……書いてて辛かったぁ。
「……紅音、大丈夫かな」
「本人は大丈夫って言ってるけど、ちょっと心配だね」
紅音を見送って教室に来た私達。私も葉も、紅音の様子がおかしかったことに気づかないわけがなかった。
………あんな紅音は初めて見た。
「なんというか、心ここにあらずって感じ?隠岐さんにしては珍しいと思うけど、なにか気になることでもあったのかな?」
「……ちょっと違うと思う」
「というと?」
「わかんないけど……気になるっていうより、追い込まれてる感じ?」
私も詳しくはわからなかったけど、なんとなく余裕がないのは伝わってきた。
「何かあったのかもね、家でか、部活でかはわからないけど」
「その“何か”がわかればいいんだけど……」
「うーん………あ、そうだ」
葉がなにか閃いた様子で呟く。そのまま席を離れてクラスメイトの女子のもとへ。そのまま彼女を連れてきた。えっと、あの人は確か………
「紅音ちゃんの話が聞きたいの?」
「うん。同じ女子陸上部だから何か知ってるかなと思って」
そうそう。紅音と同じ部活に入っているんだったな。確かに、なにか知ってるかも。
「今朝様子がおかしかったんだけど、心当たりない?」
「部活関連のことなら、来週の事じゃないかな?」
「「来週?」」
「うん。聞いてない?大会があるんだよ。緊張でもしてるのかな?」
聞いてない……紅音の性格からすると話しそうなものだけど……
「そういえば、前回の大会の直前も紅音ちゃんちょっと様子変わってたっけ」
「どんな風だった?」
「なんていうか……怯えてた?大会にかな?」
「それ詳しく」
ふと頭によぎったのは、陸上のトラックで一人戦っている紅音の少し悲しそうな顔。
『私、一人だと失敗することが多いんですよ。だから、ルストさんといるとすごい心強いと言いますか、とりあえず、ずっと一緒にいたいんです』
シャンフロ内で
……
「詳しくって言われてもな……紅音ちゃんにしては珍しくやたら自信なさそうに振る舞ってりしてたかな」
「ふぅん……大会についても教えてくれる?」
「えっとねーーー」
私はきっとこの大会に行かなきゃいけない。紅音が一人で戦っているなら、私が支えてあげなきゃいけない。行ったからって何かができるわけじゃないけど、絶対に紅音の助けになって見せる。
……だって私は、紅音の恋人だから。
苦しむ紅音を助けるのは、私の役目だ。
「ーーーって感じで大会があるって聞いたんだけど、あってる?」
「……!!!………あぁ…えぇと…」
放課後、場所は我が家。いつも通り紅音と葉とご飯を食べている。今日のご飯は隠岐家で取れた野菜を使った野菜炒め。美味しい。
「そうです。大会あります」
少し目を伏せる紅音。今朝の
「私と葉で見に行こうと思ってるから、頑張ってね」
「え……見に来るんですか!?」
「そのつもりだけど、いや?」
「嫌っていうか……あまり格好悪い所を見せたくはないなぁ…なんて……」
「私は紅音の走ってるところ見たい」
「えぇと………」
紅音が言葉に詰まる。葛藤してるんだろう。紅音が何を抱えてるかは知らないけど、多分こう言えば
こんなやり方、紅音には申し訳ないけど紅音のためだから、ちょっと我慢してね。
「ねぇ、いいでしょ?」
「あ、はい…」
紅音の諦めた様な顔が嫌に胸に刺さる。苦しい。
………当然だ。“紅音のためだ”と言い訳しても、紅音の望まない状況を無理矢理作ったんだから。
「……大丈夫。私達も応援するから、紅音はきっと大丈夫だよ」
そう言って頭を撫でながら抱きしめた紅音の体は、少し震えていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「思ってたよりも暑い……」
晴れ渡る空。雲ひとつない青空から降り注ぐ日差しは観客席の僕たちやトラックの選手たちを追い込むように酷く照りつける。
今日は週末の日曜日。夏蓮と一緒に隠岐さんの陸上の大会を見に来た。
「それにしても、本当に見に来てよかったの?隠岐さん明らかに嫌そうだったのに無理矢理約束こじつけて」
「これでいいの。逆に葉はあの様子の紅音を放っておいて一人にしても大丈夫だって本当に思ってる?」
「別にそうは思わないけど……」
それでも、夏蓮が観戦に行きたいって言ったときの隠岐さんの反応を思い返すと、本当に見にきちゃいけなかったような気がしてくる。
「……私は一緒に戦うって決めた。紅音なら大丈夫。葉は心配しすぎ」
「そうだといいけど…」
実際、僕よりも夏蓮のほうが隠岐さんに詳しい。そこに関しては絶対的に夏蓮を信用してる。
「……わかった。夏蓮の信じてる隠岐さんの事を、僕も信じるよ」
「うん。それでいい」
トラックに目を戻すと、隠岐さん達選手は既に準備を始めていてもうすぐレースが始まるようだ。隠岐さんはやはりいつもより覇気が無いように見える。
「……始まる」
選手がスタート位置についた。
「………頑張れ!!」
ーーそして、スタートの合図が鳴り響いた。
隠岐さん達が一斉に走り出す。頭一つ抜けたのは隠岐さんの隣のレーンの高身長の選手。その後に隠岐さんが続く。
「よし、二番手についた!」
「紅音……捲くれっ……!!」
隣の選手が一人でどんどん差をつけていくが、隠岐さんだけは喰らいついている。レースは事実上の一騎打ちの様相を呈した。
「行ける!!追いつける!!」
「頑張れ!!抜けるよ!!」
「紅音!!!!」
だが、二人の差はなかなか縮まない。追いつけないままゴールが迫る。
「紅音!!!!!!!!!」
珍しく声を張り上げる夏蓮。その声援が届いたのかは分からない。でもーーー
ーーーゴールするまでに隠岐さんは前を走る選手に追いつくことができなかった。
「あぁ……!!」
「…………」
……惜しい!!
本当に僅差だった。走り終えた隠岐さんは膝に手をついて肩で息をしている。俯かせた顔からは悔しさがにじみ出ている。
………悔しさ?
違和感を感じる。息が整って来た隠岐さんだが、なかなか顔をあげない。それだけ悔しいのだろうと思うが、何か腑に落ちない。
そのまま隠岐さんは少しふらついたような足取りで建物の中に消えていった。
「紅音……」
レースが終わってから一言も喋らずに真剣に隠岐さんを見つめていた夏蓮が唐突に立ち上がった。
「葉!荷物よろしく!!」
「夏蓮!!」
僕の呼びかけも聞かずに、夏蓮は一人で走り出した。
きっとここから先は夏蓮にしかできない事だから、僕は夏蓮を追わない。
様子のおかしい隠岐さんが心配ではあるが、きっと夏蓮がなんとかしてくれる。
隠岐さんなら、きっと夏蓮になんとかさせてもらえる。
二人にはそんな絆があるって、僕は知ってる。
だから、二人の絆を信じて、僕は夏蓮を送り出した。
書いててキャラを苦しめることほど辛いことはないよ…
やっぱキャラには笑っててほしいよ……