……朝から隠岐ちゃんの様子がおかしい。
昨日は夜遅くまで
「………」
「(………すっごい気になる)」
一限からずっとこんな調子だ。そういえば昨日の夜の鹿尾野先輩もなんだか様子がおかしかったし、私の知らないところで何かあったのかな?だとしたら私も気になってきたな。
よし、あとで隠岐ちゃんに聞きに行こう。そう決意して私は授業にもう一度集中しようと視線を上げる。……もう授業終わるじゃん。私どんだけ集中できてなかったんだろ。
「はいじゃあ今日はここまで。宿題は週明けまでにやっといてね」
そしてあっという間の授業が終わった。今日の授業はこれで最後だから、部活がある人は部活に向かい、そうでない人は帰り支度を始める。私も普段ならすぐに帰り支度を始めるが、今日はとりあえず隠岐ちゃんの机へと向かった。
「燈花ちゃん!!」
「ん。どーしたの?めっちゃこっち見てたでしょ授業中」
「ばれちゃってた?」
「なんていうかね、圧が。うん」
「圧?」
だって隠岐ちゃんこっち見るときすごい目を見開いているというか、じっと動かないでただ見つめられてるというか、とにかくすごかったから。
「何か話があるんじゃないの?」
「あるよ!聞きたいことがあるの!」
「なに?」
「葉さんのことどう思ってるの?」
「ちょっと残念系のお母さん」
あぁ、目が点になるってこういう顔のことを言うんだ。初めて知った。これは点だわ。
「………なんて?」
「ちょっと残念系のお母さん」
首をかしげながら「んんん?」と声を漏らす隠岐ちゃん。え、そんな伝わりずらいかなこの感覚。私としては割と見たまんまの鹿尾野先輩のイメージなんだけど…
「そうじゃなくて!」
「何が?」
「例えば、燈花ちゃんが葉さんのこと実は好きだった…みたいな話はないの!?」
「ないね。普通に」
「何でぇ!?!?」
なんでって、いやこっちがなんでだよ全く。一体隠岐ちゃんはどうしてこんな勘違いをしたんだろ。
要するに、隠岐ちゃんの主張はこうだ。
『私と鹿尾野先輩がよく一緒にいるからもしかしたら付き合ってるのかもしれない』
『あれだけ一緒にいるのなら好きになってもおかしくない』
うーん、私達って傍から見るとそう見えるの?私としては全くそんなつもりはなかったんだけどな。鹿尾野先輩だってきっとそうだろうし、そもそもあの人は恋愛に興味すら持ってなさそうだと思う。
それでも、隠岐ちゃんの主張は激しかった。部活に行くまでにあれやこれやと聞き出された。
「先輩と一緒に遊んで楽しくなかったのか」「先輩ともっと一緒にいたいと思わないのか」「先輩は私にとって特別な存在ではなかったのか」
もちろん楽しいに決まってる。楽しいから一緒に居たいのも当たり前だ。一番楽しく遊べる異性という意味ではもちろん特別だ。
でも、それが恋には結びつかない。
私にとって恋っていうのはもっと憧憬に近いものだと思ってた。
もっと一方的に憧れを抱いて、募らせて、散る。実際、中学生の時に私が大して話したことすらない先輩に抱いていた気持ちがそうだった。勝手に盛り上がって、自覚するころには既に相手がはるか遠くにいて、決して手が届かない。
そういう意味では、私は鹿尾野先輩に色々言っておきながらも恋という感情にちゃんと向き合ったことがないのかもしれない。
だから………
◇
鹿尾野先輩:放課後時間ある?授業終わったら僕の教室まで来てくれないかな。
◇
だから私は、このメッセージを受け取った私自身の感情に名前を付けられない。
いつも通りこの後
隠岐ちゃんに色々吹き込まれた後だから意識してしまってるだけなのか、そもそも私が鹿尾野先輩を意識してしまっているのか。
ただ間違いなく言えるのは、私が今、高揚しているという事。
どうした、私。ただ先輩に呼ばれて教室まで行くだけ。その道のりが長くも短くも感じてしまえて、確実に私の脳みそは異常を見せ始めている。
でも、この気持ちが恋なのかは、まだわからない。
だから、確かめに行くんだ。
「失礼します」
私は、勢いよく教室の扉を開けた。
鹿尾野先輩がいたのは私も見覚えのある教室の隅の席。私は少しの緊張とともに先輩の元へと向かった。
「今日はどうしたんですか?」
「ちょっと話がしたくて……今日隠岐さんの様子はどうだった?」
「あぁ……いろいろ聞かれました」
「やっぱり」
ここで隠岐ちゃんの名前が出てくるということは、きっとさっきの話と無関係じゃない。つまり、鹿尾野先輩も隠岐ちゃんたちにいろいろ聞かれて、そして……
「………僕もね、いろいろ考えたんだ」
きっと鹿尾野先輩は、このよくわからない感情と向き合って答えを出したんだ。私の答えも、きっとここにある気がする。だから、
「…聞かせてください」
「うん」
鹿尾野先輩が椅子を引いてくれたから、そのまま佐備先輩の席に腰掛けて机越しに鹿尾野先輩と向き合う。
そして、鹿尾野先輩は語り始めた。
「僕は、正直恋とかよくわからない」
「毎日のように恋を語る夏蓮や隠岐さんの話を聞いても、ずっと実感は湧いてなかった」
「でも、日暮さんと一緒に遊んでて、すごく楽しかったんだ」
「それだけが、唯一実感を持てたことだったんだよ」
そう語る鹿尾野先輩は
「ずっと、一緒に遊んでいたいと思ってる」
どこか温かい雰囲気を纏っていて
「もちろん、夏蓮や隠岐さんも一緒だよ」
その声は、とても優しく響いていて
「この先も、ずっと、みんなで」
その目線は、慈しみを帯びていた。
「でも」
でも
「夏蓮とはネフホロやシャンフロで、隠岐さんとも
その声からはどこか不安が感じられて
「今思えば、一緒に遊んでいても僕らはただ仲のいい友達でしかなくて」
彼の不安をどうにか取り払ってあげたいと思って
「それが、ちょっと寂しかったんだ」
彼と一緒にいたい。
そう思えた。
きっとこれが答えだ。
そんな気がする。
「だから」
だから
「僕は、君とのもっと強い絆がほしい」
私は、あなたとのもっと強い絆がほしい。
「
例えあなたが一人でも、私の存在を感じてくれるような強いつながりがほしい。
「この気持ちを恋と呼んでいいのかは分からないけど、もっと君と一緒にいたい。一緒に遊びたい」
この気持ちを恋と呼んでいいかは分からないけど、ずっとあなたと一緒にいたい。そうすれば、わかる気がするから。
「日暮燈花さん、僕と、付き合ってください」