うちの暁は病んでるけどちょろ可愛い   作:鹿倉 零

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うちの青葉は病んでるけどちょろ可愛い

「提督ぅーっ!!!!」

腹部に伝わるとてつもない衝撃。

「島風…お前なぁ…」

男は飛び付いてきた少女に、

呆れたような、窘めるような声をかけた。

「えへへー!」

すりすりと頬を擦り付ける彼女の頭を撫で、

彼は首をかしげる。

「ん…?間宮券か?」

島風の手に握られている物が気になったのだ。

彼は島風にそんなものを渡した覚えはない。

だが、いつもおっそーい、などと言い、

もらった瞬間に使いきる島風が、

間宮券を残していたとは到底思えないのだ。

「ん?んーん?ほら!」

ところが、手の中にあったのは二枚の…

「チケット…?」

映画館のチケットだった。

「はい!今日の演習相手の私に

貰ったんですよーっ!」

オッオー!と言いながら

男の周りをピョコピョコ跳ねて回る島風。

今日の演習は激戦だった。

最後には相手の島風と

此方の島風の一騎討ちになり

なんとか勝利したのだ。

その後はやけに意気投合していたと思いきや、

まさかこんなものまで貰っていたとは。

「あとでお礼を言っとかないとな…」

頭を掻きながら差し出されたチケットを眺める

「…え?」

「…ん?どうした島風」

「いや、はい、提督」

ずい、とチケットを差し出される。

「…へ?俺か…?」

「うん!提督さんにって渡されたから!」

「そうか…悪いな…」

久しく映画などは行かなかったが、

男は映画は好きな方だ。

大きなスクリーンで迫力のある映像を見ると、

なんともいえない感動が広がる。

「二枚、なぁ…。」

…恐らく、誰かと行け、ということだろう。

ところが、誰をつれていくべきだろうか。

「…て、提督?」

「うーん…」

慰労するのだとしたら、

恐らく主力のうちの誰か。

それもこれはホラー映画のようなので、

駆逐艦、目の前の島風などは除外する。

尚且つ、大井のように二枚ともあげた方が

喜ばれる艦も駄目だ。

自分が一緒に行けないから。

久しぶりに映画を見てみたいから。

「むむむむむむ…」

「て、提督…あの、その…ね…?」

島風が赤い顔でもじもじとし始めた。

ところが、考え事に、

どうすれば慰労と言う建前で合法的に執務をサボりつつホラーもある程度は平気そうでそれでもちゃんと一定数リアクションはしてくれそうな自分との外出でもそんなに嫌な顔はしない艦と映画に行けるのか、そもそもそんな艦はいるのだろうか。

という考えに耽っている彼は、

一向にそれに気がつかない。

「北上は…駄目だ…大井に殺されるし…

雲龍…いや…あいつはホラー余裕だろうな…

やはりある程度のリアクションを期待できる

…いやぁ、龍讓は駄目だな。

あれは駆逐艦と見た目がたいして変わらん。

絶対に職質される。

…他にはー…」

男は考え事をすると歩く癖があった。

今回も例に漏れずゆっくりと前足が前に出て行き

気がつけばスタスタと歩き始めている。

無論、島風に声をかけることも忘れてはいない

「助かったよ島風。俺はもう行くな。」

ところが島風は島風で

男の声が聞こえていなかった。

彼女は緊張すると周りの声が聞こえなくなるのだ

もじもじとしながら指先をくっつけては離し、

ようやくキッと耳まで赤く染まった顔をあげて

「だ、だからね、提督、私とー

ってもう居ない!!!!!!!!!!」

 

 

「いや…あいつは駄目だ…じゃあ…」

「しれいかぁぁぁぁぁぁん!!!!!!!」

大きな声で呼ばれ、

男がそちらを見ると青葉がいた。

「…青葉?」

彼女なら見た目的にもセーフだろう。

なおかつ、ホラーを見た際の反応も

きっと悪いものではない。

そしてさらに、映画などは

きっと新聞の良いネタになるだろうから

誘いを断ってくることもないだろう。

衣笠と行きたがるかもしれないが…

仕方ない。晩御飯を奢ることにすれば

きっと喜んで食いついてくるはずだ。

これは必要経費というやつだろう。

身銭を切るのも致し方ない。

…ところが。

「司令官!見てくださいよこれ!

今人気な映画のチケット!

なんとか二枚入手したんです!」

その手に持っているものが問題だった。

 

「…ぁー」

「いやはやぁ…本当に苦労しましたよー」

ウンウンと頷きながら

ヒラヒラとチケットを見せる青葉。

「…そ、そうか。」

候補の一人が消滅したのを感じつつ、頷く

「それで…衣笠と行くのか?」

「あー…はいー…そう思ったんですけど!

提督って映画大好きだったじゃないですか

だから…そのー…何て言うか…」

視線を落とした青葉の視界に、

男の手の中のチケットが映った。

「…は?」

「ん?」

「え?司令官?なんですかこれ?」

「お?」

グイッと手を引っ張られる。

そしてチケットを奪い取ると、

彼女は濁った瞳で詰め寄った。

「これはなんですか?」

「映画館のチケットだが…」

「…ペアですね。」

「あぁ、そうだな。」

「誰とですか?」

「は?」

「誰と行くつもりだったんですか???」

既に手に握られたチケットは

クシャリと潰されている。

「おまっ…なに潰して?!」

「誰と行くつもりだったんですか?????」

「誰って…いや…」

ゆっくりと指が彼女の方向に差される。

「…え?」

ゆっくりと後ろを振り向き、左右を確認し、

周囲に誰も居ないことを確認すると、

彼女は真っ赤になった顔で

ゆっくりと自分を指差した。

「わ、え、な、わたっ…」

「その矢先嬉しそうに見せてくるから…

衣笠と行くんだろ?だから俺はー」

「うわぁぁぁぁぁぁあっ!!!!!!」

彼女はそう悲鳴をあげると、

自分のチケットをビリビリに破り捨てた。

「うわあああああああああ!?!?!?」

男も同様に悲鳴をあげる。

さっき苦労したとか言ってなかったか?!

そして青葉はやりきったような顔で笑った。

「て、手が滑ってチケットが台無しに…!」

「嘘つけ?!お前?!嘘つけ?!?!」

「こ、こぉれは…

司令官についていくしかありませんねぇ…!」

目をぐるぐると回しながら、

息を荒らげ男の腕を掴む青葉。

「…まぁ…一緒に来てくれるなら

願ったり叶ったりだが…」

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「いやー!面白かったですねぇっ!」

「まさかメインヒロインがヤンデレで

彼女が設置しておいた隠しカメラが

あの場面であんな使い方されるとはな…」

「愛は勝つって奴ですねーっ!」

ほくほくとした顔で

目の前のパフェを食べていく青葉。

「いやー!美味しいです!」

「そうか。ほれ、ついてるぞ。」

「んぐっ…ちょっ、し、司令官?!」

口についたクリームを拭ってやると、

彼女は赤い顔で下を向いた。

やはりまだまだ子供だな、

何て考えながら、

先の映画のヒロインを思い出す。

「しかし、部屋に隠しカメラは無いよなぁ…

まぁ、映画だからそこは良いんだが…」

ピタリと彼女の動きが止まった気がした。

「え?なんでですか?」

無表情になった青葉が訊ねる。

「そりゃお前、プライベートはあるだろ」

「なんでですか?好きな人の全部を見ていたいと思うのはおかしいことですか?」

「おかしくはないかもだが…

…うーむ、勘弁はしてほしいよなぁ」

青葉は理解できない、といった表情を浮かべる

「ほら、青葉だって俺が隠しカメラをお前の部屋に設置してたら嫌だろ?」

「青葉は大丈夫ですけど」

「嘘だろお前」

この子は大丈夫だろうか、と心配になる男。

「え?え?提督は青葉が隠しカメラを司令官の部屋に置いてたら嫌なんですか?困るんですか?」

「いや、嫌だぞ?!

男なんて特に見られたら困ることがー」

「そ、それって…!」

赤い顔で片手で丸を作り、

上下にコスコスと動かす青葉。

「違うわッ!!!!

男にはな、意地とプライドがあるんだ。」

「…意地とプライド…?」

「他人には、そして好きな人には尚更、

自分の格好良いところだけを見て欲しいもんだ

気の抜けた姿は見られて嬉しいもんでもないし

ほら、恋人に釣り合うように

筋トレしたり勉強したり、な。

そういうのは見せないから格好良いんであって

影での努力なぞ知られた日には

俺は恥ずかしくて死ぬだろうなぁ…」

「あー…司令官、毎晩筋トレしてますもんね

あんな感じのことですか。」

「え?」

空気が固まる。

こいつ、なんで知ってー

「あ、いやぁー!

そんな噂を小耳に挟みまして…!」

「もう死にたい…」

「噂ですから!!

ほんとにやってるんですか?!」

両手で顔を覆って声を出す提督と、

慌てて手をワタワタと動かす青葉。

「や、やってないわっ!!そうだ!やってない!

断じてやってないからな!!!」

赤い顔で男は断言して、

ふぅーっと息を吐いて突っ伏した。

「まぁ…無断で盗撮は無いわなぁ…

俺だったらその時点で嫌いになるが…

あの主人公もよく持ったな…」

「…なるほど。」

そうこうして、

彼らは鎮守府への帰路へとつくのであった。

 

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「っぶねー…!!」

時は深夜。

殆どの艦が寝静まったこの時間帯に、

隠しカメラを回収し、汗を拭う青葉。

「いやはや…

もう映像を回収できないのは残念ですが…

嫌われるのはごめんですからねぇ…」

青葉は彼氏の意思を尊重するタイプなのです!

と笑い、スキップで部屋をあとにする。

「確かに言われてみれば、

彼氏さんのそういうところも可愛いですけど

見ないであげるのも愛ってやつですよね!」

彼の写真で埋め尽くされている、

彼女の個室に帰ると

満面の笑みを浮かべてベッドに飛び込んだ。

無論、このベッドにも

大きく彼の姿が印刷されている。

相変わらず窓の外は、

一切の月光すら差さない暗闇が支配していた。




ヤンデレのネタがねぇッ!!!!
いやはい!お久しぶりです!!!!
まだ!!!まだ失踪とかしませんから!!!
いやはや…ですがあまりにもヤンデレのレパートリーがなくなってきたと言うか…ヤンデレってなにするんだろうって考えてもシチュエーションがいまいち浮かばないんです…ヤンデレシチュエーション総集みたいのがあればいいのに…
ダメダメな作者で申し訳ないのですが、
どうかどうか暖かい目で…というかもしも余裕があればなんならこんなヤンデレはどう?とかアイディア下さると死ぬほど助かりますぅ…
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