TSから始まるヒロインアカデミア   作:破戒僧

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第92話 TS少女と作戦会議、と緑谷の成長

 

 麗日とコンビを組んで13号先生に挑むことになったわけだが……当たり前だが、真っ正面から突っ込んでいってどうにかなる相手じゃない。

 仮にも教員。自分達よりも格上の相手だし……私達の場合は、特に凶悪な相手だ。

 

 というか、想像ではあるが……このチームアップといい、相手が13号先生なのといい……

 

「多分だけどさ、私達への課題って……『相性が良くない相手との対処・連携』だと思うんだ」

 

「相性って……私と永久ちゃんが? それとも、私達と13号先生が?」

 

「多分、両方。この組み合わせも、相手が13号先生なのも……私らの『個性』の利点を潰しに来てるとしか思えん」

 

 まず、13号先生が相手である点について。

 

 13号先生の『個性』は、USJの時にも見た『ブラックホール』……強力な重力の渦によって全てを吸い寄せ、分子レベルで分解してしまう、とんでもない『個性』だ。

 殺傷能力という意味でも凶悪だし……それ以上に、炎だろうが光だろうがなんでも吸い込んでしまうので、こちらからの攻撃を届かせる手段がない、ってのがきつい。

 

 当然ながら、そんなのを相手に私達は攻撃する方法ってもんが……ほぼない。

 

 私は肉弾戦が主だし……最近では『エネルギーバインド』なんかの絡め手的な技も使えるようになってきたとはいえ、それだって接近戦じゃなきゃ効果を発揮しない。

 

 麗日も同様だ。彼女の『個性』は手で触れなきゃ発動しないし……職場体験とワーキングホリデーで習った『GMA』を使おうにも、接近する必要がある。

 

 ……何でも吸い込んで塵にしてしまう『個性』を持つ『敵』を相手に、接近戦……

 

「危なすぎる……やんな?」

 

「その道に特化したプロならまだやれもするんだろうが……私と麗日の接近戦技能じゃ厳しいな。麗日はフィジカル的な部分が不安あるし……私は馬力には自信あるけど、戦い方自体は所詮我流の喧嘩殺法だから、プロである13号先生に通じるとはちょっと考えにくいし……」

 

 『デウス・ロ・ウルト』の修行で前よりは格段に強くなっている自負はあるが、それでもなあ……相手の『個性』の強力さを考えると、ここは自分の技能を過信していい場面じゃない。

 仮に彼女が本当に『敵』だとするならば、接近して、しかし迎撃に『個性』を向けられ……回避ないし離脱に失敗した時点で死亡確定なんだから。

 

 そしてこの試験、もう1つ私達にとって課題というか、枷になっている部分があって……いや、おそらくこの部分をあえて突きつける目的で、私と麗日を組ませたんだろうな。

 

「そういえば、さっきもそんなことゆーとったね。何なん? 私と永久ちゃんの課題って」

 

「……多分だけど、『個性』の相性が悪い、って点だと思う」

 

「相性? しかも『個性の』って……」

 

「私と麗日の『個性』ってさ……互いにその特性を生かしづらいんだよ」

 

 例えば私の個性『オール・フォー・ユー』……もとい、『無限エネルギー』として皆に認知されているコレは、緑谷や八百万なんかと組んだ時にこそ真価を発揮する。

 緑谷の場合は、疲労回復や身体機能のブーストって形でエネルギーを生かせるし、八百万なら、譲渡したエネルギーを使って物体を生産しまくることができる。

 

 砂藤や飯田、B組の塩崎や取陰でも似たようなことができるかも。砂藤はパワーアップ、飯田はエンジンの燃料として、それぞれ糖分とオレンジジュースの代わりに私の『エネルギー』が使えるのは、実験して既に証明されてるから。

 塩崎の場合は、水と日光の補給で頭の『ツル』を生やし続けられるらしいが、私のエネルギーはその両方の代わりになるし、取陰の場合は、肉体の再生に際して体力を必要とする仕組みだから。

 

 もっとも、燃料にせよ材料にせよ、本来必要となるそれを使った方が効率はいいみたいなんだが。あくまで私の『エネルギー』は代替物だってことだな。今んとこ。

 

 そんな感じで、上手いこと『個性』の仕組みがかみ合えば、私の『エネルギー』は、その汎用性も相まって無類の強さを発揮するんだけども……麗日が相手だとそうもいかないんだ。

 

 麗日の『個性』は、『無重力(ゼロ・グラビティ)』。手の指先の肉球で触れることで、物体にかかっている重力をゼロにするものだが……この効果は、『エネルギー』を譲渡したところで強化されるようなものではないので……。

 

 譲渡によって麗日の身体能力やスタミナは上がるだろうけど、その……彼女はもともとのそれがそこまで優れているわけではないので、焼け石に水というか……懐に飛び込むでもできれば、そりゃ違ってくるだろうけどさ……。

 

 同様に、麗日の『無重力』を私に使うことを考えても同じだ。私の体を軽くしたところで……まあ、多少は速く動けるようになるだろうが、劇的に改善するわけじゃない。『ブラックホール』の捕縛能力を逃れるのは難しいだろう。

 

 それにそもそも、重さがなくなるってのはいいことばかりじゃない。

 どこぞの格闘漫画で、『腕力×体重×握力=破壊力』なんて方程式が出てくるくらいには(コレあってるかどうかうろ覚えだけども)、重さってのは打撃による威力と密接な関係がある。

 

 例えば、ボウリングの玉と、それと全く同じ大きさのゴム風船。この2つを同じ速さでぶつけたとして、どっちが痛いかなんて考えるまでもないだろう。

 

 いかに腕力があれど、そこにある程度の『重さ』が伴っていないことには、衝撃力は激減してしまう。私の動く速さが多少上がっても……攻撃力のダウンは、それを帳消しにして余りある。

 

 それに、重さを消されたものの動きって独特だからな……体重が消えて身軽に動けるってだけじゃなく、ちょっとの風や振動にも振り回されるようになるってことと同義だから……今までと同じ感覚では動けないんだよ。そんな点も、私に『無重力』を使うのが悪手である理由だ。

 

 さっきボウリングの玉とゴム風船で話を例えたけど、この2つ、投げたところで同じ速さで飛んでくわけないからな……。

 

 というわけで結論。私達の『個性』は、相性がよろしくない。

 組み合わせて使っても、かならずしもいい効果をもたらさない。

 

 この状況で、さらにまともに戦うってことができない『敵』を相手に、どう戦うか……ってのが恐らく、私達が評価される部分なんだろう。

 

「……あかんやん、そんなん……え、詰んでへん?」

 

「詰んではいないんだと……思う。それなら最初から、試験なんて形でやる意味ないし。ちゃんと何かしらあるんだよ、この状況を打開する答えってのは……それにどう気付くか……」

 

 あくまで『テスト』なんだ、これは。だったらきちんと、発想次第で達成可能な難易度になっているはず……こういう考え方で試験に臨むの自体、あまり褒められたことじゃないだろうけど……背に腹は代えられない。

 

 この試験の目的は2つ。13号先生にカフスをかけて『確保』することか、もしくは……決められた出口から外に出るか。

 

 出口の方は常にきちんとマークしてそうだよなあ……かといって戦闘で、カフスをかけられるくらい接近するのも難しいし……やっぱ、どうにか突破して脱出、が上策だろうか?

 でも、それが難しいんだよな……補足されたが最後、よっぽど距離がありでもしなければ、『ブラックホール』に吸い寄せられてしまう。光すら飲み込む超重力から逃れるのは簡単じゃない。

 

「……そういや、このステージ自体や備品も自由に使っていいって言ってたよな?」

 

「うん。ただ、あまり必要以上に施設とかを破壊するのは、ヒーローにふさわしいとは言えない、って普段からゆーとるやん? だから、あまり派手に施設を壊すようなのはダメかも……」

 

「無茶を言う……でも、バリエーション自体は富んでいるわけだから、そこはありがたいか」

 

 幸いというか、ここUSJは、様々な災害や事故の現場で救出活動などについて学ぶため、色々な備品が用意されている。それらを……まあ、やり過ぎない程度に使うのも手か。

 

 火災エリア、水難エリア、山岳エリア、暴風雨エリア……その他色々。ゆっくり見る時間はないから、何か、使えそうなものやできそうな作戦に目星を立てつつ急いで……

 

 前みたいに火炎放射器……はないだろうけど、何か投げつけるか? いや無理だな、何を投げつけても、結局吸い込まれちゃ意味ない。

 

 それこそ、炎そのものを浴びせても無力化されるだろう。何せ、光すら飲み込む『ブラックホール』だ。投げつけるとか直接的な攻撃じゃなく、他のアプローチを考えるべきだ。

 

 ……そこまで考えて、そもそも、13号先生の個性についての情報が不足していることに気づく。

 『ブラックホール』って名前は知ってるものの、具体的に何ができて何ができないのか、そのへんを私達は知らないのだ。

 

 そもそも、先生が作り出してるものは、本物の『ブラックホール』である……はずがない。

 

 そんなもん作り出した日にゃ大惨事だ。極小のそれであっても、『事象の地平面』から内側の全てを吸い込んで塵にするのが、ブラックホールという宇宙の災害である。

 仮に指先程度の大きさでも……間違いなくこのあたり一帯は消滅することになる。サイズが小さくともそれだけのことが起こる。むき出しの重力特異点は、時空そのものを蝕むのd(略)。

 

 限界があるとはいえ、ある程度でも狙いをつけて、狙った方向にのみ吸引力を発生させるなんて芸当ができること自体がその証明だと言える。アレはあくまで、似たような性質――なんでも吸い込んで塵にする――を持った別の何か、あるいはそれっぽいものというべきだ。

 

 まあ、『光すら吸い込む』という性質からして、アレは本当に超重力、あるいはそれに匹敵する吸引力であるのは確かだ。それが本当にどっちなのか、もっと細かいところでどんな性質を持ってるのかによってとれる策も変わってくると思うが……残念ながら、私も麗日もその答えを知らない。

 

(……緑谷がいればなあ……。あの人間ヒーローデータベースの知識量ならもっと……。13号先生の『ブラックホール』は光も吸い込む、っていう情報自体、緑谷に聞いた情報だし……こういう時に使える知識とかも持ってるだろうに……)

 

 こんな時……そう……

 

「「緑谷(デク君)なら…………え?」」

 

 

 ☆☆☆

 

 

 一方その頃、思わぬ場所、思わぬ場面でその名前を、存在を思い出されていた、その緑谷出久はというと……

 

「死・ね・やァァアアァア!!」

 

「行っ……けェェエエェエ!!」

 

 目にも留まらぬ速さ、息もつかせぬ勢いで、自らの試験官であるオールマイトを相手に、爆豪との見事なコンビネーションでもって戦っていた。

 

「HAHAHAHAHA!! すごいじゃないかお2人さん、こう言っちゃなんだが、完璧に予想以上だ……おじさんびっくりだよ! こりゃ油断できないなこっちも!」

 

 爆豪は、『爆破』による凶悪な攻撃力――オールマイトを相手にするには心もとないと言わざるを得ないが――に加え、驚異的な反射神経と、『職場体験』及び『ワーキングホリデー』で培った戦闘技能を生かして攻める。

 余程実りある時間を過ごせたのだろう。爆破そのものの威力はもちろん、大火力を出すまでに必要な時間も、一瞬で発揮可能な火力も、その扱いも、体育祭以前とは段違いに上がっていた。

 

 一方の緑谷は、『フルカウル』による超人的なフィジカルに加え、『デウス・ロ・ウルト』の中で手にした格闘技能、サー・ナイトアイとの稽古でさらに錬度を増した先読みの技能――『直観力』、工房で改造を繰り返して強化したサポートアイテムの数々、そして、依然正体不明の『感情感知(仮)』の能力、それら全てを使いこなし、爆豪に呼吸を合わせつつ、一歩も引かずに立ち向かっている。

 迸る緑色の火花、その力強い輝きが、以前に増して力をつけていることを如実に物語っていた。

 

 時に炎で、時に黒煙で、時に閃光で視界を奪う補助攻撃もかみ合わせつつ、タフネスに物を言わせて、本当に30分続けるのではないかと思えるほどに攻め続ける爆豪。

 

 スピードとテクニックで翻弄しつつ、的確に隙を突き、また爆豪の隙をこれも的確にカバーし、ここぞという所で痛打足りうる威力の拳や蹴りを叩き込んでくる緑谷。

 

 大威力の『爆破』を叩き込まんとする瞬間、迎撃に動く拳を緑谷が迎撃して――それも力で正面から迎撃するのではなく、関節や重心などを上手く使って――強引に隙を作る。

 

 爆発によってできた煙……煙幕の向こうから、爆豪が突っ込むのとは方向もタイミングもずらして、『デラウェアスマッシュ・エアフォース』による空気弾が飛んできて呼吸を乱す。

 

 『閃光弾』の光を腕で防御した直後、がら空きになった横合いから痛打が叩き込まれる。しかもご丁寧に、腕を防御に使ってしまって対応できない方向から。

 

 手加減しているとはいえ、オールマイトの拳を驚異的な反応速度で爆豪が回避し、その向こうから緑谷が突っ込みつつ……片手を使って爆豪の体勢を立て直させる。

 その直後、緑谷の攻撃が防がれると同時に、立ち直った爆豪が攻撃を加え……距離を取ろうと飛び退った先には既に緑谷が回り込んでいて挟まれる。

 

(いや本当に油断できないなコレ! まあ火力自体はどうにかなるにしても、コンビネーションが凶悪すぎるぞ……熟練のプロヒーローチームでもこうはいかないってレベルだ!)

 

「君達……いつの間に仲直りしたっていうか、コンビネーションの練習なんてしてたの? いや、生徒の仲がいいことは先生として喜ぶべきことだろうけどさ、最近まで全然そんな気配無かったから、ちょっとびっくりしたよ」

 

「仲直りだぁ!? んなことしてねえよ気持ち悪ィこと言うなオールマイト!」

 

「同じくです! こんな感じの試験で、かっちゃんとのコンビだって聞いてたらまあ……事前にちょっと何かしらしてたかもしれませんけど、今日初めて知りましたし! それに……」

 

「事前に知ってたからってんなことするわけねーだろうが、調子乗んなデク!」

 

「かっちゃん相変わらずこんな感じなのでそういうの無理です!」

 

(てことはコレ本当に即興のコンビネーション!? いや、どっちかっていうとそれを意識してるのは緑谷少年だけで、爆豪少年はあくまで自分が戦いやすいように戦ってるってだけみたいだし……流石に緑谷少年を巻き込む攻撃とかは避けてるし、最低限合わせるようにはしてるみたいだけど……つまり、厳密に言えばコンビネーションですらなく、上手いこと戦い方をかみ合わせてるだけ……!? どれだけ相性がいいんだこの2人!? たったそれだけでここまで化けるのか!)

 

 試験前に開催された職員会議。

 そこで、緑谷と爆豪のチームの試験官を任されたオールマイトに、相澤が提示した『課題』は……『仲の悪さ』だった。

 

 幼少期からの因縁……微笑ましいとはお世辞にも言えないそれを持つ2人は、ことあるごとに対立しており――というよりは一方的に爆豪が緑谷に突っかかっており、緑谷はただオドオドしているのだが――協調性のかけらもない。

 

 緑谷は割と人がいいため、人付き合いは……得意ではないが避けるわけでもなく、友人もまあ、少ないわけではないし、気の置けない仲間も何人かできている。優しさや正義感の強さ、そして最近急激に実力を伸ばしている優秀さも相まって、彼をよく思う者は増え続けている。

 

 爆豪は誰にでも強く出るが、その能力や生来の完璧主義な性格、意外と高い学力や、目的達成のためなら努力を惜しまない向上心、一度決めたことはやり遂げる責任感の強さなどのギャップもあり、切島を始め、そのあたりを評価し慕う友人は少なくはない。

 

 2人共、それぞれであればうまくやれる、組んで戦える者はいないわけではないのだ。

 

 ただ、この2人が組むということにおいては、正直、下手な先生でもさじを投げたくなるくらいには『最悪』だろうというのが多くの教員の見立てだった。

 

 加えて性格の差による……予想される立ち回りの違い。これも大きい。

 

 誰が相手だろうと逃げるなどありえないという、闘争心の塊である爆豪。この試験でも、『重りを装着する』というハンデは彼にとって挑発。まず間違いなく向かってくるだろうと予想できた。

 

 対して緑谷は真逆だ。リカバリーガールの言葉を借りれば、彼にとってオールマイトは『神にも等しい』存在。憧れの対象であり、相対するとなれば最大級の脅威。すなわち、選択は逃げの一手。

 

(ぶっちゃけ私もそう思ってたんだけどな……爆豪少年はともかく、緑谷少年に関しては、見事に予想を外された! 様子を見つつとはいえ、正面から来るとは……しかも、それだけじゃない)

 

 2人の息が抜群に合っている……だけではない。

 ただ『喧嘩しない』というだけでは……仮に、緑谷が自分の感情を押し殺して攻撃に移るというだけであれば、ここまでの見事なコンビネーション(結果的に)は生まれないだろう。

 

(間違いない。2人共、足りないと思われていた点の1つが既に改善されている! 爆豪少年は、好戦的かつ直情的過ぎるあまり冷静さや周囲への配慮を欠くという点が……。緑谷少年は、頭だけでものを考えがちで、時に自分から飛び込んでいくことも必要だという積極性……すなわち、『考える前に』ではなく、考えてなお動くことを必要とすることがあるということへの理解が……!)

 

 どんどん勢いを増していく、2人の生徒の攻撃をさばきながら、自分で考えて理解した内容に、改めてオールマイトは、静かに驚愕する。

 

 『ワーキングホリデー』で行った先の、エンデヴァー事務所。そこで爆豪は、『職場体験』に引き続き、爆破そのもののコントロールと……それに加えて、戦い方、動き方……そしてそれら全てに関する心構えというものを教わった。

 

 自分の管轄下にある市街地の全てを理解し、把握しているエンデヴァーは、日常のパトロール1つとっても、そのけた違いの実力というものをいかんなく見せつけた。

 

 憮然とした態度で町を偉そうに闊歩しているだけ……かと思えば次の瞬間、悲鳴が響くより早く動き出す。

 炎を圧縮して超加速し、一切迷わず現場へ駆けつけ、犯罪・事件・事故が起こってから即座に……時には『起こる前に』それを叩き伏せてしまう。しかもそれにあたって、犯人の逃走経路の制限や周囲の安全確保に至るまで、全てを冷静に考えて即座に最適解を導き出し、実践する。

 

 自分が1つをこなす、あるいはどうこなそうか考える間に、全てが終わっている。あまりの完璧な仕事ぶりに、爆豪はもちろん、一緒に行っていた轟も何も言えなかった。

 

 そこにいたのは正に、『No.2』の名にふさわしい実力と実績を持つ、正真正銘の英雄だった。

 

『管轄の町を知りつくし、僅かな異音も見逃さず、誰よりも早く現場へ駆けつけ、被害が拡大せぬよう迅速に処理。野次馬がいれば怒鳴りつけてでも遠ざける……以上全てを常にやる』

『ヒーローとして世に出るならばこれは基礎中の基礎だ。最初からすべてこなせとは言わん、だがいずれは意識すらせずできるようにならねばならん。1つ1つ積み重ねてものにしろ』

『間に合わなかった時に言い訳などできん。学生と違って、ヒーローが失敗した時に落ちるのは、成績ではない……人の命だ』

 

(要するに『全部完璧にやれ』『できるようになるまで、できること全部やって努力しろ』ってことだろ! そんなんでいいならいくらでもやったらァ!)

 

 これだけ見事に『差』を、『事実』を見せつけられてしまえば、最早言い訳など効かない。するつもりもない。

 自分に足りていなかったもの、見えていなかったものの存在を、その大きさを、歯を食いしばりながらも受け止めた爆豪は、今日にいたるまで必死に『積み重ねて』来た。

 

 幸いと言っていいのか、自らもハングリー精神と上昇志向の塊であり、息子である轟焦凍に『覇道』を歩ませるべく指導に当たるつもりだったエンデヴァーの教育方針は、スパルタもスパルタ、そして実践的……というか『実戦』そのものであり、経験値は膨大だった。

 持ち前の学習能力と相まって、それら全てを力に変えて、爆豪はどんどん成長していった。

 

(一方で緑谷少年……『デウス・ロ・ウルト』とやらで力に磨きをかけたのに加え、ナイトアイのところでも相当揉まれたようだな! 動きの端々に、彼の『予測』の影が見えるよ!)

 

 短期間に急激に実力を伸ばし、出来ることを増やしていながらも、それらほぼ全てを確実に自分の『力』にする形でものにしている。持て余しているもの、死蔵しているものを作らず、今の自分にできる最善の扱い方を熟知し、それらを組み合わせて最善手を導き出している。

 

 勝手は違うが、サー・ナイトアイとルミリオンに叩き込まれた『予測』のノウハウ。それをさらに『直観力』と組み合わせることで、『見る前に動く』戦いをさらに昇華させ、

 

 そこにさらに『感情感知(仮)』を組み合わせることで、対戦相手であるオールマイトはもちろん、爆豪の動きも常に把握して最善の動きを、連携をし続ける。

 

 それらを全て円滑に、最大効率でこなすことを可能にしているのは、さらに出力を上げた『ワン・フォー・オール』と、その動きと戦闘を最大限支援するコスチューム、そしてサポートアイテムの数々である。

 

 空気弾に指向性を持たせるグローブ、しっかりと地面や壁面をつかんでブレない靴の裏、打撃に威力を持たせつつ肉体を保護する、アーマー兼サポーター。驚異的にしてなおも『未完成』なコスチュームに搭載されたギミックの数々が、緑谷の戦いを強力にサポートしていた。無論、緑谷自身の努力あってこそのものではあるが。

 

(しかし何より……この目!)

 

 オールマイトは爆豪の爆破を受け流し、その隙を絶妙なタイミングで突くべく突貫してくる緑谷を迎撃すべく向き直って……その瞬間、緑谷と目が合う。

 もう何度か既にこの試験中に見ている、緑谷の目。彼の、自分に向けるまなざしは……あがめ、憧れる対象を見るような目ではない。

 

 驚いたことにその目は……今、共に戦っている爆豪と同じ、あるいは非常に近い目だ。

 自分のことを、超えようとしている……向上心やハングリーさを宿した、力強く燃える目だ。

 

 言っては何だが、緑谷が自分にこういう目を向けてくるということ自体、オールマイトにとっては驚きだった。リカバリーガールの言っていたことは、オールマイトとしても『あながち間違っていない』とすら思えるほどに、普段の緑谷は、オールマイトを尊敬、いやむしろ崇拝していた。

 

 それが今は、敬意を感じないわけではないが、本質が違う。きちんと憧れた上で……その上で、自分を超えようとしている。

 自分のことを……いつまでも輝き続ける太陽のような、至高の存在、絶対不可侵の『平和の象徴』ではなく、今は背中を見ているが、いずれば追いつき、そして超えていく壁として見ている。

 

(見据えてくれている、ということだ。私の、その先を……。自分が征くべき道を、未来を……! HAHAHA……先を行く者として、こんなに頼もしくて、そして嬉しいことはない!)

 

 ともすれば、不遜な考えになるのだろう。もう長いこと、国内外に名を知られる『平和の象徴』である自分に向かって、『超える』という意思を明確にするなど。

 

 しかし不思議と、オールマイトは……憧れにキラキラと光を宿した目で美辞賛辞を並べられるよりも、燃える炎のような強い目で拳をぶつけてこられる今の方が、喜びは明らかに強かった。

 何も語らずとも、彼の本気を、決意を感じ取ることができて、心が躍った。

 

(しかし、どうあれこの変化は予想以上だ……。順調な成長が自信につながったか……あるいは、ナイトアイが何か言ったのか? 『予知』のことを言ったわけじゃないと思うが……聞いていたら、緑谷少年100%顔に出るし、聞いてくるだろうし。また栄陽院少女か……? あるいは、他に何か、きっかけになる出会い、ないし出来事でもあったのかな……?)

 

「いずれにしろ……成長自体は喜ぶべきこと。ならば私も、全力で応えよう!」

 

「アァ!? 何か言ったかオールマイト!?」

 

「いや、何でも? HAHAHA……さてじゃあ、もうちょいギア上げていくぜ有精卵共! どこまでついてこれるかな!?」

 

「上等だ! ついてって追い抜いてぶち殺したら!」

 

「かっちゃん! これ試験、試験だから! 単なる喧嘩じゃなくて達成条件あるから忘れないで!」

 

「うっせぇわーってるわんなことは!」

 

 成長は嬉しい。気になることもある。

 しかし、それを喜んだり考えたりするのは後に回して……オールマイトは拳を握り、笑顔の裏で闘志を燃やす。また1つ……どころではなく、2つも3つも成長し、着実に自分のいるところに迫りつつある2人を導くべく……先達として、今は立ちはだかるために。

 

(あの頃が、遠い昔のようだ。周囲の、緑谷少年の成長を認められず、当たり散らして暴れ回っていた爆豪少年……まったく個性の制御が効かずに毎度自爆し、考えることもやることも危なっかしかった大変だった緑谷少年……本当に、短い期間でよくぞここまで……)

 

 『緑谷少年が大成する時は、きっとそう遠くない』

 

 かつて、自分で言ったことだった。しかし、それをこうも目の当たりにすると、また格別に思うところがあるのも事実。

 

 ならばここで自分が尻込みなどして、その勢いを衰えさせてはならない。残り火ではあるが、今ある力の、その全力でもって彼らの意思に応えようと、オールマイトは全身に力を込めた。

 

 ここまでの彼らを見守り、育ててきた者として……最後までその背中を押してあげようと。

 

 

 

(……あ、でも私、実際はあんまり彼らの成長に関与できてない気が……エンデヴァーとか栄陽院君の関係者に任せっきりで……ま、まあそれはさておき……少なくとも今は! この試験の試験官として! どうせなら彼らの全力を発揮してもらって、それを見極めさせてもらうとしようか! より一層、今後の糧になるようにね! HAHAHA!)

 

 

 

 ふと頭によぎった余計な考え、ないし残酷な現実は、とりあえず流して。

 

 

 

 




緑谷(超魔改造)と爆豪(エンデヴァー指導)、原作より爆発的に成長している2人。結果、こんな感じになりました。
喧嘩して戦えないんじゃなく、喧嘩しながらも互いに邪魔はしないで戦ってます。違和感あったらすいません。
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