うちの暁は病んでるけどちょろ可愛い   作:鹿倉 零

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うちの間宮は病んでるけどちょろ可愛い

「間宮さんー」

「あら…島風ちゃん?」

包丁を握ったまま、振り向くのは間宮。

エプロンをつけたその姿は、

正に正妻というか、奥さんそのもので。

そんな彼女が柔らかな笑みを浮かべているが

島風の表情は冷たいままだ。

「提督のアイスに

"余計なもの"入れないでくれる?」

「ふふふ…なんの事だか…?」

「…ふーん…警告はしたから。

あと、殆ど私が食べちゃった、ごめんねー」

鋭く一度睨み付けると、歩き去る島風。

彼女は相変わらず菩薩のような、

にこにことした笑みを浮かべながら、

手元の包丁をまな板に突き立てた。

 

「間宮ー!」

「!!!」

時にして丑三つ。

彼が閉店しているはずの甘味処に来たのは

単純に彼女に呼び出されたからである。

「わざわざこんな時間に

ご足労頂いてすみません…!」

駆け寄って頭を下げる間宮だが、

彼はそれを手で押し止めると機嫌良さそうに笑う

「大丈夫だ。新作の試食、だなんて聞いたら

誰もが喜んで飛んで来るんじゃないか?

しかしまぁ…どうしてこんな時間に…?」

「実は…提督専用のメニューを考えまして」

「へぇ…俺専用?!」

目を輝かせる彼と、

幸せそうに、にこやかに笑い厨房へ向かう間宮

彼女が持ってきた料理を眺めていた提督は、

少しずつ目の輝きを失っていた。

「…まみや、これは?」

「はい!まずは夏野菜のサラダです!!」

それは良い。それは良いが、

サラダの上に乗っている物が問題だ

「…これは何でしょうか。」

「髪の毛ですが…?」

「…うーん。そっかぁ…」

男は下を向くと、ポロポロと涙を溢した。

「提督さん…そんなに嬉しいのですね!」

「俺は間宮に嫌われてたんだな…」

「?!」

ぎょっとした顔で提督の顔を覗き込む間宮

慌てるようにして手を動かしながら、

彼女は必死に違うと否定する。

「提督さん?!いや、それは全然誤解ー」

「いじめとかで見たことがあるな…

でもな…間宮…お前が俺を嫌いでも…

俺は普通にお前のことは好きだったぞ…」

立ち上がる提督。

「ど、何処へ?!」

「転属届けを出してくる…もう二度とお前と会わないから安心してくれ…今まで悪かったな…」

「提督さん!!提督さぁん?!?!」

しがみつく間宮だが、

提督は引き剥がそうとする。

「離せ!!!もう良いんだよ間宮!!!」

「違います!!これは…その…」

頬を赤く染めながら、間宮は言う

「私の一部を提督が食べていただけたらと…」

「いじめだろ!!!俺は知ってるんだ!!」

「話を聞いてください!!!!!」

「俺は間宮の普通の、そんな余計なものが入っていない料理が食べたかった!」

「て、提督さん…」

彼の手を離し、間宮は下を向く。

「余計なもの…ですか…?」

彼女の手の包丁が揺らめいたが、

彼はそんなの気にしない。

「そうだ!!!髪の毛は食べるものじゃない!!

俺はお前のそのままの料理が大好きだったし、料理をしているお前も、その料理を運んでくるお前も、可愛くて素敵で憧れだったんだぞ!!

それがなんだ!!!今日もお前のありのままの手料理を食べられると期待してきてみれば!!!俺はお前の、お前の作る手料理を食べに来たのにも関わらず!!!」

「か…可愛い…っ?!」

両手を頬にあて、小さく間宮は呟いた。

「もう良い!!!お前にとって髪の毛は食べるものなのかもだが俺は髪の毛は食べられない!!!俺はお前の料理なしじゃもう頑張れない!!!さよなら!!」

「待って!!!!待ってください!!!」

「なんだ!!!!」

「わ、わかりました…!

もう一度作るので待っててはもらえませんか!」

「…またいじめるんじゃないだろうな」

「次はきちんとした食材で作りますから…!」

「お前を信頼していいのか?

どこでも売っているものか?

もし俺が食べられないものなら…」

「はい!!きちんとスーパーで

買えるののみで料理を致します!!!」

「そうか…?」

その方が、もしも戦争が終わって結婚した際の練習にもなりますよね。という言葉は無視する

「…あぁ、あとピーマンは避けてほしい…」

「ふふっ、子供っぽいんですね」

「こんなことお前にしか言えないんだからな

絶対誰にも言うなよ…」

「はい!!」

自分だけが彼の子供っぽい、

小さな秘密を知っている。

誰にも言えないことを

自分にだけは言われている。

それにより、間宮の心は少しだけ安定した。

 

「ふふ、確かにそうですよね…

あの人の胃袋をつかむのに、

こんな"不純物"は不要でした…」

彼女は白い粉をゴミ箱に捨てる。

最近彼のアイスにのみ混入させていた、

軽い依存性を持つこの"薬"は、もう不要だろう

だって彼は、私の、

"私の料理"を楽しみにしてくれているのだから

「さて、頑張りましょう…!

あの人の好きなカレーで良いかしら…」

彼女はいそいそと料理の支度を始める。

 

「あ、提督ー?スパイスに血を混ぜるのはー」

「断る!!!!!」


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