TSから始まるヒロインアカデミア   作:破戒僧

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結構長くなった上に、慎重に描いたので何度か書きなおしてたら、思いのほか時間かかりました……。
オリジナル展開というか、原作改変入れると、後から矛盾ださないように神経使います……

では、どうぞ。


第86話 TS少女と騒動の顛末

 

 

Side.緑谷出久

 

 不思議な空間に、僕はいた。

 黒い、靄のようなものが立ち込める空間。そこで僕は……霧みたいに不確かで、ふわふわした状態でたたずんでいた。

 

 隣には、精悍な顔つきの女性がいて……その奥にも知らない人が何人か。ゴーグルをつけたスキンヘッドの男性、黒髪の若い男性、その向こうには……遠くてよく見えないが、見知った姿も。

 

 前にも見たことがある。いや……前よりも明瞭に見える。

 

『なぜ抗うんだ? 僕と征こう……愚かでかわいい弟よ』

 

『間違っているからだ、許してはならないからだ。兄さんの全てを』

 

 そして、少し離れたところに、上等な身なりの男性と、ボロボロでくたびれた身なりの若い男性が一緒にいた。向かい合って立っていた。

 2人は何やら、言い争っているように見える……

 

 ……なんとなく、この2人が誰なのか、僕にはわかった。

 

(『オール・フォー・ワン』……そして、その弟ってことは……初代『ワン・フォー・オール』……)

 

 すると、僕の横にいる人たちは……歴代の『継承者』達……

 オールマイトの師匠だっていう、黒髪の女の人……7代目をはじめ、僕の他に7人、横に並んでいる。僕は、9代目……

 

(……? 体育祭の、あの場面で見た時は、もっと多かったような……いや、今思えば、僕は『9代目』なのに、10人以上の影が見えたのってそっちの方が変だ……見間違いだったのか?)

 

 そこで僕は、主張の衝突の末、『初代』が個性を与えられる――押し付けられる、と言った方がよかったかもだけど――その瞬間を見て……そこでもう、徐々に意識が薄れていって……

 

 その瞬間、とん、と背中に何かが当たった。

 いや、当たったというより……受け止められた? 何だか、よく知っているような感触……

 

 振り返ると、そこには……さっきの人達とは、また別な何人か、見知らぬ人たちがいた。

 見える範囲で6人。……気配から、もっといそうではあるけど……位置というか視界の問題で、それ以上は見えない。

 

 色んな身なりの人がいる。

 昔の……侍?みたいな身なりの男性。

 やや露出多めの、忍者みたいな装束を着込んだ女性。日本人っぽい……くノ一?

 西洋の甲冑を着込んだ……兜被ってるから性別分かんない人。

 戦いとは無縁そうな、あでやかな和装に身を包んだ女の人。

 尼僧……っていうのかな? 静謐な雰囲気を漂わせた、妙齢の女性の僧侶。

 

 そして、最後の1人は……見覚えがある。

 ヒーローコスチュームに身を包んだこの人は……『アナライジュ』!? 栄陽院さんのお母さんの、現役のプロヒーロー……何でここに!?

 

 そして、首をググっと回して、僕を抱きとめている人が誰なのかを確認して……もっと驚いた。

 

(栄陽院さん……!? 何で、ここに……『ワン・フォー・オール』の面影の空間に……!?)

 

 クラスメイトの……僕に全てを捧げたいとまで言ってくれている女の子。

 彼女が、彼女もまたヒーローコスチュームで、僕のことを……靄のように安定しない体を、どうやってか抱き留めていた。

 

 鼻から下がないせいで、声を出して聞くことはできない。

 目の前の栄陽院さん(だと思う)も、何もしゃべらない。にこりと笑いかけるだけ。

 

 その代わりに、別な方向から声が聞こえて来た。

 

「おや、今はもう、これで限界かと思っていたけど……もう少し余裕がありそうなのかな?」

 

「あぁん? よくわかんねーが……それならそれでありがてえな。あんがとよそこの嬢ちゃん!」

 

 更に振り返ると……さっき、その姿を見たうちの1人。いや、2人。

 『初代』ワン・フォー・オールと……歴代『継承者』の中にいた1人である、スキンヘッドの男性。その2人が……面影どころじゃない、はっきりとした存在感を、それどころか意思を持って、僕に語り掛けてきていた。

 

 その2人の方に向けて、栄陽院さんは背中を押してくれる。

 

「不思議な光景さ……こんなこたァ今までで初めてだ。この空間に、継承者以外の人影が混じるとは……9代目の継承者は、何やら妙なことになってんなァ……まあ、敵っぽくもないからいいか」

 

「……君たちは……ひょっとして……!」

 

 すると初代が、何かに気づいたような仕草を見せて……それに応じるように、僕の後ろにいる面影?の何人かが、にこりと笑ったように見えた。

 

「? 何か知ってんのかい、初代?」

 

「いや……大丈夫だ。そうか……そうだったのか……安心していいよ、5代目、そして9代目……彼ら、彼女らは、僕達の味方だから」

 

 ……!? 初代……この人達のこと、何か知ってるのか!?

 だとしたら、教えてほしいけど……く、口がないから聞けない……

 

「あぁ? お口がないのか……ドンマイさー」

 

「わが末裔が支えていますが、あまり時間もありません。お話したいことがあれば手短に」

 

 すると、今まで沈黙を保っていた……僕の後ろの人達の1人……尼僧っぽい女の人が、ちょっとぴしゃりとした語感で言った。喋れるのか……!?

 

「そうだね……そうしよう」

 

「いかんせんまだまだ力不足は課題か……どうにか30%くらいさ? 体はかなり育ってきてるが……成長が早すぎて逆に馴染む時間が足りてないのか?」

 

 何事か呟くように話していたが、その後すぐに、2人は僕に向き直る。

 そして、スキンヘッドの男性……5代目、と呼ばれた彼の腕から、見覚えのある、黒い紐状のエネルギーが発せられ……驚く僕に、彼らは話し始めた。

 

 この力……『黒鞭』は、過去の継承者である自分の『個性』であること。

 歴代継承者の力の因子は『ワン・フォー・オール』の中に眠っていて、僕の代に至るまでに、8人の人間を渡って強化されたことで、大きく脈動し始め、『個性』が成長していること。

 

 これから恐らく僕には、歴代の……合計6つの『個性』が発現するであろうこと。

 

 そこにさらに何らかの要因が加わり……その成長がさらに加速すると共に、全く予想がつかない形に至る可能性があるということ。今言ったばかりの『個性』の数や内容すら、異なるものになるかもしれないこと。

 しかし、それは決して君を害するものではない、むしろ君の味方であるはずだから、決して恐れる必要はないということ。

 

 最後の1つについては、『初代』は、僕と……僕の後ろの人達を、そして、僕を後ろから抱いている栄陽院さんを、順に見ながら言っていた気がした。

 

「頑張れ坊主……お前は1人じゃない。俺達がついてる! あと、正直俺もよくわかってないが……お前の後ろにいる連中も、どうやら味方みたいだしな!」

 

「きっと、君は成し遂げる……分かたれた2つの道が、とうとう1つに戻った今……恐れるものなど何もない。君と、彼女の力を信じるんだ……きっと、君なら『ワン・フォー・オール』を……!」

 

 

 

 ……認識できたのは、そこまで。

 

 気が付くと僕は、病院のベッドの上だった。

 清潔なシーツと布団に包まれて寝転がって、知らない天井を見上げていた。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 騒乱の夜がようやく明けたわけだが……その後の顛末? みたいなものを簡単に説明しておこうと思う。

 

 まず、今回の主だった敵組織は2つ。指定(ヴィラン)団体『死穢八斉会』と、名称不明(というかフェイクの名前がいくつもあって絞れないらしい)の国際ブローカー組織。

 

 その双方の頭目のうち、『死穢八斉会』の若頭・治崎廻……敵名『オーバーホール』を逮捕。

 あの大規模崩壊の後、ルミリオンこと通形ミリオ先輩が1対1で戦って倒したそうだ。

 

 ネームドヴィラン、それも超のつく大物らしい『オーバーホール』を単騎で撃破か……すごいなあ。後から知ったことだけど、雄英高校ヒーロー科3年の頂点『ビッグ3』とまで言われているそうだし……あのサー・ナイトアイの事務所でインターンやってるだけあるってことか。

 

 ……あと、これも後から気づいたんだけど……あの人、去年の体育祭で全裸になってた人だよな……だ、誰でも失敗することはあるってこと、だよね!? そう思いたい。

 

 一方で、ブローカー組織の方の頭目『キュレーター』には逃げられてしまったらしい。暗い海の中で、『鯨』という水系個性を相手に追跡は、その場にいた他の水系個性のヒーロー達でも流石に難しかったみたいだ。

 

 とりあえず『オーバーホール』の方は、個性を使えないようにする手枷で拘束されて連行されたそうだ。厳重な監視の上で幽閉され、最終的には法の下に裁かれることになるだろう、とのこと。

 

 なお、『オーバーホール』が連れていた手下たちについても同様だそうだ。

 手下3人のうち、1人は通形先輩が殴り倒して(オーバーホールを狙った拳をかばって受けた、って形だったけど)……1人は栄陽院さんが蹴り飛ばしてたな。あの小さい……けど、中にすごいガタイのいい男性が入ってたのを。

 そして残る大柄な1人は、こちらも栄陽院さんが撃破していた。

 

 ちなみに、あの場で倒していた黒メガネと巨漢(ちっちゃいのに入ってた方)は、脱出途中で栄陽院さんが見つけて拾って、同じように運び出したそうだ。

 成人男性3人……しかも、うち2人はガタイがかなり良かった上に、そのうちさらに1人は『個性』でサイズ倍加してたから、むちゃくちゃ運びにくかったって言ってた。ははは……ご苦労様。

 

 そして、奴らが所属していた『死穢八斉会』についても、近々捜査機関やプロヒーローによる摘発が行われるようだ。

 

 目立った犯罪行為は行ってないから今まで放置されてたけど、今回の件をきっかけにして、『組』の解体に着手するらしい。警察に加えて、付近のプロヒーローにも召集がかかったって。

 

 『敵』に関してはこんなとこだろう。

 次は、救助対象だった洸汰君達……そして、その保護者であり、今回かなり傷を負ったマンダレイに関してだ。

 

 結論から言えば、皆無事だった。

 洸汰君達は、特に目立った外傷もなし。せいぜい、縛られてた時の縄の痕や、強く抑え込まれた際にできた内出血くらいのものだ。それも、特別な治療をしなくてもすぐに治る見込み。

 もちろん、真幌ちゃんと活真君も同じ。

 

 マンダレイの方はそれなりに傷を負っていたけど、命に別状はないし、手当と、念のための輸血さえきちんとしてしまえば、あとはもう何も心配いらないそうだ。激しい運動はダメだけど、普通に歩いたりする分には何も問題ないって。

 

 その話を、ついさっき病室に来たマンダレイと洸汰君、そして、真幌ちゃんと活真君、そしてそのお父さんから聞かされたところだ。

 全員から、助けてくれてありがとう、ってお礼言われて……なんか照れ臭いというか、背中がむずむずするというか……変な感覚だった。いや、もちろんうれしいんだけど……反応に困って……

 

 さらにマンダレイからは、迷惑をかけてごめんなさい、あなたが来てくれなければ危なかった、って少し重い感じで謝られたし……マンダレイは真幌ちゃんと活真君のお父さんにも謝っていた。事件を未然に防げず、お子さんを危険にさらしてしまったって。

 

 けど、2人のお父さんはそれを責めたりすることは全然なかった。

 むしろ『子供達のために必死で戦ってくれてありがとうございます』って感謝を述べていた。

 

 助けられた2人も――真幌ちゃんはちょっといまいち素直じゃなかったけど――マンダレイには悪感情なんて全然なくて、むしろきちんと感謝してたし。

 

 聞いた話じゃ、真幌ちゃんはヒーローが嫌いだっていう話だったんだけど……そんな様子は……なくもないけど、普通に感謝してる様子だったし、態度も柔らかかったな。

 今回の件で、色々と思う所があったのかもしれない。

 

 そしてそれはどうやら、洸汰君も一緒みたいだった。

 相変わらずこっちも、ちょっと気難しそうな感じだけど……きちんと素直に感謝の気持ちを言い表すことはできていた。マンダレイと……あと、僕にも。

 

 2人とも、すぐに劇的に変わる感じではないにせよ、少しずつ何か、心の中で変わり始めているものがあるような……そんな気がした。

 

 なお、活真君は普通にキラキラ輝いた目でマンダレイにお礼を言ってて、しかもその目のまんまで僕の方にも来て……う、嬉しいけどちょっと恥ずかしかった。

 『デク兄ちゃんみたいなヒーローになりたい!』って……ぼ、僕もまだまだなんだけどね……

 

 そんな活真君を、まだ少し複雑そうな様子で見ている真幌ちゃんに気づいて……なるほど、何で真幌ちゃんがヒーローのことをよく思ってなかったのか、少しわかった気がした。

 温かい、けど確かに『心配』するような目になってたから。

 そして、その隣の洸汰君も同じ感じだった。……やっぱり、まだそのへんは複雑か。

 

 ともあれ、一応検査入院で3人とも1泊はしたものの、何も問題ないとのことで、僕より一足先に退院。真幌ちゃんと活真君は、お父さんと一緒に家……『那歩島』っていう島に帰るらしい。

 

 マンダレイと洸汰君は……マンダレイがもう少し(と言ってももう1日か2日程度らしいけど)入院して経過観察らしいので、洸汰君が一足先に帰るんだって。ピクシーボブと一緒に。

 そのマンダレイも、経過が順調で問題なければすぐに退院できる。しばらく静養して、傷が癒えたらヒーロー活動復帰するって。

 

 最後にもう1度、洸汰君を助けてくれてありがとうって、にっこり笑って言って、マンダレイは病室に帰っていった。

 憑き物が取れたかのような、ずっと凝り固まっていた問題が解消されたみたいな……すごく明るく、晴れやかで、魅力的な笑顔だった。

 

 あるいはその理由は、同じように優しい視線を向けていた、洸汰君の変化にあるのかもしれない。

 

 その後も色んな人がお見舞いに来てくれたり、電話をかけてきたりした。

 

 一緒に救助活動に出ていた梅雨ちゃんや、セルキー事務所のシリウスさんとか。

 救助活動にまで一緒に来ていた、麗日さんや取陰さん、ピクシーボブも来た。

 

 ワイプシの『ワーキングホリデー』で一緒だった、しかし事務所の方で待機していた、塩崎さんに宍田君……そして、ラグドールや虎も一緒に来た。そのままマンダレイのお見舞いもして、洸汰君を一緒に連れて帰った。お大事にね、と言い残して。

 

 あ、ちなみにというか今更だけど、僕の状態だが……今回はほとんど戦闘も行っていないので、普通に元気です。念のための検査入院です。

 

 ただ、腕だけはまた壊しちゃったけどね……今はギプスを装着してる。久しぶりの感触だ。

 でもあれは、あの場面では100%出さなきゃ、万が一破れないとかだったら洒落にならなかったし、仕方ないだろう。

 

 それに、リカバリーガールの『治癒』がないからゆっくり治すしかない状況だけど、それでも普通に寝てるよりずっと早く治癒していってるしね。今。

 

 理由は2つ。

 

 1つは、活真君とそのお父さんがこっそりやってくれた、彼らの『個性』による治療である。

 どちらも『細胞活性』っていう『個性』を持っていて、新陳代謝の促進みたいなことができる。その延長上で、治癒力を活性化させることもできるようだ。リカバリーガールのスローペース版、みたいなものだろうか。

 それのおかげで、さっきから腕が熱を持っていて……しかし、温かく心地いい感触なのがわかる。どんどん治癒していってるな、って、何となくわかる。

 

 そしてもう1つは……例によってと言えばいいのか、栄陽院さんだ。

 

 彼女はこの数週間の間、僕と同様に『デウス・ロ・ウルト』で色々な訓練を積んでいたわけだが……その一環として、『エネルギー』の操作を学んでいた。

 

 その応用の一つで、相手の体内でエネルギーを操作して、負傷した部位に集束させ、集中して作用させることで、治癒力を活性化させるという回復技能を習得していたのだ。

 

 ワイプシの『ワーキングホリデー』の最中、負傷した遭難者や、遊んではっちゃけ過ぎてケガをした子供とかに使ってあげてたようだけど、それを僕もやってもらったのだ。クルーザーから脱出した直後、救出艇に帰還した時に。

 

 カフェオレを飲んだ時とか、抱きしめて流し込んでもらった時に感じる『エネルギー』が、腕に集中して……傷を癒し、痛みを取っていくのがわかった。

 

 一応、技名あって……『コンセントヒール』っていうらしい。

 直訳で、『集中治癒』……ああ、エネルギーを集中させるからか。

 

 『細胞活性』と同じように、スローペースでの治癒だけど、一度体内のエネルギーを操作して『流れ』を作ってしまえばしばらくこの治癒は持続するらしいので、助かった。

 治癒と同時に、かなりの量のエネルギーも流し込んでもらえたし……寝ている間に、大分治癒が進んだみたいだ。感覚で、何となくわかるまでに。

 

 その栄陽院さんだが、彼女もここに入院している。僕と同じく、腕その他を負傷して。

 

 彼女の場合、死穢八斉会の構成員の1人と戦ったので、僕よりも戦闘で受けた傷は多い。けど、守りに徹した上でカウンター的な戦い方で決着させたらしいので、そこまでひどくはない。

 

 一番ひどいのは、彼女もまた『腕』だ。最後、鉄扉を僕と一緒に粉砕したあの時……彼女も、限界を超える威力を出すために、大量のエネルギーで腕を強化して殴っていたらしい。

 前に、あまり大量にエネルギーを充填しすぎた状態で殴ると自分も負傷するって言ってたっけな……ちょっと無理させちゃったか。

 

 でも、彼女は僕と違ってギプスも必要とはしてない程度だったので、そこまで重傷じゃないようだったのは幸いだ。明日には退院できる見込みだそうだし。

 

 というか……

 

「……うん? どうしたの緑谷、そんなじろじろ見て」

 

「い、いや、何でも……」

 

 もう既に元気そうなんだけど。

 

 さっき病室にお見舞いに来てくれて……タイミングいいのか悪いのか、ちょうど麗日さんや取陰さんが来てる時だったから、そのまま僕の病室で女子トークなんか始めたりして。

 で、そのままこうして居座ってるんだよね……。

 

 今、僕のベッドの横でリンゴの皮剥いてくれてる。宍田君が買ってきてくれたやつ。

 

 いや、それはありがたいんだけど……今日、というか今はその……できれば病室で大人しくしていてもらいたかったなーとか、早く帰ってくれないかなーって思わなくもない。

 保須市の時と同じく、男女だからってことで別々に個室割り振られてるんだからさ、せっかく。

 

 それにその……僕と同じく病人着で、薄手だからちょっと体の線が出てて……目のやり場に困る。

 ほとんどパジャマ的な扱いだからかな。その、多分……ノーブラだよね? 体の線に加えて、胸元がちょっと開けてて中が少し見えてて……下手したら、し、下も……?

 

 それに、それ以外にもちょっと今は……触れてほしくない、ないし、触れられるかどうかちょっと不安な話題があるから……

 

 なんてことを考えてるのがいけなかったんだろうか。

 ふと見ると、栄陽院さん……こっちを見ながらニヤニヤ笑っていて、

 

「そんな取り繕おうとしなくても、好きなところを好きなように見ててくれていんだよ?」

 

「……っ……ご、ごめん……」

 

 バレてた……見てるの……。

 ふ、布団の中に半分入って上体を起こしてる状態でよかった。

 え、何でって? ……言わせないで。

 

「そんな謝らなくてもさあ……私と緑谷の仲なんだから、遠慮なんかしなくていいのに」

 

「ぼ、僕と栄陽院さんの仲って……いや、そ、その……」

 

「んー……船では『永久』って呼んでくれたのに、もう呼んでくんないの?」

 

「うぇっ!?」

 

 思わず変な声が出てしまった。

 や、やっぱりそれ話しちゃう……? そ、そりゃ気にするよね……今まではさん付けで呼んでたのに……というか、僕って基本、男友達でも関係なくくん、さん付けで呼ぶのにな……。例外は、幼馴染のかっちゃんくらいだ。

 

 けどあの時は何だか……必死で、思わず口が動いちゃった感じで……

 

 でも、同じように『必死で』『思わず』って感じだった、戦闘訓練の時とか、『ヒーロー殺し』の一件とかの時は、それでもいつもの呼び方だったのに……自分でも不思議だ。なんであの時、普通に栄陽院さんのことを……名前で……

 それについて考えようとすると……な、なんだか顔が熱くなってくるし、思考がとっ散らかって上手く考えられないんだよなあ……

 

 しばらくそのまま、何も言えずに時間だけが過ぎて……時間がどのくらい経ったのか、いまいちわかりにくい。何秒か、あるいは何分も経ったのか……

 

 すると不意に、栄陽院さんの笑みが『ニヤニヤ』から『にっこり』に変わって……ああ、よかった……こうなったらもう大丈夫だ。

 

 もうこのへんはパターンだから知ってる。からかうのとか、追及はこれくらいにして引いてくれる時の栄陽院さんだ……って、こんな感じのこともわかるくらいになっちゃってたんだな。

 

 ……思ったより僕は、彼女のことを……もう、ずっと身近に感じてるというか……前にもちらっと考えたことがあるように、日常の一部みたいに思ってるのかも。

 

 形は違えど、ずっと前から、ずっと近くで一緒にいたかっちゃんと同じように、僕にとって、他の人よりも近くて、特別な人……になってるのかもしれない。

 

 それこそ、もうそろそろ……単なるクラスメイトとか、修行仲間っていう関係から……もっと、深く進んだ関係になる時期も、近づいてるんじゃないか、ってくらいに思えて……でも、思えば僕……こういうことを考えると深みにはまってしまいそうで、下手すると戻れないところまで踏み込んでしまいそうで……意図して考えないようにしていた気がして。

 

 けど裏を返せば、『もう戻らなくていい』と思えるのなら……僕は……

 

「ふふっ、ごめんごめん……いや、実際私もちょっと昨日のは、あー……思いだしてテンション上がり気味だったというか、ぶっちゃけ嬉しかったというかでさ。浮かれちゃってたかも。もちろん、昨日は色々アレな状況だったってのもわかってるんだけどね」

 

「え? あ、えっと……うん……」

 

「まーアレだ、いつもと同じで、私から急っついたりするつもりはないからさ。緑谷のペースで、ゆっくり考えてよ。そうしたいと思った時に言ってくれればいいから……待ってるからさ、私」

 

「……うん……」

 

 こんな風に、彼女の好意に……何事においても僕を立てて、優先してくれる姿勢に甘えっぱなしじゃ、もうよくないんだよな……

 僕の方から一歩踏み込まなきゃいけない、っていうのも、わかってるんだけど……

 

 それでも結局は……少なくとも今日のところは、甘える形になってしまった。

 僕と彼女の関係のこともそうだし……それに、『黒鞭』のことも……

 

 今更だけど、昨夜、僕が突如使った『超パワー』以外の能力……夢の中でその名前を知った『黒鞭』という個性については、当然ながらすでに栄陽院さんにも、そしてマンダレイにも聞かれた。

 

 当たり前だろう。前情報にない……特に、栄陽院さんからしてみれば、ずっと今まで一緒に修行してきた中では影も形もなかった能力を、突然僕が使っていたんだから。

 

 2人共、実際にエネルギーの紐で絡めとったというか縛ってるんだから、気のせいとか見間違いなんて言葉で納得できるはずもないし。

 

 かといって、ことは『ワン・フォー・オール』という力の根幹にも関わってくる話だから……心苦しいけど、栄陽院さんにも、マンダレイにも、真実を話すわけにはいかない。

 

 結局、無難にと言えばいいのか……『あの場で急に使えるようになった、自分でもよくわからない力』という説明で通した。実際、前半部分はホントのことなわけだし。

 幸いにも、2人ともその説明でひとまずは納得して、追及はやめてくれた。

 

 ……いや、納得したんじゃなくてあれは……何か訳ありだと、隠してることがありそうだってことを察しつつも、追及しないでくれたんだろう。

 

 マンダレイは、命を救われた恩とかがあるから、だと思う。

 

 そして栄陽院さんは……『関係』と同じだ。僕から言おうとしない限りは、多分、彼女は聞いてこない。僕が話すのを、待ってくれるつもりだ。

 

 ……もっとも、学校の授業や『デウス・ロ・ウルト』にも少なからず関わってくるであろうことだから……いずれは、いくらかは話さなきゃいけないだろうけど……いまは、ひとまず。

 

 話すとしても、オールマイトにきちんと話してからじゃなきゃ……

 

 

 

 ……とか考えたのがいけなかった……のかな?

 

 

 

 今日、現在、夕方になって……最後にお見舞いに来てくれた人達が、今……僕の目の前で、パイプ椅子に座って2人……向かい合っている。

 睨み合っている、というわけじゃないけど……それに匹敵するくらい気まずい空気だ。

 

 少なくとも……同じ空間内で一緒にいる僕は。

 

「「………………」」

 

 無言。

 何というか……どっちも、言いたいことがあるのに言い出せない、的な感じに見える。

 

 険悪というわけじゃない。けど、どっちも無駄に影や凄みがある人だから……それだけでも周囲に漂う緊張感が、その……キツイです。

 

 この2人が来たと同時に、それまで一緒に部屋にいた栄陽院さんは人払いされて帰っちゃったけど……もし一緒にいたら、彼女も同じ感想を抱いただろう。

 

 片や、長身ながら骸骨みたいにやせた見た目の男。しかしその実態は、『平和の象徴』とまで言われるNo.1ヒーロー・オールマイト……その、『トゥルーフォーム』と呼ばれる姿。

 

 片や、そのNo.1ヒーローを一時期ブレーンとして支えていた、同じく長身に、メガネの向こうに光る鋭い目が特徴的な、スーツ姿のプロヒーロー……サー・ナイトアイ。

 

 その2人が、僕の病室で……言っちゃなんだけど、病人・怪我人に優しくない空気を醸し出しながら、ずっと無言で……あの、すいません、ホント何かしゃべって……気まずい……。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 今日もう時間が許す限り緑谷の病室に入り浸ろうかなーとか思ってたんだけど、追い出されました。なぜか。

 

 先に部屋にいたのは私なのに……いや、こんなガキみたいなこと言っててもしゃーないのはわかってるけども。大仕事が終わった後くらい、癒しを求めてもいいじゃん……

 

 ……いやでも、あれ以上緑谷と一緒にいて、赤くなって返答に困る緑谷を見てると……こっちはこっちで赤くなりそうというか、思いだして嬉しくなってにやけちゃいそうだったから……ある意味ベストタイミングだったのかもだけど……。

 

 いやだって、呼び捨てで……緑谷が、呼び捨てで、私を。

 学校で、幼馴染の爆豪以外は――と、梅雨ちゃんもそうだけど、アレは彼女から『呼んで』って言ってだし――皆『くん』『さん』付けで呼ぶ緑谷が、私を……名前で。

 

 いくらでも遠慮をなくしてほしい……というか、なんなら手を出してほしい私からすれば……うん。

 あの場では必死の状況で気を向けらんなかったけど……病室に入ってベッドの中で思いだして、何度悶えそうになったか……。

 

 昨日の深夜にそうなって、物音を聞きつけて『どうかしましたか!?』って駆け込んできた看護師さんに誤魔化すのが大変だった。

 変な夢見た、って言ってどうにか……。

 

 ……いや、実はそれ自体も嘘じゃないんだけど……まあそれはいい。

 

 ともあれ、言われた通り、今日はもう自分の病室に戻ってゆっくりすることにした。

 緑谷とは後日、お互い落ち着いてから改めて話そう。落ち着いてから。

 

 ……できるならその時、あの新技らしき『何か』……あの、エネルギーの紐みたいなのについても……話してもらえたらいいな、とは思う。

 

 今後の訓練方針とかはもちろん、私が今後、どんな形で緑谷の役に立てるか、緑谷を助けていけるか……とか、そのへんにも関わってくることだし……。

 

 遠からず、何かは話してくれるだろうとは思う。

 話さざるを得ない、ともいうが。私だけが知ってるならともかく、いつまでも黙ってられることじゃないだろうからな……もう。

 あの場で大々的に使って……間違いなく目撃したのが、私とマンダレイ、それに助けた子供3人の、計5人。しかし、救助に当たっていた人たちの中には、目にした人もいるかもしれないし。

 

 それでも……一度聞いてはぐらかされた以上は、本当に切羽詰まって必要にでもならない限りは……こっちから聞くのはやめよう。緑谷が話してくれるのを待とう、私は。今まで通りに。

 いつもと違って、何か……本当に真剣にというか、頼むから聞かないでほしい、みたいな雰囲気だったからな。

 

 あとはもう、お互い今日はゆっくり休んで……いや、緑谷はこの後まだ、あの2人との面会か。何を話すのかは知らないけど……

 

 しかし、何だってサー・ナイトアイがここに……? いやまあ、今回の戦いに参加してた1人だし、不自然じゃないかもだけど……事情聴取なら既に警察の人から、緑谷も私も受けてるんだけどな……何か、他に用事でもあったのかな?

 

 そして、訪ねて来たのはナイトアイ1人じゃなくて……金髪の背の高い、やせたおじさんが一緒だった。ちょっと、いやかなり大きめなトレンチコートと、ダボダボめのズボンが印象的な。

 不健康な見た目だけど、ガタイは割とよかったな……身長も、ナイトアイより上だったし。

 

 しかも話を聞けばその人、なんと『オールマイトの秘書』だとかで……しかも、非常勤だけど、時々雄英で事務員もやってるんだって。

 名刺貰っちゃったよ。『八木俊典』……聞いたことないな。

 

 まあ、自分でも『メディアに露出する立場でもないですからね』って言ってたし……事務員の人まで、流石にいちいち全員覚えてないからな、同じ学校関係者でも。それは別にいいか。

 

 しかし、またオールマイト関係か……本当に何なんだろうな、緑谷を取り巻くそれ系の環境は……一体、どういうわけでそこまで……

 

(ああ、それと……聞きそびれちゃったな、緑谷に)

 

 自分の病室に戻ってベッドに寝転がったことで、ふと思い出した。

 

 今朝、起きた時から気になっていて……お見舞いのついでに、緑谷に聞こうかなと思ってたことがあったのを。

 と言っても……こんなこと聞いても仕方ないかもだけど……ただ私が気になってるだけだし。

 

 話のタネになれば、的な程度に考えてることだしな。何せ……

 

 

(私の見た、変な夢に緑谷が出て来た、なんて……んなこと言われても、緑谷からしたらポカーンだろうしな……。しかも、内容の方はてんで意味不明……なんか、緑谷が儚く消えそうに?なってたから思わず抱き留めて……その後、ボロボロの服の変な男と、ごついハゲのおっさんが……あれ、やば、もうなんか忘れ始めてる…………うーん…………いいか別に)

 

 

 光景が意味不明な上に、音なしのサイレントみたいな感じの夢で……結局何もわかんなかったからなあ……まあいい。置いとこ。

 

 もうそろそろ夕食なので、考えても仕方ないことは一旦頭からのけておくことにした。

 

 食事は楽しみだけど……病人食……体にいいものを、体にいい味付けで作ってるからだろう、味気ないんだよなあ……少ないし。

 

 というかぶっちゃけ正規の献立だと、私の基礎代謝の方が高いから、全然足りないんだよ。量はもちろん、カロリー的に。救助と戦闘で大量に使ったエネルギーの補給が、全然できない。

 

 ……自費でデリバリーでピザとか頼んだら怒られるかな? ……怒られるよな、やっぱ。

 

 

 

 

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