我が名はメカ博士。人呼んで悪のマッドドクター、デンジャラスドクター、通報されるおっさん、近所の不審者、警察署の常連、逮捕されるのに快感を覚える白髪の眼鏡、白衣着けて歩いていると子供から医者のイメージが損なわれるのでつけるのやめてくださいと近所のおばさんに言われる悲しき――ってええい、上3つ以外はどうでもいいんだよ! ふざけやがって近所の連中! 誰が将来頑張らないとこうなるの末路だ! 絶対許さん!
……っと、吾輩としたことが知性を一瞬失ってしまった。いつもは冷静沈着マッドドクターなのだがね……。
「まあ、前置きはどうでもいい。吾輩はついに完成させた……この、フレームアームズ・ガール――迅雷を!」
吾輩は近くにあったホワイトボードに向かって思いっきり平手をバンッとぶつける。その衝撃で観客代わりに置いておいたロボット風ぬいぐるみがややうご――ああ、椅子から落ちるなバカ!
――ふう、全く座らせるのも大変なのだから崩れ落ちるでないぞ。
「まあ、話が逸れたがプラモではないぞ諸君、吾輩が完成させたのはこの人間と同じスケールの――迅雷、っだ!」
再びホワイトボードをバンッと叩いてみる。――よーし、今度は崩れないな。
そしてロボット風ぬいぐるみの後ろに置いていたカセットテープをスイッチオン。
「はいっ! ハイパーマッドドクター様! なぜ迅雷を人と同じスケールで作ったのでしょうか!」
「はは、聞きたいかロボ六郎。それは吾輩がこの世界を支配するためだ!」
「え、えええ! そりゃウルトラマッドドクター殿でしたらおちゃのこさいさいで楽勝でしょーが、なぜそんなことを!」
「ふっ、それは――人間に復讐するためだー!」
「ふ、復讐だ――いしやーきいもー。おいもー。があったのですかー!」
「そう、それは――――って、外部の音が混じっているではないかー!」
吾輩はカセットテープを乱雑に止める。くっ、この日に自分で声を録音して壮大な感じで起動させようと思ったのに……!
もういい、形から入るなど愚かな一般市民のやることだ。もうとっとと起動させてやる。
吾輩はこの冷えてる感じのカプセルに目をやる。そこには金髪で赤色のパーツでカタチどられている少女が目をつぶっている。
元々このフレームアームズ・ガールを知ったのは、アニメやらプラモとか見ていた時にたまたま目がついただけだった。
だが、そこで閃いたのだ。この美少女を人間サイズで作り上げれば――ハニートラップで世界中の男女関係をメチャクチャに出来るのではないかと。
例えばカップルに、例えば夫婦に。ハニートラップを仕掛け、効かなければ力づくでハニトラ! こうしてあらゆるカップルと夫婦は破局するのだぁ! ついでにモテない連中にも一瞬だけ夢を持たせて美人局っぽいことさせて、女性不信にさせてカップルの発生を防ぐ!
その足掛けに作ったのがこの迅雷! ふふふ、疑われるのもフレームアームズ・ガールを作った会社だ……俺の――吾輩の計画の礎になるといい! うははははっ!
「さあ、起動するがいい! 迅雷! そして歩く18禁としてこの世界で変態になれぇー!」
「誰がなりますか」
「タァミネェイトォッ⁉」
痛い。左頬が尋常なく痛いし吾輩吹っ飛んだ。壁に大の字に張り付けられるぐらいぶっ飛んだ。変な奇声も出したよくそう。
「な、殴られた……親父にも殴られたことないのに!」
実際は殴られたことあるが。言いたかっただけだ!
ああ、そうさ。吾輩は殴られた。今、まだ起動ボタンも押していないのに起き上がっている赤いフレームアームズ・ガール――迅雷に!
「な、なぜ起動ボタンを押してないのに起動しているんだ……」
「知りません」
「何ぃ⁉ なんて口の利き方だ……吾輩、お前のご主人様だぞ!」
「そうですね、ですが……」
「ですが、なんだ?」
迅雷は青い瞳をキリッとさせて、吾輩に指を差す。
「貴方のダメ計画を聞いた今、貴方をマスターとは認めたくありません」
「ダ、ダメ計画ぅ⁉」
吾輩はショックを受けた。自分が作ったロボ娘に向かってダメ扱いされたのだ。そのショックはどん底――な訳あるかぁ! むかっつくムッキー!
「な、んだとこのガール! どこがダメだというのだどこが!」
「全般的にです。ふしだら極まりなく、幸せになる人がいません」
「なるわ! 俺と馬鹿どもが一定期間!」
「ダメです。第一に、こんな酷く歪な計画を行おうとすると一番悲しむのは誰かと思いますか?」
「ぬっ……?」
この人間社会に復讐する計画を行うことで悲しむもの……。
「……家族、か?」
「いえ、私です」
……仏頂面して自分の本位なことを言い切ったぞコイツ……!
「あと、私のファンです。私のイメージを崩されたファンの皆さんはどう思いますか? 悲しみます、えっちな迅雷なんて迅雷じゃないにゃんって言います」
「そんな語尾を発するファンはいねえ」
「ともかく、イメージ的にもえっちなのは禁止、ダメです。健全安全全年齢を目指した、優しい感じの秘密計画に変更しましょう」
「はあ~? ダメ、それこそ却下だ迅雷めが。第一、パンツ一丁のお前がそれ言うのはお門違いにもほどがあるんだが?」
俺がそう指摘すると、顔を赤くさせながら自分のパンツを両手で隠し始める迅雷。
「こ、これはボディースーツです! だからセーフ!」
「ほお、それじゃあその姿で街中を歩き回ってくるがいい」
「そ、それは……! その、そういうのはなんか、えーっと……」
真っ赤な顔でしどろもどろになりうつむき始める迅雷。……ちょっとかわいいな。
ではない、なんかいい感じに悪の科学者になってきたぞ! このまま、言葉責めでコイツを良い感じに吾輩の計画通りに進めて――!
「……くすんっ」
……あっ、涙目になり始めた。
「わ、わかり、ました……は、恥ずかしくないです……行ってきます……」
「そ、そうかー……はっはっは、行ってこいー」
「はい……」
涙声だった。めっちゃ悲しそうな背中で外に出ようとしている。
…………あれは、小学生のころだったか。家の近くを探検していて、なんか一人で何でも出来るような気分で歩き回っていたら迷って涙目になって近所の人に道を聞いたら案外遠くじゃなく近くに家があったという、無残極まりない思い出は。
その背中に今の迅雷は似ていた。全然関係ないのだが、なんか似ていた。だから――。
「……おい、迅雷!」
俺は白のTシャツと青のジーパンを投げ渡す。念のため、一般人に溶け込ます用として迅雷用に適当に買っておいた服だ。
「これは……」
「まだ目立つわけにはいかないからな、まずはそれを着て買い物にでも行ってこい」
「マスター……」
迅雷の俺を見る目が緩む。ぬぐぐ……なんか嫌だぞこの感じは。
「なんだよ、マスターと認めないんじゃなかったのか」
「…………いえ、訂正します。その優しさは私のマスターとして納得の良さです」
「おいおい、勘違いするなよ? まずは実験段階だからな、それが終わったらお前はそりゃもうR18なことしてもらう予定なんだからな」
「……そのいかがわしい思考回路は改善の余地ありですが、心根の良さは先ほど感じ取れましたので気にしないでおきます」
「は、はあああっ⁉」
な、何を言った。何を言ったこの赤ガァール! 俺が、心根いいだとぉ!
「では、買い物にいっていきますねマスター」
プルプルと怒りに打ち震える俺に、渡した洋服をつけた迅雷は少し微笑んで買い物に行った。そう、俺の怒り震える俺を無視してだ。
お、おのれあの迅雷めぇ……! あろうことか俺を良い人扱いするとは、タブー中のタブーに触れやがったぜぇぇ……!
俺はドアを開けて、迅雷の後姿を見つける。
「おい迅雷コラァァ! 脱げ、今すぐ脱いで恥辱にまみれろ! 淫靡に洋服を脱いでまずはそこらのアホガキどもを魅了して全世界の阿呆どもを骨抜きにして、スケベ光線でも撃ち――」
と言い放って、右肩をポンっと叩かれる。誰だ、迅雷に対してR18思考にさせる言葉を吐く吾輩の邪魔をするやつ――。
「おっと、こんにちは博士」
「……こんにちはおまわりさん」
爽やかスマイルを見せる、青い制服のお巡りさん。近所の連中よりもみなされたお顔さ。
……さーて、やれやれ。色々まずいこと聞かれたっぽいし、今日も警察署かな、ふふふ。
思わず太陽を見る。まぶしっ。