今日は学校が終わると、紅音が何故か猛ダッシュで帰っていった。
「あれ?紅音どうしたんだろ」
「夏蓮、気づいていないの?」
え?何に??
「あぁ…夏蓮この手のイベントに疎いもんね……」
何の話だろう……イベント??今日なんかゲームでイベントやってたっけ??
……そういえばネフホロでなんか変なイベントやってたな。
「……バレン、タイン」
「やっと気づいたみたいだね」
ってことは紅音まさか……
「紅音、もしかしてチョコを作るために早く帰った?」
「まぁ、そうだろうね」
え、何それ、かわいい。っていうか恥ずかしい。
「それで?夏蓮はどうするのさ」
どうするって……
「どうしよう…………」
「いや、作ってあげようよ、チョコ。隠岐さんに」
でも、チョコなんて作ったことないしな……
「葉、チョコの作り方教えて」
「別にいいけど…いいの?隠岐さんはきっと自分の力で作ってるよ?夏蓮は僕の力頼っていいの?」
う…それを言われると弱い……
「…別にいい。葉がいなくてもチョコくらい作れる」
「そう?なら頑張ってね」
「うぅ…」
別にいいし。葉がいなくてもチョコくらい作れるし。多分。紅音のためならそれくらいやって見せるし。
「じゃあ私、チョコ作るから先帰る」
「うん。頑張ってね」
言われなくても頑張る。だって紅音のためだもん。
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今日、私はクラスメイトの隠岐ちゃんに頼み込まれて隠岐ちゃんの家に来た。
「で?今日私は何で呼ばれたの?」
「それはね、チョコの作り方教えてもらおうと思って!!」
「えっと…それは、佐備先輩にあげるやつ?」
「そう!!!!」
佐備先輩。最近隠岐ちゃんが付き合い始めた二年生の先輩の女の子。今までは『ずっと男侍らせてる』とか『もはや以心伝心過ぎて夫婦』とか、違う理由で有名だったけど、この間佐備先輩が隠岐ちゃんとの関係性をカミングアウトしてから、一層有名になった。そもそも女子陸上部の期待の星である隠岐ちゃんが有名人だから、学内での有名人二人が付き合い始めたってことで結構話題を呼んだ。
あと、佐備先輩の話を振った時に隠岐ちゃんが照れてかわいいっていうのも結構話題になった。うん。あの隠岐ちゃんは私もかわいいと思う。佐備先輩は鹿尾野先輩のガードが硬くて反応が引き出せなかったけど、隠岐ちゃんと話すときの優しい笑顔がかわいいって人気が地味に上がっている。
「ちなみに、どんなチョコを作るとかって決めてるの?」
「何も!全然決めてない!!」
「決めてないんかい」
「夏蓮さん、どんなのが食べたいかな?」
「私に聞かれても困る」
考え込む隠岐ちゃんの顔は緩みきっていて、とても幸せそう。彼女のためにこんな顔ができるなんて、かわいいなこの娘は。
「佐備先輩の味の好みとかってわかんないの?」
「うーんとね………野菜が嫌い!!!!」
「うん。じゃあ野菜は使わないで作ろうね」
「うん!!」
おぅ。冗談効かせて返したらガチ返事が帰ってきた。え、まさか隠岐ちゃん野菜入りのチョコ本気で作ろうとしてたわけじゃないよね??
「そういえば、隠岐ちゃんはお菓子作りの経験あるの?」
「最近料理はするようになったけど、お菓子は初めて」
へぇ…料理はするんだ。
「料理とお菓子作りはだいぶ違うからな……ちなみに料理はどれくらいするの?」
「毎日夏蓮さんの家に夜ご飯を作りに行ってるよ!!」
毎日!?!?通い!?!?
「……へぇ……そうなんだ」
「うん!夏蓮さん毎日美味しいって言ってくれてね……えへへ……」
「そう…よかったね…」
マジか。そこまで進んでたとは。っていうか隠岐ちゃんベタぼれじゃん。高校生で恋人にここまで献身的な女の子ってそういないよ。
「お菓子作り未経験なら、シンプルな方がいいかもね……ガトーショコラとかどう?」
「どんなやつ??」
「こんなの」
スマホの画面を隠岐ちゃんに見せると、隠岐ちゃんの目が急にキラキラ輝き出したように見えた。
「いい!これ!これ作りたい!!」
「うん。じゃあこれ作ろうか」
「やった!!!」
決定だ。これならお菓子作りに慣れてなくてもそうそう失敗しない。
「とりあえず、材料を集めようか」
「何がいるの?」
「チョコ、卵、バター、グラニュー糖、ホットケーキミックス」
「うん。それなら家にあるよ。他には?」
「以上」
「へ?」
キョトンとする隠岐ちゃん。
「で、作り方は?」
「溶かす、混ぜる、焼く」
「へ?」
再びキョトンとする隠岐ちゃん。
……シンプルで作りやすいしいいじゃん。というか、紅音ちゃんは複雑にするとすぐに失敗しそう。
「……あんまり難しいのは時間間に合わないかもしれないから、シンプルにしてみたんだけど、どう?」
「え、うん!いいと思うよ!」
「じゃあ、とりあえず作り始めようか」
「うん!!!」
そして、不安しかないお菓子作りが始まった。
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私は今、夏蓮さんの家の前にいる。肩に提げたカバンの中にはさっき作ったガトーショコラ。夏蓮さん喜んでくれるかな?ちょっと緊張してきが、意を決して呼び鈴を鳴らす。夏蓮さんはすぐに出てきた。
「いらっしゃい」
「こんばんは!」
「とりあえず、入って」
「はい!」
夏蓮さんに連れられてリビングへと入る。そこには既に葉さんが来ていた。
「葉さん!こんばんはです!」
「うん。こんばんは」
私は、カバンからガトーショコラの入った箱を取り出す。
「あの、夏蓮さん!!」
「ん?」
「これ、頑張って作ってきたので、食べてください!!」
箱を受け取った夏蓮さんが蓋を開けて目を丸くする。
「……ありがとう。嬉しい」
「やった!!!」
夏蓮さんがガトーショコラを冷蔵庫にしまいに行く。帰ってきた時に手に持っていたのは、小さなラッピングされた箱だった。
……あれって、まさか!!!
「私からは、これ」
「………!!!」
箱を受け取ると、期待感で胸がいっぱいになる。
「あ、開けてもいいですか?」
「いいよ。むしろ、今開けて」
丁寧にラッピングを剥がしていくと、ラッピングの下から少しずつ文字が見えてきた。ワクワクしながら包装用紙を剥がす。すると、出てきたのは…………
ーー Nephilim Hollow ーー
……ゲームのパッケージだった。
「ちょ?!?!夏蓮何やってんのさ!!」
「あの、夏蓮さんこれって……」
「…これのバレンタインイベント、紅音と一緒にやりたいなって思って」
夏蓮さんと!!ゲーム!!!いいですね!私夏蓮さんと遊びたい!!
「私、やりたいです!!」
「うん。じゃあやろう」
「はい!!」
「君らがいいならそれでいいんだけどさ…はぁ…」
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「はぁー、面白かったですね!」
「うん。面白かった」
紅音と一緒に挑んだネフホロのバレンタインイベント。内容は、チョコでできたネフィリムに乗ってチョコの武器で戦うといった物………控えめに言って意味がわからなかった。ただ、ネフィリムを持っていない紅音には好都合で、イベント限定ネフィリムを最初から使うことができたから、すぐに戦闘で遊ぶことができた。
「じゃあ、ご飯の準備しますね」
紅音は夜ご飯を作ろうと、キッチンに移動しようとしている。
……と、その前に。
「紅音、ちょっといい?」
「はい?なんですか?」
「ちょっと、キッチンにはまだ入んないで」
「??」
紅音にそう言い残して、私は一人でキッチンに入る。そして、
「これ、紅音にあげる」
「え、あの、これって……」
「バレンタインチョコ。今、やっと固まったできたて」
紅音にそう差し出したチョコは、『紅音の好み、わかんないから』といろんな味のチョコを混ぜたせいで奇妙な模様が浮かび上がっていて、正直、あまり美味しそうじゃない。
……冷静に見ると酷いなこれ。
「多分、美味しくないから。食べなくてもいい」
なんでもっとマトモなのが作れなかったんだろう。今になって思う。後悔が一気に押し寄せてきて、目をそらしてしまう。
「美味しいです。とっても甘くて、私、好きですよ」
目を戻すと、チョコを一口齧った紅音が微笑んでいた。そして紅音は、もう一口齧る。
「わ!今度は違う味がしました!面白いですね、これ」
「…変な味しない?」
「はい!美味しいです!」
その紅音の一言で、安心と幸福感とでいっぱいいっぱいになる。
「なんていうかこのチョコ、私達みたいですね」
「どういうこと?」
「私達が付き合ってからはいろんなことが起きて、なんかこのいろんな味のするチョコと一緒で面白いなって」
なるほど、そう言われてみれば確かにわかる。
「それで、とても甘いんです」
「甘い?」
「私、夏蓮さんといるととても甘くて幸せな気持ちになれるんです」
「……!!」
……紅音はすぐにそういう恥ずかしいことを言う。聞いていても恥ずかしくなる。
「夏蓮さんも食べてみてください」
差し出されるチョコを一口齧る。
「うん。甘いね」
「はい、甘いです」
紅音と目があって、思わず笑みが溢れる。
そして二人でチョコを齧った。
「(確かに、この空気は甘いね……居心地が悪い)」
私達二人は、チョコを食べるのに夢中になっていて、葉さんの呟きは聞こえなかった。
ルストは『ネットそのままのレシピはなんか違う』と言ってオリジナルで作ろうとするけど何をしていいかわかんなくてどこかで聞きかじった『チョコを溶かして固める』をとりあえずやってみた感じ。作っているときは自信満々だけど、いざ秋津茜を目の前にすると自信がなくなる。ドヤ顔で下手くそ調理しているルストかわいいな。
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