秋津茜書くなら「今日はすき焼きです!」は義務だと思いまして、投稿です。
ルストと秋津茜さんと“
とりあえず夏蓮の家を訪ねてみたんだが…
「あ、葉さん!夏蓮さんも中で待ってるので、上がっちゃってください!」
何故か出迎えてくれたのは呼び出した本人ではなく、
「隠岐さん、今日は何で呼びだされたか知ってる?」
「えっと…それはですね……」
意味ありげな笑みで勿体ぶる隠岐さん。本当に何なんだろう。
「………今日はすき焼きです!!!」
……本当に何なんだろう。
「えっと…どういうこと?」
「お祝いですよ!昨日の戦いに勝ったから!!」
なるほど。そういう事か。
ゲームでモンスターを倒すだけでお祝いをしていたらキリがないと思うが、昨日の相手は二つ名付きのエリアボスという超強敵だったし、隠岐さんとしては夏蓮と付き合い始めて初めて一緒に乗り越えたイベントって事で大きな事件だったんだろう。
そう考えると気分のいいもので、なんだか楽しみになってきた。せっかくだから美味しいすき焼きを作ろう。どんな食材がある……の………かな…………
「何これ」
「お友達とすき焼きをしたいって言ったらお母さんがくれました!全部採れたての新鮮な野菜です!!!」
キッチンに入った僕の目の前に飛び込んでくるのは、数えきれないほどの野菜、野菜、野菜……
「……これ全部使っていいの?」
「はい!!」
「これだけの食材、用意するの大変だったでしょ」
「いえ、私実家が農家なんですけど、商品にするには少し小さい野菜とか、形が崩れちゃってるやつとか、意外と売りに出せないのが余ってるんですよ。それをちょっともらってきてですね」
「へぇ…」
それにしてもすごい量の野菜だ。
「これだけの食材があれば、相当豪華なすき焼きができるよ。ちなみに、お肉は?」
「さっき夏蓮さんと買いに行ったのが冷蔵庫に入ってます!」
うわ…これまたすごい量……
「これ、食べ切れるのかな」
「大丈夫です!私、たくさん食べるので!!」
「そういう事なら……」
張り切って作っちゃおうか!!
張り切りすぎた気がする。
いや、ちょっと普段なら使えないほどの食材にテンションが上がっちゃったというか…
「作りすぎた……」
出来上がったのはは大きな鍋にぎっしりの食材の山。ぱっと見ても四〜五人前くらいはありそう。僕も夏蓮もそもそも食が細い方だから、明らかに多すぎる。
「うわぁ…美味しそうです!!!」
「うん。葉、よくやった」
…まぁ本人たちが満足そうだしいいか。
「いただきます!!!!」
「「いただきます」」
三人で鍋をつつき始める。
「んん〜〜〜!!美味しい!!!」
「それは良かった」
隠岐さんって、すごい美味しそうにご飯食べるんだな。これだと作り手側も作りがいがあるってもんだ。
「そういえば、隠岐さんは料理ってしないの?」
「昔覚えようとしたんですけど…『これきっと美味しくなる!』って思ってすぐにレシピと違う事始めちゃって、最終的に美味しくならないんですよね」
「なんか紅音っぽいね」
「えへへ…でも、夏蓮さんのためなら練習しますよ?」
「私は紅音の料理、食べてみたい」
「……!!じゃあ練習しますね!!」
「うん。待ってる」
夏蓮の期待に嬉しそうにする隠岐さん。でも夏蓮、そこに“自分が隠岐さんのために練習する”っていう選択肢はないの?
そもそも夏蓮は料理を僕に任せるだけならまだしも、たまに掃除とかも僕にやらせようとするからな。こういう時、今後は隠岐さんが一緒に犠牲になってくれるのかと思うと、ちょっと楽になるけど少し隠岐さんに申し訳なくなるような……
……なんていうか、ダメ息子がいいお嫁さんを連れてきたときの母親の気分だ。
「じゃあ、追加のお肉持ってきますね」
席を立つ紅音さん……え!!もうお肉食べちゃったの!?
「ちょ、お肉食べるの早すぎない??」
「葉が野菜ばっかり食べてるのが悪い」
「いや、夏蓮が野菜食べなさすぎなだけでしょ」
「夏蓮さん!野菜もすごい美味しいので食べてください!!」
そうだそうだ。もっと言ってやれ。隠岐さんが甘やかし始めたらもう夏蓮は手を付けれなくなるぞ。
「でも、野菜じゃん」
「むむ…葉さん!私に料理を教えてください!!私が夏蓮さんに美味しい野菜料理をたくさん作ります!!!」
お、それはいい。僕は夏蓮の好みをある程度抑えてはいるからね。これを期に夏蓮の野菜嫌いが治るかもしれない。
「うん、任せてよ」
「やった!」
「紅音、頑張ってね、花嫁修業」
「花嫁修業!?!?」
たしかにそういう事になるのかな。夏蓮のために料理を覚える訳だからね。
「…私、頑張ります!!!」
「とりあえず、夏蓮は目の前の野菜を食べようか」
「えぇ…」
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昨日の紅音の花嫁修業宣言の結果、今日からしばらく私の家で夜ご飯を一緒に食べることになった。その時に葉に少しずつ料理を教わるらしい。しばらくはご飯の心配をする必要がなくなったし、紅音のご飯が食べれるしでいいこと尽くしだ。
「という訳で、今日の私は機嫌がいい。だから日直の仕事もやってあげる」
「いや、それは普段やって当然なんだよ。そもそも毎日夏蓮が貯め込むから日直も夏蓮で止まってるし」
「それはちゃんと仕事やらないと日直が次の人に移らないシステムがそもそもおかしい。それに、先週末掃除までしたんだから、今日は次の人でいいはず」
「うん。確かに掃除したね。主に僕が」
「だから、気にしたら負け」
全く、葉は細かいことまで気にしすぎ。広い心を持たなきゃ。紅音みたいに。
「これ仕事ため過ぎでしょ。…夏蓮に付き合って早起きする僕の気にもなってよ全く」
葉が力仕事をこなしながらぼやく。
「早起きならネフホロでいつもしてるでしょ?」
「押し出し式でネフホロの時間が更に早くなったから結局いつもより早起きしなきゃいけないじゃん」
「ネフホロするのは当然だから」
「……朝早すぎて誰ともマッチングしなかったけどね」
「……気にしない、気にしない」
文句を垂れながらも仕事をこなしていく私達。始業までにある程度終わらせたいけど、少しずつ生徒が登校してきて、教室も賑わい始めた。
この時間は少し苦手だ。葉意外話し相手がいない私としては、このみんなで喋って盛り上がるのが当然みたいな雰囲気を受け入れられない。出席番号の近い女子は話せないこともないけど、すぐに話が途切れちゃう。何なら葉の方が話続いてた。私の幼馴染ながらすごい女子力……
仕事道具をしまいながら隅の私の席に移動。葉に視線を飛ばして、こっちに呼び寄せる。
「…いい加減夏蓮もこの雰囲気慣れなよ」
「無理」
「この辺は隠岐さんを見習ってみたら?」
紅音ならこの雰囲気の中どう行動するんだろうか……
「夏蓮さん!!!!!!」
「ん?」
噂をすれば紅音だ。
…………………なんで?
そのまま紅音が私と葉の元に駆け寄ってくる。
「えへへ、来ちゃいました」
クラス中の視線が集まる。一年生ながら女子陸上部のエースを務める紅音は二年生の私達の中でも有名人だ。みんな好奇の目で紅音を、そして私達を見つめる。
……恥ずかしくて少し顔が赤くなる。
「紅音、来てくれたのは嬉しいんだけど、もうすぐ授業始まるから教室に戻りな」
「わ!本当ですね!じゃあ名残惜しいけど、私帰ります!」
何をしに来たんだろう、紅音は。ただ会いたくてきたとかだったら嬉しいんだけど、恥ずかしい。
「あ、そうだ、葉さん!」
「ん?どうしたの?」
出ていこうとした紅音が振り返る。
「私、頑張っていいお嫁さんになりますから!!よろしくお願いしますね!!!」
そのまま教室を去る紅音。教室に沈黙が降りる。
うん。わかるよ。“頑張って(私の)いいお嫁さんになるから(指導を)よろしくお願いします”だよね。うん。伝わるよ。
「おうコラ鹿尾野、ちょっとツラ貸せや」
「ちょーっとお話しようねぇ、鹿尾野くぅん…」
「俺ら友達だよな、裏切りなんてないよな、信じてるからな、鹿尾野」
「えっ、ちょっ、待っ……」
「「「問答無用ォ!!!!」」」
「誤解だってばぁぁあああ!!」
葉がクラスの男子たちに連れて行かれる。視線で助けを求めてきたけど、面倒だったから無視しておいた。
あれ…おかしいな…ちょっとすき焼き食べて終わらせるつもりだったのに…何で続くんだ???