鉄華団団長とホロライブ   作:フォールティア

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お祭り

ザッザッザッ……

 

箒を払う音が快晴の空の下に響いては消える。

残暑に焼かれた石畳が熱を揺らめかせるのを打ち水がぱしゃりと流し去る。

人々の喧騒はどこか遠く、程好い音楽となって耳を楽しませてくれる。

 

ザッザッザッ……

 

「……で、なんで俺は神社の手伝いなんてやらされてんだ」

 

「しょうがないぺこよ。この時期は大変だから毎回こうぺこ」

 

手を止めて、箒の柄を杖代わりにしたオルガの愚痴に、ぺこらが打ち水を石畳に撒きながら答えた。

 

「何時もはぺこーらしか手伝いに連行されなかったけど、今回はそうはいかないぺこよ」

 

「俺をスケープゴートにしようとしたのは良いが、結局兎田も来てんじゃねぇか」

 

「う゛……」

 

図星を突かれてぺこらが気まずそうに視線を逸らした。

手伝ってくれないの?と泣き付かれて即座に応と答えたのが目に見える。

 

「しっかし、祭りの手伝いか……さくらの奴、大丈夫か?」

 

普段のはっちゃけぶりを見ているからか、こういった神事をちゃんと出来ているのか心配になる。

なんせG○Aでロケットランチャーを乱射したり、そらを見掛けると限界化したりとまあ色々としているからだ。

 

「あれでもう何年もやってるから大丈夫ぺこよ。それよりもそっちは掃き終わったぺこか?」

 

「ああ、丁度終わった」

 

「それじゃ、打ち水したら次の場所に行くぺこよ~」

 

ぱしゃり

 

冷たい水が石畳を叩く音が、夏の空に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや~掃除と打ち水助かったにぇ、ありがと!」

 

「……地味に広いのな、神社ってのは」

 

「もう、絶対に、やらない、ぺこ……」

 

社務所で待っていたみこから労いとスポーツドリンクを受け取ってそのまま畳へ腰をどかりと降ろす。

扇風機の風が心地よく身体を撫でた。

昔ながらの建物故か、エアコンなんて便利なものはない。

だが、神社全体を囲う鎮守の杜のおかげか不思議と空気はひんやりとしている。

 

「まあ今年は特に暑いからにぇ~」

 

と言っても日射しが暑いのは変わり無く。

 

「日本の夏って暑すぎるぺこ……」

 

「気候もあるからにぇ~……」

 

同じ夏と言っても、国よっては暑さの種類も違うらしく、日本の夏は湿度が高く肌に張り付くような暑さだ。

 

「あとは信者さんたちが準備してくれるから大丈夫。二人はゆっくり休んでるといいにぇ」

 

「わかったぺこ~……」

 

「その準備ってのは力仕事もあるのか?」

 

「?そうだけど……」

 

「そうか」

 

みこの返事に頷くと、オルガは着ていたサマースーツを脱ぎ、ネクタイを投げると、シャツの袖を捲り上げた。

 

「んじゃ行くか」

 

「いやいや、さすがに悪いって!」

 

「何言ってんだ。頼られたんなら、最後までやらねぇとな」

 

「熱中症は?」

 

「こんくらい問題ねぇよ」

 

伊達に火星や地球の夏を経験していない。

この程度の暑さ、CGS時代に懲罰でボイラー室に閉じ込められた時に比べれば屁でもない。

実際、体調にも変化はないので活動に支障はきたさないだろう。

靴を履き直し、立ち上がろうとした所でぽす、と頭に何かを乗せられた。

 

「……これは?」

 

「麦わら帽子。時間帯的にもそろそろ被っといたほうが良いにぇ」

 

「ま、無いよりはマシぺこ。あとはこれを持ってくぺこよ」

 

そう言ってぺこらが投げ渡したのは濡れたタオルだった。

 

「冷たっ!?」

 

「冷やしタオルぺこ。キンキンに冷えてるから首に巻いとけば暫くは持つはずぺこよ」

 

言われた通りに首に巻くとひんやりとした感覚がじんわりと拡がっていく。

 

「ありがとな。それじゃ、行ってくる」

 

「「いってらっしゃい(ぺこ)~」」

 

二人の見送りの言葉を背に、オルガは再び夏空の下へと出るのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕方。黄昏色が夜の帳に西へと追いやられる最中、オルガは蜩の鳴き声を聴きながら社務所で出店の焼きそばを啜っていた。

 

「うめぇ……」

 

あの後、休憩を小まめに挟みつつも出店の組み立てや交通整理やらととにかく動きっぱなしだった疲労からか、美味さもひとしおである。

 

「オルガさんおじさんくさいですよ~」

 

「俺はこれでもまだ若けぇ……筈だ」

 

少しスペースを空けて隣に座った常闇トワがからかってくる。

聞けば今日はホロライブのほとんどのメンバーがこの祭りに来ているようだ。

 

「てか、悪魔なのにこんなとこ来ていいのか?」

 

「ふっ……今日の為に色々善行をしてカルマを調整したからちょっと怠いくらいです!」

 

「お前ホントに悪魔かよ」

 

「悪魔だよっ!?」

 

祭りの為にわざわざ善行を積む悪魔……悪魔だろうか。

 

「って、そんなことよりオルガさんは出店のほう行かないんですか?」

 

「あ~……こういうのは初めてだからよ、俺みたいなのが行っていいもんかってな」

 

「何言ってんですか、行っていいに決まってんでしょうよ」

 

ほら、とトワが指差す方向を見ると日中一緒に仕事していた35P(みこのファンの総称)が酒を片手にオルガを呼んでいた。

 

「ほらほら、食べ終わったんなら行きますよ~。祭りはまだまだこれからなんですから!」

 

「お、おい、押すなって……!」

 

トワに強引に背中を押され、祭り囃子の只中に押し込まれる。

人混みなれしていない故か少し混乱しかけるが、冷静になってから辺りを見回すと、浴衣姿の夏色まつりを見付けた。

 

「あ、オルガさん、こんばんは~!」

 

夏色まつり。ホロライブ一期生にして「ホロライブのヤベー奴」と称される子である。

今は橙に美しい柄の入った浴衣を身に纏い、綿菓子の袋を腕に提げて、純粋に楽しんでいるようでとてもそうは見えないが。

 

「よお、夏色。楽しんでるか?」

 

「当然当然!あ、ところであくたん見てません?」

 

あくたん、とはホロライブ二期生の湊あくあのことだ。

 

「湊か?いや、見てねえが……どうかしたのか?」

 

「ここで落ち合う予定だったんですけど、全然来ないんですよ」

 

「迷子か」

 

「まあ、この人混みじゃあねぇ」

 

夜になって尚も人数は増え、端から見れば黒山の人だかりだ。

この中から一人探しだすというのは中々難しいだろう。

 

「スマホも繋がらないし、かと言って入れ違いになりそうで」

 

「身動きが取れなかったって訳か」

 

さて、どうしたものかと思案する。

先の通りこの中から人力で探しだすのはかなりの手間だ。

しかも一人でならなおのこと。

一応臨時の迷子センターは有るのでそちらに向かうべきか。

そう思った所で不意に肩を叩かれる。

 

「アンタ達は……」

 

振り返るとそこには35P達の姿が。

聞けばここは任せろとの事。

そうして徐にスマホを取り出すと何やらメッセージを送信したようだ。

 

 

 

それから五分後。

 

 

 

「あ、まつりちゃん!」

 

「あくたん!」

 

数人の35Pにエスコートされてあくあが現れた。

安心感からか抱き合う二人をトワが宥めている。

 

「助かった、ありがとう」

 

礼を言うと、35P達はただ無言でサムズアップすると再び祭りの喧騒の中に消えていった……。

彼らのような存在がこの祭りを支えているのだろう。

 

 

それからというもの、次々とホロライブの面々が集まり初め、射的や金魚すくい、型抜きや籤引きなどをそれぞれ楽しんだ。

 

 

そして祭りはいよいよ大詰めとなり、拝殿前に置かれたステージにみこが立っていた。

一般的な神楽舞とは違い、ここではライブがその役割となるらしい。

 

「みんなー!祭りは楽しんでるにぇー!」

 

『いぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!!』

 

「それじゃ、みんな!みこの歌を聴けぇぇぇぇぇぇ!!」

 

ライブが始まる。

歌い踊らにゃ損とばかりに、祭りの空気が集まり出す。

有るのは楽しいという感情だけ。

ステージ横から見える景色は、あまりにも眩しかった。

 

「みこちゃん、凄いですよね」

 

「ときのか……あぁ、凄いな」

 

曲が次々と進む中、そらが歌い踊るみこを見ながら微笑む。

 

「お祭り、どうでした?」

 

「……」

 

そらの問いに、少し考える。

 

「そうだな……」

 

曲はついにラスサビ。

何もかもが最高潮へ至り──。

 

「──悪くねぇ」

 

夏の夜空に大歓声が響き渡った。

 

 

 

 

 

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