「戦闘がしたいです、マスター」
昨日のことは何か可笑しな怪電波を食らったことにして記憶のゴミ箱に捨て去った次の日、迅雷は急にそんなことを言ってきた。
「戦闘ならそこらの住民に挑めばいいだろう、ハニートラップが出来ない以上、お前に期待できるのはその戦闘能力だけなのだからな」
「むむっ、昨日のお昼ごはんはあんなに穏やかなことを言ってくださったのにもう最初の頃と同じ雰囲気に……」
「おい、昨日のことは掘り返すな」
あんなの悪夢だ。なんか宇宙からの電波を浴びたとしか思えない悪夢だ。
「まあいい、とりあえず何故そんなことを思い至ったか聞いてやろう」
「それは実にシンプルです。私がフレームアームズ・ガールだからです」
「ほう、つまり兵器をコンセプトとした擬人化のキャラクターだから、兵器的な使用方法を行うことが正しい在り方と言いたいのか?」
「違います」
「ふんっ、まあそうだろうな……そこは兵器としてしょうがない話だ……」
そう、このフレームアームズ・ガールとはフレームアームズというロボットを擬人化させた存在だ。轟雷、スティレット、アーキテクト、バーゼラルド、フレスヴェルグなどはそのフレームアームズを擬人化させた存在だ。
ただ、この迅雷は若干違っているらしい。アレだ、轟雷をベースとした改造の作例とした存在が迅雷であり、擬人化していると聞く。詳しくはウェブで調べればいいが、吾輩は調べん。
そんな迅雷はまさしく兵器の血を持つもの、争いを求める破壊の鼓動は抑えられんということか……いいではないか、実に悪のマッドドクターの制作物に相応しい設定……!
「いいだろう、とくと戦闘しろ! そして世界を破壊のどん底に陥いれてやれ迅雷! その戦闘兵器の魂を以てな!」
吾輩は右手をあさっての方向へ突き出し、背中につけた扇風機をONにして白衣をはためかせる。フハハハハ、待っていろ世界め! すべてを破壊し吾輩の天才性、そして恐ろしさを見せつけてやるわ! まずはこのご近所帯になあ!
「だから、違いますマスター」
「お前のキットに入っていた武装は全て作成済みだ! 大鎌でもナイフでも包丁でもなんでも持っていけ! ガンガンやってしまうがいい! ハハハハハハッ!」
「マスター、違います。別にそういう変な設定とかは私にはありません――いえ、もう聞こえてるのにノリで私を危ない兵器扱いしようとしてますね?」
「…………」
……ブオオオオッ、と扇風機が鳴りながら未だに吾輩の白衣をはためかせる。空しくなってきたから吾輩はスイッチをOFFにした。
「そうだよ! その通りだよチクショウ! そろそろ吾輩だって悪の兵器作って暴れさせるムーブしたいんだよ!」
「と言われてもですね……そんなことやったら皆が危ない目になってしまいます。そんなことやるより正義の博士ムーブで必殺逆転の新メカ作る感じのものやりましょう、マスター」
「えっ」
ひ……必殺逆転……! あの、〇〇! これが吾輩の作ったお前たちへの新しい力だ! というのをやっていいというのか……! も、ものすごくやりたい……!
「い……いやいや駄目だ駄目だ! 吾輩は悪のマッドドクター! そんなことは許されん! 却下だ却下!」
「えー」
「えー、じゃない!」
不満そうに顔を膨らませる迅雷。というかこの迅雷、前々から思っていたが普段仏頂面しているくせに何かのはずみで口調も砕けるし表情も豊かになるな。
「……まあ、もういい。今日はその話は保留にしておく。で、破壊行為でなければお前のやりたい戦闘とは一体何だ」
「ふふん、よくぞ聞いてくれましたマスター」
待っていましたと言わんばかりに声を弾ませる迅雷。
「つい最近、私は自分のことがあまり分かっていないのでまずアニメ、フレームアームズ・ガールの1話を見ました」
「ほお、そういえばあったらしいな」
ちょっと前にやっていた奴だったはずだ。1~3年前ほどだったか………………もう数年程度ならちょっと前と言えてしまう年頃になってしまったのだな吾輩。やや哀愁を感じてしまうな……。
「そこでは可愛い女子高生の女の子とフィギュアサイズのフレームアームズ・ガールが出会い、そこからなんやかんやで良い感じの雰囲気になっていき、とっても心が温くなりました……なんといいますか、優しい気持ちになれるというのはこういう気分なんだな……と」
「なんだ、悪の組織がその女子高生の家に現れて破壊行為を行い始めたのか?」
「そんな展開で心温まりません、アホマスター」
「アホォ⁉」
前回は天才と言ったと思えば次はアホだと……! ゆ、許せん……が、迅雷のやつがトゲトゲした目線を送るので少し我慢してやろう。
「……ま、まあ吾輩にはわからんがそういうことがあったということか。それで、なんだ?」
吾輩は顔を伏せがちにメガネを軽く上にクイッとやって迅雷に続けるように聞く、すると迅雷は柔らかめの目に戻して話を続け始める。
「はい、そこでBパートに入り新しいフレームアームズ・ガールと出会うことになり……なんと、その新しいフレームアームズ・ガールと戦うことになってしまうのです!」
「ほお」
吾輩が素っ気なく返事すると、迅雷は予想外と言わんばかりに目を丸くさせている。
「……驚かないのですか?」
「いや、よくある話だろう。フレームアームズ・ガールは元が起動兵器なのだし、戦闘を行うにはもってこいの展開だ」
「そうなのですか……私は驚いたのですが……」
ちょっと肩をガックシさせる迅雷。自分と同じように驚かなかったのがやや残念だったと見える。
「まあ、起動して数日のお前にはアニメーション自体が目新しく感じているのだし、吾輩と印象のギャップがあるのは仕方があるまい。それで、そろそろ本題に入るのだろうな?」
「はい、その通りです。その新しいフレームアームズ・ガールと戦う展開になったのですが……そこではセッションベースという、戦闘を行う場所のようなものを用意して戦っておりました」
「ああ、フィギュアサイズ――現実のフレームアームズ・ガールのプラモデルと同じぐらいのサイズなら、そういうのも提供して戦う展開には出来るだろうな」
「そこで、彼女たちは戦闘に入る前に決めポーズ、名乗りポーズをあげていました。――すごく、カッコいい、感じで……!」
「ほー…………なるほどな――吾輩は察したぞ、つまりお前が戦闘を行いたい理由はその戦闘を行う一連の行動にロマン的な要素を感じてうらやましくなったということだな!」
「! 流石ですマスター! その通りです、その通りなのです!」
ポニーテールを尻尾のように揺らして、笑顔を見せる迅雷。犬にご飯あげるときってこんなんなんだろうなという考えが頭をよぎった。
「流石にセッションベースのようなものは無理だと思っておりますが……模擬戦闘的な感じに戦える場所で、是非ともやってみたいと思った次第です!」
「成程な…………ふむ、確かに今後世界征服を行うにあたっていきなり実戦に投入しても失敗する可能性もあるしな……」
「それはしません」
「ちょっとは吾輩の意見に便乗してノリノリにさせる気づかいをしないか⁉」
「あっ、すみません……では…………そ、その通りー!」
照れくさそうに右手をあげて言う迅雷。……。
「なんだそのノリ」
「マスターが言ったのではないですかー!」
顔を赤くしながら怒る迅雷。いや、確かに便乗しろとは言ったがだからと言ってその通りー! はないだろ……。
「まあ、お前なりにノッてくれただけでもよしとしてやろう。――まあ、既にお前の考えを叶えられるものはある程度そろっているがな」
吾輩はそういってニヤリと笑いつつ、メガネをクイッとあげる。迅雷は吾輩の発言に驚きの声をあげる。――ちょっとうれしい。
「では見せてやるぞ、我が家の地下をな…………!」