TSから始まるヒロインアカデミア   作:破戒僧

77 / 159
前回、B組の取陰・塩崎両名の急展開がさすがに唐突でびっくりしたり、違和感を覚えた方もいらしたようで……作者の趣味と力不足で、その辺はすいません。

……だってのに今回またこんな話を書いている自分をどうか笑ってください。

というわけで今回、さらに色々とはっちゃけ過ぎたかも……
具体的には、マッサージの時や常闇戦の時以来かってくらいに、そっちの方向に……

気になるというか、苦手な人がいたらすいません。どうぞ。


第77話 TS少女と入浴事故

 

 ……今の状況を今一度見てみよう。ええと……

 

私:全裸

取陰:全裸

麗日:全裸

マンダレイ:全裸+タオル巻き

緑谷:全裸+泡まみれ

 

 ……この状態で女四人で、倒れて転がっている緑谷を見下ろしている。それが今の状況だ。

 

 なお、ちょっと離れたところには、同じく全裸……か、あるいはタオル巻いた状態の塩崎がいるものと思われるが、ここからは見えないな。仕切りあるし。

 

 ……うん、とんでもない状況だな。

 

 

 

 さて、何でこんな状況になったのかというと……ちょっと時を1時間ほど巻き戻そうか。

 

 

 

 最後の『キャンプ場係』のシフトも無事に終了し、私達のワーキングホリデー、その1日目は終わりを告げた。

 

 今日も1日お疲れ様でしたーってことで、夕食の時間。

 最後に休憩・待機シフトだった緑谷と麗日を中心に、皆で協力して夕食を作って食べる。

 

 その際、普段から大人数用の食事を作り慣れている私のスキルが大活躍して、マンダレイ達に褒められたことを追記しておく。

 大人数っていうか、ただ単に1人でいっぱい作って食べてるだけなんだけどね。

 

 そんなわけで、疲れた体にエネルギーが満ち溢れるような献立の数々を用意した。

 いただきます、の合図と共にみんなで仲良く食べ始め、食べながら今日の感想とか講評を言い合ったりして、わいわい楽しい夕食の時を過ごした。

 

 ……なお、今回も洸汰君はやってこず、マンダレイが1人分の夕食を別皿に取って確保していた。彼が何で私達を避けてるのかは分かんないけど……保護者も大変だな。

 せっかく子供が喜びそうなメニューも色々作ったのにな……まあ、後で温め直してとかでもいいから、美味しく食べて欲しいもんだ。

 

 ごめんね、ってちょっと悲しげに笑いながら言ってくるマンダレイを見て、そんなことを考えてしまった。

 

 

 

 その後、私達はお風呂に入ったんだが……ここのコテージ、近くにある源泉から温泉が引っ張られてきていて、いつでも入れる設備になってるってんだから、まー皆テンション上がってね。

 中学生男子かってくらいにはっちゃけで、取陰が湯船で泳いだり、背中流しっこしたり、お風呂で遊んで……女性陣皆で、いいお湯加減の温泉を堪能した。

 

 途中でマンダレイも入ってきた。時間空いたから今のうちに入っちゃおうと思ってだって。

 

 他のメンバーは? って聞いたら、ラグドールは今日の夜勤当番だから事務室。お風呂には早めにもう入っちゃったんだと。

 ピクシーボブと虎さんは晩酌だって。……なんか、幸せな家族連れを多く目撃してしまったピクシーボブのすさんだ心を癒すためとかなんとか……

 

 ……聞けば、適齢期を逃しそうになってて焦ってるんだそうだ、彼女。

 あー、それでなんか昼間、それ関係のワードにダメージ受けたり、『10代の乙女……青春……恨めしいぃ……』とかなんとか小声で言ってたのか……

 

 まあ……山岳救助だもんな。基本的に山の中で、出会いのなさそうな職場だからなあ……

 

 そんでマンダレイが、『あなた達もヒーローやるなら、普通の女の子よりそういう機会は遠のいてもおかしくないから……出会いは大切にしなさいね』とか重苦しいご助言をいただきまして……と思ったら、それ聞いて取陰がふと思いだしたように。

 

「ああ、そうだ、出会いというか相手というか、そういう話で思い出したんだけどさ、塩崎」

 

「はい? 何でしょうか、取陰さん」

 

「栄陽院だけどさ、やっぱ緑谷のこと好きなんだって」

 

「「フッッ!?」」

 

 途端、麗日と塩崎が噴き出した。

 マンダレイはというと、突如始まったコイバナ……にしてはやけにあけすけな雰囲気のそれに、きょとんとして驚いている。リアクションできてない。

 

「えっ、な、なっ……何を言うのですいきなり!? え、栄陽院さんが、みみみ、緑谷さんのことを……そ、それが何か、というかなぜ私に……」

 

「えー、だって塩崎も緑谷のこと好きでしょ? あと私も好きだしー」

 

「なっ……っ!?」

 

「えっ……ええぇええ!?」

 

 驚く塩崎と……それ以上に驚いている麗日。

 まあ、麗日の方は……私はどうやらマークしてたようだけど、ノーマークだった取陰と塩崎も恋敵(かもしれない)ってわかったわけだからな……

 

 口をパクパクさせて何も言えない麗日に対して……取陰がとどめの一撃を。

 

「で、麗日も好きなんだよね?」

 

「っ……~~~ッ!?」

 

 

 

 確信犯で取陰がニヤニヤして面白がって、麗日と塩崎がパニクって……マンダレイは最初から最後まできょとんでボーっとしてたので、事態の鎮静は主に私が行いました。数分かかった。

 全くもう……いきなり何を言い始めて何を引き起こしてんだよ、取陰ってば……

 

「だってさあ、せっかくこうして恋敵が全員一堂に会して、しかも裸の付き合いできてるんだから、この機会に腹を割って話しておきたいじゃん? まあ、実質的には宣戦布告かもだけど」

 

「せ、宣戦布告……ですか?」

 

 塩崎がそう聞き返すと、そうそう、と取陰はニヤリと笑う。特徴的なギザッ歯を見せて。

 

「ここにいる4人……ああ、ここにはいないけど、A組の蛙吹も含めれば5人かな? 全員緑谷が好きなわけだけどさあ……実際に結ばれるとしてもこの中の1人だけでしょ? あるいは、思わぬダークホースの出現で誰も報われないなんてこともあり得る。もちろん私はそんなの嫌だから、積極的にアプローチしていく予定だけど。そんでいずれは~、みたいな?」

 

 さらっと梅雨ちゃんのことも暴露した取陰だが、その直後、

 

「わ……私もっ!」

 

 と、ばしゃっと音を立てて湯船から立ち上がり、麗日が何事か言いかける。

 驚いた眼になる塩崎とマンダレイ。面白そうに見返す取陰。

 

「わ、私も……それは、やだから……私も、デク君、好きだから……! その、えっと……ま、負けない、です!」

 

 真っ赤になりながらも、振り絞るようにして最後まで言い切った麗日。

 言い切ると同時に、恥ずかしさがぶり返したようにばしゃっとお湯に沈んで、口のあたりまでつかってしまう。ブクブクブク、と、呼気が泡になって上がってきていた。

 

「うんうん、まー、麗日と栄陽院はクラスも同じだし、2人とも今すでに緑谷と特に仲がいいって評判になってるからな~。強敵だわ。ねえ塩崎?」

 

「わっ、私はその……」

 

 いきなり話を回されてしどろもどろな塩崎だが、どうにか心を落ち着かせると、目を泳がせながら……しかし、1つ1つ言葉を選ぶように話し始めた。

 

「わっ、私は……緑谷さんのことを、確かに、尊敬して……強くて、気高いヒーローだと思っていますが……。正直、わかりません。私は、私が彼に……彼を、好きなのかどうかは……」

 

「…………」

 

「確かに、ふと気が付くと、目で彼を追っていたり、彼が笑う所を見ると嬉しくなったりもします。けれどそれは、皆同じように持っている隣人愛で……私も、あの一件で緑谷さんを少しだけ近くに感じるようになって、知って、それで……でも……!」

 

「でもそれで、他の女の子と緑谷が仲良くしてるのを見ると不機嫌になるんでしょ?」

 

「それはっ! それは……私は……でも、こんな……!」

 

 それっきり、顔を真っ赤にして、目の端にうっすら涙を浮かべて黙ってしまった塩崎。なんていうか……自分で自分の心の中を整理できてない、的な感じだな……。

 神学校系の女子高なんだっけ? そういうのに縁がない環境で育ってきたようだし、仕方ないか。

 

 取陰が『ちょっと急だったかな、ごめんね』と謝って慰めていた。

 そしてそれを、不思議そう、ないしは不安そうな目で見ている麗日。

 

 自分で断言はしなかったものの……やっぱり油断できない相手なんだ、ぐらいには思ったのかな。

 

 で、最後にこの取陰砲が向けられるのが誰かと言えばそれは……

 

「そんじゃ最後、栄陽院もいってみようか?」

 

「え、やっぱ私にも回って来んのコレ?」

 

「そりゃもちろん! 恋敵3人が勇気振り絞って宣言したんだから、1人だけ何も言わないはなしでしょ。ささ、ズバッと言っちゃってよさっきみたいに!」

 

 麗日と、少し落ち着いた塩崎が『さっきみたいに?』と少し不思議そうにしているが……あー、どうしたもんかな。何をどう言えば……いや、単純に私も緑谷が好きだ、ていいのか?

 それとももっと正確に……どっちかっていうと『尽くしたい願望』みたいなもんがあるって言った方がいいのか……そのためなら緑谷の最終決定に従うとか色々……

 

 ……あ、待てよ?

 それはともかくというか、別に話すとして……コレ、いい機会だから言ってみるか?

 

 なんか今、半ば無理やりではあるけど、色々カミングアウトする的な流れっていうか雰囲気だし……うん、試しに、いいかも。

 何、失敗してもドン引きされる程度だ。

 

 話してみよう。私の……緑谷にも話していない、最後にして最大の『性癖』について。

 

「……私のことを話す前にさ、ちょっと折角だから皆に聞いてみたいことがあるんだけど。ああもちろん、この緑谷争奪戦にも絡む話でね?」

 

「うん? 何?」

 

 そう返してきたのは取陰だけだったけど、麗日も塩崎も、あと流れでだろうがマンダレイも聞く姿勢に入ってくれているようなので、言う。

 

「あのさー……ハーレムってどう思う?」

 

「「「…………は?」」」

 

 

 ―――話した。

 

 

 結果、全体的に引かれた。ドン引かれた。

 

 

 麗日とマンダレイは顔を赤くして、でも引いてる。

 塩崎は、理解できないものを見るような目をしてる。

 取陰は……なんか爆笑してる。

 

「あっはっはっはっは! マジで、マジで!? いやー予想外どころじゃないってあはははは、あーやばお腹痛い。うわーマジか……え? 栄陽院そんな性癖っていうか趣味あったわけ!?」

 

 引いてはいないな。なんかもう予想外というか明後日方向過ぎて妙にツボってるだけか。

 

「いやあ、苦し……あー、すごいなコレ。ハーレム願望かぁ……現実にいるんだそんなの。しかも女子にって……」

 

「と、永久ちゃんそれ……本気で言っとんの?」

 

「え、栄陽院さん、そ、それはいくらなんでも流石に……ふ、不誠実などというものでは……」

 

「さ、最近の女子高生って、え? こんな……え?」

 

 まあ、ある意味『女の子らしくない話』なのは、それは否定できないし……実際この価値観、私の前世:男の部分の価値観が多大に影響してる結果だろうからなあ。

 異端視されるのは何も文句なんて言えないよな。

 

 ……でも、本気なんだよな。

 

「だってさあ……誰か1人選ばれて他全員哀しい結末になるより、全員まとめて食べられちゃった方がよくない? 実際に全員に好かれてるんだから……緑谷がそれだけいい男だってことでしょ? なんでみんなで仲良く幸せになるって選択肢がないのかなー、つくづく、この国はさあ」

 

「た、食べっ……」

 

「表現が生々しいです……そ、それに! あ、あなたはそれでいいんですか栄陽院さん! その……法律や倫理的な問題もそうですが、伴侶となる男性にそんな……自分以外の女性と関係を持たれるようなことがあって、それが問題だとは、悲しいとは思わないのですか!? そ、そういうのは……か、姦通、ないし浮気と称されるものであって、古来より忌むべきことと……」

 

「えー? むしろ古代なんて今よりそういう規制緩い時代の方が多いじゃん。権力者、ないし優れた能力を持つ男が女を大勢侍らせてた例なんていくらでもあるじゃない。日本の大奥とかもそうだし……優秀なオスは群れを率いるべきだよ、むしろ。私に言わせれば」

 

「た、例えが極端っていうか……最後のはほぼ野生動物のものの考え方よね……?」

 

「そりゃまあ、誰かもわからない女をとっかえひっかえのべつまくなし、とかならやだけどさ……私もきちんと信頼、ないし納得できる相手ならいーかなって思う。麗日とかなら全然」

 

「ええぇえ!?」

 

「そういう風に私も納得できて信頼できる女なら、何人いようが気にならないどころか、むしろ誇る気にすらなる。私の男は、これだけ多くのいい女に好かれてるんだぞー! って!」

 

「な、な……そ、そんな……」

 

「あっはははは……あーもうダメお腹痛い……いやあ、すごいね栄陽院あんた、エロゲーから出て来たみたいに男に都合のいい性格!」

 

「その分男の理想は高いけどね? まー、中学の時に女子トークでこの性癖カミングアウトした時は、そりゃもうドン引かれたなあ……いいと思うんだけどなあ、ハーレム。あるいは、一夫多妻。ローテーション決めて代わりばんこで妊娠・出産してさ、子供も皆で協力して育ててさ。核家族化で育児の負担が家庭内で大きくなってるのが昨今問題になってるんだから、皆で協力し合える環境が元からできてる形になるんだと思えば心置きなく……」

 

「もうやめ……もーやめよ、永久ちゃん! 聞いてて生々しすぎ……っていうか予想以上に一夫多妻のメリット提示されたっちゅーか、意外に将来のこときちんと考えてて面食らった……ハーレムのことご近所付き合いとか地域コミュニティの延長みたいに考えとるコレ……」

 

「き、きちんと考えているというのでしょうかこれは……い、いずれにせよ、話の内容が衝撃的過ぎて、さっきまでの動揺とかが根こそぎ吹き飛びました……」

 

「さ、最近の女子高生って……す、進んでるのね……いや、進んでるともちょっと違……ん?」

 

 と、その時、マンダレイが何かに気づいたような素振りをして……男湯との仕切りの方に視線をやった。少しの間、耳を済ませるようにしたかと思うと、

 

「……雑談はここまでみたいね。男湯……緑谷君が入ってきたわ」

 

「「「!」」」

 

 そう言うと同時に、仕切りの向こうで扉が開く音がして、ひたひたと浴室の床を歩く音も聞こえてきた。かけ湯をしているのか、バシャバシャという音も。

 お湯のじんわりとした温かさが心地いいのか、『ふぅ』なんて息をつくのも聞こえた。ああ、確かに緑谷だな。

 

 そもそも宍田は、緑谷や虎、その他全員が入ってから最後に入るって言ってたからな。自分が入ると浴室が毛だらけになるから、最後に入って洗ってから寝るって。律儀。

 ピクシーボブがこっちに来ていないってことは、虎さんはまだ晩酌続けてるんだろう。つまり、男湯は緑谷の貸し切り状態と。

 

 今度は、わしゃわしゃわしゃ……ごしごしごし……なんて、タオルを泡立てたり、体を洗ってるような音が聞こえて来たな。『ふぅ……』『あ~……』なんていう、力の抜ける声も。

 

 ……っていうか、なんか流れでこうなってるけど、女湯の面々、全員黙って男湯の緑谷に聞き耳立てるみたいにして……ははは、コレ普通に考えて男女逆なんじゃ……

 

 

 

 ―――つるん、ごん!

 

 

 

「「「…………え?」」」

 

 不意に聞こえた、その不穏な音に、皆の声が揃った。

 今、何か鈍い音が……水にぬれた床とかで滑るような音も……おい、これもしかして。

 

「……滑って頭打った?」

 

「っ……デク君!?」

 

 その瞬間、脳裏に倒れている緑谷の姿がよぎって……私と麗日は反射的に動いていた。麗日は自分を無重力にし、私は身体能力にものを言わせて、風呂場の仕切りを飛び越える。

 

「ちょ、ちょっ……お、お2人共!? そちらは殿方の浴場で……」

 

「今いるのは緑谷だけだから大丈夫だよ。私も行ってくる!」

 

 体を何十個にも分割して飛びあがり、取陰も追って来た。

 

「ちょっとあなた達!? い、いくら何でも……っていうか緑谷君だけだからって大丈夫ではないでしょ!? ああもう、待ちなさい!」

 

 そしてマンダレイは、着替えるか、タオル巻くかしてから追ってくるつもりなのか、脱衣場の方へ走っていった。塩崎は……テンパりすぎて動けていない。

 私が見えたのはそこまでで、そのまま私は男湯の方に飛び降り……湯気の中で倒れている緑谷を発見。

 

 麗日と一緒に駆け寄って状態を調べてみて……頭、体……うん、ケガなし。

 ちょっとコブになってるから、やっぱり頭打ってるようだけど、大したことなさそうだ。

 

「ほ、ほんと!? よかったぁ……」

 

「全くもう、人騒がせだなあ……」

 

 麗日と取陰も、呆れつつもホッと安心したようだ。

 

 その2人も含めて見ていて、呆れたようにしているマンダレイ。彼女はバスタオルを巻いてから、脱衣場側から男湯に入ってきて合流した。一緒に緑谷の容体も見てもらった。

 

 よかったよかった、って一安心な空気になったところで、全員ほぼ同時に、はっとしたように今の状況を改めて認識して……冒頭のシーンに至る。

 

 

 

 年頃の女子が3人そろって全裸で、ちょっと、いや大分年上ではあるものの、まだまだすごく魅力的な体の大人の女性が1人、バスタオル巻いてるけどやはり裸で、

 

 その中心には、眠るように気を失っている、やはり裸の少年が……コレ、傍から見たら……

 

「事案」

 

「ち、ちゃうよ!? 人命救助、不可抗力、ともかくその、えーと……ち、ちゃうんや!」

 

「落ち着きなって麗日……ははは、我ながら何も考えずにすっ飛んできちゃったからなあ……あーでもさ、緑谷このままにしとくのはまずいよね?」

 

「そりゃ、無事だったからってこのまま放置しとくのはアウトだろ。しかし体、泡だらけだな……洗ってる途中だったのか? とりあえず、お湯で流して着替えさせて……体拭いて服着せて……」

 

「で、デク君を……寝てるデク君をそんなに……洗って拭いて、服着せてって……え、ええんやろか……そんな……」

 

 繰り返すが、緑谷はまるで眠るような穏やかな顔で気を失っている。

 いかにも人畜無害そうな、どちらかと言えば地味だが、かわいらしいとも言える顔だ。そんな安らかな寝顔の、しかし裸の緑谷を色々といじくるのを想像して、麗日は顔を真っ赤にしていた。

 

 けどほら、このまま放置してたら確実に緑谷風邪ひくし……やるしかないでしょ。

 

 

 

 以下、鮮明に描写すると色々アレなシーンが多いので、会話文と効果音のみでお送りします。悪しからず。

 

 

 

「取陰、そっち持って……はい麗日、お湯かけて流して……」

 

「はいよー」

 

「う、うん……で、デク君、かけるね……熱かったら言うてね」

 

「いや、それでホントに何か言ってきたら大変だと思うんだけど……起きてるってことじゃん」

 

――バシャバシャ

 

「……んんっ……!」

 

「おー、緑谷気持ちよさそうにしてる。あったかいお湯かけたからかな?」

 

「……け、けっこうクるな……じゅるり」

 

「取陰さん、ちょっと危ないわよ今雰囲気」

 

 

 

「えーっと、緑谷のコレ、パンツとシャツと……ああ、こっちが使用済みの奴かな? くしゃくしゃだしほんのりあったかいし。するとこっちが着替え用の新しい方……」

 

「…………」

 

「……! お~い、麗日~」

 

「ふぇ!? な、何、取陰さん!? き、ききき着替え見つかった、っていうか揃ったん?」

 

「着替えはいいんだけどさあ、緑谷の使用済みのシャツとパンツ、何をそんなに熱心に見てるのかな~、と思ってさ? 持って帰っちゃダメだよ?」

 

「せ、せぇへんよそんなこと! それより早く! あ、永久ちゃん緑谷君抱えてきて……っ!?」

 

「? どうしたの麗日……ぁ……!?」

 

「着替え見つかったか、麗日、取陰?」

 

「あーうん、着替えは大丈夫だけど……その……それ……抱えてるその、緑谷が……」

 

「で、デク君のデク君が……!」

 

「あー、うん……あんまり見てやるな。男は寝起きとかどうしてもこうなっちゃうらしいし……生理現象だ、仕方ないだろ」

 

 

 

「さて、じゃあ体をふいて服を着せるわけだが……この状態(・・・・)だとパンツとか履かせづらいな……」

 

「……1回『処理』すると小さくなるんだよね?」

 

「しょ、処理!? 処理って……」

 

「あなた達それ以上は流石に見過ごせないわよ!? きちんとした救助行為だから見逃してるけど……不埒な目的でやるようなら……ああもう、体をふくのは私がやるわ!」

 

「え、何でマンダレイが? ……ひょっとしてマンダレイも緑谷のこと……」

 

「おバカなこと言ってるんじゃないの! 私は洸汰が小さい頃、お風呂入れるの手伝ったりしてたから、体拭いてあげるのとかそういうの比較的慣れてるのよ! 服着せるのもね」

 

「あ、なるほど……でも洸汰君と緑谷じゃ、結構違うでしょ、サイズとか」

 

「どこの?」

 

「ど、どこのってそりゃ……」

 

「どこのじゃなくて全体的にそうでしょうが! 3人は体を動かしたりして私を手伝いなさい! 言動とかがもう危なっかしくて任せられないわ……不純異性交遊……」

 

「裸の男子を色々いじくりまわしてる時点でそんな領域もうぶっちぎってる気もするけどな」

 

「いらんこと言わない! もう、ここからさっさと済ませちゃいましょう……拭くわよ」

 

「そ、そこから拭くんですか?」

 

「気を付けてくださいねーマンダレイ。私の中学時代の友達の話だと、そうなってる時の男の子ってすごく敏感で、優しく扱わないと『暴発』しちゃうこともあるらしいんで」

 

「ぼ、ぼぼぼ『暴発』!?」

 

「どんな知識持ってる友達がいるんだよ取陰……いやまあ、私もそういう話は聞いたことあるけど(っていうか前世知識でまさに知ってるけど)」

 

「だ・か・ら! いらないこと言わないのもう、最近の高校生の風紀ってどうなってるのかしら……あなた達に心配されるまでもないわ、デリケートな部分の扱いくらい、ちっちゃい頃の洸汰のでちゃんとわかって……(ごにょごにょ)……水気を残さないようにきちんと隅から隅まで……っ!」

 

 

 

 

 

「「「……あ……」」」

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

Side.緑谷出久

 

 ……なんか、よっぽど疲れてたのかな僕……お風呂に入って、途中からの意識がないや……気が付いたら部屋に戻ってきて、布団で寝てた。

 『掛け布団もかけずに寝ると風邪をひきますぞ!』って宍田君に起こされちゃったよ……ドジだなあ僕。

 

 でも、明日に疲れを残しておくことはできないから、きっちり寝て休んでおかないとね!

 

 ……いやでも、なんか、疲れてるっていうか、確かにちょっとだるい気はするけど……その割に、何か妙にスッキリしてるような感覚もあるんだよなあ……何だろうコレ? 不思議な感覚だ。

 

 まあいいや、おやすみなさい!

 

 

 

「む? ピクシーボブよ、今日の洗濯当番はうぬではなかったか?」

 

「そうなんだけど、なんかマンダレイが代わってくれたの。なんか、不注意で洗濯物増やしちゃったから、って」

 

「ふむ……ジュースでもこぼしたのか……?」

 

 

 

「だ、大丈夫かな……宍田、獣型だから鼻が利くんだけど……マンダレイ?」

 

「消臭剤徹底的にばらまいたし、置き型の奴も置いたから大丈夫……だと思うけど……。汚れちゃったタオルも、いい匂いの洗剤と柔軟剤たっぷり投入して洗ったから……多分……」

 

「あ、アレって、あんな色してて……あんな匂いするんやね……知らんかった……」

 

「おお、神よお許しください……彼女達はただ友を助けようとしただけなのです……! しかし、あんなことになった彼に何も知らせずにただ黙ってゆりかごに戻すような……ああっ!」

 

「……まあ、もしバレたら素直に謝ろう。緑谷なら許してくれるよ……羞恥心で死にたくなるかもだけど(実際前にも似たようなことあったしな。マッサージの時だったか)」

 

 

 

(な、何が起こったのかあちき、『サーチ』で知っちゃったんだけど……言わぬが花、知らぬが仏、って諺あるよね…………ごめん緑谷君、隠蔽します。何も知らずに眠って……)

 

 

 

 …………zzz…………

 

 

 

 




反省はしている。
後悔はしていない。

なお、取陰さんヒロイン枠の1つに巻き込んだ。ないし選んだ理由の一つがコレです。
こんな感じのオープンなトークや弄り回し役は、多分女子では彼女くらいにしかできなさそう。テンションが近い芦戸や葉隠は恋バナ方面に行っちゃうだろうし、耳郎は割と純情だし。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。