恐ろしい事やでTwitterは……
そこはとても寂しい場所だった。
何処までも何処までも広がっている黒い海。空を見上げれば暗く、まるで太陽覆い隠しているかのような黒く暗い球体が天上にあった。
そんなおおよそ明かりのない世界、海面と海上が溶け合って境も何も無いかのような世界で俺はただ一人舟に乗る。
櫂もなければ帆すらない、そんな波が少しでも荒れてしまえば容易く裏返ってしまいかねないような軟弱極まりない小舟でこの黒い海を漂い続ける。
何も無い。
この海には何も無い。
俺という人間なんぞ、この世界にとってはあってないようなものだろう。だからこそ、俺はこの世界が心底寂しい世界だと思った。ここには生命がない。
ここにいるだけで俺は身体が冷たくなっていくかのような感覚に陥る、いや違う段々と俺の身体がこの海や空気と、何もかも世界そのものに融けていく感覚が満ちていく。
四肢の末端の感覚が現に曖昧になっている。
嗚呼、ダメだ思考すら崩れていくように感じる。どうしてこんな世界にいるのかは分からない。どうしてこんな世界が存在しているのかは分からない。
これが現実なのか夢幻の出来事なのかも分からない。俺には何もわからない。
このまま俺は世界に融けていく。
何もかも知らないままに消えていく。
ただただ無為に消えていく。
本当に?
何も無いのか?この世界には。
この黒い海と黒い空と黒い太陽以外に何も無いのか?
違う筈だ。
何も無い世界で俺みたいな人間が紛れ込むわけが無い。ましてや、こんな舟が都合よくあるなんておかしいだろ?
これが現実なのか夢幻なのかなんてものはどうだっていい。きっと、この世界には
俺を呼び寄せたのか、それとも紛れ込んでしまった原因がいるのは間違いない。途端に俺は、俺の中の冷たくなっていく感覚が霧散していったのを理解した。
この世界に融けていく事で俺は違和感とは言えないがほんの、ほんの僅かに何かを感じ取った気がした。だから、俺は立ち上がった。
末端が融けてる為に身体がふらついているが問題無い、一歩前へ踏み出すと、途端に舟が揺れ始めた。
舟の重心が変わったからだろうがそんなものは関係無い、俺はまた一歩前へ出る。
そうすれば、にわかに静寂さを保っていた海が波たち始めたのを感じた。
一歩前へ。
海が段々とその揺らめきを激しくしていく。
身体がより融け始める。
前へ。
風が吹き始める。
舟が激しく揺れていく。
前へ。
手の感覚が無くなってきた。
まるで何もするな、と言わんばかりのそれらに俺は何故かは知らないが笑っていた。そして、俺は気がつけば、舟から飛び降りていた。
何もかも融けていく黒い海に堕ちていきながら、俺はただ笑えた。別に何かがおかしかっただとか、面白いものが見つかったとかではない。そりゃあ確かに何らかの意思すら感じるほどの静止を振り払って自ら海に飛び込んだのは何とも痛快であるが、それでも笑うことにはならないだろう。
だから、多分きっと、これは何が原因で笑っているのか、と言うと…………きっとそれは自分の意思を曲げなかった事だろう。
要は結果ではなく過程の問題。振り払って飛び込んだという結果ではなく自分の意思を曲げないという過程が俺には何よりも重要だった。
だから、俺はこの海に消えても構わない。意思を曲げなかったのだから、俺はそれでいい。
ああ、消えていく。融けていく。混じっていく。
出来ればこの世界にあるだろう何かを見てから融けていきたかった──────
《──────ほう》
──────────────────
頭が痛い。
寝て起きたら軽い頭痛とか何とも今日は朝っぱらから最悪だ。昨晩、何かこう頭痛になるような事をしてただろうか?
飲酒?まさか、俺は健全な高校二年生。不良……あまり素行が良いわけではないがそれでも不良と言うほどでもないし基本的に法律は護る主義だ。
何かに集中でもしたか?例えば…………いや、知恵熱とかじゃあねえだろうけども、いや多分あれか。どうせ、資格の勉強の影響でも出てきたか?ここ最近根を詰め過ぎて、修学旅行を体調崩して参加出来なかったぐらいだからな。
いや、間違いなくそんときの崩したもんが後を引いてるだろ。
「はぁ……たっく、夜更かししてまで勉強するもんじゃねえな」
俺はベッドから起き上がって壁にかけてある時計を見る…………………………はい?
なんだ。なんですか?
視界にヤバいのがいる。いる?……いや、いるのか。
え?朝起きたら俺の部屋になんかヤバいのがいた。
見た目は、そうなんて言えばいいのかとにかく生物っぽくはないというかこう滑らかな無機質的?そんな感じの黒い身体で……顎?顎なのか?ともかく顎から腹の辺りが白くて、なんか眼?と口?多分牙っぽいの生えてるし多分口であってると思うけどもそれらと身体の三ヶ所ぐらいが腹側から伸びてる菱形を横に繋げて途中から帯のように後ろに伸びた変な部分が金色な…………蛇?あれって蛇?いや、蛇っぽいし……でも足生えてる。
と、とにかくなんか黒と白と金色な二本足の蛇っぽい何かヤバいのが俺の部屋に置いてあるテーブルの前に陣取ってる。というか座ってる。
多分大きさは足の長さ的に多分目測一メートル弱……いや、でけぇなオイ。
え?ぬいぐるみかなんか?いや、だとしてもまったく知らないぬいぐるみがあったら怖ぇよ!?ここ住んでるの俺だけだよ?俺が一人暮らししてるアパートの一室だよ!?何!?季節外れのサンタかなにかでも来たの!?何がメリークリスマスだよ、嬉しくないんだけどもォッ!!??
あ─────コッチ見た…………いや、見んなよ。
《あ、どうもアポプスです》
「あ、ハイ。どうも」
喋ったァァァァアアアアッッッッ!!!!????
一人鬼ごっこなんて怖くて出来ないです!?やめて!帰って!?何も覚えがないんで帰ってくれませんかねぇぇ!?
「えっと、粗茶ですが」
《ああ、どうも御丁寧に》
唐突な会合からかれこれ十分ほど。
発狂しかけた俺は何とかアイデアロールを失敗させて発狂せずにすんだものの、間違いなくSAN値は削れたのは理解出来る。あ、いや、そんなのはどうでもいいんだよ。今重要なのはそういう事ではなく、俺の対面にいるこの生き物?蛇もどき?…………アポプスさん?の事だ。
急いで現実に戻った俺はすぐさまベッドから出て、台所からお茶を引っ張ってきた。お湯はあったから良い感じに、頑張ってお茶をいれてアポプスさんの前へと出してからこうして彼の対面に座った訳だが、彼……いや、彼なのかは知らないけども。いや、声が男っぽいから彼でいいか。
正直、手がない彼がどうやってお茶を飲むのか凄い気になるけども……これ、不機嫌になって俺殺されないよね?
あ……なんか、黒いの出てきた……え、なにそれ……触手?あ、湯呑み持って……あ、飲んだ。
《ふぅ……美味しい》
「あ、ありがとうございます」
良かった……これで不味いから死ねとかなったらどうしようか、と思ったわ。
《さて……改めて自己紹介をしようか》
「あ、はい。えっと、浪岸玄斗です」
《私は『
……はい?ドラゴン?え?は?ごめん、俺死ぬの?
いや、この際見た目は何も言わないよ。でもさ、普通に生きててドラゴンに会う日なんて来る?普通来るわけねぇよ、もう死じゃん。
明白な運命だよ、これ。とりあえず来世はドイツ人に生まれて毎朝ソーセージ食べる日々を過ごしたい。ヴァイスヴルスト食べたいわ。ミュンヘン行きたい。
《実は今日から君と過ごす事にしました》
「うーん、死ぬ」
《生きて》
全てを理解した。
きっとコレは何か抗えぬ運命なのだ、と。
今日から俺とアポプスさんの一人と一匹?体?の奇妙な生活が始まってしまった。
登場人物紹介
・浪岸 玄斗
陵空高校、二年の男子高校生。現在はアパートで一人暮らし。
資格の勉強に励んでいたせいで修学旅行を体調崩して行けなかった。
素行が良いわけではないが決して不良ではなく、少し不真面目ないたって普通の一般人。朝起きたらとーとつにアポプスさんが部屋にいた。
お茶が好き。抹茶も好き。抹茶アイスとか宇治金時とかが大好き。
・アポプスさん
『原初なる晦冥龍』こと二天龍クラスの邪龍の一体。本作ではいったいぜんたいどういう事か、マスコットキャラクターな本来の姿とはまったく違う姿をしている。
これまた不明だが玄斗の部屋に住むことを決めた。
和菓子に興味津々だそうです。