TSから始まるヒロインアカデミア   作:破戒僧

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評価バーが真っ赤になりました……嬉しい……!
呼んで下さる皆さん、乾燥下さる皆さん、評価してくれる皆さんに感謝でいっぱいです。

今回も楽しんでもらえればうれしいです。
主人公の天然と悪ノリが目立つ第8話、どうぞ。



第8話 TS少女と個性実演

 さて、皆の所に戻ってきて……講評の時間だ。

 

 結論から言うと、私と八百万がフロアに仕掛けたトラップはまだ他にもあった。

 

 その1つが、窓に仕込んだネットテープだ。普通のガラス窓に見えるそれを、2枚重ねのガラスの間にテープのネットが挟まれている特殊なガラスにすり替えておいた。

 というか、窓ごと八百万に作ってもらって付け替えたのだ。それも、フロアの窓全部。

 今あるものに細工するよりこっちの方が楽だし簡単だし、簡単な構造の物なら八百万は素早く作れるって話だったからな。

 

 これで、外から入ってくるにせよ中から外に飛び出るにせよ、簡単には窓は割れないし、無理に割って飛び出せばその瞬間身動きできなくなるようになっていた。

 

 その他にも、最終手段として、仕掛け一つで張りぼての天井が落ちる吊り天井トラップとか、その向こう側からさらに天井全体……というかフロア全体を覆う確保テープネットが落ちてくるトラップとか、階段を上ろうとすると階段に沿って張って隠してあったテープネットが跳ね上がるトラップとか、上からネットが落ちてくるトラップとか色々用意してたんだけど、出番なかったな。

 

「そんなに用意してたの……」

 

「もはや要塞だな、あの場を切り抜けてもそれらを突破しなければいけなかったのか」

 

「すごかったよな。八百万がどんどんテープとかトラップ作ってさ、それをすごい速さで動いて栄陽院が部屋中に仕掛けていってったもんな。スタミナ無限だから常に全速力で」

 

 講評の最中、私達がやっていたことを説明すると、蛙吹と常闇は唖然とし、それに乗っかる形で切島が率直な感想を述べていた。

 

「うむ、相手の先を読み、またあらゆる状況を想定したトラップの数々、見ていて見事だったぞお2人さん。少々力技だった印象はあるがな!」

 

 と、オールマイト先生の講評。

 

 その他こまごまとした反省点を話し合った後、ふいに蛙吹が『ちょっと』と挙手した。

 

「1つ気になっていることがあるの。トラップの数々は、恐らく八百万ちゃんの『個性』で作ったものだと思うけれど……どうしてそこまで『個性』が続いたの? あれだけの規模の罠を用意するには、相当な量の脂質が必要なんじゃないかしら?」

 

「それは俺も気になっていた。今の八百万は、先日の体力テストの時よりも疲労が少ないように見える……体力テストの時は体を動かしたからだとしても、今回の『創造』は規模が2つも3つも違うはずだ、どうしてこれほどまでに、力押しと呼べるほどの発動が可能だったのだ?」

 

 と、ヒーローチームだった2人が聞く。

 確かに、フロア1つ分の窓全部、天井、さらに階段、張りぼての柱まで用意するとなれば、八百万の個性の代償になる脂質の消費量はバカみたいに多かっただろう。実際、そこまでの規模を用意するのは無理だって言ってたしな、自分で。

 

 けどそれは……と、私が説明しようとした途端、モニターで見ていたクラスメート達の大半が顔を赤くした。

 『あー』とか『そういえば』とか『あれかー……』なんて声も聞こえる。

 

 上鳴と峰田だけは、なぜかいい笑顔でサムズアップをしてきていた。

 よくわからないが、こちらもサムズアップを返しておく。

 

 その光景を見て、きょとんとする蛙吹と常闇の2人。

 少しして蛙吹が何か思いついたように、

 

「……ひょっとして、また栄陽院ちゃんが何かやらかしたのかしら」

 

「またって何さまたって。失礼な……」

 

「いえ、でも実際間違っておりませんわよ……その、私もアレは少し恥ずかしかったですし」

 

 隣にいた八百万のまさかの裏切り!

 ……いや、ごめんなさい。嘘つきました。

 私もその……ちょっと恥ずかしいことしたなあ、っていう意識はあります。

 

「あーそうだね、私も実の所気になってはいたんだ。よければ説明してもらえないかな、八百万少女に栄陽院少女。君たちは準備時間中…………

 

 

 ……なぜかしばらくの間、抱き合っていたのはどうしてだい? しかも、栄陽院少女はコスチュームの上着を脱いで」

 

 

「……?」

 

「……ッ!?」

 

 きょとんとする蛙吹。『わけがわからないよ』とか考えてそう。

 

 一方……常闇はやっぱり男の子だからかな、ちょっと戸惑ってた。頭、カラスっぽいけど。

 

 そして、恐らくモニター越しに見ていたその光景を思いだしているんだろう……顔が赤くなったり、挙動不審気味になっている男子、数多。女子の一部もそんな感じだな。

 上鳴と峰田は安定のサムズアップ。ああ、そういう意味だったのねアレ。いいもん見せてくれてありがとよ的な。

 

 もちろん、アレは別に視聴者サービス的な意味でやったわけではない。ちゃんと意味がある。

 

「あれはですね……私から八百万にエネルギーを譲渡してたんですよ」

 

「「「……え?」」」

 

 言ったとたん、皆の赤面や挙動不審が引っ込んで、代わりに驚きやきょとんとした表情がその場を埋め尽くした。

 

「エネルギーを……譲渡?」

 

「……栄陽院ちゃんの言う『エネルギー』ってつまり、この間聞いた、食べ物を消化・吸収して変換する『エネルギー』のことよね? 栄陽院ちゃんが攻撃や防御の時に使う、スタミナや治癒力の代わりにもなる汎用性抜群の」

 

「そうだよ。そしてそれは……他人に譲渡することもできるんだ」

 

 こんな風にね、と言いながら、私はちょうど近くにいた尾白の手を握る。

 

 突然のことに『え!?』と驚く尾白は……さっきの戦いで轟に氷漬けにされてしまって、あちこち冷えてダメージが残っていた。直接凍らされた足の裏とかに、特に。

 それが、徐々に治っていき……顔色もよくなっていく。

 

 びっくりして照れてる様子だった尾白だが、すぐに別な理由で驚きなおしていた。細かい傷がいつの間にか消え、あるいはかさぶたになり、それもあっという間に剥がれる。白かった顔色や肌の色には血色が戻っていくのを見て、唖然としていた。

 

「え? う、うわ……何か、確かにこう……体があったかくなって、元気がでてくる、ような……これが、『エネルギー』?」

 

「そ。体調も体力も、あらかた戻ったろ? こんな風に、蓄えたエネルギーを他人に分け与えて、体力を回復させたりすることもできるんだ、私の個性は。方法はこんな風に、手で触れるとか接触する感じの……まあ、他にもあるけど」

 

「マジでか……ってことは栄陽院、回復までできるのか」

 

「恐ろしいのはその汎用性、そして即効性ですわ。どれだけ効率よくエネルギーを補給できる栄養ドリンクでも、消化器官で消化・吸収されるまでには数分から十数分は必要です。しかし、一旦栄陽院さんの体内で変換された『エネルギー』は、譲渡した端から即座に吸収されて体力を回復させますから、その後すぐ動いたり、個性を発動させることもできるんです」

 

「あ、だからヤオモモ、エネルギー貰った端からどんどん『創造』でトラップとか作れたんだ!」

 

「……なるほど、汎用性が無類ってのはマジらしいな。八百万の個性発動に必要な脂質の代わりにもなるのか、お前の『エネルギー』は」

 

「点滴か何かみてえだな」

 

 芦戸と轟が納得したような顔になっていた。あと砂藤、わかりやすい例をどうも。

 

「おまけにその理屈だと、ひょっとして……ねえ栄陽院さん。栄陽院さんの個性を使えば、例えば……相手の体力を消費させずに回復させたりとかできたりもするんじゃない?」

 

「お、正解。いいところに気が付いたな……ってか、ああ、緑谷戻ってきたんだ?」

 

 質問が飛んできた方を見ると、いつの間にか戻ってきた緑谷がそこに立っていた。

 

 さっきの試合の後、救急用のハンソーロボに運ばれて行ってたけど……リカバリーガールの治癒、もう終わったんだな。よかった。

 

 ……って、アレ? 腕吊ってるけど? 治してもらえなかったん?

 

「アレ、デク君……腕、怪我、治してもらえなかったん?」

 

 ちょうど今気付き、同じことを疑問に思ったらしいお茶子が聞いていた。

 

「ああ、いや、コレは僕の体力のアレで……そうだった、栄陽院さん」

 

「うん? ああ……そうだよ、私の『エネルギー』の譲渡は、治癒に必要なエネルギーというか体力? カロリー? そのものを渡すのと同じだから、相手の体力は減らない。リカバリーガールの治癒とは逆になるのかな」

 

 雄英高校の養護教諭、妙齢ヒロイン・リカバリーガール(若干のネーミング詐欺)の『個性』は、治癒能力の超強化だ。

 その名の通り、怪我人自身の治癒力を活性化させてまたたく間に傷を治してしまうものだけど……治癒には怪我人自身の体力を使う。だから、治すと同時にどっと疲れる……らしい。治癒してもらったことないからわからん。

 

 だから怪我人自身の体力に余裕がなければ使えないし、最悪、治しすぎて体力が足りなくなって『逆に死ぬ』こともあるとか。

 

 逆に私の『エネルギー譲渡』による治癒や体力補充は、私がそのまま体力を補充してやるから相手の体力は使わない。その代り、あくまで治癒力は自分が持ってるものを多少後押しする程度だから……疲労はともかく、ケガの治癒に関しては劇的には進まない。ちょっとずつ進む。

 

「……って、ああ、緑谷もしかして、体力足りないから一度に治癒できなかったとか?」

 

「あ、うん……昨日の体力テストの時にも怪我しちゃったから、その時にも治癒してて……その上訓練終わりで疲労困憊だから、体力足りないって。それでも、予想してたよりずっと体力残ってたみたいだから、とりあえず応急処置して歩くくらいはできるようにしてもらったんだ。後は、日をまたいで少しずつ治していくしかないって」

 

「ほー……」

 

 思ったよりずっと体力は残ってた、ねえ。

 ふふふ……そりゃよかった。早速昨日のカフェオレが役に立ったみたいだな、緑谷。

 

 ふひひ……やばい、顔が……にやけそう。耐えろ、私の表情筋…………あ、そうだ。

 

「そうだ、それならさ……緑谷、ちょっとこっちおいでよ」

 

「え? うん……」

 

 すたすたと歩いてくる緑谷。

 その目の前で私は、バサッと学ランを脱いで、ちょっと持ってて、と尾白に預ける。

 

「え? ちょ……栄陽院さん? 何するん……」

 

 ――ぽふ

 

「「「!!?」」」

 

「……~~っ!?」

 

 そのまま私は、緑谷の小さな体を(私と比べて、だが)、抱き寄せる。

 身長差があるので……彼の顔は私の胸に押し付けられて押し付けられるというか、埋もれるような形になっている。

 

「む、むぐ……!? ちょ、ちょ……ちょちょちょ!? え、栄陽院さん!? む、胸、当たっ……ていうか、息が……」

 

 思わず『あててんのよ』って返したくなったが、我慢我慢。

 

「あーあー、暴れんな緑谷。くすぐったいから、じっとしてなって」

 

 顔を真っ赤にしてじたばたと暴れる――私にケガさせないように器用に動かしてるあたり彼の優しさを感じる。かわいーなぁ――緑谷だが、よく見てればわかるけど……どんどんその顔色はよくなってきている。さっきの尾白と同じように、体に血色が戻り、足りなくなっていた体力も補充されて行っているはずだ。顔色は……赤くてわかりにくいけど、ホントにいいぞ?

 

 あと、もぞもぞ動くから、髪の感触とかも当たって……くすぐったいのもホントだ。

 ……ちょっと汗臭いな。まあ、運動した直後だから当然だけど。でも……嫌じゃないかも。

 

 ……待てよ? やば……ということは私も……

 

「あーごめん緑谷、ひょっとしたら私、運動した直後だから汗臭いかもしれないけど、我慢して」

 

(全然そんなの気にならないしむしろそんなこと言われたら意識しちゃうんですけど! ていうかむしろ、その、昨日と同じでいい匂いがッ……!)

 

 緑谷がやがて抵抗をやめてぴくぴくし始め、クラス全員が唖然として見守る中……そのままたっぷり30秒ほど抱きしめてから、私は彼を解放した。

 ……ふぅ、堪能した。

 

 顔が真っ赤になってふらふらになってる緑谷を解放する。

 

「は、はうぅ……」

 

「で、デク君大丈夫!? 息してる!? っていうか、顔赤っ!」

 

「いや、あんなことされたらそりゃ赤くなるだろ……」

 

「緑谷ァ……羨ましい……ッ!」

 

「気持ちはわかるけど怖ェよ峰田……止めろその血涙」

 

「栄陽院君! い、今のはいくらなんでもはしたないというものだぞ! 年頃の女子なのだからもっと慎みというものを持ちたまえ! 大体何だっていきなりこのような……」

 

「いや、緑谷が治癒するのに体力足りないって言うから、実演もかねてエネルギー分けてやろうかと。私の『譲渡』さ、密着してる面積が大きいほど、一度にたくさんエネルギー渡せるんだよ。尾白にやったみたいに手つなぐ程度でもよかったんだけど、それだと時間かかるよなーと思って」

 

「……あ、ホントだ。なんか……すごい、力が戻ってる……っていうか、みなぎってる、かも」

 

 と、どうにか正常な思考能力を取り戻した緑谷が、自分の体の変化に驚いていた。

 

「授業終わったらもっかい保健室行きなよ。多分そんだけあれば一気に治せるから」

 

「あ、うん、ありがとう栄陽院さん……でも、出来ればもうちょっと別な方法がよかったかも……」

 

 しかし思いだしてしまったのか、また顔が赤くなる緑谷。

 

「もうちょっと別な方法ねえ……あるにはあるけど、あっちは流石に私もヤバいなって思うし……」

 

「「「ヤバいってこれ以上!?」」」

 

 驚愕するクラスメートたち。

 一部を除いて(一部っていうか轟)騒然となる中、妙に元気になる奴がいた。

 

「あーなんか疲れたなー! なんか出番まだなのに疲れちまったなー、このままじゃ模擬戦で十分に結果を発揮出せないかもしれないなーあーどうしたらいいんだー!」

 

「くっ、お、オイラも……畜生、今朝から何も食べてなくて、体力がもう残ってねえぜ畜生……! 誰か、誰か助けてくれ……!」

 

 明後日の方向を向いてうそぶく上鳴と、うずくまって苦しそうにしながらそんなことを言う峰田。峰田は無駄に迫真の演技である。

 そしてそんな2人に注がれる女子たちの白い目。

 

「あのバカ共……」

 

「魂胆見え見えだね」

 

「サイテー」

 

「み、峰田君、そんなにお腹すいてるなら、リカバリーガールに貰ったグミあるけど食べる?」

 

要らねえよボケ緑谷邪魔すんな死ね

 

「小声ですんごい罵声ぶつけられた!?」

 

「ああいうのが出るから、あんまり軽率にああいうことしちゃダメよ、栄陽院ちゃん」

 

「あーまあいいよ。よし、そんなにご希望ならやってやる、そこの2人、ちょっと来な」

 

「「あざーっす!」」

 

 元気ないんじゃなかったのか。

 思わずそう突っ込みたくなるほど元気いっぱいな返事と共にこっちに来る2人。つか峰田なんてスキップしてやがる。あるじゃん体力。

 

 まあ、いいけどさー、そんなことはわかり切ってたし。

 

 慌てた様子の耳郎が私を止めてくれる。

 

「ちょ、ちょっと栄陽院ってば、いいってあんたそれ……騙されてるとは思わないけどさ、あんまり甘やかすとあの2人調子乗るからホラ……っていうか、あんたもうちょっと自分を大事に……」

 

「大丈夫大丈夫、まあ見てなって」

 

 女子たちの、っていうかクラスメートたちの心配する視線を受けながら、私は歩いてきた2人の前に立つ。なお、学ランは脱いだまま。

 

「じゃ、まず上鳴ね」

 

「はいッ! お願いしゃス!」

 

 元気よくてよろしい。鼻の下びろんびろんに伸びてるけど。

 

 直立不動で立つ上鳴に言って、肩幅に足を開かせる。

 私は左手でその胸倉を(ガシッ!)つかみ、半身に構えて、右手を軽く開いて振りかぶるように後ろに引いて……と、この辺りで何かおかしいことに気づいた上鳴が『ん?』という表情になった。

 

 しかし、もう遅い。

 

「あ、あの……栄陽院サン? ちょっとその、何なさるおつもりで? 何かさっきと雰囲気違……」

 

「行くぞっ!」

 

「行くって何を!? 待て、一旦待ってとまって! コレなんか毎年年末のアレみたいな――」

 

「闘魂注入!」

 

 ――バシィン!!

 

 炸裂するビンタ。

 吹っ飛んで倒れる上鳴。

 

 クラスメート一同、沈黙。

 

「……え? 何今の……え?」

 

「いやホラ、怪我人の緑谷にコレやるわけにはいかないじゃん?」

 

「これ回復の手段なの!? 余計ダメージ受けとるやんどう考えても!」

 

「上鳴ィィィ! 大丈夫か!?」

 

 心配して駆け寄る瀬呂の言葉に、むくりと起き上がる上鳴。あ、涙目だ。

 ひっぱたかれた個所をさすりながら……

 

「痛い」

 

「だろうな」

 

「……けど回復した」

 

「「「マジで!?」」」

 

「信じられないけど、ていうかむしろ認めたくないけど……マジ。力がみなぎってる……今なら200mくらい全力疾走しても全然疲れないような気がする…………痛いけど」

 

 みんな一様に『信じられん』みたいな顔になって困惑してるが……さて。

 

「次はお前だ」

 

「お、オイラやっぱりその、アレー急にお腹いっぱいになってきたぞ!? コレはもう何も回復とかなしで行けるからごめんなさい許してアレは嫌ですオイラが悪かったからどうか命だけは――」

 

「あー安心しろ、お前には違う奴やるから。とりあえず、顔を上に向けとけ」

 

「お助け…………え?」

 

 私は今度は、ベルトのポーチの中から、ちっちゃい試験管みたいなビンを1つ取り出した。中には、白い液体が入っている。それを見て、葉隠が尋ねてきた。

 

「永久ちゃん、何それ?」

 

「ただの牛乳だよ、ほら峰田、上向いて顔向けて。私とあんた身長差ひどいんだから」

 

「へ? 顔?」

 

 きょとんとする峰田の理解を待たず、私はそのビンの蓋を開け、中身の牛乳を口に含む。そして、峰田にむかって人差し指をちょいちょい、と動かし、『来い』とジェスチャーをした。

 

 それを見ていた常闇がはっとしたように、

 

「……まさか、口移し?」

 

「「「!?」」」

 

 再び驚きに支配されるクラスメートたち。

 そしてそれを聞いた瞬間、峰田は一変してスケベ心が前面に押し出された獣の目になり、背伸びまでして『ん~!』とこっちに目いっぱい唇を突き出す姿勢に入った。

 欲望を隠す気ないな……いっそすがすがしい。

 

 今言った通り、私と峰田は身長差が酷い。身長190㎝オーバーの私に対して、峰田は100㎝ちょっとくらいだから、倍くらい違う。

 なので、片膝をついて背丈を可能な限り合わせてやる。

 

 皆の視線が集中する中、私は峰田(目が血走っている。唇タコのごとし)の顔を、両側からそっと手で包むようにして持ち………………なんてことはせずに、ぐわし、と乱暴に髪をつかむ。

 

 そして、

 

 

 ―――ブフゥ――ッ!!

 

 

 口に含んでいた牛乳を、霧吹きのごとく峰田の顔面にぶっかけた。

 

「「「………………」」」

 

 沈黙再び。

 牛乳顔面噴射を食らった峰田は、ぽたぽたと顔から牛乳のしずくをたらしながら、何とも言えないような表情で静かに立っていた。

 

「…………これはひどい」

 

「えーと……栄陽院さん、これは?」

 

「な? コレはホラ……痛くはないけど、見栄え悪いだろ?」

 

「見栄え悪いって言うか……ほとんどいじめの現場じゃねえか」

 

「教育現場では絶対に見せちゃいけねえ光景だな……」

 

「み、峰田、その……大丈夫か?」

 

 恐る恐る、と言った感じで上鳴が尋ねると、峰田は表情を変えずに、ゆっくりと上鳴たちクラスメートの方に振り返り…………

 

 

 …………サムズアップをした。

 

 

「アリです」

 

 

「「「マジか峰田!?」」」

 

 峰田という生き物のストライクゾーンの広さと精神の強靭さ……というか、単純にその寛容な変態性にドン引きしている級友達の図。

 やっといて何だが、私もちょっとたじろいだ。マジかこいつ……やるな。侮れん。

 

「HEY有精卵たちよ! 何か私も思わずって感じで見入っちゃってたけど、栄陽院少女の個性はわかったからそろそろ授業再開するぞー! 時間は有限、早くしないと時間内に終わらない!」

 

 と、オールマイト先生の声が聞こえたところで、なんかグダグダと続いていた話は終わりを告げました。

 よし、ここからは私もまた見学側だ、皆の戦いから色々と学ばせてもらおう。

 

 次出るのは……あ、峰田じゃん。

 

 

 

 

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