こんなしっかりレギュラー出演すると思ってなかったから何も考えてないんだよな…
放課後になって、僕は一年生の教室を訪れていた。理由は単純。呼び出されたからだ。……放課後に後輩から呼び出されるって、違うってわかってても緊張しちゃうな。
「あ、鹿尾野先輩。来てくれてありがとうです」
「うん。どうしたの?わざわざ呼び出しなんて」
「あの、ちょっとお話が」
「ん?」
「昨日のスイーツカフェ、隠岐ちゃんと佐備先輩のための下見って言ってましたよね?」
「うん」
まぁ、予想通りといえば予想通りな昨日の話。だが、それがどうしたというのだろうか。
「今、隠岐ちゃんを佐備先輩を誘いに送り出したんですよ」
あぁ、なるほど。
「それで僕を教室から追い払おうってわけね」
「まぁ、それもあるんですけど……とりあえず、行きましょうか」
「へ?どこに?」
「……隠岐ちゃんと佐備先輩のところですけど?」
「……なんで?」
わざわざ教室を離れてるのに何で戻る必要があるんだ?せっかく隠岐さんと夏蓮が二人きりなのに。
「何でって……覗きに行くに決まってるじゃないですか」
は!?!?いやいやいや。いやいやいやいや。
「どうしてさ!?わざわざ覗きに行くなんて!?」
「だって……気になるじゃないですか」
「いや、そりゃあ気になるけど……」
「じゃあ行きますよ!!」
「あっ、ちょっ、待っ!!」
僕は手を引かれて教室を出た。
僕たちの教室の前へと戻ってきて扉の小窓から中を覗くと、夏蓮と隠岐さんは夏蓮の机で向かい合って話していた。僕たちは扉の前に張り付いて聞き耳を立てる。
………これ、僕たちすごい絵面してるな。完全に不審者じゃん。
『ーーーと言う訳で、葉さんが行ったスイーツカフェに夏蓮さんと行きたいなぁ……と』
『うん。いいよ』
教室内ではちょうど隠岐さんが夏蓮に誘いをかけた所らしい。無事に誘えた様でなによりだ。
「隠岐さんちゃんと誘えたようだし、戻ろ?見つかるよ?」
「もうちょっともうちょっと」
「なんで!?」
「いいからいいから」
……この子は一体何をしたいんだろう。とりあえず、耳を離さないようなので、僕も従っておく。
『そういえば、夏蓮さんは毎年葉さんとホワイトデーにはスイーツを食べに行ってたんですか?』
『うん。そうだね』
『今年は葉さんとは行かなくていいんですか?』
『今年は紅音がいるから。紅音と一緒に行くよ』
『……それだと、葉さんは寂しいんじゃないですか?』
僕が寂しい?隠岐さんはせっかく夏蓮と二人でデート出来るんだから、僕の心配なんてしなくていいのに……
「寂しいんですか?」
「いや、僕は二人が一緒に居てくれればそれでいいんだよ」
「ふぅん……で、鹿尾野先輩は一人残されるわけですか」
「まぁ、そうなるね」
「もう一度聞きます。寂しくないんですか?」
「………」
寂しくないと言えば嘘になる。でも、こうしなきゃきっと後悔するから。ただでさえ夏蓮と隠岐さんの時間を多く奪っているのに、これ以上二人の邪魔はしたくない。
「……僕は、いいんだよ」
『寂しがるかもね、葉は』
『だったら…!!』
『でも、それで私達が葉に気を遣うと、きっと葉も辛い』
『でも……』
『わかってる。難しいよね。でも、葉のためを思うなら、私達がしっかり楽しまなきゃだめなんだよ』
そうだ。僕は二人に楽しんでほしい。今だけしか送れない毎日を。今だけしかできない恋を。だから、僕のことを気にしちゃだめなんだよ。
『でも!!夏蓮さんは葉さんといるときが楽しそうなんです!!!夏蓮さんは葉さんと一緒にいなきゃいけないんです!!!!』
………え?
『………え?』
思考が固まる。僕といると気が楽なのはわかる。十数年過ごしてきた仲だ。でも、それが隠岐さんといるときの楽しさに匹敵する訳が……
『紅音といる時も楽しいよ?だから、大丈夫』
『大丈夫じゃないんです!!夏蓮さんと葉さんはもっと、こう、………一緒にいるともっと楽しいというか……私なんかのために離れていい関係じゃないんです!!!』
『紅音は“なんか”なんかじゃないよ。私は紅音のことが好きだから……』
『でも、夏蓮さんは葉さんの事も好きなんですよ!!』
いや、何言っての隠岐さん!?夏蓮が好きなのは隠岐さんだよ!?だから二人は付き合っているわけで……
『たしかに、夏蓮さんが私に向ける“好き”とはちょっと違うかもしれないですけど、ちゃんと夏蓮さんは葉さんの事が好きなはずなんです!!』
『でも、私は紅音が……』
『夏蓮さん、葉さんが昨日私のクラスメイトとデートしたって話は聞きました?』
『え、まぁ、うん』
『どう思いました?』
『なんだかなぁ…とは思ったけど、私が気にすることじゃないし』
そう。僕の事は夏蓮が気にすることじゃない。
「……でも、その理論で考えると私や先輩があの二人を気にする必要もなくなる」
「………」
「私は、それは違うと思いますけどね」
「………」
確かに、この子の言う通り僕らが夏蓮と隠岐さんを気にする必要がなくなる。でも、それだと、
『夏蓮さんも、寂しいんですよ』
『私が、寂しい??』
『夏蓮さんにとって、葉さんは大切な人です。なのに、私に気を遣って居なくなったり、一緒にいても口数が減ったり、そんなときに夏蓮さんの知らないところで葉さんがデートしてて、寂しくない訳がないんです!!夏蓮さんは葉さんが大切だから!!!!』
『…………葉が、大切』
『そうです!葉さんは私にとっても大切な恩人です。でも、夏蓮さんにとっては、もっと大事な人なんでしょう??』
『………』
少しぼうっとした表情で固まる夏蓮。でも、その目は悩んでいるような目ではなく、まるで何かを見つけてスッキリとしたような……
『うん。私、葉が大事みたい』
「先輩は、どうなんですか?」
「僕も夏蓮が大切だよ。でも……」
そうだ。夏蓮が大切だからこそ、夏蓮と隠岐さんの間を邪魔するわけには……
「“でも”とかいらないんですよ。佐備先輩が大切だって即答できるなら、それでいいじゃないですか」
「いや、それでも夏蓮は……」
「あぁもぅ面倒くさい!!!!!」
バンッ!!!!!!!!!
え、何が起きた??
扉が大きく開け放たれて、
後ろから思い切り押されて、
教室内に入っちゃって、
二人が僕を見ていて………
「よ、葉さん!?!?」
「………葉」
二人に覗いてたことバレた!?!?!?
「ちょ、何やってんの!?!?」
「先輩が面倒くさいのが悪いんです!!もう直接話してください!!!」
えぇ……もう意味がわかんないよ!!
「葉」
夏蓮は意外と落ち着いてる様で、僕に話しかけてくる。
「……何?」
「話聞いてた?」
「う、うん」
「そう」
そう返すと、夏蓮が僕の方へ歩いてくる。
「葉、私と葉って、どんな関係だと思う?」
「何さ、唐突に」
「いいから」
「……仲のいい幼馴染とか?」
「本当にそう思う?」
夏蓮の質問の意図はわからない。でも……
「いや、なんか違う気がする」
「でしょ」
「じゃあ、夏蓮はどう思うのさ」
「わかんない。でも、一つだけ私達の間柄を言い表せる言葉がある」
一つだけ??そんな言葉って、一体……
「
「………緋翼、連理」
「うん。この世にただ一つしかない、私達だけの関係性。これはきっと、私と紅音の関係に劣るものじゃないんだよ」
「劣らない、関係」
でも、それだと、隠岐さんは……
「だから、葉は私と一緒にいていい。
「はい!私もそう思います!」
もし、それが許されるのなら、夏蓮と、隠岐さんと、みんなで過ごしていいのなら、二人の側にいてもいいのなら、それはーーー
「隠岐さんは、それでいいの?」
「はい!もちろんです!!!」
ーーーそれは、とっても楽しそうだ。
「…………ありがとう。みんな」
「いいんですよ!葉さん!!」
「よかったですねぇ鹿尾野先輩?」
「………うん。ありがとう」
なんだろう、そのしてやったり顔は。まぁ、感謝はしているけど、何かひっかかるな…
「あ、そうだ!スイーツカフェはみんなで行きましょう!!四人で!!」
「うん。葉もいいよね」
「もちろん!」
「四人……って私も!?」
「そうだよ!みんなで行こう!!」
「いいんじゃないの?」
「うん。一緒に行こうよ」
「先輩方までそう言うなら………」
今、僕はすごい楽しい。
夏蓮と隠岐さんも、ちゃんと楽しそうでホッとする。
これからも、こうやっていられるのなら、すごい楽しみだ。
今この空間が楽しくて。
僕たちのこれからが楽しみで。
僕は、久しぶりに思い切り笑った。
というわけで、モルド回でした。
今まで書いた話で夏蓮と紅音の距離感が縮む度に錆黴の距離感が薄くなって行く感じが(自分でわざと書いておきながら)違和感がすごかったので、清算することにしました。これで一応目指してきた三人の関係性の完成になります。
感想待ってます!!!!!!