「私で、よければ……」
その言葉を聞いてから私の頭はあまり働いてなかったけれど、口は、自然と動いた。
その言葉が意味するのは、彼の気持ちを受け入れたいということ。
つまり……私を鹿尾野先輩の恋人にしてほしい。そういう事だ。
「…え、いいの?本当に?」
「その、はい…」
受け入れた。
受け入れてしまった。
なんだか気恥ずかしくなって鹿尾野先輩から目をそらす。今まで普通に見れたはずの先輩の顔が何故か直視できない。初めてだ。こんなの。
とても変な気分だけど、悪い気はしない。
「と…ところで先輩、付き合い始めて私達って何するんですか?」
誤魔化すように話題を変える。声が少し上ずったの、鹿尾野先輩にばれてないといいけど…
「何って……ゲームとか?」
「それは今までとあまり変わらないような…」
「……確かに」
私と鹿尾野先輩の関係性が変わって、確かに私達の空気が変わった。でも、行動をどう変えていいのかわからない。これは私たちが恋を知らなさすぎるのが悪いからどうしようにもない。
「とりあえず形から入ってみて…」
「どうするんです?」
「て…手でもつないでみようか」
「ッ…わかりました」
手っ…手ですか。まぁ、わかりますよ。恋人っぽさでは間違いないですしね。ほら、私が手を差し出したんですから早く握ってくださ………うわぁ
「…照れくさいですね」
「だね…」
「まぁ、でも、もう少し」
「うん。もう少しこのままで…」
というわけで、先輩の手を握ったままでその手を机に置く。今、私と鹿尾野先輩は一つの机越しに向かい合っているわけで、私の視界内につながれた手と先輩の顔が同時に映りこんでくる。
………これめっちゃ意識しちゃうんだけど。
「ほっ…他にはなにかないですか?」
「あとは……」
何かを思いついて様なそぶりを見せる鹿尾野先輩。でも。恥ずかしいのか言おうとしない。
「えっ…何を考えてるんですか?」
「いや、その…」
まだどもる鹿尾野先輩。まさかそんなに恥ずかしいことを……
「呼び方…変えてみる?」
………。
なんだそんな事か。たかが呼び方くらい…別にそんな事恥ずかしくとも何とも………あるかもしれないね。うん。
「…どう呼べばいいんですか」
「まぁ、下の名前とか」
「うぅ…わかりました」
うぐぅ。いざ呼び方変えるとなるとなんか急に恥ずかしくなってきた…
「もちろん!嫌なら無理にとは…」
「いえ、だいじょうぶです!」
大丈夫、覚悟は決まった!私ならできる!
「ふぅ……いきますよ」
「……うん」
「よー…くん…」
「なに?……とーか…ちゃん」
「「うわあああああああ………」」
その声を聴いた耳から、その言葉を理解した頭から、自然と力の込められたその握っている手から、むずがゆさが走り出す。そのままぞわぞわが全身を走り回って………うわぇぇ……なにこれぇ……
バダン!!と二人して机に突っ伏す。頭を倒したまま視線だけあげると、超至近距離で葉く……鹿尾野先輩と目が合ったので、目をそらした。
「むりぃ…恥ずか死ぬぅ…」
「僕も……こんなのぉ……」
ほんの数十分前までは全く意識していなかった相手。なのに、今ではもう彼のことしか考えられない。一体何でこんなことになってしまったんだろう。
「いや、だめだ!ここでヘタレてもしょうがない!!」
「えっ」
「僕は呼ぶよ!恥ずかしくても!とうか……ちゃんって……」
「うがぁぁぁぁ」
まって!!それは呼ぶ方だけじゃなくて呼ばれる方も恥ずかしいんだって!私が!恥ずかしいの!
…でも、先輩が私との関係を少しでも進めようとしてくれているのもわかるから。その覚悟も無碍にはできないし、したくない。
「……せめて呼び捨てでお願いします」
そう吐き捨ててちらっと視線を戻すと、先輩の優しい笑顔が私を捉えた。
「分かったよ、燈花」
「ありがと。葉…先輩」
私たちは恋を知らない。
それでも、一緒に居れば見つかる気がするから。
いつか
たとえゆっくりとした歩みでも。
たまにこうやって少し背伸びもして。
二人で歩いて行こう。
そう思った。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「………すごかった」
校舎を出て、いつもならまっすぐ帰る道を曲がり、特に理由もないのにグラウンドの方へ回っていく。そのまま校舎の外壁の段差に腰かけて、グラウンドの様子をボーっと眺めることにした。
「じゃあタイム測るよー!!」
「「「「はーい!!」」」」
グラウンドで活動していたのは陸上部。もちろん紅音の姿もあった。彼女らの走る姿を見ながら、私は一人、
私は教室で葉に発破をかけてから教室を出て、日暮さんが教室に入るのを確認すると、ずっとその中の様子を覗いていた。
本人たちは“恋なんて知らない”なんて言っていたけれど、確実に二人からは好きって気持ちが溢れてた。
サイガ-0は「好きって気持ちはずっと一緒にいたいと思う前向きな気持ち」だと言った。
考えれば考えるほど、二人はちゃんと恋をしていたんだ。
「……ふっ」
つい最近まで恋なんて全く知らなかった奴が何耽ってるんだって自分でも思う。
でも、
紅音と出会って、
紅音を好きになって、
葉以外の世界を知って、
日暮さんとも仲良くなって、
サイガ-0の恋心に触れたり、
葉と日暮さんの気持ちに触れたりもした。
本当に、いろんなことが変わって、世界が彩り豊かになった。
全部、紅音と付き合えた結果だ。
「………あれ、夏蓮さんどうしたんですか?」
部活動中の紅音が私に気づいてこっちに来てくれた。汗に濡れた紅音を直接見るのはどこか新鮮な気がする。
「珍しいですね!夏蓮さんが部活見に来るの」
「うん。なんとなく」
「いつでも見に来ていいですからね!夏蓮さんがいると、私もその…やる気出ますし。えへへ…」
「じゃあたまにくる」
「やったっ!」
紅音が小躍りして喜ぶ。こういう気持ちが直接動きに出る紅音もかわいい。
「じゃあ私、部活に戻りますね!ちゃんと見ててくださいよ!」
「あっ、待って」
「どうしたんです?」
無意識だった。気がついたら紅音の手を引いてて、紅音がキョトンとした顔を向けてくる。
もしかして、葉と日暮さんの空気にあてられてしまったのだろうか。
…猛烈にこの手を離したくない。
ただ、今この時間をもう少し一緒にいたい。
そんな気持ちが湧き上がってくる。
その愛しい顔を見るだけで、こんな気持ちに……
「ーーーーーッ!!!!!」
紅音が驚きで目を見開く。私だってどうして急に
「急にごめん……嫌だった?」
「えっ………そんなわけないじゃないですか!」
「なら、よかった」
「じゃ…じゃあ私は部活に戻るので!!」
そう言って走って行った紅音の顔が真っ赤に染まって居たのは、夕陽のせいなんかじゃない。私の顔がこんなに熱いのも、別に熱を出してる訳じゃない。……まぁある意味熱を出してはいるけど。
例えこれが葉と日暮さんを見て勝手に盛り上がってしまった私の蛮勇だったとしても、この一歩を踏み出せて、本当に良かったと思う。
初めてのキスは少ししょっぱくて、とても甘かった。
ここまで読んでいただきありがとうございました!!!
久しぶりの緋色とんぼはいかがだったでしょうか?
早くこの二人にくっついてほしいという声を頂きまして、それをモチベになんとか書ききりました。期待に添えられたら嬉しいのですが………
感想お待ちしてます!!!!!!!