青い空、白い雲、目映い太陽、聴こえる潮騒と海猫の声。
「オルガさーん!こっちでーす!」
「お前ら元気だなオイ……」
そして目の前には大海原。
そう。今オルガ達が居るのは夏の海である。
「……マジで大丈夫なんだろうな?」
「まあ……ロボ子ちゃんの事だからそこら辺は大丈夫……だといいにぇ」
隣に立つホロライブ0期生、「さくらみこ」の諦め混じりの言葉に天を仰ぐ。
突き抜けるような空の青さが目に沁みた。
一週間前。ホロライブ事務所にて。
「海に行きたい?」
「えぇ、はい」
保有機材のメンテナンスチェックリストを纏めていたオルガは、友人Aの言葉に作業の手を止めた。
「そいつぁ、夏の風物詩?ってやつでか?」
「それもあるんでしょうけど、専ら水辺で遊びたいって感じですね」
「まあ、この暑さだからな……」
ブラインド越しに射し込む強すぎる日光を見て同意する。
オルガは前世──というのが正しいか甚だ疑問だが──でもあまり地球の夏というものの経験に乏しい。
夏らしい温暖な気候と海と言えば、せいぜいがクーデリアのお嬢を地球に送り届ける際に訪れたミレニアム島くらいしか知らない。
それも依頼途中でほんの一時居ただけだ。
ミレニアム島を思い出し、一瞬『親友』の顔が過るが、頭を振って掻き消す。
「オルガさん?」
「いや、何でもない。しっかし海か……もう今時期じゃあかなり混んでるんだろ?」
「ざっと調べましたけどどこも大混雑ですね。とても皆で行ける感じじゃないです」
「ちょっとまて、皆?まさか全員で行く気か?」
「志望者を募ったところ、そらから四期生まで全員が行きたいと……」
とんでもない大所帯である。
28人もつれて海に行くなんて最早社員旅行だ。
いや実際そうなのだが。
このレジャーシーズン真っ只中に28人がのびのびと遊べる海を探す……。
無理じゃないかな。(諦め)
無人島の一つでも買い取る位しないと流石に現実的ではない。
「放送用の海のセット……だと雰囲気だけだし」
「かと言って他にいい手はなさそうだよな……後は精々ビニールプールか」
中々難しい条件に二人頭を悩ませていると、
「はろ~ぼ~」
ゆるい声が真上から聞こえてきた。
「ロボ子か」
声の発生源に顔を向けると、天井からぶら下がったロボ子がゆるゆると手を振っていた。
「ロボ子さんだよ~」
気楽に挨拶をして、天井からふわりと着地したロボ子に疑問を投げ掛ける。
「随分早い出勤だな。今日の放送はまだ先だろ?」
「ちょっと暇しててね、早く来ちゃった。それで、二人頭突き合わせて何してたの?」
返すロボ子からの質問に二人は一瞬目を合わせる。
(どうするよ?)
(このままだとジリ貧ですし、この際他から意見をかき集めるのもありじゃないですか?)
(……だな)
この間、実に0.5秒。
意見が合致したので、オルガの方から答えた。
「実はな──」
「──なるほどね、大体わかった」
ざっくりとした事情を聞き終えると、ロボ子はそう言っていつの間にか掛けていた眼鏡をクイッと上げた。
「前から思ってたんだが、お前ロボなのに眼鏡要るのか?」
「可愛いから要る」
「お、おう……」
「それはさておいて、その条件が揃ってる場所なら知ってるよ」
「「マジで?」」
「マジ」
自信ありげに胸を張る辺り、本当に知っているのだろう。
「ちょっとだけ時間をくれれば行けるよ、何だったら二人も知ってる所」
悪戯っぽく笑顔を浮かべたロボ子の言葉に皆目検討がつかない。
流石にそんな理想的な場所を知っているならとっくに出しているのだが。
そんなこちらの疑問に気付いたのか、ロボ子は笑った。
「ふふん、ボク達はVtubarだよ?だったら一つしかないでしょ」
「
そしてあれよあれよと言う間にロボ子の手によって仮想現実の海に誘われ、今に至る。
白い砂浜沿いには南国らしい木々の間に挟まるようにテラス付きの丸太で組上がった大きなコテージ、そこから海へ一直線に桟橋が伸びている。
当然のように海の透明度も高く、少し覗けば色鮮やかな小魚が泳いでいるのが見える。
海水も程よく冷たく、気温も多少暑いくらいの正に絶好のロケーションである。
「ここまで来るともう現実と変わんねぇな……」
温度や匂い、感触まで再現されている以上、そう言えるほど現実と遜色ない感覚に驚きを覚える。
「ふっふっふ、どう?高性能でしょ~」
「ああ、ホントに高性能だったんだな、お前……」
「今までなんだと思ってたの!?」
「ポンコ……天然」
「今ポンコツって言いかけたよね!?」
横からにゅっと現れたロボ子とそんなコントをしながら、てきぱきとレジャーシートを広げ、パラソルを砂浜に突き立てて行く。
「オルガさんは着替えないの?」
「水着なんて持ってないしな」
そもそも水着という概念自体知らなかったのだから仕方ない。
ので今は火星や地上で前線に出る時の上裸に作業ズボンと言った格好である。
隣立つロボ子や他の面々は当然の如く水着である。
「まあ、その格好自体が水着みたいだよね」
「動きやすけりゃ問題ないだろ……っと」
不意にロボ子へ向かって飛んできたビーチボールをキャッチすると、少し離れた所から駆け寄ってくる声が聞こえた。
「すいませーん!大丈夫ですかー!」
「ああ、大丈夫だ……って」
声の方を見やるとそこにはこちらにやってくるノエルの姿が。何人かで集まってボール遊びをしていたようだ。
砂浜もあってかよたよたと危なっかしく走る姿は大変愛嬌があるのだが、問題はそこではない。
オルガからして「デケェ」と言わしめた豊かな双丘が解放的な水着によって揺れている。
伊達にK(night)カップと呼ばれてはいないそれはまさに男性特攻の視覚的暴力の波動とも言えるだろう。※一部紳士の方々を除く
そんなノエルのそれを目の前にして、オルガは……
「足場が悪いんだ、慌てて走るなよ」
「いや~すいません」
至って普通に接していた。
それもその筈。オルガのこれまでの人生経験において、「女性経験」の四文字は存在しないのである。
アトラやメリビット、クーデリアのお嬢やフミタン等、関わった女性は居るには居るがそのどれもが身内みたいなものだったり仕事仲間だったり雇い主だったりと、何一つそれっぽいものは無いのだ。
更に多忙を極める仕事と男所帯とくればそんな経験などする余裕さえない。
結果としてオルガの女性に対する接し方は専ら身内に対するそれと同じになっている。
つまるところ女性として意識出来ないのだ。
「それと、水着……だったか。それ紐で縛ってるだけなんだろ?
ちゃんとほどけないようにしとけ」
「はーい」
「ほらよ、もう少ししたら昼飯だキリが良いとこで上がれよ」
「はーい!」
来た時と同じように走り去ってくノエルを見送った所で、ロボ子がぼそっと呟く。
「なんかお父さんみたいだよね、オルガさん」
「なんか言ったか?」
「何でもな~い」
暫く後。昼食。
ジューーーーーーーーー……
『…………』
「……焼きそば、って話だったよな?」
「……だね」
「……にぇ」
「……ぺこ」
「にしては甘ったるいような酸っぱいような臭いがするんだが?」
「…………ハアチャッマチャマ~…」
「…………何やってんだ、赤井ぃぃぃぃ!!」
「ひぇぇ、何でバレたのぉぉぉ!?」
水着回はまだまだ続きます!