TSから始まるヒロインアカデミア   作:破戒僧

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第96話 TS少女と地下迷宮

 

「ねえねえ永久、どのアトラクションから回ろっか?」

 

「そのセリフだけ聞くと単に遊園地に遊びに来てる感じになるよな……まあ実際にアトラクションなんだけど……。ここから近いから5番だな。えーと、あそこにあるのは……『雄英地下迷宮』……迷路か」

 

「おお、ちょっと地味だけどテーマパークっぽい……っていうか、アレ? なんで場所と番号だけじゃなくて、アトラクションも知ってるの? 地図に書いてないよね?」

 

「雄英の施設である以上はデータベースに乗ってるだろ? スマホでダウンロードして調べた。適宜地図と照らし合わせて見てこ」

 

「おー、心強い」

 

 そんな感じで、特に急ぎはせず、かといってだらだらもせず、駆け足でその『5番』のエリアに行く、芦戸と私。

 

 ほどなくしてたどり着いたそこには、検索した通り『雄英地下迷宮』というアトラクションがあった。

 そして、入り口のところに待っていたのは……

 

「やあ、よく来たね芦戸君に栄陽院君。歓迎するのさ!」

 

「校長先生でしたか……」

 

「ま、また……!?」

 

 一次試験にて、見事に芦戸と上鳴を赤点に叩き落した、根津校長だった。

 芦戸はトラウマ……とは言わないまでも、やはり前回のことがある以上、不安は拭えないようで……顔色が悪い。それでもやる気は消えていないので、大丈夫だとは思うが。

 

 げっ歯類に怯えて後ずさる芦戸に構わず、校長は早速とばかりに話を始める。

 

「それでは早速、君達の必須課題の1つ目、この『雄英地下迷宮』で行う模擬戦の様式を説明するのさ。よく聞くように。……といっても、迷路なんだからやることは1つだけどね。入り口から入って、出口から出てくる。これだけさ」

 

「……あれ? 今回は脱出一択? ハンドカフスとかそういうのないんですか?」

 

「ああ。今回のコレは『模擬戦』と銘打ってはいるものの、前回の試験のように直接的なバトルばかりではないのさ。あくまでそれぞれの生徒に自分の『課題』を見つめ直させることが目的だからね。ただ、全く僕が何も関わらないわけじゃない、適宜妨害を行うから、それらを突破して迷路から脱出するのが君たちの目的さ」

 

 芦戸の顔色はまたちょっと悪くなった。多分、試験の時の鉄球クレーンからの崩落コンボを思い出している。

 

「障害物迷路ってわけか……。どんな障害物が出てくるとかは?」

 

「教えるわけにはいかない。ただ、障害物の中には戦闘を要するものも含まれる。その場合は壊して構わないよ。でも、それ以外の備品や、迷路の壁とかを壊すのはNGだ。減点対象、最悪失格になるから注意するようにね」

 

「なるほど……迷路そのものを障害物として破壊するのはNGと」

 

「うん、さらっと普通にそういう発想が出てくるあたりに軽く戦慄してるのさ。まあ冗談だと思いつつ言うけど、2人共『個性』の加減を間違うとそうなりやすいから注意してね。故意でなければある程度は見逃すけど、迷路の壁に傷をつけたりして目印にするのはNGとさせてもらうよ」

 

 他にいくつか説明を受けた上で、私達は迷路の入り口に案内され、そこで一旦校長と別れる。私達の『妨害』を行う準備のため、別場所に行くとのことだ。

 

 そして、入り口で待機していた私達は……そこに設置されていたランプが赤から青に変わったタイミングで、迷路に入った。地下へ通じる、薄暗い階段を下りて。

 

 中は、レンガや石材の壁で形作られている……ように見えるが、実際はそうじゃないな。合金やその他の別な、強度的に問題がない素材で作られてるようだ。

 壊そうと思えば壊せるレベルの強度でしかないが、それは禁止事項なので普通に歩いて進む。

 

「……芦戸。初めに言っとくけど、それやめた方がいいぞ。多分無駄だから」

 

「え、何で? これって迷路の必勝法じゃないの?」

 

 と、左手を壁につけたまま、その通りに歩いて行く……いわゆる『左手法』で迷路を攻略しようとしている芦戸に、声をかけておく。きょとんとして、不思議そうに聞き返してくる芦戸。

 

「入り口入ってすぐに、一番外側の壁に手をついていけるならそれもありなんだろうが……多分、今回のこの迷路には通用しない。私ら、地上から階段降りて、そこからスタートしたろ? そこから見える範囲の壁が、一番外側の壁である保証ないからさ」

 

 例えば、さっきの階段降りた位置が、迷路のど真ん中の部分だとすれば。

 そして芦戸が今手をついている壁が、外側の壁……すなわち、出入り口と絶対につながっている壁だとは限らないとすれば、意味はなくなる。

 最悪、1つの区画とか柱の周りをぐるぐる回るだけになりかねない。

 

 ……そもそも、階段降りて始まった迷路だ。出口も同じように階段であり……一番外側の壁自体が、出口と一続きでなく、囲い以外の意味を持っていない可能性だってある。

 

「え、ってことはどうやってこの迷路攻略するの?」

 

「……地図もなし、必勝法も使えないとなれば……片っ端から歩いて探って出口を探すしかないだろうな。その過程である程度でもルートを覚えてられれば……幸いというか、敷地面積からして、小さくはないが、べらぼうに広いってわけでもない規模だと思う。あてずっぽうでも何とかならなくはないだろうが……というか芦戸、それを考え―――」

 

 

 ―――がこっ、ごごごご……

 

 

「「……ん?」」

 

 ふと妙な音が聞こえて……芦戸と私は、同時に振り向いて後ろを確認する。

 するとそこには、さっきまでは絶対になかった大きな空洞が壁にぽっかりと口を開いていて……

 

 

 ――ゴロゴロゴロゴロ……!

 

 

 そこから、通路全てを塞ぐほど大きな鉄球が転がって出てきた。

 

「「んなベタな!?」」

 

 インデ○ージョーンズかよ!? 何、妨害ってこういう感じですか校長!?

 何か罠とか踏んだ感覚もないし……見てるだろコレさては。

 

「うわーん、また鉄球ー!」

 

「ネタっていうか仕掛けが古典的過ぎだろ……下がってろ芦戸! ぶっ壊す! 勢いがつく前なら、フルパワーでならなんとか……」

 

『ああ、栄陽院君、そのギミックは『戦闘』には含まれないから破壊はNGだよ。逃走一択さ』

 

「ならなそうだから逃げるぞ芦戸!」

 

「ガッテン!」

 

 つーかやっぱり見てたし、聞いてたな校長!

 

 貴様ッ、見ているなッ!? ……ってネタやってる場合じゃないって、逃げろ――!!

 

 

 

 その後、どうやら追尾機能がついてるか、あるいは校長が遠隔操作しているらしい鉄球にめっちゃ追い回され――曲がり角でカーブして追ってくるって斬新だな――ようやくそれが去ってくれたところで、一回休憩することにした芦戸と私だが……

 

「……ここまで歩いたルートとか、覚えてる?」

 

「全部忘れた……調べ直しだ」

 

 しかし、それからしばらくの間……調べては妨害が入り、完全に、あるいはほとんど道がわからなくなって努力がパァに、というのが繰り返され……否応なしに、私も芦戸も悟った。

 

 この『迷路』、運任せで闇雲に進んでちゃダメだ。きちんと計画を練って、考えて動いて攻略する必要がある。

 恐らく、校長の……というか、試験の狙いはそこなんだろう。

 

「そっか……私、期末では何も考えずに闇雲に、壊される前に走れみたいなことしかできなかったから……結局道全部塞がってタイムアップになって……ここでもそれじゃダメってことか」

 

「話聞いた感じだと、きちんと『勝ち筋』は残されてたんだろ? 校長にも、壊すわけにはいかない場所とかあっただろうし……自分が乗ってるクレーンの基部とか、その近くとかさ」

 

「そういうことか……でも、迷路なんてどうやって攻略すればいいの~? 道全部覚えてられるほど、私頭よくないよ……」

 

「全体の広さや現在地もわからずにそんなことができるのは、プロヒーローまで含めてもむしろ少数派だろうな。うちのクラスじゃ、八百万なら何とかってレベル……いや、全体の広さはわかるか」

 

 地図を取り出して再度確認する。縮尺から考えて……広さ、形は……ほぼ四角形、一辺は長くとも300m程度。広さ自体はさほどないな……まあ、遊園地にアトラクションとして置くには過剰だろうが。

 ただ、似たような見た目の通路が多く、また傾斜のついた道や段差・梯子の上り下りがあって上下移動があるせいで感覚をつかみづらいのが問題ってことだ。

 

 マッピング……地図を書いて通った道を記録すること自体は禁止されてないから、そうする手もあるが……それだってもう何度もあったように、妨害で位置がわからなくなるだけですぐに意味がなくなっちまうし……

 

「ゲームみたいに上画面から見てやれればまだできる可能性あるのに……」

 

「んな無茶な。カメラでもなきゃ無理だろそんなん……いや、地下迷宮なんだからあっても無理か。上から見るってことができないし。せめて何か目印になるようなもんでもあればいいんだけど、壁も床もほぼほぼ全部同じ形なんだもんなここ……遠近感おかしくなる……」

 

 高速道路とか、同じような景色が延々と続いてる場所を走ってたりすると、徐々に脳の思考能力や集中力が低下していく『感覚遮断』という状態になることがある。その感覚に近い。

 普通の道路であれば、信号機とか特徴的な看板とか、適度な『刺激』がある分大丈夫なんだが……この迷路の構造に加え、よく見えないこの薄暗さがそれに拍車をかける……。

 

 常に道を覚えて、集中し続けて攻略するのは至難の業だぞ……と考えていたところで、芦戸がはっとしたように、

 

「ねえ、それならさ……何か目印、ないし目標になるようなものがあれば、その……『マッピング』だっけ? 地図、作りやすいんだよね?」

 

「そうだけど……この迷路ホント何もないぞ? ギミックは壊せないし……私も芦戸も、荷物は最小限にしてるから、仮に無くしたりした時のことを考えると、何かここに置いて行くのは……」

 

「それなら大丈夫、考えがある。……目印には、永久がなって!」

 

「……は? 私?」

 

「そう!」

 

 どういう意味だ、と困惑している私に対し、芦戸は今思いついたらしい作戦を話していく。

 

 今私達は、幸か不幸か、多くの道に通じている十字路に立っている。ここを基点にマッピングを行うという作戦だ。

 

 しかし、歩きながら、歩いた道を少しずつ記録していって地図を作るのではなく、今言った通りここを『基点』にする。

 ある程度歩いて道を調べたら、ここに戻ってきて、立ち止まった状態でゆっくり、なるべく正確に道順を記録して地図を書く。そしてそれができたら、また道を調べに行く。

 

 その繰り返しで、ここを基準点にしたある程度広範囲のマップを作り、これ以上は難しいってとこまでやってから初めて移動する。そしてそれを、別な場所を基準点にして何度も繰り返すことで、マップを埋めていくというものだ。

 

 なるほど……今までは、来た道自体のマップはできてても、妨害でひっかきまわされ、その位置関係とか方角が分かんなくなって結局おじゃんになってたけど、ある程度の塊を作れれば……元々ある程度にしか大きさ自体はない迷路だ。攻略の日の目も見えてくるはず。

 

 でも、その目印が私ってのは?

 

「永久が言った通り……私達の荷物とかコスチュームの一部を目印に置いてっても、なくしちゃうかもしれない。行った先で妨害にあってここに結局戻って来れなくなるかもだし。だったら、目印自身が場所を教えてくれればいいと思うの! 遊園地のアナウンスみたいに、わかりやすく!」

 

「つまり、私はここに立って待ってろと?」

 

「そう! そして、道を調べるのは私がやる。戻って来れなくならない程度にだから、少しずつだろうけど……確実にマップを作っていけば、その分動ける範囲も広がるでしょ? もし途中で妨害にあったりして、道がわからなくてここに戻れなくなったら、大声出すから永久もそれに答えて声出して! それを頼りに私、ここまで戻ってくるから!」

 

 ……なるほど、悪くない手だ。それなら、歩きながらやるより確実性あるだろう。私自身が目印になれば、この場所を見失う確率も低い。

 時間はかかるが……この『迷路』の試験は、特に制限時間とかは設けられていない。全体の制限時間である24時間っていう部分さえ破らなければ……極端な話、数時間単位で時間をかけることも可能だ。

 

 欠点としては、私と比較して芦戸の負担が大きくなり過ぎることだが……

 

「いいんだよそんなの! 元々私の試験なんだから……それに……」

 

「それに?」

 

「……私、頭あんまりよくないから……このくらいしか思いつかないもん。この作戦だって……昔、家族で遊園地に行った時に、迷子になってどうしようってなった時のことを思いだして作った程度のものだし……」

 

 聞けば、パレードを見ている最中にはぐれてしまい、家族の居場所どころか、自分が今どこにいるかもわからなくなってパニックになりかけたことがあったんだそうだ。けれどその直前に行った、遠くからでもわかるくらいに目立つ、音も光も派手な、それでいて芦戸自身も気に入ったアトラクションの位置はわかったので、そこへ向かったら、家族と合流できたそうで。

 

「だから、自分で考えたことくらい……ううん、自分でできることはとにかく何でもやってみて、経験を積んで色々考える材料にしたいの! 小さい頃のことがヒントになって今回みたいに、一応とは言え作戦思いつくなんてことがあるってことは、色々経験して知識にした分だけ、こういう時に作戦考えるのに有利ってことでしょ? 私には、そういう時の冷静さとかはもちろん……その辺の能力も、もとになる経験や知識も足りてない気がする。だから……こういう機会を生かしたい!」

 

「……なるほどな。わかった、その『目印』は私が引き受ける。芦戸はじゃあ、ここを中心にしてあっちこっちを走り回って調べて、少しずつ地図作ってこう。調べる時に無理はするなよ、もっと行けるけどこの辺で戻ろうかな、くらいにしておくのでちょうどいいはずだ。妨害とかくらって0になるのが一番もったいないし。まあ、そうなったらそうなったでまた調べればいい話だけど」

 

「了解! じゃあ、長期戦覚悟で行くってことで……行ってきます!」

 

 吹っ切れた……とは言わないけど、きちんとやるべきことを見据えて、それでいてなおやる気を燃やして取り組む姿勢を見せる芦戸。駆け足でルートを調べに行くその背中を、私は……同級生にこういう感情を抱くのもアレだが、ほほえまし気な視線と共に見送った。

 

 この光景を見ているであろう、校長先生は、どんな風に思ってるんだろうな、なんて考えながら。

 

 

 

(どうやら、きちんと学ぶべきことは……少しずつだけど理解し始めてるみたいだね。相澤君も、いい指導をしてくれているということかな。けれど、それでも一度赤点になってしまったのは事実……取り組む姿勢と意欲、向上心は見ることができた。ここからは実際に何がどのくらいできるかを見させてもらうとするさ……期待しているよ、未来のヒーロー達!)

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 Side.緑谷出久

 

 まんまと瀬呂君と分断されてしまった。

 瀬呂君の性格を、とっさの動きの癖を、見事に利用されて……

 

 今頃瀬呂君は、海難ヒーロー・セルキーと、そのサイドキックの人達を相手取っていることだろう。

 必ずしもガチの戦闘ってわけじゃないから、やり方次第では勝ち筋はあると思うけど……それでも、プロを、それも複数を相手に1人でっていうのは苦しいどころじゃないはずだ。

 

 だから、一刻も早く加勢に行きたいのに……この3人が、それを許してくれない。

 

「おっ? 今もしかして、瀬呂のこと心配した?」

 

「っ!? な、何で……」

 

「けろ……緑谷ちゃん、割と表情でわかりやすいもの。特に他人の心配とかする時はね」

 

「確かにな。悪いけど……もうちょっと私らにつき合ってもらうよ、緑谷!」

 

(梅雨ちゃんに、取陰さん……拳藤さんまで……3対1での足止め……厄介すぎる!)

 

 ごめん、瀬呂君。……合流、まだもうちょっとかかりそうだ……!

 

 

 

 

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