

 

 例えばそのうちの1回は、コスチューム工房でのことだ。コスチュームの改良に来た緑谷が相談の順番待ちをしている間、隣に座ってたのが私だった。

 

 私のコスチュームは御覧の通り、体のラインがくっきり出るような……露出は少なくてもセクシーなデザインなので、一目見て顔を赤くして、おどおどしてたのは記憶に残っている。

 

 戦えばあんなに強くて、私じゃ絶対勝てないくらいなのに……私のことを直視することもできず、横で私がぐぐーっと伸びをして、その際に胸を突き出すようなポーズになったり、足を組み替えたりする動作1つ取るたびに、いちいちびくっとしてオドオドしてたりして。

 初心だなあ、かわいいなあ、なんて思いながら見てたもんだ。

 

 

 ……あの日も私は、同じように思っていた。

 

 

 その日私は、『ワーキングホリデー』であるイベントに来ていた。ヒーローの見回りの仕事を手伝うだけの簡単な内容。全部終わってから、仕事場の見学と、稽古をつけてもらえる。そっちがメイン。参加者は私と、塩崎の2人。

 

 だと思ってたんだけど、現場に行くと、他のヒーロー事務所とのチームアップで依頼に当たることになってて……そのヒーロー事務所の『ワーキングホリデー』で、緑谷が来てた。

 

 ここでも緑谷は、私達のコスチュームを見て目のやり場に困ってたっけな。

 私のはさっき言った通りだけど、塩崎のも……なんか布を巻いたような、聖人っぽい装束だから、露出は少ないけど、ひらっと動くと見えそうになったりするんだよね。腕とか生足とかも、結構色気あるし……まあ、本人に自覚はないみたいだけど。

 

 緑谷をちょっとからかってやったりして遊びながら、そしてそれを真面目な塩崎にとがめられながらすごしていた。ああもちろん、仕事そのものはきちんと真面目にやってたからね。

 何度やっても慣れない、ちょっとからかうたびに真っ赤になるのが面白かっただけ。

 

 それに塩崎だって緑谷のこと怒ってた……とは言わないまでもぴしゃりと色々注意してたしね。もっと自信を持って、堂々としてくださいって。私達はヒーローなんですから、何事にも誠実に、正面から、正々堂々と向き合わなければなりません、って。

 

 塩崎ってそのへんの融通が利かないというか……『(はかりごと)は絶対にいけません』的な、下手すると男子連中以上に愚直な部分があるんだよね。信条っていうか、信念、あるいは信仰じゃないかってレベルで。

 ……マジでありそうだけどね、確かあいつ、クリスチャン系の学校の出だったし。

 

 時と場合にもよるけど、策を弄して戦うのも割と好きな私とは、あんまりそりが合わないというか……衝突することも多い子だった。

 

 そしてそれが原因で、あの日、事件は起きた。

 

 塩崎と2人でパトロールをしていて、もう30分もしないうちに業務終了だな、何もなくてよかったー、と思ってた時のこと。

 物陰でひそひそ話をする怪しい男達を見つけた私と塩崎は、こっそりその話を聞いていると……それが、違法薬物の取引だってことを知った。

 

 そしてこれからその売人は、薬を欲しがる哀れな被害者達に、それを売りさばきに行くところなのだった。このイベントをカモフラージュにして、いっきに大量に薬を隠れてさばくのだと。

 

 予想外にヤバい現場に出くわしてしまい、早く監督役のヒーローに連絡して指示を仰ぐ、いや応援を呼んでもらわないと、と思ったんだけど、それを待たずに塩崎が飛び出してしまったのだ。

 このままあの売人を放置すれば、ヒーローが到着するまでの間に薬が売りさばかれて被害者が出てしまう、一刻も早く取り押さえて、薬物も押収しなければって。

 

 被害者達のことを思ってのことだったのはわかる。塩崎はそういうのを見過ごせない性格だ。

 けど、この場においてそれは完全に勇み足……を通りこして、失敗そのものの判断だった。

 

 塩崎の『個性』で拘束したはいいが、そいつらには他にも何人も仲間がいて、たちまち私達は囲まれてしまった。しかもその1人が、塩崎にとって相性最悪な炎熱系の個性持ちで……あっという間に私達は追い詰められた。

 

 どうにか私が派手に動いて挑発・かく乱し、塩崎だけは逃がすことに成功したけど……私はその場で取り押さえられ、逃げられないように何かの薬を打たれた。個性が上手く使えなくなって、体に力が入らなくなって……朦朧とする意識の中で、私は縛られ、車に乗せられた。

 

 連れ去られる最中、さらに恐ろしいことも聞こえてきた。

 こいつらは薬物取引だけじゃなく、人身売買までやっていること。日本国内だけでなく、海外にまで手を伸ばして顧客を持っていて、国境を超えて取引することもあるということ。

 

 そして、目撃者である私の始末をどうするかということ。

 殺してしまうには惜しい。日本人の若い女はどこに出してもいい値段がつく。スタイルがよくて、しかも天下の雄英生なら、付加価値もついて高く売れる。

 薬漬けにして逃げられなくして、海の向こうにでも売り飛ばしてしまえば、口封じにもなって一石二鳥だ。

 

 動けない私の体を無遠慮に触って撫でまわしながら、男達は下卑た笑みを浮かべていた。

 

 どうしようもなく怖くて、けどもうどうにもできる気がしなくて。

 もうだめだ、私これから殺されるより酷い目に合うんだ、そんなの嫌だ、お願い誰か……

 

 

(誰か……誰か、助けて!)

 

 

 その直後だった。

 結論から言えば、私は助かった。

 

 逃げ伸びた塩崎が救援を要請したらしい。私が隠し持ってた――というか、壊される前にとっさに飲み込んで胃袋に隠した――GPSつきの小型インカムが生きていたので、その反応をたどって駆けつけ、駆けつけたヒーローが個性を使って車を止めた。

 

 車を降りた犯人たちが、私を人質にして逃げ延びようとする中……突然、私を抱えていた犯人の足元のマンホールのふたが吹き飛んで、中からすごい速さで出て来た人影が、逃げていた犯人を全員まとめて殴り倒した。

 

 そして、上手く体が動かず、倒れそうになった私を抱きとめて……こう言ったのだ。

 

 

「うわ、え、と、取陰さ……えーとえーと、あー……も……もう大丈夫、僕が来た!」

 

 

 ……こんな時にも、いまいち締まらないなあ、なんて思いながら、私は……私を助けてくれたヒーローの……緑谷の顔を見上げて、安心してしまい……緊張の糸が切れて、意識を失った。

 

 

 ☆☆☆

 

 

「そんでその後、緑谷にお礼言って……塩崎には泣きながら謝られて……ヒーローの人にはめっちゃ怒られて……一件落着ってわけ」

 

「それがきっかけで緑谷のこと好きになった?」

 

「んー、どうだろう……少なくとも、明確にあいつを男として認識するようになったのはあの時だったかな。その時から好き、ではなかったかもしんない。ただ、1人の男として、恋愛の対象としてアイツを見てたら、今まで気づかなかった緑谷のいいところとか、かっこいいところとかが見えるようになってきて……何だすっごいいい男じゃんか、今まで気づけなかったけど、って感じかも」

 

 取陰は徹頭徹尾、軽い感じの口調を崩さずに語っていた。

 けど目は限りなく本気、ないし真剣で……ああ、緑谷のことがホントに好きになったんだな、ってことがよくわかった。

 

 なんとまあ、ドラマチックというか、劇的な展開の果てに芽生えた恋心だな……まさに王道って感じじゃないか。

 

「そーかなあ? 私としては、そういうのってむしろチョロインの類じゃないかって思うけど? だってヒーロー業界なんて、チームアップやらサイドキックも含めて、助けて助けられてなんて日常茶飯事、当たり前の世界じゃん。そのたびに惚れてたらそりゃキリないでしょーよ」

 

「でも好きになったんでしょ?」

 

「なっちゃったんだよねえ……たはは、どうしたもんか。ああちなみに、塩崎は何ていうか……自分ではまだ好きだって自覚はないかもね。何かとどうしようもなく気になる男子、くらいの認識」

 

「時間の問題だろそれ……で、なんでこの話私にしたの?」

 

「んー、何でだろうね。何となくかな」

 

「何となくで、推定恋敵の相手にそんなこと話すかね……ある意味宣戦布告じゃないのそれ?」

 

「あ、じゃあそれでもいいよ? どの道私だって、負けるつもりないしぃ? あんたにも塩崎にも麗日にも、ああもちろん蛙吹にもね」

 

「さよかい」

 

「ついでに聞いておきたいんだけど、それ以外で緑谷に気がありそうな子いる? B組にはもういないとは思うんだけどさあ……A組には?」

 

「……今んとこいないかな、多分。つか、やっぱり『負けない』とそういう話になるのかこの場合」

 

「? どゆこと? そりゃあんたも言ってた通り、恋敵なんだから、1人の男を取り合って骨肉の争いって奴をさあ……」

 

「えー……しなきゃだめ?」

 

「……? 戦う前から降伏宣言、ってわけじゃないよね? 栄陽院こそ、さっきから何が言いたいの?」

 

「だからあ……」

 

 

 ―――トゥルルルルル! トゥルルルルル!

 

 

「「!!」」

 

 突然、待機室の電話が鳴って、話が中断する。

 私の方が電話に近かったので、受話器を取ると、その向こうから聞こえて来たのは、ラグドールの声だった。

 

『あーもしもし、待機中の2班の2人?』

 

「2人っていうか、はい、ダイナージャです。何かありましたか?」

 

『時間よりちょっと早いけど、パトロール終わりそうみたい。キャンプの監督の方もちょうどキリいいから、ローテ交代できないかなーって。大丈夫?』

 

 そう聞かれたので、取陰にすばやく確認を取って、

 

「はい、問題ありません。みど……デクとウラビティが戻り次第、そちらに行くってことでよろしいですか?」

 

『いーよー! じゃ、準備しといてねっ!』

 

 ――プツン(電話が切れた音)

 

「だってさ」

 

「ははは、じゃ、コイバナはここまでってことで、準備しますか。続きは……風呂ででもする?」

 

「いいね、女子全員集まりそうだし……ここ温泉あるらしいよ?」

 

「マジでっ!? うわ、楽しみ!」

 

 ご飯も食べてゆっくり休んで、きっちり元気回復した私と取陰は、予定通り緑谷達が帰ってきたのと入れ違いで部屋を後にし、今日のローテーションで最後のシフトである、キャンプ場の手伝いへ向かった。

 

 なお、緑谷達は間に食事休憩をはさんだとはいえ、子供の相手からの山中パトロールだったため、めっちゃへとへとになっていた。ゆっくり休んでくれ……

 

 

 

 




と、いうわけで、取陰と塩崎がデク君争奪戦に正式参戦でした。

塩崎はともかく……なんとなく取陰は、こんな風にさらっと、いきなりカミングアウトさせる展開が似合いそうだったので、狙ってそうしました。
あまりに唐突で気になった人がいたらすいません。
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