TSから始まるヒロインアカデミア   作:破戒僧

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今回から少しの間、オリジナルパートのような修行パートのようなものに入ります。

ただし、修行するのは主人公ではなく……

退屈だったらすいません。



第9話 TS少女と自主訓練

 

 戦闘訓練が終わって翌日。

 

 たった1日ではあるが、実戦さながらの本気の訓練、手合わせを経て……うちのクラスは随分と変わった気がする。無論、いい意味で。

 

 各々が自分の戦い方の中における課題に気づけたのはもちろん、今まで気づけなかった自分の『個性』に関する得手不得手、『ヒーロー』と『ヴィラン』というものに対しての考え、等々。

 そして、何より訓練を経てクラスの皆と打ち解けて仲良くなることができた者が多くいた。

 

 かくいう私もその1人だ。

 女子とは初日のトークを経てだいたい打ち解けてはいた――というか、最初から色々ぶっ飛んだ話をした分遠慮しなくてよくなったというか――な、感じだったんだが、男子とも結構壁が取れて気軽に話せるようになった気がする。

 

 あまり女子っぽくない、って言ったらアレかもだが……男子からすると私はどうやら、女子の割に男子っぽい話題についても普通に話せる相手、みたいな立ち位置になったっぽい。結構遠慮なしなトークを瀬呂や切島と楽しんだりしている。

 

 かと思えば、女子っぽいトークができる男子とかもいるし。

 料理、特にお菓子作りが上手いらしい砂藤や、動物好きな口田とかな。

 

 そんな風に性別について考えていると、最近私が元は男だったことを忘れそうになっていることに気づかされる。

 ……まあ、もうこの性別で生まれ落ちて16年だ。そろそろそういうの吹っ切る時期なのかもしれないが。

 

 年月や周囲の環境、反応以外にも……それを後押しする要素が、つい最近身近に生まれてしまったからなあ……。

 

 私は、話の最中に……ちらっと眼の端に移った、緑の癖っ毛の地味目な少年を見ながら、そんなことを思っていた。

 

 

 

 さて、ちょっと意味深なモノローグはそのへんにして、と。

 

 今日は『戦闘訓練』の翌日である。

 

 特に何の変哲もない一日だったが……いやごめん、割と変哲あったわ。訂正。

 

 1つ目。私達1-Aは今日、相澤先生のお達しにより、学級委員長を決めた。

 

 最初は投票で緑谷が委員長になったんだが、その後色々あって飯田がやることになった。

 

 八百万が『残念です……』って落ち込んでた。

 やりたかったのか……ごめん、私飯田に入れちゃったよ。副委員長にはなれたみたいだから、まっ、頑張れ。

 

 そしてもう1つ……なんか今日、教室でご飯食べてたらサイレンが鳴った。

 弁当(お重。ファミリー仕様、5段)を取り出した時は、同じく教室で食べてた面々が唖然としてたけど、その後すぐに打ち解けておかず交換大会とか始めた。砂藤の手作りスイーツがめっちゃ美味かった。

 

 で、よりによってそんな風にまったりしてた時に……どうやら学校内に侵入者が出たとかで、『セキュリティ3が破られました』とかなんとか。

 

 速やかに屋外へ避難してください、って話だったけど、出入り口がすし詰め状態になっててとても出られなそうだったので、ちょっと待ってから移動しようかなとか思ってたら、いつの間にか騒動自体が収まってた。

 その際、飯田が避難誘導に活躍したことが理由になって、緑谷が委員長を押し付……もとい、委員長の座を譲っていたみたいだ。

 

 ちなみに侵入者はただのマスコミだったらしい。報道加熱って奴だろうか……やだやだ、迷惑。

 

 

 

 そして、その日の放課後のこと。

 

「……戦い方を教えてほしい?」

 

「うん、その……突然でごめん。でも、こんなこと頼めるの……栄陽院さんくらいしかいなくて」

 

 『今日この後ちょっと時間いいかな?』って呼び出されて、仮眠室で緑谷に聞かされたのが、そんな話だった。

 ちなみに場所が仮眠室なのは、あんまり人がいない場所で話したいってことで、どこがいいかと緑谷が考えた結果だそうだ。知り合いがよく利用してるらしいが……誰のことだろう?

 

「えーっと……まず、何でそれを私に話すんだ?」

 

「その……栄陽院さんの『個性』が、何となくだけど、僕の『個性』に一番近い気がして……それで、力の扱い方、みたいなものを教われないかなと思ったんだ。戦闘訓練で見たと思うけど、僕、自分の『個性』を全然制御できなくて……1発撃つたびに戦闘不能になっちゃうから」

 

「ああ……そう言えばそうだったな。アレやっぱり制御できてないのか」

 

「うん……」

 

 しゅんとなる緑谷。

 しかしすぐに、申し訳なさそうな目をしつつも、視線を上げて真正面から頼んできた。

 

「だからその……同じ増強系の『個性』を持ってる栄陽院さんの話なら、一番参考になるかと思ったんだ。似た個性だと、砂藤君とかがいるけど、彼のトリガーは糖分の摂取だから、『制御』っていう点ではあまり似てる点がなくて……でも、麗日さんに聞いたんだけど、栄陽院さんはどのくらい体を強化するかを『制御』してるんだよね?」

 

「まあ……な。どれだけエネルギーを蓄えてあっても、あんまりその、許容上限を超えて体を強化しすぎると、逆に負担の方が大きくなって文字通り体壊しかねないし……ああ、言われてみると似てるかもな、私の『個性』って、緑谷のと」

 

「っ……やっぱり!」

 

 それを聞いて、まさに希望を見出した的な表情になった緑谷。

 その直後、今度はそれを真剣なものに引き締めると、

 

「栄陽院さん、迷惑は承知で……お願いします! 力の制御の仕方、教えてください!」

 

「いいよ」

 

「早っ!?」

 

 腰を90度に折って頼む……と同時に許可を出した。

 

「い、いいの……? そんな簡単に……」

 

「まあ、時間がある時とかでよければ。私も色々やることはあるから、それの邪魔にならない範囲で、になるけどな。あ、でも部活入るつもりはないから割と時間ある方だとは思うけど」

 

「十分だよ! あ、ありがとう栄陽院さん! お礼は今度必ずするから!」

 

「いーっていーってそんなの。多分だけど、私にも利益のある話だし」

 

「え? 栄陽院さんにも?」

 

「ん……ああ。ほら、よく言うだろ? 人に教わるのと同じように、人に教えるのも勉強になるって。似たような『個性』持ってる緑谷への指導を通して、私も何か得るものがあるんじゃないかと思ってさ」

 

「そ、そっか、成程……」

 

「それで……いつにする? 何なら今からでもいいけど。今日なんもないし」

 

「え!? じゃ、じゃあその……それなら一番うれしいけど。あ、でも訓練スペース使う申請出さないと!」

 

「それがあったか……うまいこと空いてるといいな」

 

 

 

 雄英高校には、『個性』のトレーニングを行うための訓練室がいくつも存在する。

 クラス丸ごと1つの授業で使うような大きなものもあれば、バスケットボールコートくらいの大きさの、個人で小規模に使う用のもある。

 

 使用するには事前に申請が必要になる。いや、別に空いてさえいれば当日申請でも使えるが、向上心豊かな性格の生徒が多いこの学校では、人気の訓練室は結構予約で埋まる。

 シーズンにもよるけど、既に予約が入ってどこも使えなかったり、何週間先まで埋まってます的な状態であることもあるらしい。定期試験の前とか特にそうなんだって。

 

 今回私と緑谷が使うのは後者(個人で小規模)だ。運よく空いてたので、直前の申請でも使うことができた。

 

「何も設備のない、ただ頑丈なだけの部屋は比較的取りやすいんだって。よかったな空いてて」

 

「そうか……僕らみたいな、特定の訓練機材を必要としない目的の人くらいしか使わないからか。本当に頑丈なだけの何もない部屋だから、何かするなら自分で持ち込まないといけないんだ」

 

 私達が行うのはホントに基礎的な力の制御だけなので、特別な設備は必要ない。

 なのでこんな、前後左右上下、全面がコンクリート張りの部屋でも十分なのだ。

 

 ……っていうかこの部屋、全面コンクリってことは、国語担当のセメントス先生とかなら一瞬で作れそうな、壊れてもすぐに修理できそうな部屋だな。あの人の『個性』、触れたコンクリートを自在に操れるって奴だったはずだし……案外そうしてたりして。

 

 さて、そんな部屋に私と緑谷は2人でいる。

 

「さて、待たせちゃってごめんな緑谷、さっそく始めようか」

 

「うん、よろしくお願いします!」

 

「ははは、カタいって。別に私ゃ先生じゃないんだからさ」

 

 

 

 そう、私は先生じゃない。

 そんな大層な立場じゃない。

 

 確かに私はこれから緑谷、お前を導くだろう。

 でもそれは、お前のためでもあるけど……それ以上に、私のためだからだ。

 

 私がそうしたいと思ってるからだ……『本能』で、そうすべきだとしか思えないからだ。

 私がやりたいから、お前を強くしたいから……強くなってほしいと思うからやるんだ。

 

 そうすることこそ、私の役目。

 そうしたいというのが、私の欲望。偽らざる本音。

 

 この……『無限エネルギー』という個性を持つ者の宿命。

 

 ……こないだから、私は緑谷のことを明確に気にしていた。

 入試の時からちょいちょい『とくん』と謎の胸の高鳴りを感じ、どうしてなのかはいまいちわからないまま、私は彼に惹かれていた。

 

 恋愛感情だとも思えず(元男の精神的な拒否感を考えなくても)、かといって危なっかしい彼に対して庇護欲や母性が芽生えたわけでもない。

 

 なのに、何かにつけて彼を気にしてしまう自分がいる。

 世話を焼きたいとか、彼の役に立ちたいと、気が付けば思って、色々と考えている。

 こないだあの『カフェオレ』を渡したのだって、彼が喜ぶ、彼の役に立つだろうと思ってだ……いや、間違えて買ったのはホントなんだけど、そのあとちょっと『小細工』までしたのは……ね。

 

 ……この、ずっと謎だった感情の正体が、最近ようやくわかってきた。

 

 がんばるぞ! と、無邪気に笑う緑谷を見ていると……ずっと前、まだ私が母さんと一緒に住んでいた頃のことを思いだす。

 

 私が……『栄陽院』の名を手にするよりも前のことを。

 

 

 

 あの日私は、会ったことも無い自分の父親について、母さんに最初で最後の質問をした。

 

 

 

『ねえ、お母さんはどうしてお父さんと別れたの?』

 

『それはね……お父さんが、お母さんじゃない人を好きになってしまったからよ?』

 

『お母さんはそれでいいの? お母さんは、お母さんの全部でお父さんを支えて来たのに……他の知らない女の人に、お父さんをあげちゃってもいいと思ったの?』

 

『いいのよ。私がそうしたいと思ったの……そう、思ってしまったの。私の全部を尽くして、この人の望みをかなえてあげたい。この人を、大きく育ててあげたいって……だから、私の望みはもう既にかなっていた。お父さんが笑ってくれて、成功してくれたから、ただそれだけでよかったの。しいて言うなら……あなたを、父親のいない子にしてしまったことだけが、申し訳ないと思うわ』

 

『んーん、全然いいよ。お母さんと一緒っていうだけで、私幸せだから! でもそうだ……お父さんって、ヒーローだったんだよね? 強かったの?』

 

『どうかしらね……ええ、強かったと思うけど、テレビとかで有名になるほどじゃあなかったから、知ってる人はそんなにいないかもね。……もう死んでしまったから、猶更ね』

 

『そっかー……』

 

『…………もし、私の力が、『個性』がもっと強ければ……あの人はもっと強く、もっと大きくなれたんじゃないか……そう思うわ。でも、それは無理だった……あの人にとっても、私にとっても、あれが限界だったのよね……』

 

『? お母さん?』

 

『……永久、あなたはきっと、私よりずっと強い『個性』を使えるようになるわ……私にはわかるの。この個性の持ち主は、同じように強い『力』に、そして何よりも……『もっと強くなれる力』に敏感なの。だから……あなたもいずれ、きっと出会う。自分の全てを捧げてでも、育てたい、支えてあげたい、押し上げてあげたい……そう思えるような人に。それが、この力を持つ者の宿命。大丈夫、全てはあなたの『個性』が……『――――――――』が、教えてくれるわ』

 

 

 

 …………ふふふ。

 

 

 

 


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