TSから始まるヒロインアカデミア   作:破戒僧

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第93話 TS少女と13号

「おや、ようやく来ましたね。栄陽院さんだけか……麗日さんはどこかで隠れているのかな?」

 

「まあ、ご想像にお任せします。すいません、交渉事や腹芸が得意じゃないので、会話は最小限になるかと思いますがご了承ください」

 

 出口付近で警戒しつつ待ち構えていた13号。

 その眼前に……永久は姿を見せた。隠れている様子はなく、正面の扉を通って堂々と。

 

 あまりに露骨すぎる『何か企んでいる』という気配に、ひとまず様子を見る13号。依然として姿の見えない麗日のことは、もちろん警戒しつつ。

 

「あははは、正直ですね……まあいいでしょう。時間はもう折り返しを過ぎてるのに動きがないから、ちょっと心配してたんですよ。このまま何もしないつもりかと思って。こうして出て来たってことは、何か作戦が考え付いたのか……今までは作戦会議をしていたんですか?」

 

「いえ、恋バナしてました」

 

「恋バナ!? 試験中に!? 何で!?」

 

 予想外の返答にさすがに驚く13号。

 これも何かの作戦かとすぐに警戒するも、あまりにもしれっと答えられた上、どことなく気まずそうな、申し訳なさそうな雰囲気を漂わせる永久に、『え、まさか本当に?』と冷汗をかく。

 

「あー……えっと……ちゃんと作戦会議もしましたんで、大丈夫ですよ?」

 

(ってことは恋バナの方も本当ってこと!? い、いや落ち着け……そういう作戦というか、こっちの集中を乱すための嘘かもしれないし……)

 

「あ、あははは……ま、まあプライバシーには立ち入りませんから大丈夫ですよ、ご自由に。話はその……盛り上がりましたか?」

 

「まあ、盛り上がったと言えば盛り上がったんですが……」

 

「…………?」

 

「……三角関係って、思ったよりめんどくさいもんですね……」

 

「さんかくかんけ―――!?」

 

「はい、いわゆるトライアングルです。……ともすれば、四角形(スクエア)になりそうですが……」

 

「!?!?!?!?」

 

「いや、現時点で下手したら既に……5、6……いや7……? 結構怪しいんだよなあの人も……あと、あの子は……8……いや年齢的に……まだいいか」

 

 話が思ったよりドロドロし始めた。

 何だトライアングルって。何だスクエアって。むしろ聞いたことない。

 そのあと言ってた数字は何だ? 5? 6? 7? 8? 何の数字だ。聞くのが怖い。

 

 これ本当? 嘘? ていうかむしろ嘘であってほしい、フィクションであってほしい。割と無視できないトラブルなんじゃないのか、大丈夫かコレ、ヒーロー科で何が起こっているんだ。

 先輩、相澤先生、イレイザーヘッド何とかしてください、担任として。いや正直望み薄だけども。こんな問題あの人にどうにかできるとは思えない。

 

 そんな感じでいくつもの困惑に満ちた考え方が、13号の脳内に浮かんで消える。

 

 もちろん、全てブラフである可能性も高い、というか何度も言うがそうであってほしいというのは13号もわかっているが、一旦頭に浮かんでしまった、しかも妙に生々しい疑問が離れない。

 

「あ、ちなみに13号先生にお聞きしたいんですが。参考までに」

 

「な、何……?」

 

 警戒しつつ次の句を待つ13号。何が来ても動揺しないように。

 

「ハーレム、ってどう思います」

 

「やめなさい栄陽院さん! たとえそれが仮に作戦の類だったとしても、年頃の女の子がそんな、言っていいことと悪いことってありますからね! 誤解されたらどうするの、もっと自分を大切にしなさい!」

 

 半ば悲鳴じみたお説教を始める13号。最早これが本当かどうかなど頭になく、冷静な思考も8割方吹っ飛んでいた。目の前の美少女が発した、あまりに18禁な話題に頭が茹で上がる。

 

 もしかしてミッドナイト先生が何か入れ知恵した結果変なことを覚えちゃったんじゃないか、とも思い始めていた。あの人18禁ヒーローだし。

 なお、酷い誤解というか、冤罪である。1から10まで永久の自前の性癖なのだから。

 

 しかし彼女もヒーローである。意識の中、確認できる範囲で何か不穏なことがあれば、即座に頭を切り替えて冷静になれるだけの能力を持っていた。

 

 具体的には……ヒーロースーツに搭載されているセンサーが発した、電子音に。

 

「……!」

 

(やべ、気付かれたか?)

 

 彼女は単純な戦闘よりも、災害時などの人命救助を専門分野、ないし得意分野とするヒーローである。ゆえに、その宇宙服のようなヒーローコスチュームも、それに対応した機能を持っている。

 

 見た目通り『防護服』と言えるだけの防御力及び機密性があり、粉塵やガス、高温・低音の環境下でも活動できるようになっている。森林火災や、有毒ガスが発生した事故現場などでも、瓦礫の撤去や負傷者の救出などを行うために。

 簡易的なものではあるが、そういった物質を感知するためのセンサーも備えており……その機能が今、反応した。

 

 即座にクレバーな思考を取り戻した13号は、ヘルメットの端のディスプレイ部分に表示されている項目を確認して、驚く。

 

「これは……可燃ガス!?」

 

「バレちまったらしょうがない!」

 

 その瞬間、永久はポケットからライターを取り出し、点火して投げつける。

 すると、それが落下するよりも、そしてもちろん13号が『ブラックホール』で吸い込むよりも先に、空気中に漂っていた、13号曰く所の『可燃ガス』……正確には、気化した燃料に引火し、勢いよく燃え上がる。

 

「ちょっ……燃え……」

 

 しかし、爆発的に燃えはしたが、充満していた分が燃焼しただけで、数秒でその炎は収まる。

 当然ながら、それだけの時間では、13号のスーツに遮断されてしまい、『ブラックホール』で吸い込むまでもなくダメージは通らない。

 

 ただしその燃焼の瞬間、永久……と、物陰に隠れていた麗日が、かなり大きな包みのようなものを放り投げて……それらは空中で破れて中身を……手あたり次第に詰め込まれたと思しき、紙くずや布切れ、木くずといった『燃えるもの』をまき散らす。

 そしてそれらは、まだ消え切っていなかった炎に引火して燃え上がり――もともと燃料が染み込まされていたのか、勢いよく燃える――濛々と煙を上げる。

 

(……! これが狙いですか!)

 

 どのみち熱でダメージを受けることはなさそうだと思っていた13号だが、その煙で視界がふさがれつつあることに気づく。

 

 しかもその直後、煙で見えないその向こう側で、ガガガガッ! と何か……硬い者が刺さるような音がして、即座に13号は煙の除去に動く。『ブラックホール』を発動させ、周囲を覆う黒煙を吸い込んで視界を晴らしていく。

 

 すると、その向こうに見えたのは……

 

(やはり、栄陽院さんが何かして……あれは、何だ? ロープのような……いや、あれは……ザイルか! まさか、山岳エリアから持ってきたのか!?)

 

 煙に紛れて永久は、13号の見立て通り、山岳エリアから持ってきたザイルとピック……断崖絶壁を登る時などに使う、命綱と、それを壁面に打ち付けて止める留め具のようなものを、繋げていくつも施設の壁に投げつけていた。

 強化した腕力で投げつけられたそれは、壁に深々と突き刺さっている。それらを足掛かりに、そこをそのまま登れそうなくらいに。

 

 ただ奇妙なのは、本来の使用用途のように、上に向かって刺しているのではなく……横に、横切るように刺していることだが……即座に13号は、その意図についても見抜いた。

 

(まるで、出口に向かって……そうか、アレを伝っていくことで、僕の『ブラックホール』の吸い込みに対抗しようというわけですね……! さっきの黒煙は、その準備のためのわずかな間の目くらまし……燃料と可燃ガスは、こちらは火災エリアから持ってきたのか。でも、そう簡単にはいきませんよ!)

 

 出口近くまで投げられて刺さったピックとザイル。それを伝うようにして、永久は跳躍し、一気に13号の横をすり抜けるようにして出口へ向かう。

 13号はすかさず『ブラックホール』の引力を向けるも、ごくわずかに引き寄せられるような挙動が見えるだけで、永久はびくともしない。そのまま、壁に打ち込んだザイルを伝って進んでいく。

 しかも、吸い込みながら気づいたことが1つあった。

 

(ザイルを支えにしているにしてもあまりに引っ張りが弱い……そうか、麗日さんか……彼女の『個性』を上手く使われましたね)

 

(思ったより引っ張られない……やっぱり先生の『ブラックホール』、重力を操ってものを吸い寄せてるってところは本家本元と同じか!)

 

 永久は跳躍の直前、麗日に触れてもらい、自分の重さをゼロにしていた。

 その状態で進むことで、『重力』によって物体を吸い寄せる『ブラックホール』の影響下から外れることに成功していたのである。ものの重さそのものがなければ、いかに強力な重力であっても、吸い寄せることはできない。

 

 もっとも、全く吸い寄せられないというわけではない。

 

 重さがゼロということは、それだけ『軽い』ということ。それはつまり、風などにあおられやすいということだ。

 

 例えば、『ブラックホール』によって、直接永久を吸い込むことはできなくとも、その周囲の空気などを無差別に吸い込めば、そこにできる空気の流れ……つまりは風に巻き込まれて、体重が軽くなっている永久も吸い寄せられてしまう。

 それを防ぐために、永久はザイルとピックを使ったのだ。

 

 よく考えられた作戦だ、と感心する13号だが、それでもまだ、この作戦には穴がある。

 

 13号は、道半ば程まで進んだ永久ではなく、永久が投げつけたザイルとピック……その、出口付近に打ち込まれたものに集中して『ブラックホール』を向ける。

 すると、遠かった分打ち込む力が足りず、刺さりが甘かったのか、あるいは位置が悪かったのか……数秒ほど吸引をかけたところで、ピックが抜けて吸い込まれていく。

 

 吸い込まれたザイルとピックはどちらも塵になってしまうが、しっかり打ち込まれていた分のそれは吸い込みを逃れ、壁に残った。

 

(狙いはよかったですが、詰めが甘い。力が足りなくて、こうして引っこ抜かれてしまっては意味がありません。残念ですが、オマケしてあげるには少しミスが大きすぎました……ね?)

 

 壁に残ったザイルと永久に『ブラックホール』を向けようとして……しかしその時だった。

 

 

 ―――ピピッ  ザアアァァアアァア―――ッ!

 

 

「なっ……!?」

 

 

 先程の煙によってだろう、施設に備え付けのスプリンクラーが作動し、視界を悪くするほどの量の水が周囲に降り注ぐ。そのせいでヘルメットの表面が濡れ、さっきと同じかそれ以上に13号の視界が悪くなった。

 

(っ……煙は、火災報知器を作動させる目的もあったのか! まずい、ヘルメットは撥水加工してあるけど、水滴量が多すぎて純粋に視界が悪い……いや、でも、大体の位置ででも吸い込み続ければ、出口までのザイルがもうない以上、栄陽院さんもすぐには動けないはず……)

 

 13号がそう考えた瞬間……無数の水滴の向こう側で、永久が動いた。

 

 なぜか永久は、逆上がりでもするかのような要領で、ちょうど上の足場の手すりがある部分に上がると、折角のザイルを放し、そこの床に両足をズン、とめり込ませるように突き刺した。その場に自分を固定してしまった。

 そして……よく見ると、彼女はその体に、壁についているそれとは別に、もう1本ザイルを結んでいる。その先端は……先程まで永久と麗日がいた場所のあたりに続き……麗日がその先端を腰に結んでいた。

 

(ッ!? まさか、彼女達の狙いは……最初から、栄陽院さんがゲートをくぐるのではなく……!)

 

 13号はそこで、永久と麗日の作戦にきづいたが……もう遅い。

 

 

「麗日ァ、行けェェエエェエッ!!」

 

 

 その瞬間、永久が思い切りザイルを引っ張り……その勢いで引っ張られた麗日――自身とザイルに『無重力』発動済み――は、『ブラックホール』でも捉えられないくらいに高速で13号の遥か頭上を通過し、そのままゲートに突っ込んで『脱出』した。

 

 そして脱出後、ご丁寧に腰のザイルを切って、完全に内側とのつながりを断つ念の入れようだ。

 

「なるほど……栄陽院さんは自分も含めて、僕の目と足を止めるための目くらましでしたか……。いや、コレはやられましたね」

 

「13号先生が相手だと、そもそも『戦う』って選択肢がなかったですからね……こうでもしないと勝ち筋が見えませんでした」

 

 

『麗日・栄陽院チーム、条件達成!』

 

 

 一拍遅れて、アナウンスが鳴り響き……試験終了を告げる。

 それを聞いて、ようやく気を抜けた永久は、床から足を引っこ抜いて、その場に座り込んで脱力した。

 

 ゲートの奥に飛んでいった麗日は……トイレに走ったようだ。

 自身を軽くするのは負担が大きい上に、あの速さで投げ飛ばされたのだから……無理もないが。

 

 ひとまず試験は終わったということで、13号からの『お疲れ様でした』という言葉を受けながら、永久は少し休んでから医務室に向かおうと決めたのだった。

 

(そういやさっき、準備中に……緑谷と爆豪もクリアしたって放送流れたな。オールマイト先生に勝ったのか……すごいなー……カッコよかったんだろうな……リプレイ見せてくんないかなー……。あーでも何か、リカバリーガールの声がちょっとあきれた感じになってたのが気になるけど……)

 

 そしてすぐにそんな思考にシフトするあたり、永久はいたって平常運転であった。

 

 

 

 余談だが、

 

「と、ところで栄陽院さん? そ、その……さっき話してた、恋バナとか、三角関係とかなんとかって……アレ、僕を油断させるための嘘ですよね?」

 

「うん? ああ、あれですか……ご想像にお任せします」

 

「ちょっと!? 明確に否定してくれないとその……流石に困るんですけど! 先生として、その……そんな特大の問題を投げっぱなしにされても! ねえ! 栄陽院さん!」

 

「嘘っていうか、作戦のための冗談ですから安心してください。既存のストーリーにちょっとそれっぽく手を加えただけです」

 

「な、なあんだ冗談か……って、既存? えっと、どういう……」

 

「……最近の漫画雑誌とかその類って、結構過激な上なのが多いですよね。どっかのラブコメとか、男主人公1人に対して、脇役含め女の子がもう何人も同時に……最早モラルハザードっていうか、無自覚のままハーレム上等で引っ掛けまくってて5股、6股状態っていうか……」

 

「あ、ああ、そういう意味ね……そっか、そういうのを参考に……なるほど、よかった。うん……よかった……ホントよかった」

 

「………………」

 

 永久は、嘘をついた。

 

 いや、嘘はついていない。確かに話した内容は『既存』のストーリーであるし、最後の漫画雑誌の例えは、何のつながりもなくただ昨今のラブコメについて語っただけなのだから。

 

 しかし、『頼むからブラフであってくれ』とひたすら願っていた13号は、深く追求せずに、明言されなかったにもかかわらず、『問題なし』として話を終えてしまうのだった。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 時は少しさかのぼり、別な試験会場にて。

 

『あー……緑谷・爆豪チーム、条件達成……ってことにしとくよ、しゃーないから』

 

「あ、はい……ありがとうございます、リカバリーガール……」

 

「「………………」」

 

 試験終了、合格のアナウンス。

 待ちわびていたであろうそれを聞いたにもかかわらず……試験場に漂っている空気は、微妙、と言うしかないものだった。

 

 さらに言えば、アナウンスのリカバリーガールの声も気の抜けている者であり……『ってことに』以降はマイクをこの試験場のみにしぼって流していた。

 

 その理由は……今にもブチギレ寸前といった表情の爆豪と、気まずそうな苦笑いを浮かべている緑谷、そして、いつものスマイルがどこか引きつっているオールマイト……その3人の視線の先にある、あるモノが原因だった。

 

 そこに落ちていたのは……金属製と思しき、何かの残骸。

 小さい欠片のようなものだが、見た目に反してかなり重いのか、落ちたところの地面が割と深くまで陥没し、めり込んでいる。

 

 ところで、この試験においては、教師たちは生徒達と戦う際のハンデとして、超圧縮した重り(デザインコンペで発目明のデザインを採用したもの)を、総重量が自分の体重の半分になるように装着することとなっている。見た目のコンパクトさに反して、非常に重く作られているそれを。

 

 ……もうお分かりだろう。この『残骸』が何なのか。

 

 悲劇は、1分ほど前に起こった。

 

 およそ10分強に渡って、ほぼノンストップで壮絶な戦いを繰り広げていた、緑谷・爆豪チームと、試験官のオールマイト。

 

 リカバリーガールが『こいつらハンドカフスか脱出かって条件忘れてんじゃないだろね?』と若干不安がっていた前で、緑谷が動く。

 

 10分を超えてなおオールマイトに隙を見いだせなかった場合……体力の残量を考えて、流石に絡め手を取らなければならないと判断していた緑谷は、事前に『どうしてもだめだと思ったら各自の判断で最善だと思うように動くことにするから』と爆豪に確認を取っていた。

 その上で緑谷は、自分が持っていたあるものを使った。

 

「かっちゃん!」

 

「あ!? ……っと……!?」

 

 オールマイトにわざと見える位置で投げ渡されたそれは、確保用のハンドカフス。

 

 やはり緑谷が持っていたのか、とオールマイトが納得する一方で、それを爆豪に投げ渡したという事実が多少なり驚きだった。てっきり、それをかける役目は……ルールとはいえ絡め手に通じるものの扱いは、爆豪が好まないゆえに、緑谷がするものだと思っていたからだ。

 何せ爆豪は、実技試験での確保テープすら使いたがらない男なのだから。今は幾分改善されているとはいえ、その我の強さ、プライドの高さは折り紙付きだ。

 

 流石に息が上がり始めていた爆豪は、その直後……面白くなさそうな顔をすると、手にはめていた籠手を使って最大威力の爆破を放つ。

 

 オールマイトは、それを防御してなお、ほぼ無傷だ。しかし、流石に爆風とそれによる土煙、そして轟音で、視界と耳がきかなくなった。

 もっとも、煙自体はパンチ一発で容易く晴らせるだろうが……何か嫌な予感がしたオールマイトは、警戒しつつ周囲の様子をうかがっていた。

 

 すると、ガガガガガ……ボボボボボ……という音が、かなり離れたところで聞こえていた。

 

(……! HAHAHA、こりゃ一本取られたぜ緑谷少年……ここに来て『逃げ』にシフトとは!)

 

 すぐさまオールマイトは、拳の爆風で煙を晴らす。

 するとそこには、誰もおらず……全速力で『出口』に向かって走っていく、あるいは飛んでいく2人の姿があった。

 

 ハンドカフスのパス。アレによって、いかにもこれをどうにかして使う……と印象付けた状態で、爆豪の爆破で目と耳を潰す。比類ない攻撃力を持つ『最大火力』を、目くらましのためだけに使う。

 

 そしてそれと同時に、全速力でその場を離れて……『脱出』によるクリアを狙ったのだ。

 

 逃げたことを責めるつもりもないし、そんなこともできない。きちんとしたルールにのっとった行動である。

 さらに言えば、残りの体力を鑑みて速やかに打てる手を打ったその判断力は、それ自体が十分に評価対象と言えた。

 

 ハンドカフスの思考誘導と合わせて、見事な戦略だ。

 

 だが、そう簡単にクリアはさせないとでも言うように、オールマイトは足に力を込め……アスファルトを蹴り砕くほどに力強く地面を蹴って跳躍。数百mの距離をゼロにして、一気に緑谷達に追いつき……その事実に2人を驚愕させ……

 

 

 ――バキン、ぼとっ

 

 

「へぁ?」

 

「あ゛?」

 

「……アッ……」

 

 

 地面を蹴った際、一気に足に力を込め過ぎたがために、筋肉が膨れ上がったのと……蹴った際の衝撃で……装着していた重りが壊れて外れ、落ちてしまった。

 

 そして、今に至る。

 

 

 

「ふっっざけんなァァアアァア!!」

 

 

 

「あー……ごめん、ホントごめん」

 

「あ、あはは……し、仕方ないですよ。その……わざとじゃなかったんだし」

 

 緑谷・爆豪ペア、期末試験結果……合格。

 

 備考……試験官であるオールマイト教諭のミスによる反則負けのため。

 

 なお、それまでの戦闘において、両者ともに実力は十分であることが確認でき、懸念されていた事項は一応の改善が見ることができたため、そのまま合格判定とする。

 

 体育祭に引き続き、『望まぬ勝ち』で試験が終わってしまったことに……爆豪はただ、空へ向けて怒りの咆哮を響かせるのだった。

 

 

 

 




緑谷と爆豪の戦いにはオチがついてしまいました……ホントごめん。
でも、あの人色々抜けてるとこあるから、こうなってもおかしくないと思ったのと……これ以外にいい感じでの終わり方思いつかんくて……

あと、理由もう1つ。君らこの後まだ出番あるから(ぼそっ)

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