後悔はない……!
命が流れ出す。
体の感覚が薄くなり、熱を持つ身体とは裏腹に、背筋が凍るような錯覚が浮き出てくる。
──知るか。
雨の様に弾丸を浴びた、血塗れの身体を無理矢理動かす。
まだだ、止まるな。
声を出せ……徒に死ぬな。
何かを遺せ。
自分を信じて着いてきてくれた同胞に、指標を示せ。
それが……団長である、オルガ・イツカの務めだろう……!!
「俺は止まんねぇからよ、お前らが止まんねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!」
前を見ろ、突き進め。
そこに俺は待っている。
……そう、終わっちゃいない。俺の……俺達の夢は……まだ。
「だからよ……止まるんじゃねえぞ……!」
未来に、繋がっている。
そうだろ?ミカ…………。
「…………うぅ、流石に二徹は堪えるなぁ」
都内某所、数多あるビルの森の中。
表通りから少し離れたビルの一つから一人の女性が、眠たげに目を擦りながら出てきた。
「ふぁぁ~……寒っ…」
季節は春。
出会いと別れの季節とよく言うが、今の彼女にとっては気にする事ではない。
時刻は朝の六時、ちょうど陽が上り始め、空がにわかに明るくなっていく。
深呼吸しながら背筋を伸ばすと、ポキポキと小気味のいい音が聞こえてくる。
徹夜明けの身体に冷たい空気が染み渡る。
「あ~、今日のスケジュール確認しないと……」
眼鏡をかけ直し、濃紺色の髪を掻き上げて少し気だるげに息を吐く。
何の気無しにスマートフォンを取り出して見ると、一件の通知が。
『Aちゃんおはよう!今日の放送楽しみにしてるね!(๑╹ᆺ╹)』
朝一の親友からのメッセージに彼女…Aちゃん改め友人Aはふと笑う。
たった一言、しかし彼女にとってはそれだけで元気を貰えるのだ。
我ながら現金だなぁ……などと内心苦笑しつつも返信を打つ。
『ありがと、元気出た』
簡潔なものだが親友のことだ、感謝の意は十分伝わるだろう。
送信が完了したのを確認して、もう一度空を見上げる。
清々しいほどに晴れた空だ。
こんな日には何かいいことがあるかも知れない。
「よしっ、頑張るか!」
軽く頬を叩き、気合いを入れ、友人Aはビルに戻ろうとして……
「…………」
右を向いたら人が倒れていた。
「………………疲れてるのかな?いやそうだ間違いない」
気のせいだと思い、眼鏡を外して眉間を揉む。
再度眼鏡をかけ、もう一度見る。
「…………ぐっ」
居た。普通に居た。
気のせいじゃないし何か呻いてるし生きてるっぽい。
まあ都内だから酔い潰れたサラリーマンとか割と見るからそこは良いとしていや良くはないが。
その倒れた人物の格好が大いに問題がある。
元はそれなりに質の良さそうな小豆色のスーツなのだが……所々小さな穴が開いているし、しかもそのまわりには真っ赤な染みが……
「う、うぅっ……!」
混乱する友人Aを余所に、呻いていた男が突然跳ね起きた。
「うおぉぉぉぉぁ!」
「き、きゃああああああああああああああ!!」
早朝のビルの森に、二つの絶叫が響いた。
ここは都内某所、ビルの森の中。
Vtubar事務所、ホロライブ。
今、夢へと突き進んだ男と夢へと突き進む彼女たちの物語が始まる……!