久々のアポプスさん投稿です
とーとつにエジプト神、アニメ化楽しみです
そこは闇の中だった。どうしようもないほどの深い深い闇の中。
光なんてものはどこにも存在せず、すべてが闇というたった一つの概念に融け込んだ世界。
そんな闇の中で唯一の例外があった。
「(ここはどこだ……)」
まるで海に揺蕩うように闇の中で一人、揺らめき沈んでいっているのか、それとも浮上していっているのかわからずただ揺蕩うだけの存在。
浪岸玄斗は闇に呑まれることなく、微かにある意識でここが一体どこなのか、とろくに回らない思考を回しながら考えていた。無論、こんな闇の中で思考は回らず、より一層考えが纏まることもなくただただ無意味に揺蕩うだけである。
だがしかし、それでも玄斗は思考を回して回して少しずつ考えを纏め始めていた。
なにも、一気に考える必要なんてないのだから。
「(暗い……そこにあるのに、指も見えない……闇……海、みたいだ)」
海のような闇。
なるほど、確かに玄斗の表現は間違えていない。
事実、この闇に融け込んでいるといったが、決して何もないというわけではない。少なくとも、玄斗にはまるで水の中にでもいるような感覚が纏わりついており腕を微かに動かせば水をかき分けるような感覚すらあるのだから。
では、次に考えるのがここがいったいどういうもの、なのか
闇の海?それは空間的な話であり、ここがどういうものなのかの答えではない。
「(融けていくような闇、だけどもどこか温もりを感じるそんな優しくて冷たい闇、だ………)」
普段ならば考えないような表現が脳裏に過りながら、玄斗は考える。より深く、深く、思考に没頭して答えを探す様に……。
どれほど考えただろうか。
一分?それとも十分?いや、もしかすれば一時間は考えていたかもしれない────もしくは数秒もかからなかったか。
そうして、考えその果てに玄斗は一つの答えに達した。
「(これは、多分、あれだ。本当だったら、俺も、この闇に融けてもおかしくないようなものだ。それでも、俺は融けていない……これは優しいモノなんだろう)」
自分を害そうとするものではなく、自分を守っているものであると理解し玄斗はそのまま子供が揺り篭で眠るように身を委ねて────
「いや、ちがう、だろ」
闇の中で空気を零しながら浪岸玄斗は否定した。
この安らぎを得れるはずの、温もりすら存在するこの優しい闇を押しのけた。
「優しい、のはいい。温もり、があるのはいい。安らぎ、があっても別にいい」
闇を掻き分けながら、玄斗は否定していく。
「でも、違うだろ。それに甘えておんぶにだっこ、何もかも委ねて全部投げ出すのは違うだろ」
少なくとも自分は嫌だ。
そう口にして、この闇から抜け出そうとして、同時に視界に一つ光が生じた。
恐らく、頭上、闇の外より何か光り輝く太陽のようなものが見え、それに玄斗は手を伸ばして、世界は回転した。
《余だよ》
《余だよ》
《余だよ》
《余だよ、ラーだよ!!!!》
《あれ?????いない???????》
───────────────
《起きなさい》
「クフおッ!?」
唐突に腹部に突き刺さった痛みに俺は空気を吐き出し悶絶する。一体全体どういうことなのかはわからないが少なくとも声からしてアポプスさんの仕業であることなのは間違いない。
俺はやや眠いながらもなんとか、眼を開いて────微かに右眼に違和感を感じた。だが、その違和感について思考を回すよりも先に俺が寝ていたベッドの傍らに待機していたアポプスさんが口を開いた。
《まったく、寄り道をしないほうがいいと言わなかったかな?》
「うっ、それは……」
アポプスさんの言葉に俺はつい先ほどの記憶が鮮明になっていくのを感じ、それが決して夢の出来事ではなかったのを理解した。
俺は同じ学校、陵空高校の生徒の姿をした誰かとそれに付き従っていた怪物に襲われたという事を。
《私が君を迎えに行ったからよかったものを……》
「申しわけないと、思ってます、はい」
ため息をつくアポプスさんはいつもの触手を伸ばしながら手鞠サイズほどの黒い人形みたいなものでお手玉を……ってナニそれ。
その謎の黒い物体に俺が固まると同時にふと腹の方から視線を感じてそちらへと視線を───嫌な予感しかないが───向け、そこにはアポプスさんが遊んでいる黒いのと同じものがこちらを見上げていた。
「ヒェッ」
これはナンデスカ?
なんか足生えてるし、どこかアポプスさんみたいな金の眼と口模様がついておられるのですが……あ、え?神話生物?
それは、あの、ショゴス的な……あ、エジプト神話の混沌そのもの……ふーん…。
「うっそだろ、おまえ」
《私の権能である混沌をこねて作った私の眷属、通称こんとん、だよ》
「こんとん……平仮名にすればかわいいとか思ってない?」
《かわいいだろ、私の子だぞ?》
「名前と見た目以前に出どころが厄ネタすぎる……!!」
確かに見た目は可愛らしい。それは認めよう。
だが、原料というかそもそもの正体が混沌って、おま……古今東西、神話における混沌なんてどれもこれも厄ネタどころの話じゃないんだが。
ギリシャのカオスしかり、メソポタミアのティアマトしかり、中国の渾沌しかり、なんなら創作神話の這い寄る混沌しかり、どいつもこいつもおおよそまともとは言い難い。
《まあ、そんなに心配する事でもないさ。彼らは少なくとも君や私の命令に忠実だ。それに彼らを作ったのも君のそれの為でね》
そう言って、アポプスさんは俺へ触手を突き付ける……違う、突き付けているというよりはこれは指している?
俺の顔……っ、そうだ。
「確か、俺、右眼を……!」
あのドーベルマンもどきにやられた筈。そんな言葉が俺の口から零れるよりも先に目覚めたときに感じた違和感の正体に気が付いた。
そうだ、俺は右眼を失ったはず。
にもかかわらず
「どうして、右眼が見えているんだ」
《ケータイの内カメラを使うといい》
そう言って、手渡された俺のケータイを開いて言われた通り内カメを使って俺は自分の顔を見る。
「っ……」
そこに映っていたのは自分で言うのは何だが、こうクラスの中じゃあ三番目ぐらいには整っているであろう自分の顔。だがしかし、右眼とその周囲の肉がまるでキャンパスにぶちまけた黒い絵の具か何かのようにただただ黒く、そして時折忘れていたかのように脈打っていた。
息が漏れる。
背筋が冷えていく。
いったい、これは何なんだ────
《混沌だよ。私が支配するのは闇と混沌、君の失った右眼を治療する権能を有しているわけでもない。鉢合わせた魔女も完全に機能を失った右眼を治療するには足りないものが多い。故に私が君の虚空に混沌を注いだんだ》
「混沌を……」
《少なくとも、その混沌は君の身体に馴染んでいる。何より、混沌が既に君の右眼の機能を代替している……危険であったからといって君の了承を得ずに行ったことはとても申しわけないと思っているよ》
そう、申し訳なさそうなアポプスさんに俺は息をつく。確かに肉眼を失い、こういった明らかにヤバい代物が代替になったのは確かに嘆くことではあるだろう。しかし、少なくともアポプスさんは悪意ではなく、俺を助けようとしてこれを行ってくれたのだ。
恨むことはできない。
それに何よりも、本来なら俺はもう左眼だけでしかモノが見れなくなるはずだったのだ。
「なら、仕方がない。ああ、仕方がないだろう」
文句など言えるはずもなく、俺はまるでしょうがないなとでもいう様に、アポプスさんに苦笑の表情を向けた。
「そもそも右眼に関しては俺の自業自得だからな……いいさ、アポプスさん」
《そうか……すまない》
俺はいつの間にかによじ登ってきたこんとんを掴んで手元でこねくりまわしながら、ふと気づいたことを口にする。
「ところで、ここはどこなんだ?うちじゃないよな?」
軽く部屋を見回してみるとこの部屋には机といま俺が使っているベッドしかなく、慣れ親しんだアパートの部屋とはまったく違う内装だ。
そして、少なくとも俺の知り合いの家というわけでもないだろう。
ならば、ここはどこなのか。いや、そういえば
「さっき、魔女がどうとか」
《ああ、ここはその魔女が住んでる隠れ家らしい。アパートに運ぶよりも諸々の事情を知る人間のところで起きてすぐ色々聞けるようにと思ってね》
「なるほど」
もしかすればその魔女とやらが敵なのでは?と思いはしたが曲がりなりにも俺の目の前にいるのはエジプト神話が主神の主敵をやっている闇と混沌を司る邪龍────見た目はすっごくマスコットだけども!!
まあ、とにもかくにもアポプスさんがいれば、並大抵の人間それこそ、そういう裏の世界の人間でもそうそう。
《さて……玄斗。その話を聞く前に、問わなきゃならない》
「構わない」
《原因は分からない。もしかすれば私が原因で君をこちら側に連れてきてしまったのかもしれない……いまなら、まだ引き返せるだろう》
「大丈夫だ。アポプスさん、俺は別に大丈夫。そりゃ、確かに不都合なこともあるかもしれないし、大変なこともあるかもしれない。でも、俺はそれでもいいんだよ、アポプスさん」
紛れもない本心だ。
そりゃ、確かにもしかしたら死ぬかもしれないような世界に飛び込んでいくよりは普通の日常に生きるのが一番だと思う。
だが、それは違う。平穏という安寧に浸かってばかりで降りかかるかもしれない火の粉は全て俺のもとに来る前にアポプスさんがどうにかする、なんていう揺り篭なんていらない。
そんなものに沈むよりも俺は自分の足で足掻いていたいのだから。
《そうか……うん、そうか。わかった、友よ。では、君が生きていく術を後程教授させてもらうよ》
「お手柔らかに……」