TSから始まるヒロインアカデミア   作:破戒僧

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第84話 TS少女と死穢八斉会

 

 オーバーホールが最後に放った……何ていうんだろうな、攻撃だか破壊だか……

 ともかくそれのせいで通路全体がぶっ壊れ、そしてすぐに修復された。

 

 それに巻き込まされて圧殺されたりすることは避けたものの……分断されたな。

 

 緑谷はとっさに跳んで、マンダレイ達を追いかけていった。

 オーバーホールは私と同じ空間に残すつもりだったのかもだが、閉じようとする壁をぶち抜いて追いかけていったからな。止めきれなかっただろう。

 

 その際、一瞬のアイコンタクトで『ここは任せて行け』って伝えておいた。通じたといいけど。

 

 通形先輩はオーバーホールと一緒の空間にいたな……自分で直接、確実にトドメを指すためか? 私達の中じゃ最も強くて危険だと判断されたか。

 まあ私達も弱いつもりはないし、正直通形先輩の実力はまだ測りかねてたけど……逆に、パッと見で測れないくらいには動きも『個性』も見事だった。……多分大丈夫だろう。

 

 で、私の相手はこいつなんだが……

 

「はっはぁ――! おいおいお嬢ちゃん、コイツはお前さんの『個性』かい? なんとまあ……運がいいな俺は! 相性ぴったしじゃねえか俺達2人はよ!」

 

「うっさい。体だけじゃなくて声もでっかくなってないかあんた……てかサイズまで変わるのかよ」

 

「おう、お前さんからたんまり吸わせてもらえたおかげでな!」

 

 言いながら、私の目の前に巨大な拳が迫る。

 視界を埋め尽くすほどに大きくなったそれは、回避した私の後ろにあった壁を粉々に砕いて隣の部屋と一続きにしてしまった。

 そのまま横に凪ぎ払うように振るわれる腕。私はその上を、転がって回避する。

 

 飛んででも、弾いてでもなく、転がって。

 そのくらいに……錯覚でも何でもなく、本当にこいつの腕が、というか体が大きくなっている。

 

 最初出会った時すでに十分大柄だったけど……それでも2mと少しくらいの体格だったはず。

 それが今は、優に3mを超えているであろう背丈になり、腕の太さも拳の大きさも明らかに最初よりサイズアップしている。それに比例するように、パワーも上がっていると来た。

 

 原因はわかっている。こいつが私に『接触』するたびに――さらに言えばその瞬間に息を吸い込んでいたようにも見えた。関係あるかわからんけど――私の体から、力が吸い取られる感触があった。拳を受け止めたり、逆に私の攻撃をガードさせた時とかに。

 

 人からエネルギーを吸収して巨大化する『個性』か? 単体で使えるようなものじゃないが、上手く決まれば相手の弱体化と自分の強化を同時に行える『個性』だ。

 そして、私みたいに……体内にエネルギーを膨大な量貯蔵している奴が相手だと……なるほど、こいつが歓喜するくらいには、確かに相性はいいだろう。

 

「こんだけ『活力吸収』してんのにぴんぴんしてるかよ! 残念だなあ……お嬢ちゃんなんなら、うちの組に入ってくれりゃよかったのによ。敵だからこんなことになってるけど、俺とお嬢ちゃんが組めばそりゃ無敵だぜ? いつでも最高のパフォーマンスを発揮できるからな!」

 

「あんたのエネルギータンクになれってこと? ごめんだよ」

 

「ハッハッハ、振られちまったか! まあ頷かれてもそれはそれで困ったがな……若頭から、ちゃんと殺せって言われちまってるからよ!」

 

 言うなり、ドン、と床を蹴ってこっちに突進してくる巨漢――名前、活瓶(かつがめ)だっけ?――は、握りしめた拳を、私の頭を粉砕すべく振り抜く。

 それを私は両腕を前に出し、野球のキャッチャーのように受け止める。

 

 同時にそこから吸い取られるエネルギー。私の力をまた奪って、活瓶は力に変える。

 

「ははははは! いいぜいいぜ、すごく元気になってくるぜェ! ホントによぉ、ここで殺すのもったいねえなコレは……俺のためにあるような『個性』だぜ!」

 

 ぐむぐむとさらに大きくなっていく体。反対に、私の体からは力が抜き取られていく。

 

 まだまだ『エネルギー』の蓄えに余裕はあるが、このペースだとそれよりも先に、こいつが手が付けられなくなるほど強くなってしまうことも十分考えられる。

 

 ああ、本当にこの『個性』……私の『無限エネルギー』と相性がいいんだな―――

 

 

 

 ―――ただし、私にだがな。

 

 

 

 ドスッ、と私の拳が男の横っ腹に突き刺さる。

 既に4mを超えているであろう身長を手にしている男の、分厚い腹筋を前にしては、あまりにも頼りない一撃だっただろう。現に、気にも留めていない。

 

「はははっ、効かねえよ今更そんなパンチ! 諦めなお嬢ちゃん、もう勝ち目……は……?」

 

 しかし、その瞬間現れる異常。

 まるで、油をさしていない機械のように……ギギギ、と異音が聞こえてきそうなほどに、活瓶の動きが鈍くなっていく。

 

 流石におかしいと思ったようだが、もう遅い。

 

「そうだな、もう勝ち目ないよ……お前にな」

 

 ドン、ドン、ドン、と私は拳を、そいつの両手両足、そして両肩に打ち込む。

 そのたびに動きが悪くなり……ついにはほとんど完全に止まってしまった。自分の意思では全く動かせず、微妙に体がぷるぷると震えるくらいにしかなっていない。

 

 説明はしないが……今放ったコレは、母さんとの特訓で身に着けた新技だ。

 

 本来は、接触ないし打撃によって相手の体の中に、私の『エネルギー』をあえて流し込み、それを流し込んだ後も制御することで、相手のエネルギー全体の流れを掌握したり狂わせる技。

 

 そのパターンの1つとして、『エネルギーバインド』と呼び名のついている……相手の体内のエネルギーの流れを止めることで、動けなくしてしまう技がある。

 あの日、私が母さんに(全裸で)かけられた技がそれだ。

 

 なお、名前が特になかったら私は『ノッキング』とか名付けてたかもしれない、とか思った。

 

 母さんレベルのコントロール能力でなら、ごくわずかな量のエネルギー……それこそ、指先でちょっと触れただけでも十分に拘束できるだろう。よっぽど大柄とか、パワフルな敵でもなければ。

 

 私はまだ未熟だし、ましてこいつかなり大柄でパワフルだから、本来なら結構な量のエネルギーを流し込んで、相手の体内における私由来のエネルギーの比率を大きくしてからじゃないとコレ上手くいかないんだが……こんだけ豪快にというか、自分からエネルギーをどんどん吸い取ってくれる相手なら、集中力もテクニックもほとんど要しないほどに簡単に拘束できた。

 

 ぷるぷると震えながらも立っていた活瓶だが、バランスを崩してか、はたまた踏ん張る足腰が言うことを聞かなくなったからか……仰向けにどう、と倒れた。

 が、大きくなりすぎて壁につっかえて、寄りかかるみたいな形で止まっている。

 

 ふむ、この姿勢……サイズがサイズだし、ちょうどいいかな。助走つければ……いけるか。

 

「何を……した……!?」

 

「敵にわざわざ説明するわけないだろ、どこぞのオサレバトル漫画じゃあるまいし……あと話長くなるからめんどくさいし」

 

「おま……この流れは普通……」

 

 話を最後まで聞かず、部屋の反対側に走っていき……そのままUターンして、座り込む活瓶目掛けて加速して走る。

 

「舌噛むなよ?」

 

「は!? 何するんッ……」

 

 加速はそこそこにして、助走からの跳躍。そのまま、胡坐と体育座りの中間みたいな形になっている活瓶……の膝のあたりに左足で着地。そのままそれを足場というか踏み台にして体をひねり、助走の勢いを殺さずに上手く乗せて……

 

 

 残った右足、その膝を、マスクに覆われた顔……その横っ面に、顎を捕らえるように叩き込んだ。

 

 

 ドゴォッ!! と鈍い音がして、振りぬかれた私の膝蹴り……シャイニング・ウィザードのつもりで放ったそれを受けた巨体は、それきりそのまま沈黙してしまった。

 

 上手く脳を揺らせたようだ。少しの間警戒しつつ確かめてみたが……ちゃんと気絶したっぽい。これで当分は起きないだろう。

 

 まあ、起きても『エネルギーバインド』が効いてるうちは動けないだろうが……これからコイツを運ばないといけないからな。運んでる間に吸われたら困るし……そもそもこれ以上大きくなられたら運ぶのも大変だ。

 ……今でも十分に大変だが。船に乗るかな……?

 

 早いとこ、緑谷達の様子も見に行きたいんだが……。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 オーバーホールの手が壁に触れる。

 『分解と修復』……驚異の強個性の力が、周囲一帯に伝播する。

 

「認めるよ治崎……一介のヤクザとは思えない戦闘能力だ……!」

 

 壁が一瞬で無数のとげに変化し、ルミリオンを串刺しにするか、あるいは押しつぶしてミンチにするか、あるいは粉砕して肉片にするために殺到する。

 

「それに加えてその『個性』! 触れるだけで対象を分解してしまう、防御不可能の凶悪さ! それを、スペックに振り回されることなく使いこなすセンスも圧倒的だ!」

 

 その全てをすり抜け、疾風のような速さで迫りくる。あらゆるものを『透過』し、攻撃も防御も意味をなさないまま、見る見るうちに間合いが詰まる。

 

「それほどの力を手にするまでにどれだけの努力をしてきたのか、何を考え、何を見据えてそこに至るまでになったのか、それもわからない」

 

 そしてオーバーホールの眼前にとうとう到達し、拳を振りかぶった瞬間……オーバーホールの背後から、彼の横をかすめ、眼前を貫くように何本ものとげが伸びた。

 自分を殴る瞬間に実体化するはずの拳。そこを狙ってカウンターを当てるために。

 

「実力は一級品だ……並のヒーローではなすすべもなくやられてしまうだろう! でもね!」

 

 しかし、それすら読んでいたルミリオン。

 空しくそのとげは拳をすり抜け……驚愕しつつも、防御しようとする腕すらすり抜け……

 

 

 

「それでも! 俺の方が! 強い!」

 

 

 

 100万を救う輝きの拳が、その顔面に突き刺さる。

 

 ペストマスクが外れるかと思うほどの威力で、顎に直撃した拳。

 咄嗟に打点をずらすべく体をひねっていなければ、オーバーホールの意識はきれいに刈り取られていただろう。鍛え上げられた肉体が繰り出す拳は、それだけの威力を持っていた。

 

 それでも激しく脳を揺さぶられ、ふらつきながらも……オーバーホールは、衰えぬ気迫を視線に乗せてルミリオンを睨みつける。

 

 それで彼が怯むことはなかったが、少なくとも、何発殴ろうともこの男は諦めない、投降しろと言ったところで聞くことはありえないだろう、ということは読み取れた。

 

 一瞬だけ自分の顔に触れる。それで今の傷を『修復』してなかったことにし、懐に手を入れて何かを取り出そうとし……驚愕。

 そこで初めてオーバーホールは、自分の着ていた服の胸の部分が、引きちぎられていることに気づいた。恐らくは、今殴り飛ばされた時……その一瞬でだろう。

 

 そして、そこに入っていたはずの『中身』は……今、目の前に。

 ルミリオンの手の中にある。銃と、それに込めるはずだった弾丸……その両方が。

 

 そして、弾丸の方は……ただの弾丸ではない。この状況を打開するために切ろうとしていた、切り札だった。……それも、もうないが。

 

「デザートイーグル……これも密輸品か? 装弾数は8発。けどこのケースには10発入ってる。予備の弾丸にしちゃ数が半端だし、梱包もやけに丁寧だ。オマケに弾頭に針がついてる……ただの弾丸じゃないね? 恐らくは……さっきマンダレイが言っていた、個性を破壊する特殊弾」

 

「貴様、なぜそれを……!」

 

「どうしてコレを持ってたことに気づけたか? そりゃ、動きを『予測』するために、お前のことをきちんとずっと見てたからね! ……さっきお前、音本と入中がやられて銃を失った時、一瞬、自分の懐を確認しただろ? そこに代わりになる銃が入ってるんじゃないか、あるいは、この状況を打開するための秘密兵器でも持ってるか……あるいはその両方か。そう『予測』したのさ」

 

 ルミリオンの予想は当たっていた。拳銃は単に武器だが、ケースの中身の弾丸は『個性破壊弾』である。

 

 もっとも、オーバーホールからすれば、それがなくても十分戦える。不意打ちで相手の『個性』を消せれば有利にはなるだろうが、そうでなくとも、周囲一帯を武器にして相手を圧殺できるだけの力を、彼は持っているのだから。

 

 だが、それを持ち帰って検証され、中身が何なのかを調べられたりすることの方が問題だった。ゆえに、絶対に取り返すか……奪われるくらいなら廃棄しなければならない。

 隙を伺いながらも、ギリ、と奥歯を噛みしめ、苛立ちを滲ませる。

 

「この銃弾を使って何をする気なのかはわからない……でも、こんなものを作っているという時点で、お前は、お前達は本当に危険だ……絶対にもう、ここから逃がすわけにはいかない!」

 

「どいつもこいつも……大局ってものを見ることができない、力に酔っただけの英雄気取りが……! 病気だ……お前ら全員……この間違った社会に毒された異常者どもが……!」

 

「力に酔う? ははは、そりゃまた買いかぶられたもんだな……こちとらどべから必死こいて這い上がった元劣等生だよ? そんな上等な力なんて持ってなかったし、成績も悪かった……今だってそんなもんに酔っぱらってる暇なんてないよ。まあでも……」

 

 オーバーホールの殺気を軽く受け流すルミリオン。そのにこやかな笑顔の裏に……確かに正義の熱い炎を燃やしていた。

 そして、正義感と同時に……先輩としての意地も。

 

 ふと思い出されているのは……オーバーホールによって崩壊していく通路の向こう……1年の中でも特に期待の新星とされている2人が、はぐれる直前に、自分に向けて来た目。

 言葉1つなく、よこしたのは視線のみだったが、それで十分伝わった。

 

『通形先輩! マンダレイ達は僕が……そっちはお願いします!』

『船で合流しましょーね! なる早でオナシャス!』

 

 ※意訳である

 

「切羽詰まった状況だったとはいえ、間違いなく、かわいい後輩が信じて託してくれたんだ……! そりゃ先輩としても、ヒーローとしても! 張り切らなきゃ嘘ってもんだよね!」

 

 言いながら、ルミリオンはそれを上空高く放り上げ……とっさにオーバーホールは、ほんの一瞬だけ、それを負って目を、視線を上にやってしまう。

 

 その瞬間、ルミリオンは床に沈み込んで姿を消し……次の瞬間、瞬間移動したかと思うほどの速さでオーバーホールの眼前に現れた。

 

 咄嗟に突き出された手。それに触れれば、いかなる物質もその形を立ちどころに失って『分解』されることになる。

 しかしその必殺の手のひらも、最後までルミリオンの髪の毛1本すら捉えることはできず。

 鳩尾に拳が突き刺さり、オーバーホールの体が『く』の字に折れ曲がって、宙に浮く。

 

 さらにそれを足払いの要領で蹴飛ばし、体勢を崩させる。

 これにより、完全に空中に放り出されたオーバーホール。手を伸ばしても、壁にも、床にも、天井にも最早届かない。

 

 そこにさらに顎に拳が叩き込まれる。その勢いで、空中で体が反転するほどの力が加わり……当然、激しく脳が揺さぶられる。

 

 ルミリオンはその動きのまま、オーバーホールの体をすり抜けて背後の床に沈み込み、そこから実体化・反発の勢いを利用して、さらに追撃をかける。加速の乗った拳が、また1発顎に打ち込まれた。

 

 そのまま今度は天井付近にまで跳び上がり、肘の部分だけを引き絞るようにして……そのまま天井に肩まで沈み込ませる。そしてまた、実体化によって生じる力をカタパルト代わりに、打ち下ろす拳を打ち込んだ。

 

 そしてそのまま落下。再び床に、体が見えなくなるほどに沈み込み……追うように落下してくるオーバーホール目掛けて……トドメの一撃を放つ。

 

 

 

「POWERRRRRR!!!」

 

 

 

 打ち込まれた拳は、とうとうその意識を刈り取り……白目をむいて、オーバーホールは力なく床に落下。そのまま動かなくなった。

 

 そして、それよりも早く、もといた地点に戻ったルミリオンは……数秒前に自分が投げ上げ、落下してきた拳銃と弾丸をキャッチしたところだった。

 一拍遅れて、オーバーホールの体が床に叩きつけられた音が響く。

 

 そのダメージも、『個性』を使えばたちまち修復されてしまうのだろうが、意識がなければそれも関係ない。

 動く様子が間違いなくないことを確認し、ふぅ、とルミリオンは息をついた。

 

 ……しかし、次の瞬間、

 

 

―――ズズゥゥン……! ギギギギギギ……!

 

 

「……っ!?」

 

 船体全体が再び揺れたかのような衝撃と振動。そして、前後左右上下から、まるで何かがきしんで壊れるような音が響いてくる。

 

 さらには足元に違和感。徐々に船が傾き始めているのを察することができた。

 

 それでもオーバーホールは目を覚ましてはいないようだが。ルミリオンはそれに安堵しつつも、今の轟音と振動の意味を察知して青ざめる。

 

(まずい……もう限界か! 船が……沈む! 緑谷君に栄陽院さん……マンダレイ達も! 脱出、出来ただろうな!?)

 

 

 




今回は永久VS活瓶、通形VSオバホでした。

通形って実際、1VS1ならオバホより強いと思うんですよね。原作では、ゾンビよろしく復活してきた側近が加勢してきたけど。
あと、キュレーターには逃げられたので、こっちで活躍してもらったり。

緑谷の見せ場は……次回かな?
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