昨日はいい日だった。何故か、色々まずい発言をしたが、警察署には連れていかれずにその場の事情聴取のみで済んだからだ。
次から気を付けてくださいよ、と爽やかに言ってきたのでサムズアップして了解って言ってやったが……誰が気を付けるものか! 吾輩は悪のマッドドクターなんだからな!
「また、悪そうなことを考えておりますねマスター」
高笑いしてやろうとした瞬間、鋭い視線をぶつけてくる金髪でポニーテールの赤いロボ娘は迅雷。昨日から起動し始めたのだが、何か失敗してしまったのか真面目ぶったことばかり言うのである。非常に腹立たしい。
「当たり前だ、吾輩は悪の科学者なのだからな。ところで、昨日は素の姿を恥ずかしがっていたくせになんで今はいつも通りなんだ」
正確には、パンツから赤ブルマらしきものに変更されているが。
「普段は恥ずかしい訳ではないですが、マスターと同じサイズであるせいか、人前で見せるには流石に恥ずかし――いえ、適切ではないと思いましたので。
ですが、このブルマであればとりあえず自宅で履いていても恥ずかしくない。そう、とりあえず外ではややダメかもですが家であれば大丈夫かと思った次第です」
「……成程、そうかもしれないな」
「でしょう」
腰に両手を当てて、ふふん、と自慢げな顔を見せる迅雷。……いや、同居人がいるならそんなことないんじゃないか? あれ、俺間違ってるかな。まあいいか。
だがサイズによる羞恥心か。確かに、小さければそこまで目線はパンツに行かない――いや行くわ、誰だってガン見だ。女子も親父もおばさんも誰だって見るわ。
「まあ、もう些細なことと思っておくか……」
「何か言いましたか?」
「言ってない。そんなことよりだ、今日の悪事を考えるぞ迅雷」
「だから嫌だと言ったでしょうマスター。私のイメージはですね、かっこいい正義の赤ニンジャーなんですから」
「そこ忍者でいいだろ」
ニンジャーじゃ、忍者戦隊だの手裏剣戦隊だの忍風戦隊だの思い出すだろ。
「いえいえ、それは駄目です。いつかこの研究所に青ニンジャー迅雷と黄ニンジャー迅雷、ミドニンジャー迅雷、桃ニンジャー迅雷が集まる予定なのでニンジャーでなければいけません」
本当に戦隊ものを想定して言ってやがったぞこの迅雷。ただ、緑はミドと言ってた辺りは評価してやろう。
「はんっ、そんなことはまああり得ないがな。この吾輩以外にお前を半永久的電力システム、人体を模しつつも人間のように温度感や若干の弾力性を持たせるこの技術、そして人間のように考え活動可能な人工知能を搭載させられることが出来るパーフェクトマッドドクターなぞ、この世界には吾輩しかおるまい」
最後の最後で良い子ちゃんぶった性格にならなければ、本当完璧だったんだがな……!
「……マスター、実はマスターは物凄い天才ではないでしょうか」
「天才だよ! 世間の雑魚どもが担ぎ上げて泳ぎ回って駆け回るほどのな! だが、奴らはそれを理解しないのだ……!」
俺は拳を思いっきし握り、歯を食いしばっ……いや、ちょっと軽めにしとこう。思いっきりかみしめると後で反動で痛いことになる。
「それがマスターが世界征服という陳腐なものを考える理由につながるのですか?」
「陳腐ではない。だが関係はしている……そう、アレは吾輩が科学者になった時だ……」
吾輩はこの鉄の箱みたいな実験室の窓を開けて、空を眺める。
「吾輩がまず、科学者になって作ろうとしたもの、それは――――好きな女子を複製して好き放題出来る装置」
「なるほど、逆恨みですね」
「まだ全部話してないだ――うっ!」
迅雷は吾輩を半目で睨んでくる。――同じだ、スケスケビームガンやスカートめくり専用うちわやその他夢と希望とピンクの感情が生み出すエキサイティングな装置を作ると言った俺を見る女性陣の目と……!
「……な、何が悪い! 吾輩はただ、自分の将来の夢を叶えたかったんだ! スケベな装置作ってスケベに不自由しない人生を送りたい、という子供のころの夢を!」
「子供のころから不純すぎます、ふしだら極まりありません。よってアウトです」
と言って野球の審判がアウトの時にやるポーズを決める迅雷。クソ―、野球なら後ツーアウト残ってると言ってもコイツはすぐにスリーアウトチェンジに持ち込みかねない!
「お、おのれこの真面目っ子ガール! 本来ならR18迅雷になっていたというのに……!」
「そうならなかったことは私にとって一番の幸福ですね」
「吾輩にとっては不幸だよ!」
ええい、なぜ人工知能回路が上手く行かなかったのか今でもわからん……! 設計に誤りはなかったはずだというのに……!
「まあ、私を作り出したのは不幸中の幸いですマスター。私の当面の目標は、貴方を真人間にしてあげることに決まりました」
「余計なお世話極まりない!」
「いえ、余計ではありません。世間のため、ひいてはご本人のためになると言わせてもらいます」
「ぐぬぬ……。だが、お前がどう言おうと吾輩はこの社会を許さんのだ。あのエロ虫を見るような女性陣の瞳と本当は賛同したいが女性陣に配慮してダメだという男ども、女に困らないからと爽やかな顔でイケないなとかいうイケメン、否定しつつもその装置を持って自分が使おうとするツインテールの幼馴染のクソババア! ではまずボクが使ってやろうとかいうむっつりライバル野郎が!」
「最後の2人、よろしくない方がいますね」
「いいや、どいつもよろしくないのだ!」
吾輩はホワイトボードをバンッと叩く。――ふふふ、これ、クセになるぞ。
「そう、吾輩はそんな連中を許さん! だからこそ吾輩は悪の道を行き、すべてを闇に飲み込む悪の博士となり、この世界を支配するのだぁー!」
吾輩、拳を握り上に掲げて力説。言うまでの道程はともかく、この言葉は言って見たかった。今まで一人で録音してやってたから、こんな自然な流れで言えなかった――だが、今言えた! これは悪の博士ランクアップ確実! ルーレットで金額もアップ、0円になりませんように! 思わず涙!
「……あの、なぜ涙を流してるんでしょうかマスター……」
「違う、困惑しているようだがこれは嬉し泣きだ!」
「今憎い相手の話をされてませんでしたか⁉」
「その通りだ、だが嬉しいんだ……!」
ああ、そういえば今までここまで俺が悪の博士を目指すことが言えただろうか……! いや、ない。言う機会も無かったし、言っても興味なさそうな連中しか俺と喋らなかったからここまで言えたことはなかった……!
「久々にここまで嬉しい気分になった……ありがとう迅雷」
「えっ、あ、はい」
俺は迅雷の両手を掴み感動を伝える。困惑しつつも、一緒に笑顔を見せる迅雷。
「ふふっ、悪いことに喜ぶのはよくありませんがそういう感じの笑顔はいいですよ、マスター」
「ふふふ、そうかな? なんだか照れくさいなあ。――おっと、気付けばもうお昼だ。外出して一緒に飯でも食いに行こうか迅雷!」
「はい、今のマスターでしたらおともにしますよ」
俺もニコニコ、迅雷もニコニコ。そんななごやかな雰囲気で俺たちはご飯を食べに行った。すきっぷすきっぷらんらんらんらーん!
――――昼飯後、正気に戻った俺は自宅でうずくまった。何がランランらーんだ……! 消えろ数十分前の俺ぇーーーー!!!!